Force後の話を追加予定
魔法少女リリカルなのはStrikerS 6.5話
サウンドステージ「出張・機動六課!!? 緊急捜索任務in海鳴市?」の間、ミッドチルダでは…。
05出張! 緊急捜索任務の裏側で
「おはようございま~す」
「おはよう、アルト。夜勤、お疲れ様」
眠たそうな眼を擦りながら、アルトがグリフィスのいる隊長秘書室に入ってきた。昨日の日誌を提出に来たらしい。普通の地上部隊ならオペレーターのトップに提出するだけですむところだが、六課では部隊長が直接指揮を執っているため、毎朝夜勤についていたオペレーターが隊長を訪ねてくる。
「部隊長、今大丈夫そうですか?」
「いや、聖王教会から通信が入っているから今はちょっと。」
「え~、早く部屋に戻りたいのに~」
どうやら、昨日の晩は通信スタッフの先輩(本編には出てこなかった人達)が通信訓練を行ったようだ。疲れのせいか言葉づかいが悪くなっている。グリフィスは気に留めなかったが、口うるさい上司に見られたら…
コンコンコンコン
今時珍しい正しい回数ノックの音が響いた。それを聞いたとたん、アルトの背筋がシャキッと伸び、バタバタと服装の乱れをチェックし始めた。
いまどきこんなノックの仕方をするのは一人だけだ。アルトが落ち着くのを待ってから、もういいかいと、グリフィスが微笑みかけると、アルトはコクコクと頷いた。
「はい、どうぞ」
「入るぞ、ロウラン補佐」
返事をすると、長身で赤褐色の髪をオールバックにした男らしい顔立ちの人物が入ってきた。六課副部隊長にして後方勤務のドン、3等陸佐 ヴィルヘルム・チェスロック・ケーニッヒだ。アルト達若い隊員にとっては口うるさい上司と恐れられている人物その人である。
「ん、クラエッタ2士か、報告か?」
「は、はい、副長」
「そうか、異常がなくとも報告は重要だ。ヌケがないよう務めろ」
190㎝を超える長身の上に、基本的にヴィルヘルムは部下の前では感情をほとんど出さないため、地方公務員的な雰囲気を保っている六課の内でも生真面目な青年将校に見え、親しい人間以外には威圧感をあたえてしまうタイプである。
それほど親しい間柄ではないアルトにとっても変わらないらしく、顔を引きつらせている。と、そこにアルトにとっては救いの女神が現れた。
「グリフィスくん、おる~?副長を…て、お」
隊長秘書室奥の扉を開け、機動六課長八神はやてが顔を出した。
「お疲れ様です、課長」
「お疲れ様です、部隊長」
「おはようございます、八神部隊長」
その場にいる皆が敬礼すると、はやてがそう鯱張らなくてもいいと言うと、ヴィルヘルムが規則ですと淡々と答える。
アルトは、はやてに日誌に確認のサインを貰うと逃げ出すように秘書室を後にした。
「副長は、わたしに何の用やろか?」
「はい、こちらを届けに」
「ああ、次元航行艦整備の見積もりな」
ヴィルヘルムも書類を渡すと早々に立ち去ろうとしたが、はやてが呼び止めた。
「たった今騎士カリムから、派遣任務の命令が入ったんや。スターズ、ライトニング両分隊、シャマル、リイン、わたしの主要メンバー全員で出動します。」
「主要メンバー全員で?レリックですか?」
「決まったわけやあらへんけど、ロストロギアがらみや」
「派遣先は?」
「第97管理外世界」
「課長の出身世界?しかし、だいぶ遠くに戦力を送ることになります、管轄外を理由に断ったほうがよろしいでしょう」
「「レリックの可能性も捨てきれない」と言うのがお偉方の言い分や、断れそうもありまへん」
「なるほど、人手不足ですか」
