管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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52たまには、のんびりお休みⅠ

 壊滅した難民キャンプから、僕を回収したのは612の番号を付けた兵士たちだった。

 兵士たちに連れてこられた消毒液臭い施設で、僕を含めた数名の子供達は毎日のように、検査を受けていた。

 ボクの検査をしている白衣の人物達が、ミッドチルダ語で話をしている。どうにも、こちらがミッドチルダ語を話せないと思っているらしい。

「なかなか、いないわね。レリックに対して適性のある素体は…」

「そんなものだろう。もともと、古代ベルカ王族血統にのみ許された技術だ。ここにいる連中は、その真逆だろ。精々旧式の戦闘機人システムに適応があるのが数人か…」

「あれ、戦闘機人と言えるのか?出力の低い人工リンカーコアを作る出すのが精一杯だっただろ」

「確かに、必要ないわね。タイプ・ゼロ計画は進行中でしょう。比較実験をするための素体程度に思ってるんじゃない?無限の欲望は…」

「評議会はヤツにおもちゃを与えすぎじゃないのか?お、この子も適性ありか…」

「よし、保存して置きますよ」

 白衣の一人がボクの傍に来て、現地語で言った。

「さあ、この筒の中に入って、眠りなさい」

 

 

 

 目を覚ました時、始めに見たのは眠る前に声を掛けてきた白衣の一人だった。が、前より少し若さが無くなっているように見えた。

「いいかい。君達には明日から順番に引っ越しをして貰うことになった。まずは君からだ」

 男は僕を違う部屋に連れていくと、椅子に座らせ、僕の腕にゴムのチューブを巻いた。

 そして、一度見たら忘れない、危険を感じさせるデザインのマークが印刷されたアンプルを取り出した。

「これを注射したら出発だ。引っ越し先のバタシュまでは車で移動するから、そこからは自分で管理局のバタシュ駐屯地を目指しなさい」

 注射してくる男に、何処のことかと聞いた。町の名前は聞いたことがない。

「んん?なんだ、出身地が違っているのか…。…適当な書類作りやがって…。まあ、いい、…そうだな、町に着いてから、陸、空、海をモチーフにした紋章を付けた人達に聞きなさい」

 男は慎重に注射針を引き抜くと、添え付けの有線通信で誰かを呼んだ。

 扉を開けて男が二人、入ってくる。

「準備は完了だ。今から24時間後には、発病する。念の為、12時間後以降の接触は避けろよ」

 うなずいた男達が僕を見る視線は、怯えていた。

 猫なで声で、話しかけてくる。

「さあ、おいで、坊や」

 男の後に続いて地下駐車場に、用意されていた車高の高い車に乗り込むと、運転席に座った男が声を上げた。

「あれ、エンジンが掛からない」

「あん?なんだよ、整備不良か?」

「坊や、少し待っていてくれ」

 男達が車を降りたと、同時に照明が全て落ちた。

「_ッ!」

「な?」

 男達が発した声はそれだけ、その後は一言もしゃべらなくなった。

 駐車場の非常灯が2~3回瞬き点灯した。

 オレンジ色の照明の中に、いつの間にか現れた数名の兵士たちが立っていた。兵士達は手にした武器はまちまちだったが、全員が一人の兵士の方向を向いている。

 …女の人だ…。

 兵士達は砂塵よけのクーフィーヤを覆面風に巻いていたが、その兵士のシルエットはひと際小さく丸みを帯びていた。彼女が腕を振るうと、兵士たちは素早く散開する。

 一人残った女兵士と目があった。

 

  3日間相手の動きがない状況に、暇を持て余したマルチタスクの一つがまた昔の記憶を思い出した。この間訪ねた相手を懐かしんでいるのか、芋づる式に思い出が蘇っている。

 ピピッと、電子音。管理局と違うシステムのためか、ノイズの入る現地の通信網の状況を改善しようと、L3SのAIにノイズの種類を解析させていたが、該当がないと結論が出た。この世界の通信会社も困惑しているようで、復旧の目処が立っていないらしい。

「…面倒だな」

 もうひと仕事をする前に休憩を挟みたい。

「ちょっと、出てくるぞ」

「俺の仮眠時間を削らないならな」

 

