新暦0076年4月28日 機動六課隊舎
「長いようで、短かった、一年間。本日をもって機動六課は任務を終えて解散となります。みんなと一緒に働けて、戦えて、心強くうれしかったです。次の部隊でも、みんなどうか元気に頑張って。」
拍手、拍手、拍手、はやてが部隊員に送ったシンプルな挨拶に、万雷の拍手が送られ機動六課の幕は閉じた。
部隊員達のある者は元の原隊へと復帰し、ある者は自身の夢を追い上級部隊へと駆け上がっていくものもいる。しかし、JS事件が与えたのは功績と栄光だけではない。戦いがあった以上、必ず傷つくものが出てくる。
「続けて、ゼルビス・ホンダ准陸尉の見送りの隊形に移れ」
グリフィスは解散式の予定に従い、今季を持って退官する、ゼルビス・ホンダ、交替部隊でのコールサインでは、グランド1を見送る隊形を六課全員に取らせた。隊舎ホールに間を開け二列に並んだ部隊員の先端にはやてとヴィルヘルムが立ち、そこから数歩離れた間にグランド1、ゼルビスが立った。
ヴィルヘルムは暗記しておいたゼルビスの経歴を、全隊員に聞こえるように大声で並べる。言い終えると、はやてがゼルビスに記念品を贈呈した。
「ホンダ准尉。お疲れ様でした」
「ええ、八神2佐。欲を言えばもう少しグランド1と言われていたかったですが…」
「…」
ゼルビスが思わず漏らした一言に、はやては沈黙で返した。
ゼルビスはまだ定年前だ。しかし、六課襲撃の際に受けた傷が元で魔力値が大きく減ってしまっていた。年齢も40代と若くない。ゼルビスの本人の希望は報酬のいい武装隊員として留まる事を希望していたが、はやては武装隊員としての任務には耐えきれないだろうと判断を下した。
それをゼルビスに伝えたのもはやてだ。おそらく、部隊長になって一番隊長を変わってほしいと思った瞬間だろう。部隊長室に戻ってきたはやては暫く口を開かなかったが、部隊長としての仕事は無事やり遂げた。
「冗談です。忘れてください」
「きつい冗談やな…」
ゼルビスの言葉にはやては弱々しく笑って言い返した。ゼルビスはヴィルヘルムに振り返り握手を求めた。
「副長、再就職の世話ありがとうございます」
「いや、退官隊員の再就職援助は私の任務だ。気にするな」
管理局には退官隊員に対しての就職援護制度というものがある。管理局が退職隊員に対する無料職業紹介を、職業安定機関や企業等と密接な連携をとりながら行っている。そのなかでゼルビスには、経験を生かし警備会社の教官として、働かないかという誘いがあった。武装隊から転属になり報酬が減るのならば、いっそ危険を伴う管理局を早期退職することを妻に勧められ、ゼルビスは管理局を去ることになった。
とはいえ、彼は20年以上管理局の武装隊員として勤めてきた。武装隊から外された時には気落ちもしただろうし、武装隊には愛着もあったはずだ、ヴィルヘルムは彼の正式な退官式と退官パーティーは原隊で執り行うよう手配していた。
「いろいろ、ありがとうございました!」
「おやっさん、お疲れっした!」
「お疲れ様です、准尉」
隊員達が左右に分かれて立つことで出来た花道を通り、ゼルビスは出口に向かう。隊員達は思い思いに声をかけたり、敬礼をしてゼルビスを見送った。
ゼルビスが隊舎を出て、隊員が解散していくとはやてはポツリと呟いた。
「あっさりしたもんやな…」
「そんなものだ。それに俺なら、後を引きずるような別れはしたくない」
「そうやな」
ヴィルヘルムが友人相手の口調で返すと、はやては頷いた。そして、気の抜けたような顔をする。
「それに、ゼルビスさんも2次会には参加やからな」
隊舎を出て行ったはずのゼルビスが、ひょいっと戻ってきて部隊員と笑いあっている。出て行ったのは儀式の形式でしかなく、ゼルビスを含め大半の者は2次会に参加し明日の移動となっている。
