Ⅳまで毎日投稿。
その事件は、本局査察部から機動六課に対する協力要請から始まった。内容はJS事件の際にゼストから回収されたデータの中に記録されていた銀行口座から、金を下ろしたものがいるので逮捕してほしいとの要請だった。
銀行口座の主は、スカリエッティの研究資材や取引禁止物品を輸送していた罪が疑われていたが、口座が偽名だったために居場所を特定できずにいた。が、ゆりかご事件から数ヶ月たったことで油断したらしい。クラナガンで口座を使用している姿を防犯カメラが撮影。犯人の特定に至った。
機動六課部隊長八神はやてはすぐに、フェイト・T・ハラオウンに対処を命じた。
フェイトはすぐさまシグナムと共に交代部隊アース分隊を出動させると、クラナガン郊外のとある一軒家を包囲。アース1、アース4が正面を固め、アース2、アース3が裏にまわる。フェイト、シグナムは上空に待機し、指揮を執る。
『オールアース、配置完了』
『突入』
アース4がドアを蹴り破り、あらかじめサーチしておいた反応に向かって突き進む。
目標はアース1、アース4の姿を認めると、すぐさま裏口へと逃げ出した。荒々しく扉を開け裏通りへと出た犯人だったが、途端にアース2、アース3に挟み込まれた。
アース3が空に向かって得意の散弾を発砲!
「はい、そこまで~!おとなしく捕まっちゃいな」
アース3が警告したが犯人は往生際が悪く、威嚇をしなかったアース2に向かってきた。
アース2は無言のまま、自分の槍型デバイスの石突を犯人に向け構えるとそのまま突いた。すると石突だけが犯人の足元に現れる。犯人は突然足元に出現した石突に足を引っ掛けると、ものの見事に転倒し頭を強打、そのまま気絶してしまった。
犯人の様子を確かめるためにアース3近づき、感想を漏らす。
「あーあー、痛そ。黙って俺にやられていれば、無傷ですんだのに」
「俺は攻撃をしていない。相手が勝手に転んだだけだ」
アース2がやったのは転送魔法の応用で、デバイスを部分的に転送させることが出来た。シャマルが得意としている旅の鏡の同系の魔法だ。
アース2は長距離からの攻撃を得意としているベルカの騎士で、相棒のアース3は散弾魔法弾のパンチ力で接近戦を好む、一風変わったコンビだった。
『全ユニットへ、目標を確保』
『はい、ご苦労さまです。このまま、犯人を本局へ護送します』
「それは、1週間ぐらい前の話でしたね…、覚えています。ちょうどテスタロッサ執務官が血まみれになったハラオウン提督を引きずっていた翌日でしたね。それがどうかしましたか?」
機動六課部隊長室で、ヴィルヘルムははやてに聞いた。部隊長室にいるのは、はやて、ヴィルヘルム、フェイトとその副官のシャーリー、そして、なぜだかティアナがいた。
ヴィルヘルムに意地悪な言い方をされたフェイトは萎縮して体を小さくしていたが、はやてはいつもの訛りのあるミッド語で答えた。
「覚えてるんなら話が早い。そん時の容疑者が無罪を主張しててな。その容疑者についての追跡調査依頼がきたんよ」
「また、人手不足ですか…」
六課はどちらかという捜査活動よりも、警備や戦闘を得意としている部隊だ。もちろん、初動捜査や捜査活動を行いもするが、捜査員はフェイトやシャーリーのように複数の役職を掛け持ちしているものが多く、規模は陸士108部隊や騎士カリムの部隊とは比べ物にならない。裁判に必要な証拠や証言を集めるならそちらの部隊のほうが効率的なはずだ。
「それもあるけど、今回はティアナに経験を積ませたいというのもある」
「なるほど…」
進路がらみのアレコレらしい、ヴィルヘルムも春に向けて、文官や整備員達の推薦状などの作業に追われている。はやては春から執務間補佐官を目指すティアナのための舞台を用意したようだ。
「で、私が呼ばれたのは、その調査がらみですか?」
「うん、説明は…、ティアナ、お願いな」
「は、はい」
ティアナが若干緊張した面持ちで返事をした。ティアナにとっては、ヴィルヘルムは苦手な上司といった意識が抜けきらないようだ。それでもティアナは一度深く呼吸をすると緊張を押しのけ説明を始めた。
「一週間前、密輸の疑いで逮捕されたカブ・アービュータス、46歳は犯行を自供。起訴される予定でした」
「…問題はないように感じるが?」
自供したのならば、むしろ裁判もスムーズそうに思える。
「はい、しかし、アービュータスに弁護士かついてから、一転、無罪を主張しています」
「供述を撤回したのか?」