 

 

 

 

 なのはに対する襲撃事件より、既に3日。なのは達は事の次第を管理局に通報していた。

 管理外世界のこととなると面倒な手続きと規則(ルール)、制約が多い管理局だったが、今回は教導隊の幹部が襲撃され、ロストロギアと思しき魔法装置の使用未遂も確認されたことから、エイミィには管理局員としての権限が一時的に与えられ、サーチャー等の無制限の使用などが許可された。また、なのは達が滞在期間中は付近に武装隊が1チーム派遣されることになった。

 なのは達は相談の結果、いったんはミッドに戻ることも考えたが、ミッドに戻っても、しばらくの間護衛が付くことには変わらない。そして、次元世界の住人にとって管理外世界というのは、辺鄙な田舎であり、渡航者があればどうしても目立つ。もし襲撃が続くとしても人の出入りをチェックするだけで、簡単に察知することができるという地理的利点を考慮すると、むしろ地球に留まっていたほうがいいという結論に達した。

 事件調査は、犯人グループが既に死亡し、ロストロギアも奪いさられていることから、危険性は低いと判断されており、『闇の書』事件のように次元航行船が地球の衛星軌道上に、停泊しての捜査探査は行われず、最寄りの艦艇が巡航途中において出来るだけの現地観測するに留まった。

 ロストロギアを強奪したと思われる評議会調査室は、現地で活動している室員は一人もいないとして知らぬ存ぜぬの一点張りを決め込んでおり、一切情報が降りてこなかったため、独自で幾つかの資料を集めていた。

「ごめん、なのはちゃん。ガンナーの方は管理局の方でも、殆ど情報が掴めていないようだよ」

「そうなんですか?」

「うん、ガンナーって言うのは、地上部隊が付けた通り名で、今では自分自身で名乗っているみたい。過去幾つかの高ランク魔導師が関わった事件に、関与しているみたいなんだけど、頭のいいやつみたいで足取りが掴めていないみたいなんだ」

「わたしが後遺症で本調子じゃないって分かると、指揮官らしき相手を挑発していましたね」

「強い魔導師を相手にすることによって、自分の力を誇示しているつもりなんだ。それが動機かな?」

 エイミィの話によるば、この手の相手はより強いと感じられる相手を見つけると、それまでの標的を放りだし、そちらに標的を移す傾向があるらしい。

「後遺症が治った時が、危ないかもね」

「うれしくない追っかけですね…」

 そう締めくくったエイミィに、引きつった笑みでなのはが答えると、彼女も苦笑いをしながら新しい空間モニターを開いた。

「で、これが評議会調査室の最近の動向」

「ありがとうございます」

 ハラオウン家が管理する演算室で、エイミィが表示させた空間モニターの資料を読みながら、なのはは何となく居心地の悪さを感じていた。闇の書事件でも使われ、なのはも何度となく訪れたことのある部屋だったのだが、10年前とは全く別物に感じるのは、この部屋が既にハラオウン夫妻の家になったためか、それとも一緒に嘱託魔導師として働いていた幼馴染の二人がいないためか…。

(落とされたショックで、すこし不安になっているのかもしれないな…)

 元機動六課の隊員達は、既にほかの任務に就いており、今回の担当にはならなかったが、絶え間なく連絡を入れてくれていた。

 しかし、どれほどの偉丈夫であれ、実戦というものには強いストレスを受ける。特に攻撃を受ける防御側は、攻撃側と比べると3倍以上の負担がかかると言われている。まして、落とされたとなると、その精神的ダメージは計り知れない。

(食欲もあるし睡眠も取れているから、今はまだ大丈夫かな?)