「内情を知ってしまうと格好がつかないのは確かだが、形式美というものもあるさ。」
そう言うヴィルヘルムも皮肉交じり苦笑をした。そうすると今度ははやてが悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「それも確かにいい別れ方かもしれへんけど、思いっきり派手な別れ方ってのも、ええと思わへん?」
「分かっている…。既に調整は完了、シミュレーターは何時でも使用可能だ」
この後、お別れ2次会が企画されていたが、その前にスターズとライトニングはなのはのたっての願いで、最後の模擬戦を行うことになっていた。企画書を受け取り各方面に調整を行ったのはヴィルヘルムだ。
「おお、流石はビル。仕事が早くて助かるわぁ。けど、最後の最後やからな…、なのはちゃん達張り切り過ぎて、壊してしまうかもしれへんで」
はやては途中から憂鬱そうに言ってきた。六課の施設が壊れたなら、はやてはもちろん大目玉を食らうし、調整を行ったヴィルヘルムにもそのしわ寄せが降りかかることになる。が…
「一向に構わないな。つい今しがた六課は解散した。あのシミュレーターは既に教導隊の施設だ…」
「ほほう、と、言うことは」
「高額な施設を壊した。と、上に嫌味を言われるのは、高町嬢だけだ」
「ビル、なかなか、やるやないか」
「君ほどではないさ」
クククッと2人そろって暗い笑いを浮かべていると、模擬戦に参加するフェイトが声をかけてきた。二人の表情に驚いたのか少し腰が引けている。
「ね、ねぇ、はやて、どうしたの?そんな顔をして?」
「ん、何でもあらへんよ。ちょっと、ビルと景気のええ話をしていただけや」
「そ、そう?はやてもこの後、訓練場に集合だよね?」
「うん、せや。じゃあ、ビル、またあとで」
フェイトははやてを迎えに来たようだ。ヴィルヘルムもそろそろ、2次会場の様子を見に行かなければならない。
「ああ、二次会場で」
ヴィルヘルムははやてに返事をすると、フェイトに向かって忠告をしておく。
「では、ほどほどにな」
「は、はい?」
フェイトは納得していない顔で返事をした。
まさかと思うが、聞いていないのか?そう思い問いただそうとしたが、グリフィスに呼ばれた。
「副長、二次会用の飲み物が届いたそうです」
「ああ、分かった。すぐ行く」
まあ、いいか。どうせ訓練場に行ったら分かることだ。
その後、訓練場から響く爆音や炸裂音をBGMにヴィルヘルムは室内運動場での2次会の準備を進めた。そして、模擬戦で疲れ果てた前戦メンバーが合流して、2次会が始まった。
乾杯の音頭を取ることになったヴィルヘルムが壇上に上がると、部隊員は緊張したようだった。説教でも聞かされると思ったのだろう。だが、こういった場で指揮官が目を光らせていては、部下達は楽しめない。
「では、簡単に。みんなお疲れ様でした。今日は無礼講だ!乾杯!」
予想外の簡単すぎる挨拶に、隊員達が呆気に取られている間に、ヴィルヘルムは手にしたジョッキ(大)に注がれた生ビールを一気に飲み干す。その数秒間に隊員達は我に返り始め、ジョッキを空にしたヴィルヘルムの次の言葉で、手にしたグラスを突き上げ歓声を上げた。
「どうした!酒が足りていないぞ!樽ごと持ってこい!」
普段、堅物と思われていたヴィルヘルムの羽目を外した発言で、隊員達の緊張も解れたようだった。歌を歌い出す者、ひたすら旺盛な食欲を満たそうとするもの、飲み比べをし始めるもの、酒の勢いに任せて女性隊員を口説こうとするもの銘々に楽しみ始めた。
ヴィルヘルムはある程度部下達に付き合い、隙を見てその輪の中から離れた。部下達の中には酔い潰れてしまうものも出てくるだろう。いくら無礼講と言っても誰かは介抱出来る状態にいなければならない。
