管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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22戦技披露会IN六課Ⅲ

 眼前に迫る業火。少なすぎる対処時間。それでもヴィルヘルムは最も効果的に魔力を使った。

 

「ヴァナルガンド」

 

 チャージしていた砲撃魔法を至近で炸裂させる。同時に、飛行魔法グルファクシと対炎バリアを発動。背中に現れた翼で爆風を受けとめ、自分自身を上空に吹き飛ばす。

 爆風で加速力を得たヴィルヘルムは、防ぎきれなかった火炎に甲冑をなめられながらも最小のダメージで火竜一閃の効果域から脱出した。

 

『直撃は避けられたか』

『だけど、ダメージはでけぇ』

 

 アギトの言葉通りヴィルヘルムのダメージは大きいらしく、騎士甲冑にはところどころヒビが入り、高熱に晒された部分は赤く燃えている。熱を散らす為、騎士甲冑の安全機構が作動し装甲が弾けるように消滅した。

 

 

 

「へへ、勝負あったなこりゃ」

 

 口の片端を上げ皮肉げな笑みを浮かべているつもりのヴィータにシャマルが頷いた。ヴィータの表情はシャマルから見ると、子供が悪戯を成功させたときの笑みにしか見えなかったが、状況分析は正しい。

 シグナムとアギト、炎熱コンビの総魔力数は、ヴィルヘルムの約3倍はあった。そして、現魔力は炎熱コンビが50%以上魔力を残しているのに対して、ヴィルヘルムが10%前後と力の差は歴然としている。

 いや、自分の能力が相手に知られていないことを上手く利用したとはいえ、平均より上程度の魔力で炎熱コンビの魔力をここまで削ぎ落した、ヴィルヘルムが善戦したと言えるだろう。

 だが、それもここまで。炎熱コンビが火竜一閃を放つときに大量の魔力を強制放出させられたと言っても、ヴィルヘルムもまたその一撃から逃れる為に、ほとんどの魔力を使い果たしてしまっている。

 

「シグナムが隙を与えず、押しつぶしたのならば、そうなるな」

「副長の魔法は高レベルですけど、必殺技にはならない感じですねぇ」

 

 ザフィーラとリインも同じ考えようだ。

 ヴィルヘルムの魔法は呪術付与、多層フィールド、AMFと上級者向けのスキル。 また、現代ベルカ式にしては珍しい飛行魔法や射撃など、多岐にわたり高レベルであるが随一と呼べるものがない。シールド強度ならスバルに劣り、ティアナほどの命中精度は無く、スピードはエリオに敵わず、補助魔法の能力上昇率はキャロの方が上だ。相性にもよるが、実戦ならば、たった1つ武器となる攻撃を持っている者が勝つ。現に六課では新人達への教導は基礎作りと得意技の強化をメインに行っている。

 しかし、ヴィルヘルムにはそれがない。ヴィルヘルムの残りの魔力ではシグナム倒しきれない。と、いうのがヴォルケンリッターの一致した考えだ。

ヴィータが笑う。

 

「へへ、文官らしく理屈だけの頭でっかちで、どれも半端なんだよ」

 

 前線に立つ魔導士には後方勤務者を卑下する傾向があるが、ヴィータの場合はヴィルヘルムに対する個人的な反発で言っているようだ。

 

 

 

 構えを解いたヴィルヘルムが静かに着地した。ほとんど魔力が残っていない為か、鎧を再構成せずにインナー姿のままだ。無防備すぎる姿にシグナムがかえって躊躇していると、ヴィルヘルムが念話で話しかけてきた。

 

『やはり、地金の差が出るな。どう工夫した所で力負けしてしまう』

『降参でもするつもりですか?』

 

 まだ魔力が残っているうちにギブアップとは、ベルカの騎士として恥ずべき態度だ。本当に今降参するつもりなら、この男がはやての下で働いていることが我慢できない。

 しかし、ヴィルヘルムはシグナムの反応を楽しむように言った。

 

『いや、今からお前にバインドをかけてやろうと思ってな』

 

 そう言うとヴィルヘルムは息を吸い込み、大声で言った。

 

「シグナム、次の一撃は私の最大威力の魔法を使う。受けて立つ自信がなければ発動前に潰すがいい」

 

 ヴィルヘルムの声はシミュレーターのマイクが拾い上げ、観客たちの耳にも届いた。ヴィルヘルムは続ける。

 

「いや、そうした方が賢明だ。これは慈悲による警告だ。私の魔法が完成る前に潰せ!いいな!」

 

 堂々とした声がハッタリでないことを告げていたが、シグナムのプライドを大いに刺激した。つまり、ヴィルヘルムは魔法によるバインドではなく精神的な束縛を掛けたわけだ。シグナムはすぐに鞘を再構成、中段に構えを取る。

 応じるつもりらしいと悟ったアギトは流石に忠告した。

 

『マ、マスター、まずいって。普通に戦えば勝てるんだから、わざわざ挑発に乗ってチャンスをやる必要ないって』

『確かに見えすいた挑発だが…、ここはあえて乗ろう』

『なんで』

『知りたいからだ…』

『はあ?』

『なに、単に私のわがままだ。少し付き合ってくれ』

 

 釈然としない気持ちでいるアギトのため、シグナムは少し搦め手を使うことにした。

 

『こう言えば納得してくれるか?アギト、この私達が打ち負けると思っているのか?』

『いや、ねぇよ。そんなこと、あるわけがねぇ!』

『いい返事だ!』

 

