現地時間で11時を回ったころサベージに到着したフェイト達は、昼食を取ってから行動に移った。次元船で一緒に運んできたフェイトの車で、まずは平和維持隊の入除隊窓口のある広報連絡本部に向かう。カーナビは現地の規格が古すぎて使えず、地図とヴィルヘルムの案内だけが頼りだった。
首都レブルの町並みはひとたび次元港から離れると、開発の手が入っていない区画が多く目に付いた。クラナガン郊外にある廃棄都市区画のようにも見えるが、路上に出されたゴミ袋や換気扇から漏れ出す湯気が、この町がまだ使われていることを教えている。
町の様子にすっかり気を取られたティアナがキョロキョロと視線を動かす。
「なぜだろう?大都会(クラナガン)育ちのティアナがおのぼりさんに見えるね」
「えっ!あ!…いえ、すみません」
シャーリーにからかわれ、羞恥で真っ赤になるティアナをルームミラーで見ていたヴィルヘルムは、ティアナの隣に座るシャーリーに質問をした。
「執務官補佐、この世界をどう見る?」
「典型的な後進世界という印象ですね。新しく見える建物でも20年ぐらい昔の建築様式を使っています。治安用のサーチャーも旧式のものですね」
ヴィルヘルムは同じ質問を、ハンドルを握るフェイトにもする。
「執務官は?」
「この時間になっても、道路のゴミが回収されていないってことは、公共サービスが悪いのかもしれません。こういう世界は大抵治安が悪いです」
ヴィルヘルムは二人の答えに満足そうに頷いた。
ティアナも感心してしまう。始めてきた世界であっても見るべきところを見ると、その世界の様子というのが判るものらしい。せっかくの機会だ。今のうちにいろいろ聞いておくのがいいかもしれない。
「あの、少し質問させてもらっていいですか?」
ティアナは広報連絡本部に着くまでの間、フェイトたちを質問攻めにしてすごした。
広報連絡本部に着くと資料管理を行っている女性局員が迎えてくれた。女性局員ベンリィは余暇40代半ばでふくよかな体型をしており、美人と言う訳ではなかったが豊富な人生経験に裏打ちされた自信が顔に表れていた。
「はじめまして。連絡を入れた、機動六課のヴィルヘルムです」
「ベンリィ・ホワイトよ。はじめまして」
そう挨拶をするとベンリィはヴィルヘルムに軽く抱きつくと、左右の頬を触れさせてから離れた。
「…ッ」
ティアナはギョッとしたが、ヴィルヘルムは平然としている。こういう挨拶のようだ。話には聞いたことはあったが、実際見るのは始めてで驚いてしまった。
ヴィルヘルムはベンリィにフェイト達を紹介し、ティアナも身を硬くしつつ、サベージ式の挨拶をする。
挨拶が終わると資料室に案内された。資料室の作業スペースの机の上には、すでに適切なファイルがピックアップされ、並べられていた。
「ごめんなさいね。都会からきた人は驚くでしょうけど、ここの資料ってデータ化が遅れているのよ。資料と言ってもいまだに紙のファイルなのよ」
「いえ、ファイルを用意してもらっただけでも十分ありがたいです」
すまなさそうな口調のベンリィにシャーリーが笑いかけた。少し前の無限書庫のように大量の書籍を詰め込んだだけの場所や、そもそも保存すべきデータが残っていない場合の多い地方世界で、資料検索をしたこともあるフェイト達から見れば、ここは上等の部類だ。
シャーリーは用意されている資料をざっと確かめると言った。
「うん、コレなら思っていたよりも早く片付きそう」
聞いてフェイトが指示を出す。
「じゃあ、シャーリーはここをお願い。ティアナはシャーリーを手伝ってあげて」
「は~い」
「はい!」
ベンリィと共に資料を調べ始めた2人にこの場を任せ、フェイトとヴィルヘルムは次の目的地に向かった。
管理世界戦闘中行方不明者・捕虜家族連絡会と書かれた看板が架かっていたのは、民間の真新しいビルで、入り口を入ると必ず目に入るところに、このビルの出資者の胸像が設置されていた。このビルは違う先進世界の資産家が金を出し建てられたようだ。
自己顕示欲と成金趣味でできた胸像を見たヴィルヘルムは職員に聞こえないように鼻で笑い。フェイトも冷たい一瞥を胸像にくれてから顔を背けた。見る気も失せたらしい。
二人の対応に出てきたのはズーク・アイビーグレイと名乗る15歳ぐらいのちょっと眠そうな顔立ちをした少年で、彼は挨拶(フェイトとは長めに)を済ませると、データベースに繋がる端末がある資料室に案内した。
端末を操作したズークはカブ・アービュータスが主張している捕虜収容生活の記録がないことを教えてくれた。
それを聞きフェイトはすぐにシャーリー達に連絡を取った。空間モニターが開きシャーリーの姿が映る。
「シャーリー、カブの経歴はわかった?」
『はい、彼の隊員履歴簿を見る限り、確かに勤めていた年数は長いですけど、何度か入除隊を繰り返していますね』
そういった局員の狙いは簡単だ。退職時の特別支給金が目当てだったのだろう、何度か支給金を受け取った記録と、再入隊をした記録も残っているそうだ。
「捕虜になった記録はどう?念のため全ての入隊期間中で調べてほしいんだけど…」