涼むふりをしながら外に出る。春の夜風に体をなでられながら窓越しに部下達を観察する。子供達はアイナが面倒を見ているようだ。ヴィヴィオやキャロ達が楽しげに話しているのが見える。なのは達やヴォルケンリッターの女性陣を、度胸のある男達が口説こうとしているようだが、今のところ全員が玉砕に終わっているようだ。露骨に相手を睨みつけて追い払う者もいれば、右に左に受け流してしまう者もいる。中でも一番男の心に深刻なダメージを与えているのは、口説かれていることに気が付いていない魔女だろう。
あ、また一人肩を落として離れていく。こんなところで、撃墜数増やさなくてもいいだろうに。
他にも何を血迷ったのか、ヴィータを口説こうとして、文字通り鉄槌を喰らっている者までいる。
なにを考えているのだか…
「唯一の成功例は、あそこだけだな」
ヴィルヘルムはが違う一画に目を向けると、グリフィスとルキノが仲良く話している姿…を、意味深な笑みを浮かべてカメラに収めようとしているシャーリーの姿。
シャリオ、いいのか?それで…
「変わった楽しみ方してるんやな、ビル」
グラスを片手に部隊員の姿を眺めていたヴィルヘルムに、ここ2年で慣れ親しんだ声が話しかけてきた。
「…ッ、はやてか…」
はやての姿を見て、ヴィルヘルムは少し言葉に詰まってしまった。少し酒の入っているはやてはほんのりと頬を染め、潤んだ瞳で艶然と微笑んでいる。いつかのように飲みすぎなければ、はやてはヴィルヘルムから見ても非常に色っぽい酔い方をする。
はやては何を思ったのか腕を絡めてきた。
男よけのつもりだろう。
「何か言いたいことでもあるのか?」
「もちろん」
はやての目がスッと細くなる。まるで肉食目イヌ科の動物が狩りをするときのようだ。
「とうとう、最後の最後でも理由を説明しいへんかったな。ヴィルヘルム・チェスロック・ケーニッヒ 1等陸尉」
はやてはヴィルヘルムが明日から呼ばれる階級で呼んだ。
ヴィルヘルムは来季、つまり、明日に降格が決まっている。理由は六課襲撃の際、機動六課隊舎を壊滅させたこととなっている。
ヴィルヘルムは間を取るためにグラスの酒(ラム)を一口飲んだ。
「降格の理由は六課後見人の御三方から書類で届いているはずだろう」
「もちろん、見たに決まっているやろ。ついでに言うなら直談判もしたで!」
はやてはカリム達に壊滅の責任は少なからず自分にあると言って、自分の昇格を断る代わりにヴィルヘルムの降格を取り消すように訴えた。結果は三人とも、六課襲撃の際はやては不在だったと言って、取り合ってはくれなかった。
しかし、普通こういった場合、部隊長が不在だろうがなんだろうが責任を追及されるのが当たり前のはずだが、はやてにはJS事件を解決した功績を讃える声が掛けられている。信賞必罰としては不自然だ。
はやてはヴィルヘルムに一切の責任を押し付けたように感じて少しも嬉しくないし、きっとヴィルヘルムが何かしら手を回したのだろうと考えていた。
「ビル、前にいうたやろ。人の出番とらんといて」
「まるで俺が君の功績を取ったような言い方だな…」
「成功の功績も、失敗の責任も、両方私のモノや。黙って持っていくのはゆるさへん!」
そんなん盗人や。と、語気を荒くする。はやてからヴィルヘルムは距離を取ろうとしたが、腕を組まれているのでそれも出来ない。
なるほど、この為だったか…
「まあ、聞け。別に俺から君に責任を被せるなと上申したわけじゃない」
「じゃあ、どういうことや?」
「そうだな。はやて、君はJS事件での勝利者は一体誰だと思っている?」
「そうやな、ラルゴ元帥やろな…」
はやては少し考えてから答えた。JS事件以降、全ての管理局システムのトップだった最高評議会の3人が死亡し、ラルゴ元帥の発言力はますます上がっている。しかもゆりかご戦で主力艦隊を指揮したと言う功績もある。元帥以上のポストとなると最高評議会しかない。最高評議会に代わる、管理局のトップが作られるとしたら大本命だろう。
