「ほほう!なのはちゃんのお兄さん達みたいに動けて、サイバー戦の達人と…。確かに、初見やとびっくりするやろなー」
声を潜めながらも、はやては感嘆の声を上げた。
なのは達が午前中のトレーニングと模擬戦を終え、食事と休息を取るため宿泊ロッジに戻ると、川遊びに出かけていたヴィヴィオ、コロナ、ルーテシアと引率していたフェイトが、遅れて到着したはやて達、ヴォルケンリッターと食事の準備をしていた。
そのまま全員で食事となったのだが、すこぶる機嫌の悪いティアナ。内臓にダメージが入って食が進まなくなってしまったエリオ。左頬に湿布を貼って気まずそうにしているエイブラハムと、揃った面子の割には、普段より会話の進まない食事になってしまった。
これは午前中の模擬戦で何かあったのだろうと、はやてはなのはに尋ねたのだが、なのはの答えもいまいち歯切れが悪く。エイブラハムがサイバー戦と体術を駆使して、フロントメンバーに勝ったという答えしか返ってこなかった。映像を見せてくれと言っても、模擬戦の戦闘ログは全て消去して、記録に残していないそうだ。
教導隊であるなのはが、そんなことをするのはおかしい。カンではあったが、はやては面白そうな話の匂いを嗅ぎ付けた。
当然、
「で、なのはちゃん。なんで、ティアナはあんな不機嫌なん?」
「…え、えっと…」
タヌキフェイスになったはやてが、取り調べを開始した。
「あ、あの、はやて…、そんなに追及しなくても」
なのはの困り顔に、フェイトははやてを止めようとしたが、全く聞き入れる様子がない。
追及を逃れようと思わず身を引いたなのはを、はやては逃がさないように抱きつき。ついでに胸を揉みながら迫る。
「…あっん、あの!は、はやてちゃん!」
「答えんって言うなら、最近、ビルのヤツがうるさぁて出来ない、スキンシップに付き合ってもらうで」
セクハラおやじよりもゲスな目をしている友人に、さしものエース・オブ・エースも観念した。
「ティアナとキャロを、ひん剥いたやて…!!なにその羨ま、けしからん能力!!」
「いや、アビー君も意図的にやったわけじゃ…」
「これは…、もう、友達になるしかあらへん!」
ティアナの不機嫌の真相を聞いたはやての第一声がこれである。
なのはとフェイトは心の中で、明日到着予定のはやての部下に当たる男に助けを求めたが、残念ながら二人の通信魔法はそこまで性能が良くないので、願いがその男に届くのはもう少し後になる。
はやてが周りを見渡し、元部下たちをひん剥いた男を探す。
エイブラハムはテラスの端でヴィヴィオとコロナに、何かの魔法を教えているようだった。空間モニターにプログラムソースとフローチャートを表示しながら、プログラマブル・ルーンライターを操作している。
作業が終わったのか、ルーンライターの脇からカード型簡易デバイスが、パチンと音を立てて頭を出した。
「さて、こんなものだろう」
エイブラハムが言いながらカードを引き抜き、テラス前の広場に投げる。
カードが地面に落ちると、召喚魔法に似た魔法陣が展開し、盛り上がった土がカードを中心として人間大の塊となり、起伏をくり返しながら、硬質的な人型ロボットの形になった。ゴーレム創成、魔力を込めた物質により、自分でゴーレム(動く泥人形)を創生して操る魔法である。
ゴーレムは日本で育ったことのある人であれば、一度ぐらいは見たことのあるサブカルチャーのロボットと同じ姿をしていた。
「それ…!!グレートガイアだ!!」
それを見た瞬間、すこし離れた席にいたヴィータが声を上げた。エイブラハム達のもとへ駆け寄ってきたヴィータの目はキラキラと輝いている。見た目年齢と相まって今のヴィヴィオ達と同じくらいの子供のように見える。
「なあ、あれ、グレートガイアだろ!!」
「ああ、正確には…、」
「正確には、超電導加工実験機のM型や、Gアルファ、Gテリオスには分離せぇへん」
エイブラハムがヴィータに返答しかけたのを遮って、はやてが話に混ざる。
はやてを一瞥してから、エイブラハムが言った。
「ほお、いける口だな、八神2佐」
「アビー君、やったっけ?はやてで、ええで。なかなか、渋いチョイスするやん!」
初対面で深い沼の底にいる者同志のような、謎のシンパシーを感じている二人だったが、続くコロナの声で沼から浮かんできた。
「ねぇ、ヴィヴィオ、グレートガイアってなに?」
「ええっと、ママの出身世界のアニメで…」
「ああ、すまん、ゴーレムのモチーフは、この際どうでもいい…」
