管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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45海鳴市の夜Ⅱ

 声をかけた瞬間、鋭い殺気。僅かな振動。

 透明人間が振り返るのを待たず、回り込むようにステップ!

 光の礫がたった今まで美由希がいた空間を通り過ぎ、背後に設置されていたパラボナアンテナを穿つ。まるでライフル弾だ。殺気に攻撃、是非もない。

 既に相手の横手に回り込んでいた美由希は、図面ケースのベルトを引き、透明な相手の後頭部辺りに叩き付けた。

 2本の小太刀が入ったそれは、遠心力により警棒で殴り付けた位の衝撃がある。普通の人間なら悶絶している所だったが、ベルト越しに伝わってきたのは鈍い衝撃。なのは達がフィールドと呼ぶ防御に阻まれた。防御との激突でケースは壊れ、小太刀が飛び出し宙を舞う。

 再び、僅かな振動。

 2発目の攻撃を避けながら、美由希は腕を捻る。敵の3発目に合わせて、何もない空間に向かって叩きつけるように腕を振った。御神流の鋼糸が相手に巻きついた。鋼糸、特殊な繊維にごく微細な鉄粉を焼き付けた糸によって、相手は大きくバランスを崩して狙いを外した。

 今!

 脱力からの鋭い前蹴りを放つ!

御神流 『徹』

 衝撃が相手の防御を飛び越えて、直接相手の体内で炸裂する。

 平均的な体格の格闘家が放つキックは900㎏程の威力がある。人間のアバラ骨など簡単に叩き折ってしまう威力だ。体格で劣る美由希だったが脚力は男性格闘家のそれを上回る。

 確かな、手ごたえ!

 相手は体をくの字に曲げ膝を付いた。カラン、と音を立てて短杖が転がりと、相手が姿を晒す。相手の姿は一言でいえば、ハリウッド忍者という出で立ちだった。全身を覆うピッタリとした戦闘服。ヘッドマウントディスプレイの様なゴーグルと目だし帽で顔は見えない。

 美由希が更に腕を振うと、屋根に落ちた小太刀が鋼糸に引かれ、弾かれるように美由希の手の中に収まった。

 美由希が体得している技――御神流は競技としての武道ではなく、実戦を戦う戦士としての武術。その中には、ワイヤーの様な暗器の扱いや、表面を傷つけず衝撃で物の内部だけに破壊を引き起こす『徹』と呼ばれる技術もある。それらを駆使できる限定的な戦闘ならば、御神の剣士は魔導師に決して劣らない。

 2本の小太刀のうち1本を抜き、構える。

「両手を上げたまま、武装を解いて。下手に動くと折れたアバラが肺に刺さりますよ」

<…原始人が!>

 相手がフットフォルスターの拳銃に手を伸ばす。

 突き!

 刀がフィールドを突き破り、相手の右肘を砕いた。刀を引き抜き、更に峰で左鎖骨を打つ。小さな衝撃と共に、相手の左腕が力を失う。

 美由希が冷酷なのではない。相手を傷つけることに対する躊躇は、家族に向けられた殺気に対する怒りと、殺害を目的とした攻撃を受けたことでの恐怖で一時的に消え去っていた。

<ぐっ!がっ…、…フィールドを…>

 魔導師の口から洩れた言葉は、美由希には分からない言葉だったが、相手は御神流の威力に驚愕しているらしい。

 それはそうだろう。魔導師のフィールドは原始的な武器ではまず破ることが出来ない。だが、御神流は防弾ガラスさえ一撃で破る威力があり、受動的な強化していないフィールドで防御出来るほど、甘い術法ではなかった。

 美由希は血の付いた切っ先を、一度相手に突き付けてから口を開いた。

「最後の忠告です。武装を解いて…。なぜ…、うちを襲おうとしていたの?」

 構えながら美由希は覚悟を決めた。

 いくら御神流といえども、戦車装甲並みのバリアを張ることが出来、それを突き破る攻撃ができる魔導師を相手に、不殺で制することなど不可能だ。

 これ以上抵抗されるなら、殺すしか手段がなくなってしまう。

<く…>

 魔導師がうめき声を上げた瞬間、別方向からの敵意!

 咄嗟に背後に跳ぶと、美由希と魔導師の間を割るように降り注いだ透明な礫が屋根に当たって弾けた。

 敵意を感じた方向から、音もなく新たな魔導師が拳銃を構えたまま現れ。美由希の前に立ちふさがった。

 先程までの魔導師と同じ姿。違う点は脇の下にナイフ類を吊っていることくらい、いずれにしても仲間なのだろう。

 仲間の出現を好機と見た短杖の魔導師から僅かな振動。いや、先程の礫とは違い振動が大きい。

(攻撃するつもりなら、加減できない!)

