管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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53たまには、のんびりお休みⅡ

 午後から訪ねる予定の月村邸への土産は、ヴィヴィオ手製のクッキーに決まったところで、なのはは月村家の猫に対して土産を買いに出かけることにした。

 ハラオウン家を出た後、僅かに人の気配を感じる…。が、これには悪意を感じられない。管理局に置ける警護任務の基本的な位置取りに沿って行動しているのが分かる。恐らく護衛の人だろう。

(基本に忠実に、よく訓練されている。うん、わたしが採点するなら…、もう一工夫で『良好』を付けてもいいかな)

 つい本職の癖が出て、護衛の人たちを採点してしまった。

(いけない、いけない。…どこかに、行こうかな)

 特に考えもなしに歩く。足は翠屋があるのとは、少し方角の違う商店街に向かった。

 なのはと同じ年頃の女が数人でおしゃべりをしながら歩いていく。知り合いでも見つけたのか、道の対岸に手をふり始めた。思わず振り返ると、髪を派手な色に染めた女が手をふり返している。

(学生さんかな?案外、聖祥大附属の同級生だったりして…)

 そうだったとしても、おかしくはない。魔法と出会わなければ、あの輪の中にいる可能性の方が高かった。

 翠屋の入っている、『海鳴南商店街』だと、行きかうひとは顔見知りだったりして、声をかけてもらったりすることがある。けど、ここだと、わたしに話し掛けてくれる人はいない…。

…なんだか…

とても、淋しくなる。

賑やかな場所なのに、淋しくなる。

(だけど、フェイトちゃんやユーノ君に出会えなければ、他のみんなに出会うこともできなかった。…もちろん、ヴィヴィオにも…)

 そう思いながら足を進めると、ペットショップにも寄らず、商店街を抜けて坂道を歩いていた。

 …人通りの多いはずの時間なのに…。

 どういうわけか、今は誰もいなくて…。

 いや、知っている。この時間帯、この辺りには人通りが少なくなることを、わたしは知っている。

 わたしの手が今よりもずっと小さくて何も出来なかったころ、誰かを助けられない自分が嫌いで、…誰かに、そばにいてほしいのに、誰にも会いたくなくてこの近くの公園でひとりでいたことがある。

 あの時の、…世界中に、自分ひとりだけのような気分をおもいだす。わたしは思わず首から下げたレイジングハートに手を触れようとして…。

「…ッ!…痛っ!」

 左手に痛みが走った。右手で左手を抱え痛みに耐えると痛みは徐々に引いていく。

「…悪化しちゃったな…」

 完全休養のつもりで休暇を取ったのに、Sランク魔導師との戦闘。幸い戦闘での外傷はなかったが、中の方はかえって深刻だった。JS事件の後遺症も癒えぬまま、同格の魔導師とよりにもよって砲撃戦を繰り広げたのだ。傷んでいた配線に無理矢理負荷を掛けたようなもので、そこから漏れた魔力が体を内側から蝕んでいる。

(こんな状態なのに…、わたし、一人になろうとしている…)

 なのはは自分の状態を自覚した。

(わたし、怖いんだ。忍者やガンナー達の目的がわたしで、誰かを巻き込んでしまうのが…)

 本調子でないときに、いつ襲ってくるか分からない相手のプレッシャーに堪え切れず、無意識下で『一刻も早く解放されたい』という逃走に近い願望。

 …それとも、子供のころ胸を占めていた『みんなを守って終われるなら、それもいい』という独りよがりな信念か…。

(久しぶりに帰ってきたから、当てられちゃっているのかな?)

 目をつぶって、背伸ばしストレッチ。息を吸いながら、左腕が傷まないようにゆっくりとした動作で…。息を吐き力を抜くころには、少し心に余裕が生まれた。

(大切な人を悲しませてはいけない。自分が死んだら大切な人は悲しむ)

 少し、前向きなことを考えられるようになると、誰かにそばにいてほしい気持ちになる。

 取り合えずヴィヴィオの顔を見たくなってきたところで、目を開けて踵を返したとき…。

「高町1尉」

「にゃッ…!」

 突然声を掛けられて変な声が出た。

「…高町1尉…」

「…エイブラハムさん…」

 ビックリした。思い描いていたヴィヴィオとは…全然、似ていない姿。当然だ。声をかけてきたのはエイブラハムだった。

「…こんにちは。…また、…会えたね…」

「…そうですね。次会う時は、てっきり、ここでだと思っていました」

 言いながらエイブラハムは翠屋のロゴの入ったケーキ箱を掲げて見せた。

「あ、ご利用ありがとうございます」

「うん、あなたのお姉さんのクリーム・パフは、きっと先生も気に入ったと思う」

「それは良かったです。でも、そのシュークリームは姉が作ったものじゃないんです。姉はホールが専門なので…」

 美由希の料理の腕前は…、『頑張れば並み』程度である。一度、桃子に習ってシュー作りも試してみたようだが、散々な結果に諦めてしまった。それを思い出しながらなのはが言ったが、