『大丈夫、調べてあります。ですが、容疑者が捕虜になったという記録はありませんね』
つまり、カブの主張には嘘があるということだ。仮に彼が本当に捕虜になっていたとしても、平和維持隊もそのことに気がつかず、連絡会への連絡もなしに、自力で逃げ出したことになる。
ヴィルヘルムは念のためズークに質問してみた。
「君、捕虜になった人たちの中で、何の支援もなしに自力で逃げ出した人はいるかね?」
「そんな人いたなら、とっくに表彰されているっすよ。まあ、捕虜になった人たちの中には酒が入ると、大脱出を企てたって言う人もいるらしいっすけど」
「ズークは捕虜になった人達とは、顔見知りなの?」
「俺、いや、私がというより祖父が捕虜になったことがありまして、その親睦会みたいなのに着いていったことがあるんです。同じ収容所に入れられていた人たちは何年に一度か、そういった会を開いているみたいです」
肩をすくめて笑いながら言うズークに、今度はフェイトが質問した。どうやらこの少年はフェイトが好みのタイプらしい。ヴィルヘルムと話をしているときよりも、言葉使いが丁寧になり、重たげなまぶたを精一杯開いて、機嫌がよさそうだ。
フェイトはズークの話を聞くと、近くにカブの主張する期間捕虜になった人がいないか尋ねた。書類だけではなく、捕虜だった人にカブが捕虜になったことがあるのか直接会って尋ねる気だろう。
フェイトに頼まれたズークは嬉しそうに端末を操作し、何名かのリストを出した。そのうちのいくつかはヴィルヘルムも近くに行ったことのある住所だった。
「いくつかは案内できるな。行くか?」
「はい、もちろんです」
フェイトは返事をすると、ズークから証拠になるデータを受け取ると礼を言う。
「ありがとう、ズーク」
「いえいえ、何か私が力になれることがありましたら、こちらに連絡をください」
しまりのない顔になったズークは連絡先を書いた名刺をフェイトだけに渡した。
フェイトから捕虜達の証言を取りに行くと、連絡を受けたシャーリーは空間モニターを消し、自分の作業に戻った。今度は本人がもらったという勲章について調べていく。先ほど調べた、隊員履歴簿には確かにいくつかの勲章をうけた記述があった。しかし、シャーリーは制服や階級章などの支給品授受簿を調べてみたが、授け側のサインに不備があることに気がついた。
これはベンリィに言って、平和維持隊本隊表彰部に保管されている記録を確認する必要があると感じたシャーリーは、ベンリィを呼んだ。
「ベンリィさんちょっといいですか?」
「はい、どうしたの?シャリオさん」
「いくつか問い合わせてもらいたいことができました。お願いできますか?」
シャーリーはベンリィに事情を話し、データを送ってもらうように依頼する。
「わかったわ、でもここの施設は古いから少し時間が掛かっちゃうかも…。ほかに問い合わせたいものはある?」
シャーリーは今のところ思い当たらなかったので、先ほどから平和維持隊の勲章に関する規則集を読み漁っていたティアナに声をかけた。
「どう、ティアナ追加してほしい資料はある?」
「そうですね。では、この勲章とこの勲章の受章者リストをお願いできますか?」
ティアナは規則集の勲章の写真一覧を開き、2つの勲章を指差して言ってきた。シャーリーも規則集を覗き込んだがティアナが指差した1つはカブの履歴には乗っていないものだった。
「ん、ティアナ、この勲章の受章者リストっているの?」
今回の件に関係ないことでベンリィの手間を増やすのは忍びなく思ったシャーリーが指摘したが、ティアナは自身ありげに頷いた。
規則集の一文を見せながらティアナは説明する。
「はい、この勲章は容疑者の履歴に乗っている勲章をもらうと、必ずもらえる勲章なんです。それもこの勲章には特別な番号が付いているもので、どの勲章が誰に贈られたものか確実にわかるようになっているみたいです」
「必ず2つセットでもらうはずの勲章を、1つしかもらっていないわけね。確かにおかしいかも」
「はい、名簿を比べてみる必要があると思います」
「そうね」
ティアナの意見にシャーリーも同意し、ベンリィに資料を取り寄せてもらうように依頼すると、メガネのブリッジを押し上げながら言った。
「それと、容疑者どんな仕事をしていたのか、どんな仕事をする資格があったのか調べ直す必要がでてきたわねえ」
「じゃ、私はどこの訓練校の何の訓練をしていたか調べます」
「じゃあ、私は容疑者がどの部門で働いていたか調べ直すわね」
二人が調べなおすと、彼は最後に務めた任期で人事・会計書類を扱う職種の訓練を受けた後、平和維持活動に参加していたが、任務を終えてサベージの小さな通信部隊に配属された時期、どの部門に配属されていたかを示す記録がなくなっていたことに気がつく。
さらに、ベンリィが持ってきた資料を検討した二人はある意見で一致した。
フェイト達が話を聞きに行った、3人目の元捕虜の証言は管理局にとって有利になる証言だった。
