あたしとすずかとなのはは小学校1年生からの友達同士。最初のきっかけはケンカから始まった間柄。
そのあと数年してその仲にフェイトとはやてが入ってきて、その新しい友達となのはが魔法の世界に行き、自分達の道に進み始めてから、かれこれ十年。
なのはが大怪我したり、フェイトが二度受験に失敗して落ち込んだりと、心配をしている間になのは達は結構重要な先生の役職になって、自分の生徒を連れて来たりと驚かされることが続いている。
そんなこんなで彼女達から目の離せない、あたし――アリサ・バニングスだったりします。
そして、最近また驚かされることがあった。なのはに娘が出来たのだ。聞いた直後は「父親は!」と騒いでしまったが、そういうことではなく。仕事で保護した女の子を母親として引き取ることにしたそうだ。
そして、この夏なのはは、長期休暇を利用してその娘を連れてきた。今日この翠屋に集まったのは、その子と私の顔合わせ。
「まったく、メールに『私に娘が出来ました』て書いてあった時は何事かと思ったわよ」
「そうだね。あたし達にはまだ彼氏も出来ないのに!ってアリサちゃんは大騒ぎだったね」
「あ、なによ、すずかだって。メールを開いたまましばらく固まってたじゃない。目をこ~んなに大きくして」
「あ、ひど~い。そんな顔してないよ」
あたしがメールを貰った直後のすずかの顔真似をしながら、その時の様子を面白おかしく話すとなのはを楽しそうに笑った。
騒ぎの発端は自分の送ったメールだというのにしょうがない子だ。
「笑っているけど、なのは。あんたの説明不足が原因なんだからねっ!」
「え~、ちゃんと説明したよ」
「足りてないわよ!もう、全然!」
叱ってやると、なのはは唇を尖らせ反論した。
だが、すずかもあたしの意見に賛成のようだ。魔法世界でなのはと同棲しているフェイトの話を持ち出した。
「そういえば、フェイトちゃん。春にもなのはちゃんの説明不足でアタフタしたって話してたよ」
「え、そうなの?」
「うん、魔法の…試合?で、自分だけ聞かされてなかったとか」
「あ、卒業式の。あれはたまたまだよ」
それだけじゃないわよ。と、思ったが、今はさっさと話を進めたい。
「どっちにしろ、今回の事はあんたの説明不足よ。」
「そうだね。てっきり、ユーノ君が責任を取る事態になったのかと思ったんだけど」
「え、ユーノくん。何か失敗したの?」
あ、心の底から言ったわね、この子。はぁ、ま、幼馴染が必ず恋仲になるとは限らないんだけどさ。ここまで何もないとつまんないわよね。
「で、あの草食系男子はほっとくとして、なのは。あんたの娘は何処にいるのよ。紹介してくれるんでしょ」
厨房でも手伝っているのかしら?それとも、ウエイトレスとして登場?なのはの母――桃子さんが考えそうな話だ。
15時前人の入りが僅かに少なくなる時間帯の翠屋店内を見渡しながら、あたしが想像していると、なのはが申し訳なさそうに言った。
「それがちょっと遅刻しているみたいで…」
「雫達、今日の午前中は士郎さんの実家で過ごすって言ってたよね…」
実はまだヴィヴィオに会っていないのはあたしだけだ。なのは達がこちらに着いたばかりだったし、あたしの方も大学ゼミなんかで忙しかったからね。
ちなみにすずかの方は既に顔合わせを終えている。なにせ、すずかの姉の忍となのはの兄の恭也は夫婦だ。兄に顔を見せに行った時に、一緒に会ったらしい。
…仲間外れにされたようで、ちょっと悔しい。
「ちょっと、ちょっと、なのはママの躾はどうなっているのよ」
「にゃはは…、ごめんなさい」
謝るなのはに腕組み寛大な心で許してやる。
「まあ、いいわ。先にどういった経緯で、その子を娘にすることにしたのか聞かせてちょうだい」
「うん」
聞くとなのはは嬉しそうに娘のヴィヴィオとの、出会いの話をし始めた。病院の庭での出会い。はじめてママと呼んでくれた時の事。犯罪者に連れ攫われ、ぶつかり合った残酷な現実。伝え会った想い。
実にうれしそうに語る姿から、なのはがどれだけその子を思っているかが分かる。
(ああ、本当になのはは母親になったんだ…)