レリックは第一級捜索指定にあたるが、すでに複数発見されているロストロギアである。発見されたロストロギアがレリックならば、とっくに判別されレリック発見の報が六課にも届いているはずだ。
「レリックの可能性も捨てきれない」というあいまいな情報でレリック専門である六課を動かすということは、カリムの手持ちのどの部隊も動かせない状態と考えるのが普通だ。そして、はやては直接の上司であり六課の後見人でもあるカリムの依頼は断れない。
ヴィルヘルムはため息をついてから、
「しかたありません。ロウラン補佐、交替部隊を召集、待機シフトに移行させろ」
「はい、わかりました」
グリフィスが自分の端末から交替部隊に連絡を回し始めた。
「わたし達は2時間半後に出発。以降の指揮を頼みます」
「了解」
はやての言葉に、ヴィルヘルムは教本に出てきそうな敬礼を返した。
『クラナガン郊外にて立てこもり事件発生。犯人グループは人質を取り、AMFを使用している模様』
その報告を受けてヴィルヘルムがHQ(六課作戦本部)に入るとシャーリー達オペレータースタッフが落ち好かない様子でコンソールを操作していた。グリフィスでさえ表情が硬くいつもと様子が違う、はやてが指揮を執っているときは交替部隊待機室につめて、HQに顔を出さないヴィルヘルムが入室したことにも気が付かず、時空間通信ではやてと連絡を取っている。
「部隊長、お戻りください」
「ここからだと最速でも1時間以上はかかってまう」
通信用空間モニターに映るはやてはエプロン姿だった。どうやら夕食の支度をしていたらしい、深刻な表情をしているので何ともアンバランスだ。
「ともかく、一旦ロストロギア捜索の任務を中断…」
「課長、フォワードを戻す必要はありません」
「え」
前線メンバーを引き揚げさせようとしたはやてをヴィルヘルムが止めた。
ヴィルヘルムが発言したので、彼に気付いていなかったグリフィスがビクッと驚く。それを眺めながらヴィルヘルムは、この部隊の未熟さに気付く。
(組織のトップにカリスマがあるのも問題があるな。准曹士が幹部に依存しているようでは、部隊の柔軟性も抗堪性もなくなってしまう。今後、前線メンバー不在時の行動マニュアルを作成すべきだろうか…)
十年選手の隊長達はともかく、若い隊員が多く経験豊富な下士官が少ないことにも問題があるのだろう。ヴィルヘルムはそう考えたが今は口に出さず続ける。
「ロウラン補佐、ロングアーチ諸君も落ち着け。課長、本局から出動要請は出ていません。現在のところAMFの反応は確認されていますが、レリック、ガジェットともに確認されていないのを理由に地上本部が海の介入を拒んでいるようです。彼らにもプライドと力があります、独力で解決できるでしょう」
地上部隊には縄張り意識が強い指揮官がおり、本局どころか同じ地上部隊の支援さえ嫌う者までいる。特に一般的な部隊の常識を無視した戦力を保有している六課は、戦力不足に悩まされている陸上警備部に好印象を持たれているとは言い難い。
「そうやけど、相手がAMF使っとる以上黙っとるわけにはいかへん。クロノ提督と騎士カリムに連絡、なんとかそちらに向かえるよう、命令を出してもうわ」
「それはお勧めできません、課長」
「なぜや?」
「地上からの正式な要請が出ていない今の状況では、ロストロギア捜索を中断すると任務放棄、管理外世界の安全を軽視している。と、騒ぐ輩も出てくるでしょう」
こんどは本局内の事情だ、六課後見人のクロノとカリム二人とも若くして将軍以上の地位を手に入れた人物だ。二人とも名門の出ということもあるが何よりも、能力的にも人格的にも優れている。だが、それ故に敵も作ってしまう。能力主義といわれる本局もまた人間が運営する組織でしかない。
