管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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27偽りの勲章Ⅳ

 その日の深夜、ホットラインに「ディオ・パステルがある廃屋に住み着いている」との情報が入った。

 早速、情報にあった住所に向かったフェイト達は数ブロック離れた路地に車を止めた。フェイトがサーチャーで廃屋をスキャンすると複数の熱源を感知した。

 

「複数だ。1人で暮らしている訳じゃなさそう…。ディオがまだ、管理局が自分の事を無実の罪で捕まえに来たと勘違いしていると、私達の姿を見た途端、また逃げ出しかねませんね」

「最悪なのは、自暴自棄になって暴れられることだな。だが、逃走も反撃の意思を持たないほど圧力を掛けるには、このメンツでは迫力不足だな」

 

 フェイトがスキャン結果を伝えると、ヴィルヘルムが意見を言った。

 正しい意見であることはフェイトも分かった。オーバーSランク魔導士といっても、まだ娘と言っていいような外見のフェイトでは、相手を油断させることは出来ても威圧することは難しい。ヴィルヘルムの長身ならば十分迫力はあるが、たった一人だと相手は逃げることを考えるだろう。「問答無用でバインドしてしまえ」と言う者もいるかもしれないが、ディオは元々無実の人間だ。そんな手荒なまねはしたくない。

 2人がいい知恵はないものかと考えていると、ティアナが提案してきた。

 

「それでしたら、私に考えがあります」

 

 

 

 まだ太陽が上がる前、人間の生体リズムがまだ活動し始めない時間帯、ディオが住み着いている廃屋に一台の官用車が止まった。車からは1組の男女が下りてきた。1人は執務官の制服に身を包んだ金髪の女。男の方は背の高い赤毛で、管理局の制服を着ていたが立派な体格のため一般の人間には武装局員にしか見えなかった。

 二人は玄関に近づくと、男の方が乱暴にドアを叩き、怒鳴った。

 

「管理局だ!ディオ・パステル!ディオ・パステル!居るのは分かっている。出て来い!」

 

 廃屋の二階で眠っていたディオは、その声を聞くとボロボロの毛布を蹴飛ばし跳び起きた。窓に打ち付けられたベニヤ板の隙間から外を覗くと、体格のいい男がドカドカと入ってくるところだった。

 治安維持隊で基本的な訓練をしたことはあるとはいえ、自分は後方勤務が主な仕事。だが、押し入ってきた男は明らかに戦闘職の男だろう。自分が勝てるわけがない。

 そう判断したディオは、予め用意していた布切れを繋ぎ合わせただけのロープを建物の裏手に投げ、ほとんど落ちるように降りた。

 2m程の高さがあるブロック塀をよじ登り、裏通りに飛び下りる。

 

「いってぇ…」

 

 着地に失敗して尻もちをついたが、気にしてはいられない。まだ、周りは暗い、入り組んだ裏通りならまだ逃げられるはずだ。が、周りが急に明るくなった。夜明けかと驚いて東の空を見るが東の空は暗いままだ。光源をたどり真上を見上げると小さな照明弾が浮かんでいた。

 

「ディオ・パステルさんですね?」

 

 声を聞いて振り向くと、16~17歳ぐらいでオレンジ色の髪を二つに結った娘が立っていた。しっかりとした歩調で近付き4~5m先で止まる。

 

「あたしは本局古代遺物管理部機動六課所属ティアナ・ランスターです。治安維持隊時代のことで2、3質問があります。」

 

 よし、相手は娘が一人だ。何とか逃げることが出来るだろう。と、考えた瞬間、照明弾の光力が上がる。照明弾に照らされた光景を見た瞬間、ディオは逃げる気力を失った。

 

「う…、あ」

 

 いつの間にか裏通りは、嘴のように尖った兜を被った騎士達に封鎖されていた。騎士達は音もなく二列の互い違いに並び、通路を完全に封鎖していた。蟻一匹、通さないとはこのことだろう。人間など通り抜けることなど絶対に出来ない。

