管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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スカさん逮捕、ゆりかご撃破の新暦75年9月19日から、新暦76年4月28日の部隊解散までの話です。

Ⅳまで毎日投稿。


20戦技披露会IN六課Ⅰ

 JS事件終結からそろそろ3カ月がたち、機動六課のオフィスの修理なのどの後処理がひと段落してきたある日。

 ヴィルヘルムは普段ならほとんど立ち入らない場所にいた。着ている物は訓練服装Ⅰ型。厚手で膝が補強され二重になっているズボンにブーツ、これにTシャツならⅡ型、ズボンと同じ素材の上着ならⅠ型となる。

 

「何故、私が訓練スペースに…」

 

 機動六課自慢の訓練スペース、陸戦用空間シミュレーターを見渡してみると。ヴィルヘルムは巨大な石塁の上に立っており、石塁に並行するように堀まで設置されている。古代ベルカ時代、二人の王が一騎打ちをしたと言われている決闘の舞台、グリョートナガルダルを再現し組み上げられているのだろう。

 構築プログラムを組むにはそれなりの苦労があったようだ。訓練スペースを一望できる制御スペースにいるシャリオたちメカニックデザイナーチームは満足げに笑っている。

 

「アイツらめ、最新設備で遊んでいるな」

 

 なのは完全監修のもと教導隊で開発されたこの最新空間シミュレーターは、まる一日起動していると、新米陸士の初任給など簡単になくなってしまうほどの費用が掛かっているのだが、本当に分かっているのだろうか?いや、そんなことよりも…

 

「シグナム~、そんなスカし野郎、ぶっ飛ばしちまえ!」

「3人とも頑張るです~」

「怪我に気を付けてくださ~い」

「・・・」

 

 そもそも、何故ヴォルケンリッターを筆頭として見物人が大量にいるこの状況で、シグナムのユニゾンデバイス能力試験に付き合うはめになっているのだろう。

 本日、ヴィルヘルムが六課に出勤したと思ったら、いきなり命令を渡され訓練スペースに直行させられた。命令に書かれていた能力試験の目的は、「模擬戦によりJS事件で保護されたユニゾンデバイス、アギトの能力と融合時のシグナムの能力上昇率を計測する」となっていた。が、鼻息荒く怨毒の混ざった笑みを浮かべるシグナムの様子を見ていると、戦うこと自体が目的のように見える。

 

「行くぞ、アギト」

「お、おう、まかせとけ!マスター!」

 

 アギトは初めて会った時とは違い、粘着性の闘気を放っているシグナムに若干引いているようだが、そんなことより相性の良いマスターと組めることが嬉しいらしい。元気よく返事をしている。二人が相手だと気を抜くと怪我では済まないかもしれない。

 

(しかし、何故対戦相手が私になっているんだ?)

 

 通常、こう言った場合は教育職の局員が行うことになっている。だが、その筆頭というべきなのはは、制御スペースに設置された解説員と書かれた札の席にフェイトやはやてと共に座っている。実況席にはアルトとスバルが座りプロレスの実況アナウンサーのように叫んでいる。何処から見ても能力試験を口実にしたショーの類だ。

 

(まるで戦技披露会だな)

 

 戦技披露会とは、本局武装隊の腕利きが戦闘技術を模擬戦闘という形で披露するイベントで、まさにそのような状況だった。

 ヴィルヘルムはノリノリで実況に答えているなのはとフェイトを無視し、苦笑いを浮かべているはやてに対して念話を飛ばした。

 

『はやて、どういうことだ?説明してくれ』

『え~っとやな。ほら前にビルの部屋でお酒飲んだ日があったやろ』

 

 

 

 

 

「ん、ううん、ん?」

 

 カーテンの隙間から差し込む日差しの眩しさに、はやては目を覚ます。そこは自分の部屋ではなかった。辺りを見回すと机の上に置かれているアンティーク時計の短針が午前7時を指している。六課の通常日勤は8時から17時、交替時の申し送りを考えれば7時半には出勤していなければいけないので、仕事のある日であったならまずい時間帯だ。

 

(どこや、ここ?)