まだ、なのは自慢の娘に会っていないというのに、実感がわいてしまった。元々、意思が強くて優しい子だったけど、その優しさに何というか愛情とか母性といった芯が入った感じがする。
…え~っと、何言っているんだろ、あたし。まあ、ともかく、あたしの友人は幸せそうだってこと。
「…いらっしゃいませー…」
「「いらっしゃいましたー」」
レジに立っているメガネの似合う美人のウエイトレス――美由希さんの声に入口を見ると、すずかの姪――雫と一緒に元気のよさそうな女の子が店の中に入ってきた。元気と意思の強さを示すような左右のことなる虹彩の瞳、ゴールドとベージュとの間くらいの金髪を長く伸ばした頭。メールに添付してあった写真の顔。
なるほど、この子がヴィヴィオか。
「来たね二人とも、でもちょっと遅刻かな?人を待たせるのはダメだよ」
「ごめんなさい、美由希さん」
「ゴメン、美由希姉さん。お客さんを連れてきたから、大目に見てよ」
「お客さん?」
「ごめんください」
声を聞いて美由希さんが振り向いた。店の入り口に特徴があまりない男が一人。いつもなら、すぐに応対するはずの美由希さんだったが、珍しく間を開けた。
すると男は両方の手のひらを見せるように上に向け、両肩をあげる。
「場違いな店に来た自覚はあるよ。でも、噂のクリーム・パフを2、3頼めないか?手土産用に…」
クリーム・パフ、英語圏でのシュークリームの呼び名ね。日本語も微妙にアクセントがおかしいし、日本人じゃないようね。
ともかく、注文を聞いて美由希さんが接客モードに入った。
「申し訳ございません。クリーム・パフは焼き上がりまで、少々お時間を…、15分ほど頂きますが、よろしいでしょうか」
「ああ、構わない」
男が頷くと手近なカウンター席に腰を掛ける。懐をまさぐりタバコを取り出したが、同時に灰皿がないことと、店内禁煙の表示に気が付いて、ため息をつきながらタバコのケースを懐に戻した。
美由希さんはすかさずメニューを手に取る。
「お待ちの間、こちらのコーヒーセットはいかがでしょうか?こちらのケーキは男性のかたでも…」
更に商品を勧める美由希さんの服を、雫が引いて止めた。なのはの元にもヴィヴィオが神妙な面持ちでやってきた。
雫とヴィヴィオは一度顔を見合わせた後に、意を決したように口を開いた。
「「実は…」」
二人がいうには、男にぶつかり怪我をさせてしまったとのこと。聞いたなのはは慌てて立ち上がり、ヴィヴィオと共に男に謝罪する。
「すみません、うちの子の不注意で…」
「…ッ!」
男は一瞬眉を上げたが、
「いえ、私の方も、他のことに気を取られていたので…」
ペコリと頭を下げるなのはに、男は手の平を向けて、恐縮しなくていいと示した。広げた手の平に絆創膏が見える。それが雫たちの言う怪我らしい。なのはも男の絆創膏に気が付いたらしい。視線がそこに向かう。
男が視線に気付き笑う。
「本当に大したことないんです。これだって、大袈裟なくらいですから…。それより、その子たちに怪我がなくてよかった。女の子に怪我をさせたとあっては、先生に何を言われるか分からない」
男は、まあ悪い奴ではないらしい。先ほども、一目で人種が違うと分かるなのはとヴィヴィオの親子を訝しく思ったようだが、もう、気にした様子も見せていない。
なのはも男の反応に安心したようで、もう一度頭を下げた。
なのはに続いて、わたしも友人の娘のフォローってわけじゃないけど、男に声を掛ける。
「あんた、この辺の人じゃないわよね。手土産ってことは、人をたずねるんでしょ?場所は分かるの?案内板は読める?」
日本語は会話することと、読み書きすることではまた別の難しさがある。今年は帰ってこなかった薄情な執務官とやらの友人が、昔、苦労していたことを思い出し、お節介を焼いてみる。
「フジミダイというところですが…、案内板も最近じゃ英訳もついているから問題ないと思います」
「あ、それもそうね。フェイトは英語も出来なかったから、苦労してたのよね」
「そう言うあなたも、この国の人には見えませんけど、苦労はしなかったと?」
「わたしがするわけないわ。同級生の中じゃ日本語も英語もトップだったもの!」