 気力を失い、力の抜けた足が体重を支えきれなくなり、その場に座り込むとツインテールの少女は満足げに頬笑みながら言った。

 

「ご同行願えますか?」

 

 

 

 陸士0076部隊で借りた取調室で供述録取書を書いているディオと、それに付き添っているフェイトとシャーリーを大きなマジックミラー越しに眺めながら、ヴィルヘルムはティアナに言った。

 

「幻術を上手く使ったな。…見事だ」

「…あ、ありがとうございます」

 

 珍しいヴィルヘルムの賛辞にティアナは躊躇いながら礼を言った。ディオを包囲していた騎士達はティアナがヴィルヘルムの姿を模して作った幻術だった。言わばペテンにかけて相手を諦めさせたわけだが、ディオを車に乗せ調書を書くことに合意させた後、ティアナが幻術を解除するとディオは「詐欺だ!」としつこく繰り返した。うんざりしたティアナは今こうしてマジックミラーの裏で取り調べ室を眺めている。

 ディオが調書を書き終わり。フェイトがそれに法的な問題がないか確かめると頷く。

 

「はい、OKです。ディオ、協力に感謝します」

「これは約束の推薦状です」

「へへ、悪いね」

 

 ディオはシャーリーから手紙を受け取る。手紙の内容は公共事業の作業員としてディオを推薦する手紙だった。

 当初、ディオは一年前の恨みと引っかけられた怒りから、「オレの無実が証明されたのなら、協力してやる義理はない!」供述録取書を書くことを拒んでいたのだが、仕事を紹介することを条件に出すと喜んで引き受けた。1年前の麻薬騒動でディオの勤めていた薬品工場は既に潰れてしまっているので、ディオは現在無職。不景気のサベージでは、就職先を探すのも困難なので願ってもない事のようだった。

 ティアナは「何時の間に?そんなものを」と思って聞いたが、ホットラインに情報が来るまでの間に、フェイトに頼まれたヴィルヘルムが調整し用意していたらしい。抜け目のない人達だ…。

 

「でも、これって取引ですよね…」

「潔癖だな。それにこれは誠意ある取引だ。正直、彼が調書を書かなくてもこちらは大して困らない上に、サベージの現状を考えるなら破格の報酬と言っていいぐらいだ。あの推薦状は、本局、いや、少なくとも六課は誠実で約束を守るという意思表示でもあるのさ」

「どちらにせよ、含む所があるんですね」

「残念ながら、指揮官というものは奇麗事だけではやっていけないのさ。まあ、テスタロッサ執務官は甘いからな。協力しなくても推薦状を渡すつもりだったようだ」

「…」

 

 ヴィルヘルムはティアナからの粘っこい視線を感じながら、意識を取調室に戻した。

 ディオは手紙の内容が間違いなく推薦状であることを確認すると、ニカッと笑いフェイトとシャーリーにサベージ式の挨拶で礼を言った。

 

「ありがとよ。ねぇちゃん達、これでママのスープを飲める!」

 

 ディオに解放されたフェイトが名刺を取り出して言った。

 

「他に何か思い出したことがあったら。ここに連絡をください」

 

 ディオは力強く抱きしめられて目を白黒させているシャーリーを離すと、今思いだしたと言った装いで言ってきた。

 

「そうそう、ねぇちゃん。今思いだしたんだが、俺とカブの野郎が通信部隊で書類をいじっていた頃の小隊長は、新人が来るとな、真っ先に人事記録のコピーを取っていたぜ」

「コピー?人事記録の複製は禁じられているはず…」

「部外に持ち出したならな。保管庫の金庫の中にしまって置くなら問題ねぇ。当時の小隊長はアナクロな人でデータだけのバックアップは信用出来ねぇってよ。」

 