「では、敗者は?」
「最高評議会と六課や…」
はやては即答し、自嘲気味に笑った。JS事件を解決に導いたとはやし立てられている六課だが、はやてはそれほど自分を評価していない。元々機動六課はカリムの「プロフェーティン・シュリフテン」による詩文に予言された、『いずれ起こりうるであろう陸士部隊の全滅と管理局システムの崩壊』を防ぐために設立されたものだ。しかし、JS事件の結果はどうだろう? 地上本部は崩壊し、最高評議会をトップとした管理局システムは、改革と言う名で大きく姿を変えていくことになるだろう。これは預言の通りになった。と言えるのではないか? はやてはそう考えているようだ。
「ま、そういうことだ。現在、管理局は、最高評議会の後釜に座ろうとする野心家たちが鎬を削り合っている状態で、混乱している。しかし、その混乱を表に出さない為には…」
「大衆を欺くための広告塔が必要。JS事件を解決に導いた『奇跡の部隊』、ゆりかご戦の『エース』達なんてのは、かっこうのプロパガンダやろな」
絡められた腕に力がこもるのが伝わってくる。悔しいのだろう。彼女は結局、自分の責任を全うできる立場ですらなかったのだ。
「その通り。だが、内向きには六課隊舎壊滅の責任を取らせないわけにはいかない。しかし、折角掲げた看板に泥を塗るわけにもいかない。そこで俺に白羽の矢が立ったというわけだ」
「そやかて、ビルはあの状況で最善の選択をしただけやん」
はやては納得がいかないらしい。少々、気負い過ぎているような気もするが、はやての魅力とも取れるだろう。
ま、こういう女だから助けてやろうと、人が集まるのだろう。
「そう、気を病むな。はやて」
「そやかて…」
「なに、俺は1年後、ほとぼりが冷めたころ1階級特進が決まっている。給与号俸だけなら、君より基本給は上がるくらいだ」
「それ、言わなかったらメッチャ格好良かったで!」
あっけらかんと言うヴィルヘルムに、半眼になって思わず突っ込みを入れる、はやて。組んでいた腕を放り投げるように離れ、ビシッと指を突き付けてきた。
「結局、ビルの政治手腕が唸っとるやないか!」
「は、は、は、生憎私は潔い英雄になんてものになる気はないのでね。いけずな手管を思い付くのさ」
確かにヴィルヘルムは六課後見人達に一時的な身代わりを頼まれてはいたが、しっかりと自分自身の身分の保障も取り付けていた。この強かさがなければ商売人や指揮官なんてモノは務まらない。
「しかも勤め先は、決済監査部門だ。最高評議会はなくなったが、最高評議会が残した秘密資金やロストロギア、物資輸送のルート等、その全てが解明されてはいない。その解明の一部門に参加することになるだろう。ふふふ、楽しくなりそうだ」
ゆりかご戦の際、ゼストからもたらされたデータはJS事件解決のため大いに役に立ってくれたが、ゼストは武人。資金繰り、物資の輸送ルート、協力者の有無、そう言った裏方に関わっていた者たちの全ては把握できていなかった。後進国など、国ごと買えるだけの額の金の動きが不明のままだ。
「国家予算クラスの金の動きに関われる、商人としては最高の栄誉だな」
ヴィルヘルムが得意げに笑うと、はやては羨ましそうに見つめた。
(ビルは進む道をハッキリと持っている。ビルに比べて自分はどうやろ。部隊長としての失態に力不足を痛感したものの、部隊指揮の夢は捨てられへん。ナカジマ3佐に相談を持ちかけてようやくフリーの捜査官に戻ることを決めるのが精いっぱいや)
はやては弱音を口にするつもりはないようだが、この年上の部下には六課での指揮や今度の進路をどう思われていたのか不安だったようだ。気にする様子で疑問を口にしてきた。
「ビル、私はどんな指揮官やった?」