はやては部下の前で不愉快さを顔に出さないようにするのに苦労した。ヴィルヘルムの言葉が正しいのを認めたからだ。フェイトが指揮する捜査班のおかげで、レリック事件の主犯はジェイル・スカリエッティだということは判明している。しかし、この時期にAMFを使ってくる以上、犯人グループがガジェットと何らかの接点を持っている可能性はゼロではない。しかし、クロノとカリムにリスクを背負わせるほどの情報を彼らが持っているだろうか…
「課長、私はフォワードを戻す必要はありません。と、申し上げました」
「え」
はやての葛藤を知ってか知らずか、ヴィルヘルムが口を開いた。
「許可を頂けるのならば、立てこもり事件は交替部隊のみで対処が可能です」
ヴィルヘルムは、まるで車の運転ができると言うのと同じぐらい当たり前の口調で断言した。
「AAAランクの技術が必要なAMFを使っている相手に油断でけへん」
「油断などしておりません、AMF濃度、効果範囲から計算して、AMFはガジェットⅠ型換算で数機程度、犯人グループの武装も個人武装の域を出ておりません。この程度の相手にエースなど不要です」
「…いけるんやな?」
「当然です、課長」
「お手前、拝見させてもらうで、副長」
「了解」
はやてから行動の許可を取った、ヴィルヘルムの行動は早かった。上に掛け合って地上部隊から捜査権を委譲させるように訴え。警戒態勢を上げ交替部隊をいつでも出動できるようにする。事件の担当している部隊を調べると、その部隊内のさらに何人かコネのある者と連絡を取り、事件の情報を集め始めた。それを見たロングアーチメンバーは不思議そうな顔をする。
「副長、随分地上部隊にお知り合いが多いのね」
「副長はもともとあちこちの世界の地上部隊を回っていたらしい。母さんの話だと、他の世界やミッドの地上部隊にも相当顔が利くと言っていたよ」
「私語を慎め、フィニーノ一等陸士。ロウラン補佐、士官のお前まで一緒になってどうする」
「あ、はい」
「申し訳ありません」
謝罪したグリフィスにヴィルヘルムは質問をした。
「ロウラン補佐、現場の陣頭指揮を執ったことはあるか」
「いえ、ほとんど後方支援ばかりでした」
「なるほど、では今回は私が指揮を執る」
ヴィルヘルムは戦力を確認した。機動六課は地球の軍隊に置き換えれば陸軍なら中隊、海軍なら駆逐艦を運用する規模、部外委託の部署(アイナなどが所属)を含めると約200名の組織である。その中で戦闘訓練を積んだ魔導師の集団、直接対応小隊はスターズ、ライトニング、交替部隊を含む約25名が所属している。この人数を警戒待機、準待機、休暇などシフトで回している。現在、すぐ使える戦力は空戦魔導師4名、陸戦魔導師4名、騎士4名、4人1組の編成なら3分隊分の戦力になる。空戦分隊をエア、陸戦分隊をグランド、アースと呼称している。
「グランド、エア両分隊は直ちに車両にて出動、種別E6。エア分隊はポイントD29、グランド分隊はポイントG5に待機。アース分隊はヘリで待機。ただし、次の命令があるまでエア分隊とグランド分隊は全員私服で行動しろ」
「え、私服で…」
「そうだ、現在はまだ正式な命令が下っていない状態だ。六課の部隊章を付けた管理局員が現場に近づくわけにはいかない」
正式な命令が下りる前に現場に本局の職員が顔を出すと、地上部隊の士官が過剰反応する可能性がある。隊員の配置は速やかに、かつ秘密裏に行うのが望ましい。
そもそも、魔導師が行動する際にはバリアジャケットになる。私服だろうが制服であろうがあまり関係かない。さらに言うなら、そもそも六課ではほかの武装隊のようにバリアジャケットの規格が統一されていない。バリアジャケット自体が私服のようなものだ。
ちなみに「部隊服装容儀規定で定めるべきだ」と、ヴィルヘルムははやてに上申しているのだが、部隊長、武器・デバイス班から、「そないなの、しょーもない」と却下されている。
それから20分余り交替部隊の配置は完了したが、命令がまだ下りてこない。どうやら、現場で指揮を執っている陸上警備隊部隊長が相当ごねているようだ。六課からも直接交渉しようとしても通信に出ようともしない。それでも、ヴィルヘルムもういちど通信士のアルトに連絡を取るように命じた。
「りょ、了解しました」
アルトが自信なさそうに返事をすると、ヴィルヘルムは命令を付け足す。
「ただし、部隊長に世話になっている法律相談事務所から、緊急だと言ってやれ」
「法律相談事務所ですか?」
「そうだ」
アルトは半信半疑ながらも、ほかにうまい方法も思いつかなかったので言われたまま実行する。するとあっさりと部隊長が通信に出た。プライベート通信に切り替えられ音声のみの空間モニターだったが、先方の部隊長の声は甲高く、しかもかなり謙った話し方をしてきたので、アルトには卑屈に聞こえてあまり好感が持てなかった。
「先生、緊急の用事とはどういったことでしょうか?」
「立てこもり事件の指揮を執っている最中に、弁護士と相談とは随分後ろ暗いことがあるようですね、部隊長殿」
「む、誰だね」
ヴィルヘルムが指揮権の移譲を促すと、部隊長はガジェットやレリックが確認されていないこと理由に断った。確かに理屈ではそうだ、六課の表向きの管轄はレリック事件、ロストロギアでも絡んで来なければ管轄違いを主張できる。だが、短時間でも部隊長のことを調べたヴィルヘルムにとっては白々しい屁理屈にしか聞こえない。
「なるほど、市議会選に出るあなたとしては、派手な突入シーンを演出したい、と」
「ッ…、な、何のことだ。無礼なことを言うな!」
「失礼、では、こういうのはいかがでしょう。」
ヴィルヘルムは、事件はあくまで陸上警備隊の突入で解決したとマスコミに発表することを条件に、犯人と証拠品をすべて六課が引き取ること。万が一制圧失敗してもヴィルヘルムの責任にしてもかまわないと提案した。
部隊長はこの提案の「失敗してもヴィルヘルムの責任」というところが特に気に入ったらしい。二つ返事で指揮権を移譲してきた。その態度の変わりようにアルトは顔をしかめる。
「相手の態度でいちいち表情を変えていたらオペレーターとしては二流だぞ、クラエッタ二士」
「す、すみません」
「それにあの手のモノはすぐに痛い目に遭うものだ」
「?」
アルトは首をひねったが、ヴィルヘルムは取り合わず、現場指揮を取るためヘリポートに向かった。
「各分隊フルバック、情報収集はできているな!ロングアーチ、各分隊からの情報を総合分析しろ!!」
滅多に聞けない副長の怒鳴り声に隣で操縦をしていたヴァイスはギョッとした。最新ヘリ、JF704式は従来のヘリに比べてかなりの騒音低減に成功しているが、耳元で叫ばないと、ろくに話もできない旧型ヘリに慣れているヴィルヘルムは通信デバイスにかなりの大声を出している。アルトが通信用の空間モニターの前でビビっているのを想像しヴァイスはニヤニヤしたが、すぐに気持ちを切り替え上官に対する口調で言った。
「副長、具申します」
「なんだ、ヴァイス陸曹」
「この704式は静粛性に優れています。もう少し小声で話しても大丈夫ッス」
「なるほど、注意しよう」
ヴィルヘルムがあっさり受け入れたので、ヴァイスは少し意外に思った。上下関係をうるさく言うだけの上司かと思いきや意外と話せるタイプなのかもしれない。