 通信部隊に配属された当初の人事記録のコピーが残っているなら、カブが勲章を受けていない証拠になるだろう。管理局のコピー用紙には肉眼では見えないが紙の製造年月日が分かるように仕掛けが施されている。それとカブが通信部隊に配属されたころに、使用されたコピー用紙と一致するなら信用性の高い証拠となるだろう。

 

「ソレ、今でも残っていますか?」

「まあ、残ってるんじゃねぇかな。当時の小隊長が個人的に行っていたことだが、金庫の奥にしまってたからな」

「ッ…。ありがとうございます!助かります!」

「…いや、いいってことよ」

 

 フェイトに素直な礼を言われて、ディオははにかんだ。

 フェイトは早速通信部隊の現小隊長に連絡を入れると、金庫の奥からディオの話した書類が発見された。フェイト達は感謝の意を込めディオをパステル夫人の待つ自宅に送った後、その日の内に六課に引き返した。

 

 

 

「以上が、カブ・アービュータスの身辺調査の成果になります」

 

 機動六課部隊長室。ディオ・パステルの供述調書を手に入れたフェイト達は、ゼファーとの申し送りを済ませた後、クラナガンに戻り、事の次第をはやてに報告した。

 出発前のブリーフィングで、ヴィルヘルムへの言葉に詰まってしまったティアナは、リベンジとばかりに張りきり、はやてへの報告は自分が行うと名乗りを上げた。フェイト達も反対せず、こうして報告を行っていた。

 

「なかなか、活躍したみたいやんな。ティアナ」

「いえ、あたしの方こそいい経験をさせてもらいました。ありがとうございます、八神部隊長」

「ん、そう言われたら指揮官冥利に尽きるちゅうもんや。フェイト分隊長はどう思う?」

「…え?あ、うん、機転も利くし、即戦力になってくれたよ…」

 

 フェイトははやての問いかけに、反応が遅れている。集中できていないようで、表情も暗い。シャーリー達も先程から気にしているようで、フェイトをチラチラと見ている。

 だいたいの調査内容は分かった。後は報告書としてまとめてくれればいい話。はやてはヴィルヘルムを残して解散を命じた。

 

 フェイト達が出ていっても、はやては数秒間何も言わずにヴィルヘルムを観察した。ヴィルヘルムはいつにもまして無表情で、部下達の前でむせる冷徹無比を装っていたが、はやての目はごまかせなかった。

 今のヴィルヘルムの表情は部下を叱った後に、言葉の意味が正しく伝わったか?必要以上に厳しくしてしまったのではないだろうか?と、悩んでいる時の表情だ。ちょうど、ティアナが暴走した時に、スターズの面々を呼び出したときの表情と同じだ。内心の悩みや動揺を隠そうとして無表情を保っているのだ。が、毎日顔を突き合わせているはやてにはかえって不自然に見え、悩んでいるのがまる分かりだったりする。

 

「…ビル、フェイトちゃんになんかゆうたやろ?」

「…ん、まあな…、進路のことで…。少し強くいいすぎたかもしれない」

 

 聞くと、学校で叱られた理由を両親の前で説明する子供のようにヴィルヘルムは口を開いた。どうも、こういうことになった途端、男は頼りなくなる。

 

「ふうん、いってみぃ、フォロー出来るなら、フォローしとくから」

 

 はやては「しょうがない人やな」と思いながら促した。

 

 

 

 問題は帰りの次元船内で、フェイトとヴィルヘルムがティアナ達と離れて座ることになったのがきっかけだった。

 ヴィルヘルムは隣に座るフェイトは暗い表情が気になり、理由を聞いてみた。

 

「どうした?テスタロッサ執務官。何か気になることでもあるのか?」

「え…?あ、何でもないです」

「その表情で何でもないのなら、暗い気分の時はどんな顔をするつもりだ?」

「…そう、ですね…」

 

 ハッキリしない態度。本来想定していなかったディオ・パステルの保護をした為、思わぬ証拠も押さえることが出来た。今回の調査任務は大成功と言える。

 部下達がいる手前表情には出さないようにしていたが、ヴィルヘルムは意気揚々と引き上げるつもりでいたのだが、隣で陰気な顔をされては気になって仕方がない。

 

「何が不満だ?任務は成功。パステル夫人の元に息子は帰った。大成功ではないか?」

「ええ、任務の成功は嬉しかったのですけど、あの子はこれから大丈夫でしょうか…」

「ああ、なるほど…」

 

 合点がいった。ダックスのメッセンジャーボーイの事が気になっているようだ。フェイトはもともと優しい性格の上に、子供には過保護な所がある。

 

「ダックスでもいったが、大丈夫だ。サベージは後進国だが教育には力を入れている。成績が平均点以上なら大学まではタダでいける」

「そ、そうなんですか?景気が悪い時はそういうお金は削減されそうですけど」

「いや、社会機構は景気の悪い時こそ、子供の養育費に投資するのが鉄則だ。ある経済学者の見解では、子供は掛った教育費の三倍社会に貢献すると言われている。いい学校を出ていい仕事に付けば、しっかりと多くの税金を納めてくれるからな。教育に金が掛かったとしても、長期的にみれば社会にとってもプラスだ」

 

 ヴィルヘルムにとって経済学は得意分野だ。ついつい饒舌になる。

 

「対して、教育に力を抜き子供達がまともな職に付かなかった場合は、失業手当、生活保護など、かえって金がかかる。その割合は数字で言うと…」

 

 フェイトがいやしめるような眼になっているのに、ようやっと気が付いた。振っていた論説を止めて、フェイトの言葉を待つ。フェイトは何やら気に入らない様子である、表情を変えないまま。

 

「それだけ聞いていると、教育が凄く営利主義に聞こえます」

「政治的な判断と言ってもらいたいな。それに公立学校は公費での運営だぞ。情けは人のためならず。めぐりめぐって公の利益にならなければ、承認など下りない。」

「そうなのかもしれませんが…、あの子はあまり良くない環境にいましたし…」

「…だから、学業という形でチャンスを与えられているだろう。もう、我々があの子にしてやれることなどない」

「…でも、やっぱり、少しでも関わりを持ってしまった以上、気になります」

 

 フェイトはまだ納得できないでいるようだ。過去の経験がそうさせるのか、それとも生まれついての性格なのか、関わりを持った子供に対しては持てる愛情を全て注がないと気が済まないのだろう。

 だが、ヴィルヘルムに1つの懸念が生まれた。

 フェイトが、優しいのも身近な人間に愛情を持つのは、個人的には長所だと思うし、評価もしている。だが、公人、あるいは指揮官として、フェイトを見た場合、少し意見が違ってくる。

 優しさは、それが長所とされる場所と時間にあってのみ、評価される精神特性だ。指揮官という立場は部下に恨まれようが、民間人に薄情だと誹られ用が、冷徹にならなければならない。

 我ながら陳腐な考えだとは思うが、使い古されている表現と言うのは、それだけ正鵠を射ているのだろう。

 

(いい機会だ。少し話をしてみるか)

 

 来季からフェイトは佐官相当の権限を持ち始める。彼女の進路によっては彼女の優しさは長所として評価出来ない。

 考え込んでいるフェイトに対して、ヴィルヘルムは質問をしてみた。

 

「テスタロッサ執務官、君は来季から次元航行部隊に戻るのだったな?」

「え?は、はい。そうですが…」

 

 突然進路の事を聞かれて、訳が分からなかったのだろうフェイトは戸惑いながら返事をした。

 

「そのあとの展望はあるのか?それともこのまま単独で仕事をしていくのか?」

「ええっと、そうですね。最終的には兄のように次元航行船の艦長を目指したいと考えています」

「やはり、そうか…」

 

