管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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46ボールと、再会と、ネコと…Ⅰ

 NGO職員に借りた双眼鏡で無翼機を見上げると、陸、空、海をモチーフにした紋章が見えた。それは管理局治安維持隊に所属していることを示していることを、NGOの男性職員が誇らしげに教えてくれた。

「どうだ、坊主。管理局はあんな装備まで持っているんだ。旧体制や貧相なゲリラなんかに負けるわけない」

 ボクには自分の所属している組織でもないのに、なぜ胸を張っているのかわからなかったが、とても強い存在なんだなと理解した。

 それでもボクはあまり興味をもてない。だって、空を飛んでいる無翼機より、先生達の方がよっぽど人の役に立っている。

「なんだ、興味なさそうだな」

「うん」

 素直に返事していると、無翼機のお腹がパカっと開いて何かを落とし始めた。

「あれは、なに?」

「え?」

 ボクが指す方を見て男性職員は呆けた声をあげ、数秒後には蒼白になった。

「誤爆だ!」

 その叫び声と同時に、巨大な音と衝撃の壁に殴り倒された。

 

「……」

 仮眠から目を覚ました時の気分は最悪の一言だった。交代時間まであと数時間。

「散歩でもしてくるか…」

 

 

 

 

 

『なのはちゃん、忍者みたいな魔導師たちについて、報告が入ったよ』

『もうですか!まだ2日しかたっていませんよ』

『ふ、ふ、ふ、休職中の身とはいえ、このエイミィさんの情報収集能力をなめてもらっちゃ~、困るね~』

 2日前の深夜、桃子に呼ばれ魔力による戦闘を感知したなのはは単独で現場に急行。途中で美由希にバッタリと出くわした。

 事情を聞くと、あまり言いたくなかったのか、曖昧な言い方で「忍者のような魔法を使う人に、ちょっかいを出したら攻撃されてしまった」と、答えた。

 休暇中の上に教導官のなのはは、捜査権を持たない。

 そこで、次元航行船で通信指令をしていたエイミィ・ハラオウンを通して、管理局に通報。調査を依頼していた。

『と、言っても、実際に調べたのは、ウチの旦那だけどね』

『…クロノ君に、お礼を言っておいてください』

 エイミィは夫のクロノにごり押しで調査をさせたようだ。やり手の次元航行部隊司令官も妻に掛っては、かたなしのようである。

『美由希が言っていた相手の特徴からいって、地球に来ていたのは、評議会調査室の装備みたい』

『評議会調査室…?』

『前評議会からあった諜報部隊をラルゴ・キール元帥が再編した部隊だよ。元々はミッドチルダ出身者達だけで構成されていたんだけど、ラルゴ・キール元帥は方針を変えて、いろんな世界の…、管理外世界の人まで採用しているみたい』

『管理外世界…、まさか、地球ですか?』

『いや、さすがに地球はないと思うけど…。ヴェロッサが随分気にしていたみたい?』

『アコース査察官がですか?』

『それはそうだよ。今後の管理局の運営方針に係わることだからね。ま、元帥としては、前評議会のミッドチルダ一極集中からの転換を強く打ち出して、他の世界とも上手くやっていこうって方針みたい…』

『JS事件の後始末と改革…、スカリエッティの逮捕からまだ1年経っていませんからね…、もしかして、ヴィヴィオや戦闘機人の子達とも、何か関係があるんでしょうか?』

 なのはの念話に緊張が乗った。

 JS事件の実行部隊だった戦闘機人は言うに及ばす、ヴィヴィオは聖王オリヴィエのクローン体であり、製造主こそ明らかになっていないものの、スカリエッティの起こした事件の要になっていた少女である。スカリエッティの雇い主だった前評議会からの方針転換を撃ち出している組織の人が、好意的な理由で地球に来ているとは思えない。

『その辺の真意は分からないし、楽観もできないけど…。取り敢えず、この人たちは地球から、離れたみたい』

『どうして、分かるんですか?』

『教会騎士団所属の巡回部隊が、小型次元船が第97管理外世界から離れて行く反応を捉えたって、教会から管理局に通報があったみたい』

『じゃあ…』

『うん、美由希にやられちゃって、逃げていったみたい。優先度は低い任務だったんじゃないかな?…ま、後の追及や非難については、ヴェロッサ君のお仕事になるから、なのはちゃんは心配しなくていいよ。念のため、なのはちゃんの実家周辺にサーチャーを追加しておくね』

 エイミィの報告を聞いて、なのはは安堵した。

 機動6課だった時の主だったメンバーは、全員が何かしらの任務に就いておりすぐに駆けつけてくることができない状態にあったし、管理外世界での捜査活動というのは、何かと面倒な手続きが必要になる。警戒用のサーチャーが増えるだけでも、気は楽になった。