そうこうしているうちに情報が集まってくる。敵の人数、配置、装備、建物の構造、人質の位置。
立てこもり犯は10階建ての雑居ビルの最上階、とある政治団体の事務室を占拠したようだ。確かに解決できれば、政治家にコネを作ることができる。出世欲の強い人間が張りきるわけだ。
「使っている装備の割に戦術がなっていないな」
「そうなんすか?」
「そうだ、素人だ。暴発する前に制圧する。ヴァイス、陸上警備隊のヘリの音にまぎれてビル直上へ近づけろ。」
ヴァイスが巧みな操縦でビルの間を縫い、死角からヘリを現場直上に近づいていく。
「各分隊長、対応D4。内部の状況はロングアーチの報告のとおりだ。犯人の数は8名、AMF装置6機だ。人質7名は2グループに分けられ、犯人が2名で見張っている。2グループの間はパーテーションで仕切られている。残り4名はフロアの中央で交渉や休憩を行うために待機中だ。建物の構造と各対象の位置関係を頭に入れておけ。エア分隊フロントアタッカー、ガードウイングは窓から、グランド分隊は非常階段扉から、アース分隊は屋上に降下後突入せよ。」
「こちらエア1、センターガードとフルバックはどうします」
「お前達は伏兵だ、狙撃ポイントを確保した後、情報収集を続けろ」
ビル直上でJF704式がホバリングする。すぐさまカーゴベイハッチが開き、アース分隊はフォアストロープを使い降下。フルバックがカード状の簡易デバイスを屋上に設置する。一方、10階非常階段扉前に配置したグランド分隊は、使い捨てデバイスのバッティングラムにカートリッジを込める。エア分隊が死角から窓に近づく。
「グランド1、準備OK」
「アース1、同じく」
「エア2、突入準備完了」
「よし、行け!」
合図と同時にアース分隊が設置した簡易デバイスに封じ込まれていた炎熱系の術式が発動し天井に大穴をあける。真下にあったAMF装置が巻き込まれた。
新しくできた入口からアース分隊のセンターガードが強烈な閃光弾を放り込む、魔力結合無効にするAMF内といえども魔法で発生した物理現象までは止められない。強烈な光が犯人たちの目を焼いた。
バッティングラムでドアを破ったグランド分隊は、1名がデバイスだけを室内に突き出す。すると犯人が眩暈を起こし始めた。デバイスの先から放たれたのは超低周波、浴びると眩暈、吐き気を引き起こし、運が悪いと失神してしまう強力な出力だ。犯人の近くに座らされていた人質たちもなんだか苦しそうだ。
フロアの中央に居た犯人たちは二か所からの轟音に驚いた。ある者は受話器を持ったまま硬直し、またある者はコンビニ弁当やミネラルウォーターのボトルを取り落としそうになった。一瞬後、窓から飛び込んできた圧縮空気弾と実体弾にAMF装置が吹き飛ばされ、それに巻き込まれ1名が気を失った。
閃光弾が消えた途端、フロントアタッカーは穴から飛び下り犯人に接敵すると、切り詰めた杖を相手に押し付ける。雷鳴のような轟音と共に散弾が発射され、犯人の意識と体を吹き飛ばす。いくらAMF内といえどもここまで接近してしまえば、魔力の結合が解除される暇などない。フロントアタッカーがもう一人の犯人に振り返ると、相棒のガードウイングが槍の石突きで相手を気絶させたところだった。
(なんだ、この吐き気は!)
ドアが破られると当時に襲いかかってきた、眩暈と吐き気を堪えながらなんとか周りを見渡す。目に入ったのはリーダーが持って来た『切札』だった。薬のカプセルのようなボディに動力を強引に取り付けているため、不格好な長靴のような形をしていて、その中心に矢が突き刺さっている。
(え、矢だって!)