ミッドの法律では一度署名した供述はそうそう覆るものではない。撤回したところで、まだまだ検察のほうが有利なはずだが…。
「いいえ、アービュータスが無罪の根拠としているのはPTSDです」
「なるほど…」
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、心に加えられた衝撃的なストレスが元で、さまざまな障害を起こす疾患のことである。だが自称PTSD患者の中には、なぜか、罪を犯し、管理局に逮捕された後で、自身の疾患の自覚症状がでる者がいる。一部の容疑者側弁護士達は、このPTSDの診断書を必殺技か何かのように持ってくることがある。
「だが、最近は精神疾患だからといって、無罪にするのは難しいのではないか?陪審員も容疑者がJS事件に関与していたとなれば、それほど同情的にはならないだろう」
「はい、ですが…」
言いよどんだティアナにかわり、フェイトが引き継ぐ。
「時期が悪いんです。JS事件の恐怖は、まだ、みんなの記憶に新しいですから、そういった場合、社会が一体化して被害者達には同情的になります」
「このカブという男は、加害者側だろ?」
「ええ、カブ・アービュータスの主張を説明します」
フェイトによれば、カブ・アービュータスの主張はこうだ。 自分は中央世界条約機構の平和維持隊で勤務していた経験がある。
平和維持隊とは「次元世界、又は世界間の安全を維持する」ため、管理局が比較的小規模な舞台を現地に派遣して行う活動のことである。しかし、紛争当事世界の同意を必要とせずに派遣をする例も多く、先進世界の武力干渉という意見もあり、賛否が分かれることの多い組織だ。
その部隊生活中、自分は数々の勲章をもらっている。
平和維持活動には何度も参加し、任期を勤め上げている。その最後に参加したオルセアの内戦地帯では、凶悪な反政府軍につかまり数ヶ月間の捕虜生活を強いられた。このいつ殺されるかもしれない捕虜生活の数ヶ月間と、戦場での経験によってPTSDを発症した。
密輸に関与したのは帰国し隊を退役した後、今から5年前で、最高評議会を名乗る男が接触して来たのが始まりで、自分に接触してきた男は、密輸に協力しないと平和維持活動時代の功績をすべて奪い、退職金も出さないと脅してきた。PTSDだった自分はストレスによる判断力を失っており、功績と生活基盤を奪われる恐怖から、罪を犯してしまった。
「なるほど、自身もまた最高評議会の犠牲者だと主張しているわけだ。で、法律の専門家としての君の意見はどうなんだ?」
「判事や陪審員が信じれば無罪判決もありえます」
「そうなってしまうと、ほかの小悪党どもも似たような主張をしてくるのは目に見えているな。お偉いさんが手を抜きたくない理由は、そのへんか」
はやて、フェイトが頷き肯定する。六課まで使って調査をする理由がよくわかった。密輸にかかわった小悪党どもを逃がしたくない本局上層部は、容疑者が平和維持活動でいったい何を経験したのか、実際のところを突き止めてほしいようだ。コレはちょっと一筋縄では行かない仕事のようだ。平和維持隊は海(次元航行部隊)や陸(地上部隊)とはまた違った組織であるし、精神医学の専門用語も飛び出してくるだろう。捜査経験の少ないヴィルヘルムには荷が重いように感じる。
それを伝えるとはやては心配無用と伝えた。
「下調べはすでにフェイト執務官達が行っているんよ」
フェイトが頷き、シャーリーが取り寄せた資料を開いて見せた。
その中の資料には数十をこえる勲章や表彰を受けた記録が残っている。その勲章の中には戦闘中に負傷したからといっても、やすやすとは貰えない勲章も含まれている。それだけの活躍をした男となると、戦場でのストレスが原因でPTSDを発症することもありうるだろう。
「ほう、すごいな。輝かしい功績といっていいのでは?」
ヴィルヘルムが思わず感嘆の声を上げた。それに対してシャーリーとフェイトが懐疑的な意見を述べる。
「はい、コレだけ見るとすごい経歴の持ち主に見えるのですけど…」
「ですが、この容疑者が行っていたのが密輸の、さらに末端の仕事だったことが判明したんです」
「ん?」
フェイト達の話を聞いて、ヴィルヘルムにも疑問が浮かび上がってきた。
誰でもできるような末端の仕事なら、そこら辺のゴロツキでも雇えばいい。わざわざ、脅しをかけてこのミスターヒーローを使う必要はない。最高評議会がこの男に課していた仕事と、彼の軍歴の間には落差がありすぎる。