 美由希がそう判断した瞬間、美由希の中の枷が外れた。

 極端な集中による感覚時間の引き延ばしを行い、肉体のリミッターを外す、御神流・奥義の歩法『神速』。

 未だこの動きに初見で対応できた魔導師に、美由希は出会ったことがなかった。なのはの友達――八神はやてに仕える騎士と呼ばれる魔法戦士達ですらそうだった。

(神速の爆発的な加速によって、新たな魔導師の脇を抜け、短杖の魔導師に止めを刺す)

 周りの景色が色を失い、心臓の鼓動さえも、ゆっくり動いているように感じる。

 美由希を取り巻く全てがスローモーションに…、ならない!

 2人目の魔導師がセピア色の世界の中、美由希を阻止しようと迫ってくる!

ガギィンッ!!

 火花を散らして刃が銃身で弾かれた。横合いからの力に、体が流れ、勢いが殺される。

「!!」

 新たな忍者からの大型ナイフでの一撃を、美由希は受け流し、2合、3合と打ち合う。

 打ち合って分かったが、速さはこちらが上だ。だが、相手は見切りの早さと、小太刀よりさらに小回りの利くナイフで食い下がる。さらに相手のナイフは何か細工がしてあるようだ。刃が触れ合うだけで火花が飛び散り、刀が削られていく。

 短杖を持っていた方の魔導師の姿と気配が消える。転送魔法と呼ばれるものだろう。

 目論見が外れて、いったん間合いを外す。間合いを決める権利はスピードで上回るこちらにある。

(この人、御神を…。いや、神速の領域を知っている)

 残った魔導師がこちらの攻撃を防いだ時、魔法を使う時の独特の気配がなかった。この魔導師は魔法に頼らず武術で対抗している。

(厄介な人)

 今、相手との距離は10歩と離れていない。本来なら御神の剣士の方が有利だ。

 高ランク魔導師が詠唱不要の高速起動魔法を使っても、刹那の魔力チャージが必要になる。御神の剣士ならばその刹那に、致命的な一撃を加えることが出来る。

 つまり、攻撃の初速を競い合うような状況ならば、御神の剣士が魔導師の一歩先を行くのである。しかし…。

(速さではこちらの方が上だけど…。この人、神速の深度が深い)

 深度とは、感覚時間を引き延ばす度合いのことで、これが深くなればなるほど相手の攻撃も見切りやすくなっていく。動きの速さに劣る魔導師は、見切りの早さで美由希に拮抗していた。

(あとは武器の性能)

 構えた刀には大きな刃こぼれがあり、鎬すら超えて欠けてしまっている個所まである。刃物として最高峰の日本刀とはいえ、美由希が手にしていたのは練習用で、そうたいした業物ではなかった。魔法を相手にするならば、あと1、2度打ち合うのがせいぜいだろう。

 もう1本の刀を抜かず、あと1、2手で倒すべきか?

 折れかけの刀でその隙を作り、もう1本で仕留めるべきか?

 他の武器や体術の方が有効か?

 今度は魔導師の方から動いた。攻撃するのではなく後方へ大きくバックステップ。屋根から飛び下りながら銃を乱射。敢えて狙いをつけない事で命中率は下がるが、射線を読みにくくしている。

 銃声はなく、魔法の礫のほとんどが小さな風切り音を残して通り過ぎっていったが、そのうち一発が偶然にも直撃コースで美由希に迫る。

バキィィンッ!

 咄嗟に刀を盾にすると、傷ついた刀は真二つに折れた。

 魔導師はまだ空中。

 美由希は折れた刀を捨て、空中でくるくると回転していた切っ先の方を引っつかむ。

 魔導師の腰から伸びたケーブルの様なマジックハンドが、カードを2人の間に放り投げた。

 美由希が切っ先を投げるのと、カードがはじけて大量の煙がまき散らされるのはほぼ同時だった。

 視界に頼らず戦うことが出来る美由希は煙の中に飛び込むつもりだったが、煙に触れた瞬間後方に大きく飛んだ。

 煙の触れた肌にピリピリとした刺激がある。何かの非殺傷兵器用の薬品をばら撒かれたようだ。

 風上に移動して『心』に集中するが、魔導師の気配は消え去っていた。

「毒を撒かれていたら、やられていた…」

 魔導師と御神の剣士の間に出る大きな差はその防御力だ。魔導師は設定さえしてしまえばNBC攻撃や熱にも簡単に耐える。それに引き換え、御神の剣士はあくまでも生身の人間でしかない。毒や炎には極めて弱い。

「どういうことだろう…?」

 魔導師が撃った弾が当った屋根を見ても、少し焦げ目が付いているだけだ。1人目の魔導師は問答無用で殺傷攻撃をしてきて、2人目は非殺傷攻撃。この二人の行動は一貫していないように感じる。

