管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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54たまには、のんびりお休みