管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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49暗夜の砲撃

 月村家のある隆宮市から、高町家のある藤見町までは結構距離が離れている。

 日が落ち人気の少なくなった郊外の道を、なのはが車を走らせる。

 両親や姉が待っている実家に帰る道のりだというのに、一人だけの車内を物足りなく感じているのは、家に帰るとヴィヴィオが迎えてくれるということが、当たり前になっているから。それだけ娘のことが可愛いから。

 少し親馬鹿かな。と、なのはが自分のことをおかしく思っていると携帯が鳴った。

 路肩に車を止めてディスプレイを見ると、恭也からの着信を示している。通話ボタンをプッシュ、電話に出と兄の堅い声が聞こえた。

「なのは、いまどこだ?」

「え、まだ、帰っている途中だよ?どうしたの?お兄ちゃん?」

「実は…、…が届い…」

 突然、通話にノイズが入り電話が切れた。

 レイジングハートが警告の声を上げる。

《警告、緊急事態です》

 一泊遅れて、周りの風景が霞かかった色合いに代わる。

「閉鎖領域!?戦闘用の強装結界!!」

 誰かがわたしに攻撃を仕掛けようとしている。車のドアノブに手をかけた瞬間。

《直上!来ます!》

 攻撃の種類を見極める間もなく、なのはは車外に飛び出し宙に舞った。バリアジャケットには、レイジングハートの警告を受けた瞬間にとっくに着替えている。

 爆音。

 強力な魔力砲に車が吹き飛ばされる。

 身構え、射線から射撃位置を特定。いた。

 銀髪に青い目の男が、真っ白なローブを風になびかせながら宙に浮いている。手には舞い散る羽の彫刻をあしらった長杖。その長杖からは余剰魔力が湯気のように立ち上っている。

《魔法術式推定・ミッドチルダ式、空戦オーバーSランク》

『だよね…』

 言われるまでもなく、相手から漂ってくる空気でなのはにも分った。相手は総量だけでも、とんでもない力を持っている。

 これほどの力を持った魔導師がいきなり襲いかかってくる理由は一体?

 いや、目的は後にしよう。既に相手は殺人未遂犯だ。たとえ一般市民でも現行犯逮捕ができる。

「こちらは時空管理局…」

「高町なのは」

 名乗り上げようとしたなのはの声を遮り、男が言う。

「本局武装隊 航空戦技教導隊 第5班所属。階級は1等空尉。エース・オブ・エースの二つ名を持つ『砲撃魔道師』」

(どうやら…)

 男が笑いながら続ける。

「出会えたな…。私はガンナー。比べよう、どちらがより『砲撃魔道師(ガンナー)』に相応しいか」

(わたし自身が目的みたいだね)

 狂喜を孕んだ視線に鳥肌が立ちそうになる。相手には話し合いどころか、あらゆるコミュニケーション手段が通じるようには見えない。

 閉じこめられた結界を破壊するにしても、まず、ガンナーを無力化する必要がありそうだ。

(分からないことばかりだけど、戦うしかない)

 間合いは長・中距離の間。射撃を得意とする魔導師の間合いである。

 ほんの少しでも、攻撃と防御がしやすい位置を奪おうと、なのはとガンナーは同時に動いた。

 前後左右、上へ、下へ、互いに相手の死角に回り込もうとしては失敗し、相手の斜線から逃れようとして高度な三次元機動を繰り返している内に、2人は徐々に円を描くように旋回し始めた。

 まさに、巴戦。ドッグファイトの戦闘機動。

 牽制もなしで相手の死角を奪うのは不可能。そう判断したのもほぼ同時だった。互いの周囲に次々と光球が現れる。

「シュートッ!」

 杖を振い魔法を発動。出現させたシューターを惜しみなく全て撃ち放つ。ガンナーも撃ってきた。

 不規則な軌道でガンナーに迫っていたシューターが全て撃ち落とされた。さらにガンナーの魔力弾が3発迫る。

(手数が多い)

 一発の威力と追尾性能はこちらの方が上だが、一度に管制できる弾数は向こうの方が上のようだ。

 弾の種類は恐らく誘導弾。大きく避けたのでは誘導弾の追尾から逃げ切れない、引きつけて敵弾の軌道修正範囲外に飛び出す必要がある。

 魔力をチャージしつつ上昇することで減速する。相手の弾が近づいたところで、急転進と急加速で誘導弾を振り切りつつ、ハイ・ヨー・ヨー機動の応用で、斜め上から相手の背中に回り込む作戦だ。

 だが、敵の誘導弾が突如として加速、まるで吸い寄せられるようになのはに迫る。

(振り切れない!!!)