 主治医のシャマルに聞いた話を信じて、なのははそう結論付けると書類に意識を戻した。

 評議会調査室は、管理局最高評議会・議長の直轄組織であり、次元航行部隊やその他陸上警備隊からは独立して存在している。

 調査室が収集した情報の他に、警備部や次元航行部隊 、捜査部、平和維持部隊の情報部、査察部などからの情報を集めて分析し、管理局最高評議会に報告する。言うなれば、次元管理局の情報機関の中心になる組織である。

 直接又は間接的な情報操作、管理局がおおっぴらに関与する事の出来ない「裏稼業」を行っているのではないか?と、疑念の対象にされることも多い。

 前年度暴露された管理局最高評議会のスカリエッティとの繋がりなどが、指摘されラルゴ・キール元帥の手によって再編されたが、たった半年間で全体の改革ができたとはいえず、古き皮袋に新しき酒になるのではないかとの指摘もある。

「危険な組織というわけですね」

「うん、少なくとも疑って掛る方が、賢いと思うよ」

 読み終わって出た感想に、エイミィが賛同する。

「でも…。フードの人達とは、対立しているみたいですね。炎熱魔法も警告してくれたし」

「どうだろう?一人でも捕縛できていたら、もう少しいろいろ分かったかもしれないけれど…」

「分かってます。口封じだったかもしれないですね」

 楽観論を出したなのはに警告するように、エイミィが対案を出してくれた。

 なのはもその辺りは理解している。

 何かの秘密作戦を行う際には、実際に行動を起こす実行部隊(フード付き)と、彼我の行動を観察する観測部隊(忍者)に分けて行動することもある。フード付きが全滅しそうになったので、忍者が口封じの為に姿を表したのかもしれなかった。

 また、フード付きがなのはを捉えようとしていたのも、炎熱魔法が作動したときに忍者が警告してきたのも、なのはを殺さずあのロストロギアを使うことが目的だったため、という可能性もある。

「ロストロギアの方はどうなっていますか?」

「ユーノ君が調べているみたい。だけど、画像だけでは難しいみたいだね。徹夜で調べてるみたいだよ」

「昨日通信でお話しした時には、もう目に隈が…」

「愛のなせるわざだね~」

「ユーノくん責任感強いですから、あまり無理しなくていいのに…」

 初めて会ったときから、責任感から無茶をしがちな友人を、なのはが思っていると、エイミィがこちらを見ていることに気が付いた。

 なんとなく、楽しみにしていた映画が、期待はずれだったような表情をしている。

「どうしたんですか?」

 右手で空間モニターを削除する操作をしながら聞くと、口を尖らせながらエイミィが答える。

「べっつに~、どちらにせよ、しばらくの間は警戒が必要だね。出かける時には、ちょっと面倒だろうけど連絡よろしく」

「はい」

 なのは達が演算室を出ると、バニラエッセンスのいい香りがした。

「お、いい匂い。アルフ、何か作ってるの?」

「エイミィ、仕事は終わったのかい?」

 言いながらキッチンの方から顔を出したアルフはエプロンをしていた。ヴィヴィオと、エイミィの子供カレル、リエラも子供用のエプロンをしている。ヴィヴィオの鼻の頭に薄力粉がついているのはご愛嬌。

「ママ、今ね、アルフにクッキーの作り方を習っているの」

 ヴィヴィオがニコニコと笑いながら、ボールを見せてきた。

 バター、砂糖、卵に薄力粉がこねられた、クッキーの種がかぐわしい匂いを放っている。

「へー、イイ感じだね。わたしも手伝おうっか?」

 ヴィヴィオなら、「一緒に作ろう」と、言ってきてくれる。と、期待してなのはが言った。

「ダメ、ママが手伝ったら、わたしがクッキーを作ったことにならないの!!」

 強い口調でヴィヴィオに拒否されて、なのはは目を丸くした。娘の予想外の台詞になのはが固まっていると、アルフが教えてくれた。

「あー、なんというか…。雫のヤツが・・・、ファリンに習ってクッキーを作ったことを自慢したみたいでね…。張り合っているのさ…」

「えええ…」

 またしても、娘に仲間外れにされてしまった。ちょっと寂しい。と、思いながらも、アリサやすずかと出会ったばかりの頃を思い出した。なのはも小学生の頃は、全教科成績優秀だったアリサや、スポーツ万能なすずかを何とか負かせてやろうと、試行錯誤をしていた。フェイトと魔法に出会ってからも魔法でも、友人と切磋琢磨している時間というのは、それだけで楽しい。大人が入り込む方が無粋。

(あ、フェイトちゃんが、エリオ達の成長に戸惑っていたのは、こういうことだったんだ)

 親友の様子を思いだし、なのはは苦笑いをした。

 




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