管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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40遠い昨日、新暦76年夏休み前のお話

新暦76年7月11日 AM1030

 

「い、いたい、いたいです、シャマル先生」

 航空戦技教導隊第5班がある第01次元航行部隊隷下 クラナガン・ウェストランド港湾地区局に設けられた、医務室のベッドに横になったなのはは小さく悲鳴を上げた。

 JS事件後、管理局体制の見直しと改革を急ぐ管理局であったが、同時に主戦力になるはずだった従来型のデバイスしかもたない魔導師部隊がAMFに対していかに脆弱であるか露呈してしまったため、その対策にも乗り出さなければならなかった。

 その応急処置として、教導隊には各部隊から対AMF戦闘の訓練依頼が殺到。「戦術の切り札」と呼ばれる戦技教導官のなのはも休めぬ日々を送っていたが…。

 夏期休暇目前にして、大魔力運用をすると全身に痛みが走るといった症状が出始めた。特に利き手の左腕の痛みがひどく、ブレイカー級の魔力はとても運用できそうにない。

 なのはにとってこの痛みは経験のある痛みで、昨年起こったJS事件の際に無茶な魔力運用を行った時の痛みと同種のものだった。そこで、なのははJS事件の際部隊医官だったシャマルに来てもらい、検査をお願いした。

「ふぅ、やっぱり、痛みが悪化してしまっているわね」

 触診をしながらつぶやいたシャマルはそのライトブラウンの瞳に涙を溜めた。そのせいでいつもなら柔らかな金髪のショートヘアを揺らし、ほんわかとしたおねーさんといった雰囲気も影を潜めている。

 シャマルは、こちらに椅子を勧めるといくつかの問診をする。

「最大魔力値もさらに数%落ちてしまっているのね…」

「はい…」

「そう、やっぱりJS事件のダメージが抜けきらなかったのよ。ごめんなさい、なのはちゃん。やっぱり無理矢理にでも、完全休養をさせるべきだったわ」

 完全休養の話はJS事件が落ち着いたころ一度出た話だったが、なのはは生徒達に伝えたいことがあると言って拒んだ。シャマルはこちらの意思を尊重し、見守っていてくれていたのだが、自分の判断を後悔しているようだ。

 シャマルの悲しそうな顔を見たなのはは一瞬だけ申し訳なさそうな顔をした後、相手を心配させまいとして笑顔を作った。

「でも、大丈夫です!教導期間中は魔力値が下がることもありますけど、一日休めばJS事件後の状態までには戻っていましたから」

 むん、と両手で拳を握って自分の健康をアピールするなのはだったが、シャマルはため息をつくだけだった。

「…それは今はまだ若いから…多少の故障も、自然治癒でなんとかなちゃうけど、…治療魔法といっても、万能じゃないんだから…本当に壊れちゃったら、もう治せないわよ…?」