「…ぅッ!」

《プロテクション》

 咄嗟に、再加速用にチャージした魔力を防御に変換。しっかりと受け止める。

(重い…)

 想像以上の力強さに顔をしかめる。敵弾が力を失う頃には、チャージした魔力を殆ど削り取られていた。

 再チャージしようと、魔力出力を上げると全身に痛みが走った。JS事件で使ったブラスターの後遺症。

(こんな痛みなんかに…)

 痛みには耐えられたが、『命を削るようなもの』とまで言われた自己ブーストで焼き切れかけた体が言うことを聞いてくれない。魔力出力を上げることができず、魔力を大量消費する戦闘機動中に、チャージは遅々として進まない。

 ガンナーが斜め上に宙返りをするようなシャンデル機動を取りつつ、杖をこちらに向け砲撃魔法の構えを見せる。

 牽制のため、残った魔力で三つシューターを放ち、相手の砲撃のタイミングを見計らう。

 敵の砲撃はシューターごと、なのはを薙払おうとしていたが、発射の直前でシューターを散開させるようにコントロール。なのは自身は落下するように降下して照準を外した。

 シューターはそのまま3方向から、ガンナーに迫る。これに対してガンナーは砲撃をキャンセルしただけで、他には何もしなかった。

「え!」

 余りに無防備な姿に、なのはは驚きの声を上げたが、驚きはそれだけには収まらなかった。直撃コースでガンナーに迫っていたシューターが、ガンナーに近づいた途端、突然軌道を変えてあらぬ方向に飛んでいった。

『誘導妨害?それとも、改竄思念?』

《不明。どちらも検知できません》

 レイジングハートに尋ねても、彼女のセンサーではとらえられない技術を使っているようだ。

 降下していたなのはは斜め-45度に下方宙返りし、位置エネルギーを速度に変換するスライスバックの機動を取り、拮抗状態を取り戻す。

 ガンナーが先ほどのお返しとばかりに、誘導弾を5発出現させ、放ってくる。先ほどと同じ弾なら回避は難しい。防御するのが妥当だろう。

 だが、防御しただけでは、チャージ速度に差ができてしまっている今の状態では、追い打ちを掛けられたらそこで終わりだ。

「フッ!」

 なのははバリアを展開させると同時に、先ほど外されたシューターを再誘導。シューターは、敵誘導弾がこちらに到達するより早く、ガンナーの背後から襲いかかった。

「むっ!」

 直前で気づかれた。背後からの不意打ちにガンナーには、バリアを展開する猶予はない。

 だが、シューターはまたしてもガンナーを掠め、あらぬ方向に飛んでいく。そして、敵の誘導弾もなのはのバリアに接触することなく、掠めただけで狙いを外した。

(相手も外した?どういうこと?広域波長の誘導妨害なら、自身の誘導さえ妨害してしまうこともあるけど、それならレイジングハートが検知して、教えてくれるはず…)

 しつこくシューターを操りガンナーを牽制すると、ガンナーは一気に降下しシューターを引き離すと、同時にこちらとも距離を取った。

 ガンナーがなのはの誘導範囲を離れた。単純な慣性誘導になったなのはのシューターに、ガンナーが杖を向ける。

 その射線の先には、なのは。砲撃魔法でもろとも薙ぎ払うつもりのようだ。

 だが、距離が離れすぎている。この距離の砲撃魔法なら、左右に蛇行飛行をするシザース機動で、十分に躱すことができる。

 なのはは左右移動を繰り返しながら魔力をチャージ。砲撃の打ち終わりの硬直を利用して、相手に一撃を叩き込むつもりでいた。

 敵が砲撃魔法を発射。

 直射型砲撃魔法の光の奔流がシューターを薙払ったが、予想通りなのはへの狙いは外れている。

 なのはが足を止め、砲撃魔法の射撃体制に入る。

《マスター!!》

「え?」

 レイジングハートの警告。

 警告の意味を理解する前に、全方位バリアを展開していた。

 ズンッ!!とバリアにかかる負荷を感じて、ようやく何が起こったのか理解する。ガンナーの砲撃が孤を描き、なのはに襲いかかったのだ。

(砲撃自体は確かに直射型の砲撃だったのに!?)