「たしかに疑問が残るな」
「と、いうわけで追加調査を行うことになったんやけど、平和維持隊の記録はそのミッションによって、さまざまな世界のあちこちに散在していて、土地勘のない人には調査しにくいねん」
ヴィルヘルムにもだんだん呼ばれた理由がわかってきた。
「副長にやってもらいたいのは、第58管理世界サベージの案内と地上部隊との調整なんよ」
「第58管理世界サベージ・・・、そこの地上部隊に私も一年ほどいたことがあります。なるほど、了解しました」
ヴィルヘルムが承諾すると、フェイトとシャーリーが立ち上がりながら言った。
「そして容疑者の故郷でもあります。容疑者と平和維持隊と同僚だったものから証言も取れるはずです」
「裁判まであまり日にちもありませんし、すぐに動きましょう。」
ティアナも後に続こうと立ち上がると、ヴィルヘルムが3人に視線を投げているの事に気が付く。ヴィルヘルムの視線の先はスカートの裾。思わず裾を押さえて、声を上げる。
「な、なんですか!」
まさか、この堅物副長がセクハラ!いや、でも、隊長達を部屋に連れ込んでたって、噂も。
ティアナの様子を見たはやても、ヴィルヘルムの様子に気がついて、いたずらっぽく笑う。
「副長、ティアナの絶対領域にドッキドキ~」
ヴィルヘルムははやてをジロリと一睨みすると、口を開いた。
「三人とも、2型(ミニスカート)はやめて、1型(ロングスカート)か3型(ズボン)に着替えてこい。向こうは冬だ」
「はい、わかってます。ご心配なく」
「は~い、コートも用意しておきます」
フェイトとシャーリーは知っていたようだ。副長の視線の意味もすぐに気がつき、勘違いすることがなかった。
一人だけあたふたしてしまったティアナは恥ずかしくなり、うつむきながら退出しようとすると、ヴィルヘルムが声をかけてきた。
「三人とも先に行ってくれ、少しやることができた」
言うが早いか、ヴィルヘルムは三人を追いたて部隊長室の扉に鍵をかけた。
扉越しに短い悲鳴と、その後に続く怒鳴り声が聞こえてくる。
「ッいった~、何すんねん!このセクハラのっぽ」
「黙れ!セクハラちび!」
結構な剣幕での応酬が聞こえてきたが、フェイトはさっさと行ってしまう。ティアナをあわてて引き止めた。
「ちょ、待ってください、フェイトさん!止めなくていいんですか!」
「大丈夫じゃないかな?あの二人、仲いいんだよ」
「そ、そうですか?」
ティアナの印象だと、ヴィルヘルムははやてに対して一般論や常識を持ち出しては反論しているイメージが強いので仲が悪く見えていた。が、フェイトはまったく心配していない様子でシャーリーに声をかけた。
「ほら、シャーリー。盗み聞きしていないで行くよ」
戸口にへばり付き聞き耳を立てていたシャーリーはペロッと舌を出しながら、ドアから離れた。
サベージへの定期次元船はティアナが思っていたほど込み合ってはいなかった。フェイトに理由を聞いてみるとサベージは首都の機能を分散させており、一つの都市に人口が集中しないよう都市計画が進められたため、人の出入りもほかの世界の首都と比べると少ないらしい。その分次元船の席にも余裕があり、通路を挟んで3脚づつ並んでいる席の一列に女性三人が、通路を挟んだ1席にヴィルヘルムが座っている。
「第58管理世界サベージの首都レブルはクラナガンからの定期次元船で約4時間、時差-2時間、亜寒帯の気候は冬季なると雪こそ少ないものの、訪れるものを拒むかのように厳しい」
「あ、やっぱり観光したい?ティアナ」
ミッドチルダ出入国管理部が発行している観光案内を、次元航行船の座席に添えつけられた端末で、睨つけるように見ていたティアナにシャーリーが話しかけてきた。
「えっと、ちがいます…」
ティアナはバツが悪そうに言い返した。確かに言われてみると、周りにそう見られてもおかしくないことをやっている。
「じゃあ、予習かな?」
今度はフェイトがこちらの顔を覗き込みながら言ってくる。
やり手の執務官の洞察力は伊達ではないわね。とティアナは思った。
「ええ、まあ。その私はずいぶん無知だなって。それに副長に対する説明でも言葉に詰まってしまいました」
憧れの執務官の仕事の手伝いができると思ったせいか、あるいはヴィルヘルムの無表情のせいか、緊張のし過ぎで実力が発揮できなかったことで、ティアナの気分は憂鬱だった。