「未熟の一言じゃないか?」
バッサリ言ってやると、はやてはガックリと項垂れる。
「やっぱそう思うか~。具体的には?」
「そうだな…」
ヴィルヘルムは遠慮せずに言わせてもらうことにした。スターズ、ライトニングの編成から、補給・輸送ラインの不備、政治的交渉、プライベートに至るまで、こき下ろした。はやては黙って聞いていたが、途中から頭を垂れ震えだしたが、ヴィルヘルムは一向に気にせず、最後に余計なひと言まで付けくわえた。
「ああ、あと欲を言えばもう少し胸が大きい方が見栄えがするんじゃないか。ただでさえ、君達の人種は子供っぽく見えるのだから」
辛抱たまらなくなったはやては、勢いよく顔を上げると怒声を上げながら、鋭いパンチを繰り出してきた。頭を垂れ震えていたのは、泣いていたわけじゃない。怒りを堪えていたのだ。
「ええ加減にしぃ!」
パンチを水月に貰ったヴィルヘルムの体がくの字に曲がる。
「ぐふぅ…、いいパンチだ。後方攻性支援にしておくのなんて、もったいない」
「やかましい!黙って聞いてれば、あることないこと!普通、女がへこんでいるんやから、甘~い言葉を掛けて慰める所やろ!」
くわっと怒り心頭の様子で言ってくる。気にしていた様子など吹き飛び、活力が漲っている。ヴィルヘルムはみぞうちを撫でながら言い返した。
「嘘付け、慰めてほしかったのか?」
「…ちゃう」
はやては口を尖らせそっぽを向いた。ヴィルヘルムには、はやてが最後の最後にあんなことを言ってきたのかおおよそ察しが付いていた。
「だろうな。おおかた叱ってほしいのに、よってたかって慰めてくれる人ばかりで調子が取れなくなっていたのだろう」
「ははは…」
はやては苦笑いして見せた。ヴィルヘルムの言葉通り、はやては慰めてほしかったわけではない。
六課の後見人やロッサ達は、はやてがこれからはJS事件での失態を取り返していかなければならないと言うと、優しく慰めてくれた。しかし、自分自身が納得いっていないときに、優しい言葉はなかなかうまく受け取れないものだ。ありがたいことだと頭は理解していても、その優しさが煩わしく感じてしまうことがある。そういった時は、かえって厳しい叱咤の方が心に活力を与えてくれる。
「まったく、甘い言葉には飽きた。とは、贅沢な奴だ」
「甘いモノばっかりは、体と心に毒や。時にはピリリと辛口意見も欲しくなる」
「俺は香辛料か」
「もちろんや、甘い言葉なんて、ビルの口から出せへんやろ?」
挑発的な含み笑いをするはやてに、ヴィルヘルムは率直な意見を言ってやる。
「ひどいな。俺は君の事をいい上司だったと思っているのに」
「へ」
突然のヴィルヘルムの賛辞にはやては戸惑ったようだった。普段はやてを諌めるのを仕事とし、プライベートでは軽口を叩きあう相手の褒めの言葉を、素直に受け取っていいのか測りかねているようだ。
(まるで好物を前にした野生のタヌキだな)
頭のいいタヌキは好物の周りに罠があるのではないかと、警戒しながら恐る恐る近寄り疑わしげな顔で質問をする。
「そう思うん?」
「ああ、思うね。信じろよ」
「そ、ちなみにどのへんがいいと思ってるん」
「…」
上手い言葉が見当たらず沈黙すると、はやては一気に不機嫌になり、眉を吊り上げてこちらの襟首を掴んできた。もっとも身長差のせいではたから見ていると、はやてがこちらにぶら下がっているように見えただろう。
「近寄ってきて、突き離すとはなかなか心得てるやんか(怒)」
「落ち付け、話を聞け…」
「む、まあ、いいやろ。聞いたる」
はやては手を離すと、手を腰に当て、憮然としてヴィルヘルムを睨んだ。
「君にとっての理想の上司は、どんな人物の事だ?」
「んん、そうやな。冷静沈着で、判断力があって、魔法の腕前もあって、部下に平等に接することが出来て、企画・調整・統制が完璧で…」
「言ってて分かっていると思うが、そんな全知全能の人間、神話にだって出てこないからな」
半ばあきれながら指摘すると、はやては拗ねたように反論する。
「ええやないか、理想なんやから」
「君はそれになりたいのか?」
「ま、目標っちゅうことで」
「それは神になるってことだな。難しいと思うぞ」
「まあ、この1年で思い知ったわ」
苦笑しながら頬をかくはやてに言ってやる。
「それにそんな奴だったら、俺の助けなど必要ないだろう。1人で何とかしてくれ。と、言いたくなるしな。俺にとっての理想の上司はね。また、この人と仕事がしたい。そう思わせてくれる人の事だ。給料や待遇なんて低くてかまわない、その上司の能力や采配が完璧でなくても、この人を助けてやろう。俺はそう思える人の下で働きたいね。少なくとも今日までの上司はその条件を満たしていると思うぞ」
「…明日から、違う部署の配属のくせに」
「その理想の上司が部隊をやりたくないと言っているらしくてね」
はやては明日からはフリーの捜査官に戻ることが決定している。恐らく地上を中心に密輸物・違法魔導師関連の捜査指揮を担当することになる。あと数年間は小規模指揮や立ち上げ協力で、部隊指揮の勉強し直すつもりだろう。彼女が自分の部隊を持つのは数年先の話になる。
「…へぇ、そら、残念やったな」
「まったくだ。なんてわがままな上司だ」
「ははは」
はやては明後日の方向を向いてこちらの視線から逃れると、白々しく言った。
「2年、2年ぐらいしたらその上官も、また部隊を持ちたいと考えるはずや。そしたらまた、補給や管理関係をまた押し付けられるんやないか?」
「それは忙しくなりそうだな。彼女の階級に相応しいポストとなると、どこかの1部門を預かるはずだ。それまでに私も一仕事終える必要があるな」
「うん、明日から頑張らんと」
「となると今日は最後の晩餐だな。今日は指揮官であることを忘れて、楽しむことにしよう」
「そうやな、さ、飲み直すで~」
二人は連れ立って戻ると、日付が変わるまで2次会を楽しんだ。
翌日、はやてが目を覚ますと目の前でリィンが寝息を立てていた。ゆっくりと身を起こすと二日酔いの鈍い頭痛が襲ってきた。時計を見ると既に8時を過ぎている。自分の移動予定は午後からだからいいとして、ヴィルヘルムの移動は早朝の筈だったから完全に見送りに行きそこなったことになる。
「ありゃ、まずい」
待機モードのデバイスからメールを出す。
「見送りに行けなくてゴメン。二日酔いになってへんか?っと、こんなもんでええやろ」
ヴィルヘルムは移動中の筈だ、すぐに返事が返ってくるとは限らない。返事を待つ間にシャワーを浴びる。返事は髪を乾かしている間に来た。
「…はやてちゃ~ん。メールが届いてますぅ」
メールの着信音で起こされたリィンがシュベルトクロイツを持ってふらふらと飛んできた。リィンははやてにデバイスを渡すとそのまま膝の上で寝てしまった。リィンも昨日ははしゃいでいたので疲れているのだろう。
メールの内容は、文字だけの簡素な文体で、「どんなに頭を抱えることになっても、また手を出したくなるのがラム(酒)の魔力だ」と書かれていた。
返事を見たはやては小さく笑うと力瘤を作って気合をいれた。
「2年か…、よしゃ!今日もいってみよか!」
ふんふふんふ~ん♪いたいた、はやてちゃんと副長を発見!
行くわよ、リインちゃん、気づかれないように、後を追わなきゃ!
次回、魔法少女リリカルなのはViVid、『From ○○ To △△』
リリカルマジカル、頑張ります
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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何卒よろしくお願い申し上げます。