フェイト達にとって運のいいことに、男に容疑者カブ・アービュータスの写真を見せると、後方基地で会ったことがあると答えた。その男は平和維持活動に参加している間は、後方の補給基地から前線物資を運ぶ輸送部隊に所属しており、彼の話だとカブは後方基地の備蓄管理員として勤務しており、戦闘らしい戦闘には遭遇していないはずだと証言した。
有益な証言を取ることができた2人が意気揚々と車に戻ると、ティアナ達からの通信が入った。車の中で空間モニターを開き報告を聞く。
ティアナは容疑者が授章した勲章の中には、不備と不自然な点が多いものがあること、容疑者の兵科に関する重要な書類のいくつかが欠けていたことを伝える。シャーリーはそれにベンリィが新たに用意した資料でわかったことを報告した。
「やはり平和維持隊本隊表彰部の受章者リストには、カブ・アービュータスの名前はありませんでした。それと、コレはティアナが発見したことですが、容疑者が受賞したことになっている勲章の中には、他の隊員が受章すべき勲章があったんです」
ティアナが受章者リストを比べてみると、2つセットでもらうはずの勲章の片方は作戦中に命を落とした隊員の名前が、もう片方にはカブ・アービュータスの名前があった。これは明らかにおかしい。
報告を聞いたフェイトが調査用に持っていた写真を睨みつけ、ヴィルヘルムも不愉快そうに眉を吊り上げた。
つまり、この容疑者は最後の除隊直前で、自分の記録に接する機会があった可能性が高く、それをいいことに自分の記録を改ざん、書類上とはいえ実際にはもらっていない勲章を授章したことにしたらしいこと。その勲章の中には他人の功績を掠め取った可能性が高い。
「この男、許さない!」
「事実だとしたら、その意見には同意するが書類が抜かれている以上、あくまで仮説でしかない。こちらには証言も証拠もないからな」
「証言を取る!カブが補給所に配属されたころ、文章係だったという証言を取れば、十分状況証拠になる!」
怒りのせいかフェイトはヴィルヘルムに対する言葉使いが変わってしまっている。普段は優しく笑っていることの多いに美人が怒ると、ギャップのせいで迫力が増す。
やはり、美人は怒らせるものではないなと思いながら、ヴィルヘルムは提案した。
「では、この通信基地に連絡して、当時容疑者と同じ隊で働いていた者のリストを貰おう。まだ、管理局で働いているものがいるなら、各部隊で調書を取り送ってもらうよう手配しよう」
興奮していたフェイトだったが、ヴィルヘルムの忠告を聞ける程度には冷静だったようだ。一度、深く深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
「そうですね。お願いします」
ヴィルヘルムは頷き、早速取り掛かった。通信基地からリストを受け取り、いくつかの部隊に依頼すると、フェイトに顔を向けた。リストを空間モニターに開き、ある名前を指差しながら言った。
「見てみろ、この男。既に除隊しているようだが…」
「ディオ・パステル…、このサベージ系の名前ですね。出身地はダックス。レブルから車で7時間位ですか?」
「この町は鉱山で栄えた町だが、30年以上前に鉱山が閉山してから、治安がかなり悪くなっている。どうする?行ってみるか?」
「調書は管理局内だけでなく、現在、民間になった方からの調書があった方が陪審員も信頼するはずです。2人と合流して向かいましょう」
「わかった。先方に連絡を入れておく」
フェイトが車を走らせ広報連絡本部に向かう間に、ヴィルヘルムがディオ・パステルの自宅に連絡を入れると通信に出たのは初老の女だった。女、パステル夫人はヴィルヘルムの服装、つまり局員の制服を見ると興奮した様子で言ってきた。
「息子が見つかったのかい?!」
わけがわからずヴィルヘルムとフェイトは顔を見合わせた。
<<オリジナル設定・登場人物>>
世界、都市名
第58管理世界サベージ:
管理局世界だが、後進世界で文化レベルは低い。デバイス部品に使われる素材や、触媒の鉱山で栄えたが、現在はほとんどの鉱山が掘りつくされている。
首都レブル:
サベージの首都、この世界で幾つかある次元港があるが、同じ文化レベルの世界の首都と比べても人口は少ない。
都市ダックス:
かつては鉱山で栄えていたが、今は失業者であふれている。
人名
カブ・アービュータス、
46歳、第58管理世界サベージ出身の密輸犯。PTSDによる精神疾患を理由に無罪を主張。
ベンリィ・ホワイト
治安維持隊 サベージ広報連絡本部 資料管理係 捜査に協力してくれる。
ズーク・アイビーグレイ
民間団体 管理世界戦闘中行方不明者・捕虜家族連絡会 サベージ・レブル支部の案内役。フェイトにメロメロ。
ディオ・パステル
出身地はダックス。カブ・アービュータスと仕事をした経験があるが…
パステル夫人
ディオ・パステルの母。
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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何卒よろしくお願い申し上げます。