「それなら宗教も調べたほうがいいよ。たとえば、これから行くサベージは聖王信仰だけど、特に5代目聖王を信仰している。5代目聖王はどんな業績を残した人でしょう?」
「えっと、あれですよね。動物愛護を訴えたっていう」
「うん、正解。サベージではいまだにその習慣が残っていて、動物愛護に関する法律も多いし、四足の動物は殆ど食べない」
「な、なるほど」
フェイトは100%親切心で教えてくれたと分かっているのだが、そのことを知らなかったという事実がティアナをさらに憂鬱にさせた。
執務官なることは夢でもあるし、今回の仕事はありがたいとも思っているのだが、自分に執務官になる才能があるのだろうかという不安がないわけではない。ちょうど六課に入らないか?と、はやてに誘われたときのように不安と期待が入り混じっている。
(コレは少し重症かな)
ティアナの顔が沈んでいるのを見たシャーリーは、何か気分を明るくする話はないかと、記憶を探る。
あった、とっておきのが…
「そんな顔しないで、ティアナ。ブリーフィングのことなら気にしないで、今回はたまたま緊張しちゃったんだから仕方ないよ」
「うん、みんな最初はうまく…いかないんだよ…」
フェイトも加わりティアナを慰めようとしたが、途中で自身が執務官試験に2回失敗したことを思い出して声が尻すぼみになっていく。
そんなフェイトをわき目に、シャーリーはとっておきの話をし始めた。
「そうそう、緊張といえば。フェイトさんなんて、私が執務官補佐の考査試験を受けに行くときに…」
シャーリーの言葉に自分で地雷を踏んで俯いていたフェイトがハッと顔を上げて止めに入る。
「シャ、シャーリー、その話はダメ、やめて、お願い。今度、翠屋のケーキ、買ってあげるから!」
(ああしている、姿のほうが彼女達は年相応なのかもしれないな…)
キャイ、キャイと騒ぐ連れの3人を見て、ヴィルヘルムは女学生の引率をしている教師になった気分になり、いつだったかナカジマ3佐に聞いた話を思い出した。
「俺のご先祖様の国じゃな「女」って文字があってな。そいつを三つ合わせると「姦しい」って文字になる」
ナカジマ3佐の言っていたことは正しかったな。と、先輩仕官の偉大さを噛み締めるが、そろそろ、周囲の席からの視線が痛くなってきた。シャーリーはともかく、フェイトとティアナは戦闘訓練の賜物で心肺が確りとしていて声が大きい。
大きめの咳払いをして3人の注意を引くと、3人とも周りの様子に気がついたようで居住まいを正した。
「ところであらかじめ向こうの関係各所に連絡を入れておきたいのだが、回る順番は決まっているか?」
「あ、はい」
ヴィルヘルムに尋ねられたフェイトは制服のポケットから、デバイスを取り出し、回る場所のリストの表示操作を行う。搭乗手続きの際デバイスロックを掛けられたバルディッシュは普段よりゆっくりと反応し主人の命令に答えた。
「なるほど、連絡して資料を用意させておこう」
「あ、じゃあ私も…」
フェイトが手伝いを申し出てきたが、ヴィルヘルムは断った。捜査の中心となるのはフェイトだ、こんなことに煩わせるわけには行かない。
「今回向こうで指揮を執るのは君だ。今のうちに英気を養っておけ」
「それがなんとも落ち着かないというか…」
手を合わせ膝の上でモジモジを動かすフェイトに、一つアドバイスを送ってやる。
「なに、簡単なことだ。ようは課長の真似をしたらいい」
聞いたフェイトは一度キョトンとしてから、こみ上げてきたようにクスリと笑う。酒を飲んだ休日のことでも思い出したのだろう、いたずらを思いついた少女のような顔をすると、
「ビル、言うこと聞かなあかんで~」
と、言ってウインクをしてきた。予想を超える返しをもらいヴィルヘルムは驚いた。
「…ッ!…その調子で頼む」
苦笑し降参のポーズを取ってから、通信端末のあるブース(船内は念話禁止)に向かった。
フェイト達に背を向けると、女達のクスクスという笑い声と話し声が追いかけてきた。話の内容は多分休日のときの話だ、チラチラと視線も感じる。いったいどこまで話を膨らませているのかと思うと頭痛がしてきた。
「…席に戻りたくないな」
やはり、ナカジマ3佐の言っていたことは正しかった。
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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何卒よろしくお願い申し上げます。