管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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51海鳴市の夜Ⅲ

 ドサリ、と、重い音を立てて、指揮官の体が崩れた。

「な、何が…」

 最後に残されたセンターガードは、恭也の動きを見切ることができずに、混乱していた。恭也の動きを捉えきれなかったこともあるが、何より自分たちの指揮官を信頼していた。表に出る仕事ではないため無名だったが、陸戦において自分たちの指揮官(エース)が負けることはないと信頼があった。例え相手が、噂のヴォルケンリッターであったとしても、単騎であれば自分たちのチームなら確実に仕留められる。とすら確信していた。

 だから、彼は頭上に凹凸のある長方体型の魔法陣が現れた事にも、忍者の姿をした魔導師が背後に降り立っていたことにも、気が付けなかった。

 凹凸のある長方体型の魔法陣は、蝶番で留められた開き戸のように開いていた。その先には全く違う光景が見えており、空間と空間を繋ぐ転移魔法であることを示している。

(確か、メルカバ人が考案した『動く本棚』。短距離転移魔法で発動速度も遅いけど、秘匿性に優れていて、追跡も難しいのが特徴だったよね)

 あまり普及している魔法ではなかったが、なのはは教導隊の資料で見かけたことがあった。

 センターガードの背後に降り立った忍者の位置取りは狡猾で、もし、恭也が忍者を敵と見て攻撃しても、なのはとセンターガードを盾にできる。

 そのことに気が付いた恭也がセンターガードより、忍者に意識の割合を割いたことで、センターガードも忍者の存在に気が付いた。センターガードは振り返ろうとしたが、そのころには、忍者はセンターガードの体を指で何度か突いていた。

 センターガードが今まで感じたことのない感触を味わう。体の力が抜けていき、リンカーコアの働きまで鈍くなっていく。

「…なにが…」

 「起こっている?」と、言葉を続けようとしたセンターガードの首を忍者が抱える。

 次の瞬間。

 魔導師の首はあらぬ方向を向いた。フードからのぞいた口がパクパクと数度動いて止まる。

 忍者は死体を抱え後方に跳ぶと、センターガードの腕から宝石を奪い取った。

 術者が居なくなったことで、なのはを拘束していたバインドが崩れ始めた。機を逃さずなのはが拘束を振り払うと、バインドは砂糖菓子のように崩壊した。

「なのは、無事か?」

「うん」

 駆け寄ってくる兄にそれだけ答え、レイジングハートを再起動。忍者に問いかける。

「評議会調査室の方ですよね。地球での活動は…」

<死体から離れろ>

 忍者はなのはの言葉など聞かずに魔導師の死体を放り出し、なのはよりも恭也の牽制をしながら、さらに後方へ跳んで間合いを離す。

≪警告。炎熱魔法4≫

 再起動したばかりのレイジングハートが警告して、対炎熱バリアを展開する。魔法陣がなのはと恭也を包むと、直後。

 死体が燃え上がり、4つの火柱が夜空を照らす。チームの全滅を確認すると、魔法が発動するようにデバイスにあらかじめ組み込まれていたプログラム。明らかに証拠隠滅用の細工だ。

 火炎が収まる頃には、魔導師達の遺体は跡形もなく燃え尽きていた。敵のデバイスも殆ど原型を留めていない。

 そして、忍者もまた姿を消していた。どさくさに紛れて現れたときと同じように、転送魔法で撤退して行ったのだろう。

「なのは、今の奴らに心当たりはあるか?」

 『心』で周囲に敵がいないか探った後、恭也が聞いてきた。

「フードの人たちのことは、分からない。でも、あの忍者はお姉ちゃんと戦った忍者で間違いないと思う」

「狙いはお前だな」

「たぶん、理由は分からないけど…」

「そうか、俺の仕事に巻き込んだかと思ったんだが…。相手が魔導師となると違うようだな」

 恭也が珍しく言いにくそうだ。

 恭也の仕事はボディーガードで、まれに要人や有名人の護衛を務めることもある。当然、加害者側から逆恨みを受けることもある。だが、襲ってきたのが魔導師となると無関係だろう。

「そういえば、お兄ちゃん。どうして、すぐに追いかけてきてくれたの?」

「ああ、これだ」

 なのはの疑問に、恭也は携帯を取り出す。

 開かれたディスプレイには、メールが開かれており内容は、

『高町なのはの命はもらった』

 と、ある。簡潔な脅迫文だ。

「一応、送信元は調べてみるつもりだ」

 恭也の口調から察するに望み薄のようだ。通常の地球の技術でもこの手の追跡を逃れる方法はあるし、相手が管理世界の魔導師だった場合は、地球より数十年以上先の先進世界の技術を使っている可能性が高い。通信経路からの犯人の特定はまず不可能と言っていい。