もちろん、そんな矢が部品のはずがない。一緒に組んでいた仲間に声をかける。
「オイ、切札が…」
反応がない。
「オイって」
振り向くと倒れた仲間と斧槍をもった管理局員。
「あ」
慌てて手に持った猟銃を向けようとして、横合いから飛んできた魔法弾にこめかみを抉られ意識を失った。
窓ガラスがまき散らされ、弁当やペットボトルがひっくり返る。人質のいないフロア中央は射線にさえ気を使えばいいだけだ、遠慮ない攻撃ができる。最初の初撃でAMF装置を破壊され、比較的疲労が少ない通常非殺傷弾を窓の外から連射され、犯人の1人が数発モロに食らって倒れ伏す。それを見た1人が怯え頭を抱えて震えだす。最後の一人はもう少し根性があったようだ、床を這って人質のもとへ向かおうとしているが…
パーテーションの陰から短い杖や槍、斧槍や弓を持った管理局員が現れると観念したようだ。持っていた大型ナイフを放り出し両手を上げた。
部下達からの制圧の知らせを受けると、念のため犯人達の武器の封印処置とバインドでの拘束を命じ。グランド分隊に人質たちをあらかじめ呼んでおいた救急車両へ誘導するように指示を出した。全く出番のなかったエア分隊の二人からの不満の声も上がったが、ヴィルヘルムは無視し、そのまま待機させた。
「念のため眠り姫にも用心しろ。ロングアーチ、こちらバックヤード0、犯人達の無力化に成功、人質達の誘導を開始する」
制圧完了の知らせを聞いてロングアーチの面々が色めき立った。現場経験の浅いアルトやルキノにしてみれば、高ランク魔導師がいない交替部隊だけではもっと苦戦するものだと思い込んでいたらしい。人口が一千万人を超えるミットなど大都市では日常的に犯罪が発生する。そういった事件を解決しているのは彼らのような普通の魔導師部隊で、彼らの支えがあるからこそエースが活躍できる、ということをいまひとつ理解できていない。
(エースを支えるのではなく、頼っているようではこの部隊もまだまだか。)
武装隊では古参の下士官が若い士官やエースを捕まえて『俺達がいないと何もできないお調子者』と言ってのける者も結構多い。そして、兵士や下士官がそのくらいの気概と自信を持っていなければ、部隊の錬度は低いと言わざるを得ない。
(陸戦Dランク、事務方の私が教育を行っても効果を薄いだろうな。今度、課長又は高町3尉に直接教育を実施してもらうべきか)
ヴィルヘルムが今後の部隊運営に頭を悩ませていると、状況に変化が起こった。 人質の一人が隠し持っていた折り畳みナイフを取り出し、一番近くにいたほかの人質突き付ける。
「どうします…」
遥か眼下で何かを大声で主張している新しい犯人を見ている上司に、ヴァイスは緊張した面持ちで聞いてきた。ヘリの操縦桿を握る右手の人差し指が無意識に動く。
「どうする必要もない。グランド分隊ほかの人質の動きにも警戒しながら、犯人に圧力をかけろ」
分隊にデバイスを向けられた犯人は怯え、威嚇のため分隊員に向かってナイフを振る仕草をする。そこに…
エア1の放ったスタンバレットは正確に犯人を射抜いた。
「副長はこうなることを予想していたんスか」
「いや、私は予言者ではないからな。9割がたエア1の配置は無駄に終わると考えていた」
「なら、どうして伏兵を…」
崩れ落ちる犯人を見ながらヴァイスが尋ねると、ヴィルヘルムはすぐに答えず別のことを聞き返した。
「ヴァイス陸曹、精強な部隊。あるいは強力な組織には何が必要だ?」
「最新鋭のヘリッスね、こいつがなけりゃ始まらないッス」
ヴァイスは突然聞かれて、慌てたがなんとか言葉をひねり出した。少々、趣味に走った答えだったので上司が怒るのではないかと心配したが、上司は小さく笑っただけだった。
「ヘリパイロットらしい考えだな、悪くない。准曹士としては…」
「士官としては、違うと?」
「そうだ、私の答えは『備え』だ。不測の事態にも対処できる準備こそが部隊には必要だ」
ヴィルヘルムは断言すると、新しい犯人の拘束と撤収の指揮を取り始めた。
翌日、機動六課部隊長室にはヴィルヘルムの姿があった。
「まずは、わたしが不在中の部隊指揮、お疲れ様やったな~」
「見事な指揮だったと聞いてますぅ~」
手のひらサイズの妖精の姿をしたリインフォースが惜しみのない賞賛を送った。はやての補佐でもある人格型ユニゾンデバイスの彼女は、職場では「ちっちゃい上司」として親しまれており、褒められた部下たちは照れ笑いを返すのだが、ヴィルヘルムは表情一つ変えることなく…