 シャマルは拗ねた表情になると、責めるように言ってきた。なのはの空戦魔導師としての勘で危険を察知した時のように、なんだか落ち着かない気分になる。

「…まして、なのはちゃんは武装隊なんだから、…ささいな故障でも、大騒ぎして連絡をくれたって、いいくらいなのに」

「…全く以て、その通りです…」

「もう…。…いつも、そうやって返事ばっかりなんだから…」

「…いえ、誤解です…。…本当に、最近は調子がよかったんです…」

 なのはは必死に弁明を試みたが、シャマルはいっそう口を尖らせるだけだった。

「…教導が終わった後のシャワー中や、お家で寝ているときに痛みで悲鳴を上げるひとが…?」

「…え、え~と」

 言葉に詰まるなのはを見て、シャマルは再びため息をついた。

「…情報は、ちゃーんとつかんでるのよ…」

「…ヴィータちゃんとフェイトちゃんでしょうか?」

「さあ、どうかしら」

 困るなのはの顔を見てシャマルは少しだけ気が晴れたようだったが、本音も漏らしてきた。

「…元六課の関係者では、なのはちゃんが一番、医者にとってもひどい患者さんです」

「…」

「…医者の仕事は基本的に『手遅れ』なのに…。…危険信号を見つけているのに、きちんとした治療をさせてもらえないのは…結構、つらいのよ…」

「…すみません…」

「…ほんとに、事あるごとに、見せて欲しいのよ…」

「…すみません…」

 最初の「…すみません…」には申し訳ない気持ち、次の「…すみません…」は柔らかな否定をのせると、シャマルはその両方を受け取ってくれた。

 シャマルは泣き笑いのような顔をするとなのはをまっすぐ見つめ、コレだけは聞いてほしいと訴えた。

「今度とる夏期休暇では、絶対に完全休養を取ってね。お願いよ…」

「はい…。約束します」

 シャマルは少しだけ安心して微笑むと、話題を休日の予定に変えた。

「そういえば、なのはちゃんは夏期休暇はどうする予定?」

「ヴィヴィオの学校の予定にあわせて、8月から取ることができそうです」

「そうなの?流石は教導隊。はやてちゃん達のお休みは不定期だから、休みは重なりそうもないわね」

「はやてちゃんもですか?フェイトちゃんも今回のお休みは合わなくて…」

「そうなの、ちょっと寂しいわね」

「ええ…、でも、折角なのでヴィヴィオのお披露目をかねて、海鳴でゆっくりしようかなって思ってます」

「まあ、それはいい案ね。」

 ぽんと手を叩いて、シャマルはなのはのプランに賛同すると、少し意地悪な顔をする。

「海鳴市なら、なのはちゃんが無茶なこともできないでしょうし」

「にゃはは…、しませんよ」

 釘を刺されてなのはは苦笑いをした。その顔を見ていつもひどい患者に手を焼かされている医者は満足したようだった。

「ヴィヴィオにとっては始めての次元旅行になるのかしら?手続きとかは大丈夫?管理外世界に旅行となると手間が掛かりそうだけど」

「それは大丈夫でした。私が向こうの出身なので問題なく。ただ、生まれがちょっと特殊と言うことで、今、追加の免疫検査を受けています。担当医は・・・」

「ああ、新しく聖王医療院から赴任してきた先生だったわね」

「はい、終わったら、海鳴市のみんなへのお土産選びです」

 などと会話をしていると、レイジングハートがヴィヴィオからのメッセージを受け取ったと報告。ヴィヴィオも検査が終り、受付で待っているとのことだった。

「それじゃあ、シャマル先生。ありがとうございました」

 言ってなのはは立ち上がる。

「完全休養、忘れないでね」

「にゃはは・・・」

 背中から追いかけてきたシャマルの忠告に、なのはは苦笑いをした。

 

 

 

 

 

 

「重い荷物を捨てろ!」

 自分のことを父と呼ばせていた男の声が、そんなこと言ったような気がしたが、よく聞き取れない。

 何しろ僕がいたのは揺れるトラックの中で、無理矢理に詰め込んだ家財道具がガタガタと騒音を立てていた上に、近くで爆発音が響いていたからだ。ただ、今でもはっきりを覚えているのは、人前では自分のことを母と呼ばせていた女の行動だった。

「…わかったわ」

 そういうと女は真っ先に僕を抱き上げた。

 いつも思う。どうして、父と母の髪、目、肌の色は全く違う色をしているのだろう?