 義兄、クロノの事を尊敬しているのだろう、フェイトは嬉しそうな照れ笑いをしながら言った。

 ヴィルヘルムにも、フェイトがクロノを尊敬しているのは分かったし、次元航行船の艦長を目指すのも自然の流れのように思えた。だが、その進路だとフェイトの優しすぎる性格は短所と評価しなくてはならない。

 ヴィルヘルムはため息を吐いてから言った。

 

「正直、その進路は君には薦めたくないな…」

「え、どうしてですか…。確かに私はクロノに比べて、経験も能力もないと思いますが…」

「能力の問題じゃない。むしろ君の能力は平均的な次元航行船の艦長よりも優れている。断言してもいい」

「では、なぜ…」

 

 夢を否定されフェイトはショックを受けたようだ。声が震えている。

 

「決まっているだろう。性格だ。いや、覚悟と言ってもいいかもな」

「責任に身を置く覚悟なら、有ります」

「ふむ。では、聞こう。君が艦長になり、次元間航行中に動力部で火災が発生。艦がコントロール不能になり、虚数空間に引き込まれそうになった。君はその強力な魔力を使い、艦を支えたが、それに掛かりきりになり手が離せない。だが、火の勢いは止まらない。誰かが動力部に入り火災を止めなければ、艦は爆散するだろう。しかし、入ったものは確実に命を落とす」

「なッ…!」

 

 ヴィルヘルムが提示したあまりに絶望的な状況に、フェイトが絶句する。ヴィルヘルムは止めを刺すように続けた。

 

「火災を止めることの出来そうな魔導士は2人だけ、1人はエリオ・モンディアル。もう一人はキャロ・ル・ルシエ。火が消火不能になるまで、あと30秒。さあ、艦長。どちらかを選べ」

「なんですかそれは…」

 

 フェイトが青い顔をして聞き返してきたが、そのころにはヴィルヘルムはフェイトの顔を見てはいなかった。取り出した、懐中時計型デバイスの秒針を見つめ。フェイトの方に振り返りもしないで、ボソリと言う。

 

「10秒たったぞ」

 

 秒針は着実に進む。ヴィルヘルムの耳にフェイトの喘ぐ息づかいが聞こえてきた。

 

「20秒…」

 

 答えることが出来ずにいるフェイトを無視する形で、残り10秒を黙って測った。が、フェイトは答えることはなかった。

 

「30秒たった。君の艦は爆散。乗組員は全員死亡だ。テスタロッサ執務官、何故、どちらか選ばなかったんだ?」

 

 ヴィルヘルムがフェイトに振り返り聞くと、彼女は血の気の失せた顔で、首を左右に振りながら答えた。

 

「こんなの…答えなんて…」

「そうだ、ない。だが、艦長という立場は残酷な決断を迫る。君にはその立場は辛いだろう、それよりも何か特定の案件を専門に扱う少数チームを作ってみたらどうだ?それなら、君の魔法の腕前だけで十分に守ることが出来る。参考になるような人物を何人か知っている。紹介もできるぞ」

「…」

 

 フェイトは答えることが出来ないようだ。

 突然すぎたかもしれないとも思ったが、他に話す機会もなかったのだから仕方がなかった。

 今のままのフェイトが艦長の船には、ヴィルヘルムは乗りたくない。死ぬ必要がないときに、死んでしまう可能性があると不信を抱いてしまうだろうし、その時はきっとフェイトのことを許せないだろう。

 

「まだ、機動六課準備室だったころ、八神課長にも私は同じ質問をしたことがある。…彼女は答えたぞ」

「え!」

「誰をとは言わないがね。彼女は答えた後、稼業時間が終わるまで何事もなかったかのように勤務した」

 

 はやてが答えたときはヴィルヘルムも驚いた。当時ははやてのことを計りかねていたこともあり、初対面の印象とは違って夜天の騎士達の関係も、主とその騎士の関係を出ていないのかとも思った。

 

「だが、稼業時間が終わった途端、私に殴りかかってき来て、こう言った。「さっきのはヒドイ」だそうだ。その後、泣きながら怒ってきてね。宥めるのが大変だった」

 