 槍を担ぎ返事を待っているヴィルヘルムに、シグナムは答えた。

 

「いいでしょう。その挑戦、受けて立ちます」

「そうか、では覚悟しろ。そのまえに…」

 

 ヴィルヘルムが手を払うと、シグナムにかけられていた呪いが解けた。

 

「どういうことです?」

「もう必要ないからな…」

 

 ヴィルヘルムは息をすべて吐き出し、周囲の空間全ての空気を吸い込むイメージをしながら息を吸い込む。すると、シグナムの体から強制的に排出され周囲の空間に漂っていた魔力が集束、ヴィルヘルムに吸収されていく。

 

『マスターの魔力を…』

『喰っているな』

 

 吸収された魔力はヴィルヘルムの姿を変貌させていく筋肉が膨れ上がり、皮膚は焼けた鉄のように赤くなっていく、髪は逆立ちその眼からは理性の色が失われていく。

 変化は彼のデバイス、ドルンレースヒェンにもあらわれ、穂先の形状が茨の蔓のように変化する。蔓が伸び、絡み合い新たな姿を構成。茨で出来た巨大なネジあるいはドリルを思わせる巨大なランスへと変わり、騎士甲冑もそれに合わせて熊の毛皮で出来た鎧に再構成された。

 オーバードライブモード≪ベルセルク≫魔力集束技術を利用、魔力を集め吸収することで他者と自分の魔力の再利用する身体強化と自己ブースト。理性を吹き飛ばし、脳のほぼすべての容量を魔力制御に使用することで、短時間ながらも本来の制御不可能なレベルの魔力運用を可能とする禁じ手である。

 

「オオオオオオオオオッッ!!」

 

シグナムから強制放出させた魔力を喰らい尽くし、異形の狂戦士へと変身したヴィルヘルムは飢えた獣のような咆哮をあげた。得物を見る熊のような視線をシグナムに向けると一瞬で接近。ランスを振り下ろす。

 

 ゴッ!

 

 しっかりと受け止めたシグナムだったが、衝撃の余波だけで意識が薄れそうになるほど強烈な一撃だった。気を抜くと防御ごと叩き潰されてしまいそうになる。魔力を限界まで高め拮抗すると、攻撃のときと変わらぬ素早さで狂戦士は距離を取った。

 

(本能的にこちらを強敵と判断したか)

 

 理性がなくなっているにもかかわらず、判断がやけに合理的だ。普段のヴィルヘルムは文官として振舞うのを好んでいるようだが、もしかするとこの姿こそ本性なのかもしれない。

 ヴィルヘルムが逆手に構えた槍に魔力を注ぎこんでいく。間合いは射撃戦の距離、投擲するつもりだ。

 対して、シグナムも最大の攻撃で迎え撃つ。鞘と剣を連結、レヴァンティンが弓の形へと姿を変える。ボーゲンフォルム、いまだアギトとの連携を試していない遠距離戦闘形態である。

 観戦しているほとんどの人間が息を呑み、エース達も静かに状況を見守る。

 二人はほぼ同時に魔法陣を展開。魔力が渦巻く。バインドも呪術付与も無しの純粋な力と力のぶつけ合い。

 ヴィルヘルムの構える槍はシグナムの魔力を喰らい成長した呪いの槍。

 シグナムの番える矢はアギトに増幅されたシュツルムファルケンの強化版。いまだ名もない無名の矢。

 代表的なリカーブボウの構えで矢を引き絞るシグナムに対して、ヴィルヘルムの投擲方法は奇妙だった。槍を目の前に放り投げると石突きを思い切り蹴り飛ばす。衝撃でカートリッジの残弾が全て解放、槍が爆発的な加速をする。

 

「翔けよ、隼!」

 

 シグナムが放った矢は炎を纏ったまま音速の壁を越えて飛翔。槍と正面から激突。

 

ゴッ!

 

 炎と衝撃がまき散らされた。その中心で茨の穂先は砕かれ、矢は折れた。

 しかし、双方の攻撃はこれでは止まらなかった。弾き飛ばされた茨の棘が向きを変え鏃となってシグナムに殺到し、炎は矢を失って尚ヴィルヘルムに襲いかかった。

 

ズドドドド!

ゴガンッ!

 

「「両者、直撃ー!」」

 

 双方とも大型魔法を放った直後で避けようがなかった。鏃の猛火と烈火の鏃が炸裂し、濃密な魔力の霧と爆煙が二人の姿を完全に消してしまう。

 

 

 

 衝撃と爆風で逆巻く堀から人影が1人、崩れた石塁をよじ登る。ヴィルヘルムだ。

 再構成した毛皮の鎧も消滅し、訓練服装もボロボロで疲労しているがひどい怪我はないようだ。

 ヴィルヘルムは二、三度地面を強く踏み足場を確認してから、煙を吸い込まないようにゆっくりと深呼吸をした。

 

(オーバードライブは、威力がでかいが心身が摩耗するな)

 

 自己ブーストの代償としてひどい虚脱感が襲ってくるが何とか踏み留まる。残りの魔力はせいぜい通常攻撃一回分程度しか残っていなかったが、それを拳にこめ構える。

 

(シグナムの事だ、あの程度では倒れない。なら、こちらを捕捉しだい向かってくるはずだ)

 

 間合いを離して衝撃波を打たれたらそれまでだが、シグナムは正面から切りかかってくる。と、確信していた。

 目を凝らし意識を集中していると正面の煙が風とは関係なく動く。

 

(…今!)

 




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