「なんだか騒がしいな」

「―ッ!」

 ガラッと民家の窓が開く音と共に、住人の声が聞こえた。

 さすがに騒ぎを聞き付けた家主が、窓から体を乗り出し屋根の上を見上げようとしているのを、美由希の耳が捉える。

(ここにいると、たいへんアレだよね…)

 足元を見ると、屋根には凹みやヒビが入ってしまっている。神速の苛烈な踏み込みに屋根が耐えきれなかったのだ。

イヤな汗をかいた美由希はゆっくりと身を屈めると、静かに折れた刀を拾う。

「…ごめんなさ~い」

 民家の住民に気が付かれないよう、小声で謝るという矛盾した行動をとりながら、美由希はその場を逃げ出した。

 

 

 

 

 

「クソ…あのアマ…」

 小型次元船に回収された途端、毒づきながらバリアジャケットの設定を変更。マスクとゴーグルを解く。

 それだけのことなのに砕かれた肋から激痛が走る。

「動くな、ヴィッカー。治療器に連れて行ってやる」

 相棒のホイペットが駆け寄ってきた。ホイペットを追いかけるように自走ストレッチャーが移動してくる。

「…後でいい」

 魔法で自走ストレッチャーに乗せられながら、無精ひげのホイペットに指示を出す。

「それよりも、あの一帯を焼き払え…、あるだけのエネルギーで…多目的誘導弾を打ち込めばできるはずだ」

「おい、落ち着け」

「落ち着いていられるか!…俺たちミッド人が…原始人に舐められたんだぞ」

 

 管理局世界発祥の地で、現在も最先端を行く由緒正しいミッド人が、管理外世界の野蛮人に傷つけられる謂われなどない。

 そもそも、未熟な管理外世界の住人は、先進世界のミッドが数多の危険から守ってやっている。と、いうのに…。野蛮な原始人は礼儀という者を知らないらしい。

「なにしている。早くやれ!」

「本気か?」

「当然だ。犠牲を最小限に留めてやろうとしていたのに、恩を仇で返しやがって…。当然の報いだ」

「まあ、他に方法もないしな…」

 ホイペットも特に反対はしなかった。彼にとっても管理局世界の住人が、どうなろうともなんの痛痒も感じることはない。先進世界の住人にとって管理外世界の事件など、せいぜい3面記事の話題でしかない。

 先進世界出身という矜持が、ヴィッカー達を高慢にしているが、本人達は気が付かない。自称文明人の無分別な行動を止めたのは合成音声だった。

<相変わらずミッド人は高慢だな>

 いつの間にか先ほど援護に来た魔導師が転送ポートに立ち、銃を構えていた。

「13課だな。進入ブロックを掛けていたはずだが…」

<デバイスに進入コードが残っていたぞ。こんな暗号化では、解析してくれと言っているようなものだ。8課の警備体制はずいぶんお粗末だな>

 ホイペットの言葉に答えながら侵入者は、ヴィッカーが放棄した短丈型デバイスを放り投げた。いつの間にか回収していたらしい。

「てめぇ…、なんのマネだ」

 魔導師のデバイスはしっかりと魔力チャージを終わらせている。迂闊に動けば本気で撃つ気だ。

 名前は忘れたがこの魔導師は管理外世界出身のメルカバ人と記憶している。同じ野蛮人同士情を移して裏切るつもりだろうか?

<なんのマネ?もちろん、任務を遂行している>

「なら俺たちと同じ任務のはずだ。デバイスを下ろしてくれ」

<それは無理だ。もうお前達は任務の邪魔にしかならない>

 ホイペットが隙を作ろうと声を掛けるが、侵入者は引き金に掛かる指に力を込めた。

「ま、待て!」

 銃声が2発。

 

 

 

 

 

『終わったのか?』

『ああ、眠ってもらった。増援を要請しておいてなんだが…。やはり、他の課の連中は当てに出来ない。こう、独断専行されてしまうとな』

『だが戦力はどうする?いま、13課で動けるのは、俺とお前だけだぞ』

『撃墜数を競い合っている訳じゃない。俺達が敵を倒す必要はないさ』

『互いに潰し合ってもらうわけだな。必要なモノは現地調達。諜報活動の基本だな』

『8課の装備品も使わせてもらう』

『ああ、回収する。拳銃型デバイスのHGS-712に、L3Sのフルセット…、なんだ、これはナイフ?』

『ああ、高町美由希に投げつけられた』

『変わった刃物だな。ここまで造り込んでいるモノは、なかなかないんじゃないか?』

『ああ、魔法文化は、基本的に足し算の文化だからな。面白い概念だ。参考になる』

『しかし、ここまでモノを作るには…、それなりの積み重ねと歴史があったに違いない!』

『…はぁ、…また、はじまった』

『ん、何か言ったか?』

『いや、なにも』

『では、手早く回収を済ませよう。調べ物の用事が出来た』

『…分かったよ』

 




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