 彼女にとって騎士達は家族同然の存在だ。誰かを切り捨てるなど考えるのも辛かったはずだ。それでもはやては決断した。そして、ヴィルヘルムが部下である内は、毅然とした態度をとって見せた。内心は泣き出したかったにもかかわらず…

 

「いい女だと思ったよ。少なくとも指揮官として担ぐのには申し分ない」

 

 ヴィルヘルムは、あの時に本当の意味で部下になったと思っている。はやてのためならいくらでも汚れ役を買って出るし、たとえ、彼女のミスで死んだとしても後悔をしない自信がある。そういったことも含めてフェイトには、艦長という立場は荷が重いように思える。

 

「まあ、結局は君の意思次第だ。さっきの話は進路の1つとして、興味が沸いたらいつでも言ってくれ」

 

 フェイトはうなだれて答えなかったが、いろいろ考えているようだった。

 

 

 

「それはひどいな、自分!」

 

 話を聞き終えると、はやては額に手をあて、やれやれとため息を吐いた。言われたヴィルヘルムは不満そうに顔をしかめ弁明をした。

 

「今、話しておかなければならないと思ったんだ。それに、間違ったことを言った覚えもないぞ」

 

 少しは味方してくれてもいいではないか。そう思って言い返す。

 

「ちゃう、ちゃう。その話は私がフェイトちゃんと話そうとしていたことやねん!人の出番とらんといてや!」

 

 はやては自分の意図をうまく受け取ってくれない、ヴィルヘルムに不満を持ち、すねたように口を尖らせた。

 はやてもフェイトと話し合うつもりでいたらしい。ヴィルヘルムに先を越されて親友を取られた気分になっているのかもしれない。

 

「ああ、そういうことか。ま、今回もフォロー役に回ってくれ、その方が効率的だ」

「むう、しゃあない。次からは先に言っておいてや。フォローといったって難しいんやで」

 

 そう言うとはやては、今からフェイトと話し合ってくる。と、席を立つ。ヴィルヘルムはそんなはやての様子を見て引き留めた。

 

「待て、はやて。その手は何だ!」

「ん、フォローにスキンシップは必要やろ」

 

 はやては手をワキワキと握り開きして、締まりのない表情をしている。まるで権力を盾にセクハラをしている中年オヤジのような様子だ。

 おそらく、部下に厳しいことを言って暗くなったヴィルヘルムの気分を軽くしようと、ワザとやっているのだろう…。と、思いたい。

 

「はやて、気遣いは、ありがたいが…もう少しマシな方法なかったのか?」

「へ?なんのことや?私は口実作ってセクハラを楽しもうとしているだけやけど?」

 

 ヴィルヘルムの手刀が唸った。

 

「いった~、毎度、毎度、なにすんねん!」

「どうやら、話し合うべきは君の方だったようだな…。薪を背負うか、泥船に乗るか好きな方を選べ」

「カチカチ山!そんなん、どこで覚えたねん」

「ヴィヴィオからだ。で、どっちにするんだ?」

 

 にじり寄ってくるヴィルヘルムの目が据わっているのに気がついた。はやては少しあわてた調子で言った。

 

「あ、ちょう、ビル!目がマジすぎる!助けて、聖王様!あなたの子羊が、命のピンチ!」

「誰が子羊(ラム)だ…。どちらかというと君は人を狂わせるラム(酒)だろう」

「あ、うまい。座布団一枚」

 

 ケラケラと笑い出したはやてに毒気を抜かれ、肩をすくめて降参する。

 

「ん、なんや、もういいかい」

「ああ、もう、十分酔わせてもらっているよ」

 




事件が終わりを告げる時
そして機動六課がその役目を終える時
離れ離れになっても消えない物、忘れない物
次回、魔法少女リリカルなのはStrikerS、『約束の空へ+(後編)』
テイク、オフ

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