 

 考えようとすると、全身のだるさが全て放り投げて寝てしまえと誘ってくるが、危ういところで踏みとどまる。鈍痛がする頭で状況を確認する。

 

(今日は、オフシフトやからいいとして。昨日、何をしとったっけ?)

 

 昨日、仕事を片付けたあとヴィルヘルムの部屋で酒宴なったところまでは覚えている。そのあとの記憶が曖昧で思い出せない。

 

(なんやったっけ?ビルに寝ろみたいなこといわれて、寝とったら誰かがベッドの中に入って…)

 

 そこまで思い出して、ようやくここがヴィルヘルムの寝室だと言うことに気が付く。

 

(ビ、ビルのベッドの中で寝ていて、人が入ってきた…?それってつまり…)

 

 羞恥で体温が上がり、汗が噴き出し始める。慌てて自分の姿を見下ろすと着衣や髪は乱れほとんど半裸で、着ているものと言ったら制服のシャツを危うくひっかけている程度だった。

 

「___ッ」

 

 声にならない悲鳴を上げてシーツを頭からかぶると、その中で自分の体を確かめる。

 

(え、なに、全く覚えてへんけど、もしかして、そういうことした!?)

 

 落ちて二の腕まで下がっていた上の肩ひもを戻し、食い込んでいた下を元に戻す、全開になっていたシャツの前を閉じる。体のアチコチを触ってチェックする。

 

(と、とりあえず、大丈夫…やんな)

 

 経験がないので確信が持てなかったがそう結論をだす。思いっきり安堵のため息を吐いたら、今度は急に腹が立ってきた。ガードを下げている時に手を出されないというのも、なんとなく女のプライドに触る。

 

(いや、ビルは甲斐性ないんや。草食系め)

 

 怒ると行動が大胆になる。あの根性無しもいないようだし、散らかしてから帰ってやれ。と、いう気になったはやては早速実行に移した。シャワーを浴び寝汗と眠気、二日酔いのだるさを洗い流し、冷蔵庫の中身を物色、簡単な朝食を作る。この間約1時間。作ったばかりの朝食を咀嚼しながら考える。

 

(朝帰りなんてシグナムあたりに知れたら一大事やけど、ギリ大丈夫やろ)

 

 シグナムの行動パターンは規則正しく、当直勤務後に寮へ戻ってくるのは8時半と決まっている。あと30分ほど猶予がある。

 

(昨日の食器も流しに出しっぱなしやったな。洗っといてやろか)

 

 腹が膨れて冷静になってきた。はやては少し反省し、食事を済ませた後、洗いモノを15分で片付けて部屋に戻った。

 八神家の部屋は日本と同じスタイルの内装に変えてある。玄関で靴を脱いで靴箱に放り込む。

 

(さすがに昨日は飲み過ぎやったな~、気ぃつけよう)

 

 と、反省しながらリビングのドアを開けると、制服姿のシグナムが仁王立ちをしていた。

 

「シ、シグナム今日は随分とまた早いな」

「もう、9時です。おかしくはないでしょう」

 

 言われてリビングの掛け時計(ミッド製)を見ると確かに時計は午前9時を回っている。最近のミッド製の時計はほとんど電波時計になっているので、今は間違いなく午前9時なのだろう。

 

(と、いうことはビルのあのアンティーク時計の時間がずれてたんや。あのオンボロ時計め!)

 

 心の中で愚痴は思いついたが、言い訳をする羽目になるとは思っていなかったため、咄嗟に言葉が思いつかず沈黙してしまう。シグナムの鋭い視線に見つめられ、はやては金魚のようにパクパクと口を動かすこと数秒。いっその事、回れ右して部屋から逃げだしてしまいたくなったころに、シグナムがゆっくりと口を開いた。

 

「…主はやて」

「は、はい!」

 

 シグナムの声は別に大きくも、低くなっている訳でもなかったが、はやては思わず不動の姿勢(気を付け)になる。そんなはやてに何の反応も見せずシグナムは変わらないトーンで話を続ける。

 

「…部屋にいらっしゃらないので心配しました。今までどちらに?」

「え、ええと、フェ、フェイトちゃん達の部屋や!ほら、昨日、誰もいなかったから…」

 