エッヘンと胸を張りながら答え、チラリと友人たちに視線を投げると、文系は平均点の上下をふらふらしていた二人は、娘と姪の耳を塞いでいた。成績優秀な母や叔母でいたいらしい。
二人が視線で抗議しながら、話題を変える。
「えっと、お詫びになりませんが、飲み物でもおごらせてください」
「外は暑いですから、このアイスコーヒーのセットがお勧めですよ」
すずかはいつの間にか、メニューを手にしていた。二人とも実家の手伝いや、高校時代のアルバイト先として、この店で働いていただけあって、流れるような接客だった。
「ああ、ここで断るのもかえって気を使わせるな…、じゃあ、お言葉に甘えて…」
「はい、アイスコーヒーセットをお一つ、こちらの席でお待ちください」
「それでは…」
男がカウンター席に戻り、注文を待ちながらスマートフォンを操作し始めたのを見て、わたし達も、ボックス席に戻る。
ずいぶん、回り道をしたけど、ようやく本題に入れるわね。
視線をなのはに投げて、自慢の娘を紹介するように催促する。
再び上機嫌の顔に戻ったなのはは、愛娘を隣に座らせるとヴィヴィオとあたしを互いに紹介した。
「アリサちゃん、この子がヴィヴィオ。今年の春に正式にわたしの娘になりました。ヴィヴィオ、この人がアリサさん。フェイトママと同じでわたしの子供のころからの親友」
あたしを紹介されたヴィヴィオは、若干緊張した面持ちで、発音を微妙に間違えた挨拶をしてきた。
「高町ヴィヴィオです。えッと…はじめまして」
「アリサ・バニングスです。あなたのママとは、10年以上前から友達で今でも仲良しです。ヴィヴィオとも友達になりたいです」
「うん!わたしも!」
パァ!と花咲くようにヴィヴィオが笑う。
うん、いい笑顔だわ。ただ…。
「じゃあ、友達として警告してあげる。あなたのママはいい所はいっぱいあるけど、一度言い出したら、絶対曲げずに徹底抗戦ってところは真似しない方がいいわよ。二代そろって突撃ロケットじゃ、見ているこっちがハラハラするから」
「…あ!はい…」
ヴィヴィオはわたしの言ったことを一瞬考える素振りを見せたが、思い当たる節があったのかためらいがちながら返事をした。
「突撃ロケット!…って、ヴィヴィオも、はいって言った!」
頭上に大きく「ガーン」と書き文字が見えそうな顔をして、なのはが不服申し立てをしようとしたが、
「…突撃ロケット、…ッふふ」
わたしの的確な表現にすずかが吹き出したのを見て、なのはは涙目になりながら肩を落した。自覚はあったらしい。
「子供ってのは、よく見ているもんなのよ」
とどめとばかりに言ってやると、雫が口を開いた。
「アリサさん、私にもいっつも言っているもんね。『すずかさんは、いい所はいっぱいあるけど、マッドなところは真似しない方がいいわよ』って」
それを聞いてすずかが猫が獲物を狙うような顔をする。
「へー、それって、どんなところ?」
「な、何よ。わたしの車に、忍さんと共同開発した新機能を取り付けようとするのは、マッドでしょうが…」
この顔をした時のすずかは押しが強くなる。負けないように言い返したが、思わず身を引いてしまった。しかし、すずかはこちらの腕を引いて、身を寄せてくる。
「ううん、そこじゃなくて…」
「なによ…?」
「私となのはちゃんの『いっぱいあるいい所』って、どこのこと?教えて?」
「…なっッ!」
そんな恥ずかしい真似できるわけないじゃない!
顔が熱を帯びるのを自覚する。子供たちはキラキラと『ママと叔母が褒められるところを見たい』と言う顔をしているし、なのはは含みのある笑顔でニコニコと渡っている。
く、突撃ロケットって言った仕返しね!
何とか、『面と向かって友達を褒める』と言う、恥ずかしい真似から逃れようと視線を巡らせると、カウンター席で呑気にコーヒーを啜っている男と目が合った。
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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