「え、桃子は今日も厨房で働いていましたよ?」

 エイブラハムが怪訝な顔をして返した。この返しに今度はなのはが小首を傾げ、

「え、桃子はわたしの母ですよ?姉はホール担当の美由希です」

 なのはの答えに、エイブラハムが右目の周りをなでる。

「…確認しますが、桃子とは、あなたがこう…、髪を下ろして、あと4~5年、年を重ねたような容姿をしている女性のことですよね」

「はい、間違いないと思います」

「…若」

 エイブラハムが、なのはにとって見慣れたリアクションを取った。桃子は若いころから童顔だと言われていたが、最近では、『年を取らないのでは?』と、半ば本気で言われ始めている。エイブラハムは桃子の容姿の衝撃を、避けるように話を変えた。

「…となると、店員さま(美由希)は父似と言ったところですか?」

「ええ、まあ、そんなところです…」

 姉妹の割にはなのはと美由希の容姿があまり似ていない。と、エイブラハムは思ったようだ。なのはと美由希は正確には従妹になるのだから当然だが、家の事情を話すのもどうかと思ったなのはは相槌を打った。

「なるほど、翠屋のあの雰囲気は家族経営だから出せるものだったか。ひとつ疑問が解けた」

「そうかもしれません。今度、エイブラハムさんの先生も翠屋に誘って来てください」

 きっとエイブラハムが先日訪ねると言っていたのは、先ほど口にしていた先生のことだろうと思い。翠屋を売り込むなのは。

「おや、商売上手ですね、高町1尉。でも、残念。先生は喫茶店には出歩けない。なにしろ…、そこの住民なので」

「…え」

 エイブラハムが指さした方を見やって、なのはは声を失った。『藤見台墓地』、エイブラハムが指した先にあったものだ。つまり、エイブラハムの言う先生は…。

「………」

「………?」

「…ご、ごめん…、ヘンなこと、聞いちゃったかも」

「…いいえ、…私が、勝手に言いました」

 エイブラハムは、黙って…遠い空を見上げた。

「……」

「……」

 会話が止まってしまった。そういえば、わたしはこの人のことを、何も知らない。

 気まずい雰囲気を変えようと話題を探す。

「あ、そうだ。あの子!」

「…?、…ああ、この間のネコ?あれから、三日?まだ、入院中ですかね?引き取り手が見つかればいいのですが…」

 指折り数えながら言ったエイブラハムに、なのはが答えた。

「それなら大丈夫です。すずかちゃんが面倒を見てくれています」

「それは何より。あの猫はツキがある」

「うん、でも、体が上手く動かせないみたいで…。獣医さんは怪我とは無関係のはずだって言っていたんだけど…」

 それを聞いてエイブラハムは腕を組んでから、右目の周りをなでると項垂れた。

「ああ、もしかしたら、私のせいかもしれない。…を強くうち過ぎたか?」

「ええっと、エイブラハムさんが針であの子を突いたアレですね?」

「よく見ていますね。ええ、こちらでは何と言ったかな?ツボ…だったかな?あの時は出血を抑えるためと、暴れて傷が深くなるのを恐れて、体の動きを鈍らせるツボを使いました」

「それで、あの子は元気になりますか?」

「そのままでも、徐々に回復すると思いますが…。逆の効果があるツボを使えば、すぐに良くなるでしょう。あのネコを連れてくることは出来ますか?」

「丁度、午後から様子を見に行こうとしていたところです。一緒に来てもらってもいいですか?」

「もともと、私の不手際です。こちらこそお願いします」

「それじゃ、ええっと…」

 なのはが腕時計を確認すると、すずか達との約束の時間まで少しある。

「13時に海鳴駅前でどうでしょう。車で迎えに行きます」

「それでお願いします、高町1尉。変更がありましたらここに…」

 エイブラハムがビジネス・カードを差し出してきた。カードには最も使われているコミュニケーション・アプリのアカウントが書かれていた。

「うん。あと、わたしのことはなのはでいいよ。部隊でもみんなそう呼ぶし…」

 なのははカードを受け取りながら、そう提案する。エイブラハムは少しだけ苦笑すると、

「了解しました。それでは失礼させていただきます。高町1尉」

「…ッ!もう!」

 口を尖らせたなのはには答えず、エイブラハムは墓地に歩いて行ってしまった。

 




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