『ありがとうございます』

『いえいえ、いざとなったらアルフだっているんだからさ、ゆっくり休まないとだめだよ。なのはちゃんは休養に帰ってきたんだからさ』

『にゃはは、エイミィさんまで、そういうんですね』

 どうやらわたしはみんなに心配されっぱなしらしい。と、なのはは自覚して苦笑した。

 するとエイミィは口調を真剣なものにする。

『評議会調査室は政治がらみの案件を扱うことが多いと言われているんだ。ヴェロッサが動き始めた以上、評議会調査室は地球での活動を控えることになると思う。けど、現場だけの判断で勝手に動いたりすると、ヤブヘビになりかねないから、下手な行動は控えて、様子を見たほうがイイ。と、あたしは思う』

『うん、分かりました』

『じゃあ、そういうことで、休日を楽しんで~』

 

 

 

 

 

「お話、終わった?」

 念話ではない肉声で、なのはは自分がどこにいるか思いだした。念話に夢中になりすぎていたようだ。

 プリントブラウスにストレッチハーフパンツ姿のすずかがこちらの顔を覗き込んでいた。

 あまりいいとは言えない念話の内容が表情に出ていたようで、すずかの表情は心配そうだ。

「…うん、ごめんね。折角、一緒にいるのに…」

 返事をするなのはの鼻を、風に乗った潮の香りがくすぐる。なのは達は海鳴臨海公園に子供達を引率して来ていた。

 なのはとすずかが腰掛けているベンチ正面のグラウンドでは、高町家、月島家、ハラオウン家の子供達とアリサが元気にサッカー(?)をしている。子供達はポジションやパス回しと言った基本が理解できていないらしく、ボールの周りに集まりお団子状態でサッカーボールを追いかけている。

 ルールを把握しているアリサとアルフが指示を出しているのだが、夢中になっている子供達の耳には届いていないらしく、結局一緒になってドットフリルの付いたミニスカートを翻している。

「みんな元気だね」

「…うん」

 すずかは優しい。

 アリサのように強引にでも話を聞いて、一緒に悩んでくれる優しさとは違い。なにも聞かず、それでも話したら、全て受け入れそのままでいてくれる優しさを持っている。

 その優しさが話せない罪悪感に染みて返答を鈍らせると、それを察したすずかは気分を変えるように世間話を振ってきた。

「そう言えば、ビルさんってどんな人?」

「…へ?」

 今度は全く別の意味でなのはの反応が遅れた。その名前がすずかの口から出てくるとは思っても見なかったからだ。

「ビルさん、って、ヴィルヘルム副長のこと?」

「うん、背が高くからって偉そうで、皮肉家で、はやてちゃんの言うことをあまり聞いてくれない、ビルさん」

「…副長のことだね」

 JS事件の際、はやての副官だった男の話で間違いないようだ。

 現在、二人は違う部署に配属されているのだが、以前、はやてが似たような愚痴をこぼしていたのを覚えている。あまりな言い様だったが、まあ、女子会での遠慮無しでの会話というのは、男の悪口と相場が決まっている。

「すずかちゃん、副長といつ知り合ったの?」

「ううん、会ったことはないんだ。ただ、最近、はやてちゃんとメールやお電話でやり取りしていると、その名前が出てくることが増えているから…」

「…へー、そうなんだ。他には?」

 すずかの話によると、はやてとヴィルヘルムの二人は六課解散後も頻繁に連絡を取り合っているらしい。六課立ち上げからの戦友同士親睦を深めている。とも、取れるが…、邪推することを誰が止められようか…。

 含みを持たせた楽しそうな顔のすずかにつられて、ついついなのはの顔にも、子供が悪戯の標的を見るような笑みが浮かぶ。

「今度、追及しようかな…?」

「いいと思うよ…」

 二人そろって人の悪い薄笑いを浮かべていると、足下にサッカーボールが転がってきた。

「ママー、ボール取ってー」

 グラウンドからヴィヴィオが手を振っている。

 子供達はサッカーをしているのだから、ここはキックでパスするのが様になると考え、娘にいいところを見せようと、なのはは立ち上がる。

 目標をヴィヴィオの手前にさだめて、返事をする。

「いくよー」

 この時点でなのはのイメージの中では、蹴られたボールは見事な放物線を描き、ヴィヴィオの手前でワンバウンドするはずだった。

 しかし、実際にはボールをキックしようとした瞬間、右足を後ろに振り上げすぎてバランスが崩れる。不自然な体勢でキックした衝撃が、さらに重心を狂わせる。なのはの好むロングスカートという、動きにくい格好が更にそれに拍車をかける。

 それら全てを補おうとして、連鎖的に重心が乱れていく。空中にいるときには誰にも負けない姿勢制御が、地上ではなぜか状況を悪化させてしまう。

「わ、わ、わ」

 なのははとうとうひっくり返って尻餅をつき、ボールは明後日の方向に飛んでいった。

 即席サッカー選手達の視線は二つに分かれた。なのはを心配する視線と、ボールを追う視線。なのは自身は後者となった。

 頼りなく飛んでいくボールの軌道上に男の人の後ろ姿が見える。背を向けている男はボールが迫っていることに気がついていない。

「危ない!」

「ん?」

 なのはの叫び声に男が振り向いた瞬間、サッカーボールが襲いかかった。

 




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