 しかし、なのはは兄の心遣いに感謝し、そのことには触れなかった。

「ありがとう。フードの人たちのことは、完全にこっち(魔法)のことだから、自分で調べてみるよ」

「大丈夫なのか?」

「うん、エイミィさんの得意分野だから…」

 心配する兄に説明すると、早速、エイミィからの通信が入った。先ほどの戦闘を監視システムが捉えたのだろう。空間モニターが開き、エイミィの姿が映し出される。

『なのはちゃん!聞える!?』

「はい、エイミィさん。こちら、高町なのは」

『よかった、やっと繋がった。強装結界は張られているし、通信は繋ながらないしで、心配していたんだよ。怪我はない?』

「大丈夫です」

 エイミィの言葉になのはは答えると、武装隊員の顔をして報告をする。

「魔導師6名と遭遇。5名に襲撃を受けました。1名は撤収。3名は撃退。1名は例の忍者が撃退しました」

『忍者!今そこにいるの?』

 モニターの中のエイミィが驚きの声を上げて、こちらの背後を覗き込もうと体を左右に動かす。

「いいえ、襲撃され戦闘を行っている間に、忍者の一名が現れ襲撃犯の一名を撃退後、撤収していきました」

『そう…、それにしても、流石だね。後遺症が残っているのに3人もやっつけちゃうなんて』

 エイミィはなのはが魔導師達を撃退したものと信じて疑っていないようだ。呑気な声を上げている。

「いいえ。その…、魔導師達を撃退したのは私の兄です。逃亡した魔導師以外の4名は全員死亡しました」

『え、ええっ!…あッ!えっと…』

 エイミィは魔法の使えない人間が魔導師を倒したことも、恭也が人を殺したことも信じられないようだ。エイミィも美由希が武術を習っていたことも、その師匠が恭也であることも知っていた。

 しかし、エイミィの常識では、訓練された魔導師相手に肉体だけを利用した白兵戦だけで戦うことなどできない。と、思っていたし、普段の恭也と美由希は善良そのもののため、相手を殺傷するところなど想像できなかった。

 驚愕を露わにするエイミィに対して、なのはは兄を弁護した。

「エイミィさん、魔導師達は殺傷設定の危険魔法を使用していました。兄の行為は正当防衛です」

『あ、うん。ちょっと驚いちゃって』

 エイミィは驚くのを心の中で後回しにすることにしたらしい。深呼吸をして冷静さを取り戻すと、他に気が付いたことはないかと尋ねてきた。

「魔導師達は、わたしになにか魔法の処理をするつもりだったようです。」

『根拠はあるの?』

「魔導師達はわたしにバインドをかけた後、ロストロギアと思われる宝石状の魔導物質を使用しようとしていました。魔導物質は戦闘中に忍者が強奪しました。が、魔導物質及び魔導師たちの画像を送信します」

『確認したよ。調べて見る。いま、アルフを向かわせているから合流して』

 エイミィの通信を引き継ぐ形で、新たなウインドウが開く。

 映し出されたのは狼の耳と尻尾をもつ15~16歳ぐらいの少女の姿をしたアルフ。執務官フェイト・T・ハラオウンの使い魔だ。

『なのは、あたし、アルフさ。もう少しで着くから恭也から離れるんじゃないよ』

「うん」

 返事をしながら兄に腕を絡めると、恭也は頬をかいた。

 間もなくして、アルフが空から舞い降りてきた。普段は戦闘員としての現役を退いた彼女?は、普段魔力消費の少ない10前後の少女の姿をしているのだが、緊急時ということで本来の姿に戻っている。

「なのは~、大丈夫だったかい」

「わたしは平気。でも、お兄ちゃんが…」

「かすり傷だ、問題ない」

 そうは言っても治癒を受けたほうがいい。

 アルフが治癒用の結界を張り、恭也の回復を待つ間、なのはとアルフはフード付きが使用していたデバイスの残骸を回収することにする。

 その残骸の一つをアルフが摘み上げる。

「あちゃー、これじゃ復元できなさそうだねぇ」

「フリートウッド・シリーズ40から70のどれかだと思う」

「知っているのかい?」

「これでも教導官です」

 エッヘンと胸を張って答える。

 フリートウッドは、管理局黎明期に構造の単純さと耐久性で、各世界に広く出回った量産型デバイスだ。既に管理局の主要デバイスは、長杖型と槍型が主流となり旧型になっているが、その分安価な払い下げ品が地方世界や後進世界で多く使われており、いまだに改良型パーツやソフトウエアの更新が行われている。

 なのはの所属している戦技教導隊は、最先端の装備や戦闘技術の研究をしている部署ではあるが、訓練部隊の仮想敵としての役割を担うこともある。必然的に、地方世界や後進世界の出身の魔導師達が使っているデバイスにも詳しくなっていく。

「でも、大量に生産されているってことだから、持ち主の特定は難しいね」

「なるほど、こりゃ、クロノに頼んで、とっとと捜査部隊を送ってもらうしかないね」

 捜査は門外漢のなのは達では太刀打ちできない。残りの残骸を小型のクリスタルケージで回収して、撤収準備をする。

「終わったのか?なのは」

 恭也の治療も終えたようだ。撤収に掛る。

「これからどうする?なんなら俺がついてようか?」

「…ヴィヴィオに余計な心配をかけたくないから…」

 迷ったが、狙われているのが自分なら、今晩は娘を恭也に預けた方が安全だと判断した。月村邸に戻るよう言うと、恭也は納得できない表情をしている。どう説得しようかと、なのはが迷っているとアルフが助け船を出した。

「大丈夫さ、高町の家の周辺はセンサーを増やしているから、何かあったらあたしがすぐ駆けつける」

「そうか…」

 恭也はこれ以上妹の力になれないことを残念に思っていたが、それ以上は言わず、代わりに気になっていたことを口にした。

「ところで、なのは」

「なに?」

「帰りはどうするつもりだ?」

「飛んで帰るよ?」

 当たり前のように答えたが、兄の質問の意味が分からず首を捻る。

 恭也は答える代りに視線を周囲に戻した。

 周りには、ガンナーの砲撃を受けてひっくり返っているなのはの車。外灯やガードレールがひしゃげ、無数のヒビがはいった路面が広がっていた。

 確実に警察沙汰になる。

「非常にアレな状態なんだが?どうする?」

「…あっ」

 

 




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