 まさか、男の部屋に朝までいましたとは言えないはやての口からはそんな言葉が付いて出た。言ってしまった後に、二人に口裏を合わせてもらえば問題ないことを思い付くが…、

 

「…嘘です」

 

 シグナムは間髪いれずに否定した。声のトーンは変わらないが、かえってそれが怖い。はやては声が震えないように注意しながら続けた。

 

「嘘ちゃうで!昨日、フェイトちゃん達と一緒に…」

「先程、寮の前でテスタロッサに会いました。高町が二日酔いになったので薬を買いに行くところだったそうです。…昨夜は【副長】の部屋で食事を取られたそうですね」

「…(口が軽すぎるで、フェイトちゃん!)」

 

 フェイトにしてみれば、仲の良いシグナムに世間話をした程度で全く罪はないのだがタイミングが悪すぎた。シグナムには、はやてにやましいことがあって嘘を吐かれたように聞こえただろう。

 背中に嫌な汗をかき何とか弁解の方法がないか頭を巡らせるが、いい答えが見つかる前にシグナムが怒りを押し殺すように低い声を出した。

 

「主はやて、話があります」

 

 

 

『ということがあったんよ』

『ああ、そうかい』

 

 はやてが時刻を勘違いしたアンティーク時計が狂ったのは、ヴィルヘルムが落したためであり。それがなければ万事うまくいっていたわけだが、それは言わずにヴィルヘルムは続けた。

 

『完全に誤解されているじゃないか。念のために言っておくが、全部君のせいだぞ』

『ヒドイ!味方してくれへんの?!あの日はあんなに紳士的やったのに!』

『何かあったみたいに言うな!シャマルが盗聴しているのを君も気が付いているだろう』

『あ、やっぱりそう思ん?』

 

 根拠はなかったがヴィルヘルムはほとんどそう確信してシャマルを睨んだが、目があったシャマルがとった反応は、眼を離さずに小首を傾げただけだった。一見するとシャマルは無実のように見えるが、通常、人は他の人から目を合わせられると嫌がり目線を反らすのが普通だ。

 しかし、嘘に自信のある人間(女性に多い)は自分の付いた嘘の効果を確かめる為に相手から視線をそらさない場合が多い。シャマルの場合、何も知らないフリに自信があるのだろう。

 

『全く、古代ベルカの騎士ってのは、こんな技術の無駄使いをする連中だったのか』

『あははは、ええんやないの、こんなんカワイイ悪戯やん』

『笑いごとか!まあ、いい。それよりも誤解は解いてあるのか?』

『一応納得してくれてん』

『なら、なぜ、俺が公の私闘に付き合わなければならない』

『ん、あの時、シグナムがな「主の話はわかりました。しかし、主の記憶が定かではないいじょう、剣を持って審議を確かめさせていただきます!」と言って聞かないんや。その時は六課内での私闘禁止!言うて抑えたんやけど、何時の間にやら訓練計画が上がってきててな』

『うっかり承認してしまったと…』

『持ってきたのがなのはちゃんやったもんやから、てっきりフォワードの訓練計画やと…』

『書類の確認はきちっと行ってください、課長…。それにしても決闘裁判かよ…』

 

 決闘は神聖なものであり天は正しい方に加護を与える。という宗教色の考えや言い伝えが古代ベルカにはあり、実際に採用されていた裁判方法ではあるのだが、当然迷信以外の何ものでもない。

 シグナムもそんなことは知っている。ようするに、「たいせつな主に夜遊びを教えた男に鉄槌を!」といったところだろう。

 

『ぬかったな。俺が資材調達で六課を出ていた時にこの準備を進めていたな。シャマルの入れ知恵か?』

『ごめん、そうみたい』

 

 はやても一旦は説得に成功したと思って油断していたようだ。一か月以上の期間を置き相手の油断を誘い、戦わざるを得ない状態に持ち込む。見事な戦略だ。一本取られたと言っていいだろう。

 

『あ、ザフィーラは酔い潰れたことを知っているみたいやけど無関係や、ヴィータとリィンは知らないみたいやし』

 