 荷台から放り出され、空を見上げながら、僕はそんなことを考えていた。

 

<新暦76年7月11日 AM1053 対象N及び対象V 航空戦技教導隊 発>

 

 教導隊所属 1等空尉 高町なのはとその養子ヴィヴィオが航空戦技教導隊敷地内から出てくると、モニターの脇に自動的に監視対象のログが記録され、推測される移動ルートから次に対象が映るであろう公共のカメラが、自動で選択され映像を読み込み始めた。

 画面が切り替わったっことで、記憶の世界から今の世界に戻ってきた。

 少々ノイズの入った映像が和気あいあいと歩く高町1尉達の姿を映し出す。二人のまさしく仲のいい娘と母、見ている者の顔をほころばせる光景である。

「走行中のトラックから放り投げる母もいれば、自分と血のつながりのない娘を愛情をもって育てる女もいる・・・か」

「おいおい、訓練兵。相手に情を移すと情報にベクトルがかかるぞ」

 若い男が思わず呟いた声に、壮年の男の声が返した。

「それぐらい、知ってるさ。しかし、情報というものはそう言うものだろ、歴史がそれを証明している」

「お、スクライアのワシに対して、歴史を語るか・・・」

「スクライア?あんた、古代の遺跡堀がいやで、部族を飛び出したんじゃなかったのか?」

「歴史は好きさ。いま、起こっている歴史がな。一族の連中はなぜかそれが理解できんらしい」

 憤懣やるかたないといった様子で壮年の男が、自分の部族に対する不満を返す。それを見て若い男は現状所属している組織の不満を口にした。

「俺が理解できないのは、今回の仕事だね。対象を監視しろってだけなら、俺たちは必要ないだろ」

 通信インフラの発達したクラナガンでは、何の警戒もしていない相手を追うのに殆ど人手は必要ない。AIに任せても十分な成果があげられる。男たちが不満を並べている間にも、AI達は黙々と監視のログを記録している。が、

「しかも、さっきから映像にノイズが入って鬱陶しい。クラナガンのインフラは次元世界一なんじゃなかったのか?」

「そう言えば、対象Vの受けてた検査に使われていた医療器具にもノイズが出ていたみたいだな。まあ、教会騎士団が行ってる対AMF通信実験の影響じゃないか?」

「なんで、たかだか宗教法人の私兵どもが、そんなことを出来ているんだよ」

「さあ、金と票を持っているからじゃないか?ま、この辺が管理局が批判されるところだよな」

 壮年の男が肩を竦めてから続ける。

「だが、俺たちが必要な理由は分かる」

「へぇ」

「翻訳魔法を介さずに、現地の言葉を使える人間が少ないからだ。通信環境がこちらと違う管理外世界では、結局マンパワーに頼ったりするからな」

「俺は英語の方が得意なんだが・・・」

「ああ、確か普及しているのはそっちの方が多いと聞いて必死に覚えたら。現地では日本語が主流だったってやつだな!!」

「うるせぇ!」

 前に話した失敗譚を笑われ、若い男が怒鳴り返す。が、すぐに仕事の顔に戻って聞いた。

「行くのは俺たちだけか?」

「いや、8課からも2名」

「元地上本部のクラナガン出身者達か・・・、どうも選民主義で好きになれん」

「そう言うな、それとこいつを連れて行けと・・・」

 言いながら壮年の男が空間モニターに、小型肉食恐竜を模したようなロボットの画像を映し出す。

「L3S、陸戦魔導師サポートシステム(land sorcerer support system)。確かAMF対策用の小型魔力炉と燃料電池駆動の支援兵器だったか?一時期話題になってたのは覚えているぞ。致命的欠陥がどうのこうので立ち消えになったやつだろ…。使えるのか?」

「その欠陥とやらは、地上本部のアインヘリアルを推進するための工作だったらしいぞ。で、レジアス中将が居なくなったのこれ幸いと、反レジアス派が中将に止められていた予算を復活。先のJS事件で有用性が証明された戦闘機人とガジェットの連携を、魔導師とコイツでやろうってことで、倉庫の肥やしになっていた試作機が回ってきた」

「それこそ、教導隊様の仕事だと思うがね」

「まあ、イイじゃないか。最新機器を湯水のように使ってもいいと、言われているのだから」

「ハイハイ、それだけは金を持っているクライアントのいい所だな」

「それと、」

「まだあるのか?」

「お前のコードネームが決まった。今日からお前は・・・」

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