 なにかタネがある。そう確信してももう遅い。ガンナーが、一度捉えた獲物は逃さないと言わんばかりに、砲撃の出力を上げた。こちらも出力を上げ、バリアを強化しないと防ぎきれない。

 無理だ。出力が上がらない…

「あ、ぐっ!」

 魔力の代わりに痛みが走った。

 

 

 

 

 

《…スター、マスター》

「レイジングハート…?」

 遠くに聞こえる愛機の声がなのはの朦朧とした意識を呼び覚ます。

 意識がぼやけて自分が何をしているのか分からない。

《状況を確認して!!戦闘の継続を!》

「せんとう?_ッ」

 初めて聞くようなレイジングハートの叱咤で、意識が覚醒した。

 なのはは先ほど走っていた公道に倒れていた。周囲のアスファルトにはクモの巣状の亀裂が入り、撃墜され地面に叩きつけられたことを教える。

 バリアジャケットは上着が消滅している。リアクターパージが作動して墜落の衝撃を緩和してくれたようだ。

 なぜか追撃が来ない。

 空中にいるガンナーは、こちらを道に転がる石を見るような顔をして見下ろしている。

《警告。新たな魔力反応3。至近です》

 ガンナーと挟まれる位置に、フードつきの黒いチュニックを身に付けた男たちが現れた。

 腰には長い柄に放射線症に棘のついた輪を鎖でつなげた武器・ヒッターを下げている。アームバンドブレスや脛当てにもなるブーツを履いていることからみて、接近戦を得意とする陸戦魔導師であることが分かる。

 陸戦魔導師の行動はフォーマンセルを基本にしているから、結界の外でそれの強化を行っているフルバックも居る筈だ。

 その内一人・フロントアタッカーがヒッターを掲げる。

「ジベット」

「あつっ!」

 男の呪文とともにバインドをかけられ、人がようやく入れる程度の魔力の檻に閉じ込められた。レイジングハートにも封印処置が施される。

 男たちの内、指揮官らしき男がガンナーに向かって声をかけた。

「流石だな、ガンナー。空のシュタールをこうも容易く」

「ぬかせ!エース・オブ・エースと戦わせてやる。と、言われてきてみれば…。キズモノではないか!」

「ほう…、JS事件の負傷が癒えていないという噂は本当だったのか…。」

 指揮官がなのはを品定めするように、視線を這わせながら答えると、ガンナーは不機嫌な声で挑発するように指揮官に言った。

「そんな壊れたオモチャなど、どうでもいい。どうだ、貴様とて陸戦AAAランクの魔導師だろう、私と比べてみないか?」

「物足りないということか。それも一興だが、貴様の傭兵としての信用はどうする?依頼人に攻撃を仕掛けてくる傭兵など誰も雇うまい」

「娯楽を知らぬ、つまらん男だな。まあいい、こんな女では感じることもできん。依頼は達した、引かせてもらうぞ」

 言い捨ててガンナーは転移魔法で姿を消した。それを見届けると指揮官は自分のデバイスを手に取り。格納していたモノを取り出した。

 光が指揮官の手の中に収まる。光の元は球体の宝石の形をしていた。立方体の封印魔法で封印されたそれは、ジュエルシードによく似ているが、また別物のようだ。

「あなた達は?わたしをどうするつもりですか?」

 男たちは答えない。それはそうだろう。

 なのはは自分の声がどれほど空しく響いているか考えた。撃ち落とされ、拘束された自分は完全に無抵抗だ。取るに足らない相手の言うことなど誰が聞く?

 それでも時間稼ぎをしなければならない。出力の上がらない今の状態でバインドから逃れるためには、どうしても時間が必要だ。

 なんでもいい。相手の気を少しでもそらせる方法は?

 最後まであきらめないなのはが知恵を巡らせていると、指揮官の前に空間ウインドウが開いた。

通信相手は被っているフードのおかげで顔は見えないが、強装結界を張っているフルバックだろう。

『隊長、車両が一台近づいてきます』

「それがどうした?この世界の者なら、結界で…」

『乗っているのは、高町恭也です。それに、まっすぐこちらに近づいてきます』

 なのははハッとして顔を上げた。理由は分からないが兄が追いかけてきたようだ。

「やめて!」

 叫ぶが指揮官は動揺すらしない、無情に部下に命令を出す。

「…始末しろ」

『了解』

 空間ウインドウが消え、通信が途絶えた。

「お願い!やめて!」

 叫び抵抗を試みるが、関節を締め上げるバインドはビクともしない。

 宝石を片手に指揮官が近づいてくる。

 フッ、と、

 シャボン玉が割れるように、強装結界が解除され、結界内部特有の霞かかった夜空から、あざやかな星空に代わる。

 外側から結界を強化していたフルバックが、立ち尽くしているのも見える。

(結界が解けた?)

 魔導師が強化している結界が自然に解けるなどあり得ない。結界破壊の術式を使うか、術者が解除するか、或いは…。

 指揮官がフルバックに向かって口を開く。

「貴様、なにをしている」

「…」

 魔導師は答えない。返事の代わりに…、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちる。

 結界が解ける理由、もうひとつは、術者が結界を維持できない状態になることだ。

 その場にいる者達が息を呑む間も、なにが起こったのか理解する時間も与えず、魔導師の陰から剣士が飛び出す。

 




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