 無関係の家族にヴィルヘルムの怒りが向くを避けようとはやてが言ってきたが、当のヴィルヘルムは特に怒ってはいなかった。

 古代と現代式の違いはあれどヴィルヘルムも騎士の端くれ、シグナムとは一度槍を交えてみたいと思っていた。それに、ゆりかご戦では指揮官と言う立場があった為、戦闘機人に対する復讐戦の機会をすべて部下達に譲ってしまっていたので、怪我が完治したらひと暴れして、憂さ晴らしをしたいと密かに考えていたのだ。

 しかし、それも子供っぽい考えだ。という思いがあったので表に出せずにいた所にこの話だ。今なら、巻き込まれて仕方がなく付き合った。と、言い訳もできる。

 ヴィルヘルムは鷹揚に承諾してもみせた。

 

『仕方がない。データ取りは確かに必要だ。付きってやるか』

『面目ない。こんど埋め合わせするから』

『了解。しかし、ヴォルケンリッターも過保護だな。20になったばかりの子供相手に俺が何かするわけないだろ』

『ふ~ん』

 

 最後に余計なことを言ったヴィルヘルムに不機嫌そうな声で短く答えると、はやては一方的に念話を切る。椅子を蹴りながら立ち上がった彼女は、手でメガホンを作るとあらん限りの声で叫んだ。

 

「いてこませ~!!シグナム!もう一回病院送りにしたっても可~~!!」

 

 見物人達ははやての突然の声援(?)に驚いたようだ。ヴィータもはやての心情を理解してはいなかったのだが、とにかくはやてが殺る気の応援を始めたことを喜んだ。

 その様子を見ていたシグナムは不敵に笑うと、ヴィルヘルムに話しかけた。

 

「敵が多いですね、副長」

「そうかな、課長も敵が多い方だ」

「そうかもしれませんが、我々がいます!」

 

 ヴィルヘルムの答えにシグナムは断言したが、ヴィルヘルムは不敵に笑い返した。

 

「何時も味方と言うわけではないだろ」

「そんなことはありません」

「どうかな」

 

 ヴィルヘルムは答えると同時に映像つきの念話を繋ぎ空間モニターを開いた。モニターに映っているのはヘリパイロットのヴァイスだ。モニターに映る姿を見るとヘリ整備班達と、ヘリハンガーに訓練スペースの様子を巨大な空間モニターに映し見学をしていたようだ。

 ヴァイスは突然繋がれた念話に驚いた様子だったが、ヴィルヘルムはかまわず話しかけけた。

 

「ヴァイス、私の勝ちに30口だ。賭けておけ」

「おお、副長、勝負に出ますね!」

 

 思わず答えてしまってから、ヴァイスは口を押さえたが遅かった。シグナムの柳眉が吊り上がる。ヴァイスは先日もフォワードとなのはとの模擬戦闘を出汁に賭けをしてシグナムに叱られたばかりだ。

 

「ヴァイス、貴様!」

「ゲッ」

「そう怒るな、シグナム。単なるレクリエーションだ」

 

 怒号を上げたシグナムを止めたのは意外にもヴィルヘルムだった。が、シグナムは収まらない。

 

「副長、あなたもです!局員の規範である幹部がそんなことでどうするのですか!」

「はて、おかしいな…」

 

 怒りの矛先を向けられてもヴィルヘルムは慌てず、ワザとらしい動作で顎に手をあて答えた。

 

「確か課長は前回の模擬戦で大儲けした筈じゃなかったかな?グリ・トリアノンの新作バックが買えると喜んでいた筈だったが…」

 

 このやり取りを見て一番慌てたのがはやてだった。

 訓練スペースにいる二人の様子は大型空間モニターに映され集まった見物人が見ている。大半の局員たちは部隊長もなかなかやるものだと笑っていたが。真面目なフェイトや賭けの対象にされたフォワード達からは冷めた視線を向けられた。

 ヴィルヘルムがボソリと呟く。

 

「ほら見ろ、そうでもないだろ」

 

 旗色が悪くなったはやては誤魔化すように、試合開始を宣言した。

 




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