「いえ、私の仕事をしたまでです」
と、返しただけですぐに立てこもり事件の報告に入った。おおよそ推測していた通り、犯人グループはジェイル・スカリエッティとは何の関係もないそうだ。
分かっていたこととはいえ、はやては思わずため息をついてしまった。スカリエッティはロストロギア関連以外にも数多くの事件で広域指名手配されている次元犯罪者で、本局執務官であるフェイトは何年か前から彼を捜査対象にしているにも関わらず、尻尾を掴ませない極めて厄介な相手だ。本局査察部や教会騎士団の捜査協力もあるが、はやてとしてはそれに頼らず自分達でも手掛かりを掴みたいと思っている。しかし、部下に苦労をかけた上に全く成果なしとなると自分が情けなく思えてくる。
「ごめん、無駄骨を折らせてしもた」
「いえ、私としては成果が全くなかったとは言えません」
「と、いうと?」
はやては興味を引かれ、説明を促した。ヴィルヘルムは携帯端末を操作し、写真を空間モニターに映し出した。
「これは!」
「犯人グループの使っていたAMF装置です」
映っているのは昨日使われたAMF装置だが、本体のカプセル状部分は、ひび割れや凹みはあるものの間違えなくガジェットドローンⅠ型だった。
「これって、ガジェットじゃないですか!スカリエッティと関係なくないですよぉ~」
「リイン、落ち着きぃ。副長、続けて」
「リインフォース曹長の言うとおり、この装置は動力装置を抜かれたガジェットⅠ型に市販の動力装置を取りつけ作動させていたものです」
「問題はその出所やろ」
「はい、これらは六課発足前、ヴィータ3尉達が破壊したものを研究用として地上施設に保管していたもののようです」
「…横流し」
「はい」
「最低ですぅ」
リインフォースが軽蔑した表情をして言うのも無理はない。組織が巨大になれば当然人の目が届かない所は増えてくる。特に地上は本局に比べて予算が少ない、予算の差は待遇の差。それでもミットチルダの治安が保たれているのは、市民の信頼を得ようと日々働いている陸士隊員の努力の賜物だろう。小遣い稼ぎと称したこの手の横領は、彼らの努力を一瞬で無駄にしかねない。
「ほな、ヴェロッサに連絡して…」
「いえ、それはいけません」
「どうしてですかぁ?」
はやてを止めるヴィルヘルムの意図が分からず、リインフォースが声を上げる。
するとヴィルヘルムはこともなげに言った。
「施設管理の責任は地上本部にあります。このスキャンダルを利用しない手はありません」
ヴィルヘルムに言わせると今はまだこのことを手の中に握っておけば、地上本部や本局地上部門が何らかの政治的圧力をかけてきたときの一手に使えるという。
公開意見陳述会前に「アインヘリアルなんてものに予算を使うよりも、部下の管理に予算を使ったらどうだ」とは、騒がれたくないはずであり、地上本部が適当な人間を処分してもみ消すにしても多少の時間を稼げると、ヴィルヘルムは締めくくった。
「……」
リインフォースは横領の話を聞いたときと同じ表情をヴィルヘルムに向けたが、相手が上官ということもあって何も言わなかった。
しかし、この部隊でヴィルヘルムの唯一の上司は遠慮しない。
「いけず、腹黒、鬼、悪魔」
「せめて政治的と言っていただきたい」
「横領犯をそのままにして置く気はないんやな」
「当然です、より相手の嫌がるタイミングで捕まえてやる、と言っているのです」
「やっぱり、いけずやん」
「各隊員が必死の思いで勝ち取った信頼をドブに捨てようとした者です。報いを受けて当然です」
反論するヴィルヘルムにはやてが問いかけると、彼女の部下は強い口調で答える。
はやてにはヴィルヘルムの瞳がギラリッと光ったような気がした。政治的云々はともかく横領犯には本当に怒っているのかもしれない。
「わかったわ、この事件の指揮を取ったのは副長やし、この件はお任せします」
「了解」
はやてに敬礼するとヴィルヘルムは部隊長室を後にした。
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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