エイブラハムが軽く咳払いをしてから、ヴィヴィオとコロナに講義を続ける。
「俺はゴーレムの真価は、人型を取っていても人ではない所だと思っている」
「「???」」
「…要するに、ギミックを付けることが、出来るってことさ」
首を捻るヴィヴィオとコロナに向かって言いながら、エイブラハムは自身の創成したゴーレムに命じた。
「ガイア。目標、正面20m。グレートドリル!!」
「なんやて!」
「おお!」
エイブラハムの命令に、はやてとヴィータが驚嘆の声と歓声をあげる。
ゴーレムは命令をうけて、手首の先を螺旋の溝が切られたドリルに変化させ、そのまま高速回転させる。
さらに、
「ファイア!!!」
エイブラハムの掛け声でゴーレムの腕がひじから切り離され、炎を吹き出しながら発射された。
発射された腕は20mほど先で、地面に当たり簡単に砕けた。そのまま煙幕となって消える。非殺傷設定を利用したエフェクト演出だ。
「なかなかの再現率!ええ仕事しとるな、アビー君」
「ブラヴォー!!」
「…ええっと…」
「ふんふん、なるほど…、いわゆる、ロケット・パンチか…」
キャッ、キャッとはしゃぐはやてとヴィータの反応に、若干引き気味のヴィヴィオに対して、コロナは何かを思いついたようで、うん、うんと頷いている。エイブラハムは、ゴーレムの創成が得意だというコロナが、何かを掴んだかのようなリアクションをしたことで満足したようだ。一度だけ満足げに頷き、
「もう一つ、ゴーレムに込められた魔力を一気に開放することで、こういうこともできる」
言いながら、エイブラハムははやてとヴィータに目配せをした。何だ、何だと、キョトンとする二人に構わずエイブラハムは続ける。
「銀河の悪を、叩いて砕く!」
その一言で、はやてとヴィータははっと気が付き、続けた、
「「…くらって砕けろぉぉ…ファアアアイナルぅ、クラーーーッシュ!!」」
二人の声に合わせるかのように、ゴーレムの胸部がVの字に展開したかと思うと、ゴーレムの胸部から閃光が発射され、地面に当たると今度はドクロ型のきのこ雲を巻き起こす。
「見よ!!鋼の拳は、叫んで、咆えている!!」
「うう…。カナコちゃん、天国で幸せにね…。見事や、アビー君…、いや、おっしよーと呼ばせてもらっても?」
「む、まあ、いいだろう。入門を許可する」
「…」
はやてにヴィータ、エイブラハムのノリに、ついていけなくなったヴィヴィオが無言で困惑している。
と、ゴーレムが力を失って崩れ落ち、土くれに返ってゆく…。
「ああ、崩れちまった!!」
「仕方ないんや、対消滅エンジンのエネルギーを使い果してしもたんや…」
サブカルチャーファン同士のような会話を続ける二人を置いて、コロナがゴーレムを評価する。
「うーん、稼働時間を縮めるような攻撃はちょっと…」
「ん、その辺の魔力の割り振りは、要工夫と言ったところだ」
「なるほど、あ…、うん、そうだ」
コロナの言葉を否定せず、エイブラハムが頷くと、コロナは何かを思いついたようだ。納得したように頷く。
「あ、なになに?どんな仕掛けを思いついたの!?」
「ん~、ふふ、まだ、ひ・み・つ!」
楽しそうに会話をするヴィヴィオとコロナを見て、気を良くしたエイブラハムは何の気なしに聞いた。
「学者型のヴィヴィオと、創成が得意なコロナか…、文系コンビって所かな?」
「そういうのも好きだけど、体を動かすのも好きだよ。最近は、ノーヴェにストライクアーツを習ってるんだ」
「え、ノーヴェって、ナカジマ3佐が引き取っていう娘か?…でも、エクササイズ…、だよな」
「わたしは、そうですけど、ヴィヴィオは結構本格的ですよ」
「へ、へー」
だんだん、歯切れが悪くなってい行くエイブラハムの態度に、ヴィヴィオは不安になり、エイブラハムの袖を引いて耳打ちをする。
「あの、アナタさんは、わたしがストライクアーツを習うの反対ですか?」
「いや、良いんだ。聞いていなかったから、ちょっと驚いただけだよ。体は動かせるに越したことはない。雫に負けないように、頑張れ!」
「うん!」
エイブラハムが微笑みながら返すと、ヴィヴィオは安心したようだ。なのはの兄の娘、ヴィヴィオにとっては従妹に当たる雫の名前も聞いて、笑顔を取り戻す。
「ほら、二人ともこのルーンライターは貸してあげるから、行動コマンドを試してみな…。俺はすこしヴィヴィオのママに話がある」
そう言ってエイブラハムは、子供たちから離れると、なのはに向かって手招きをした。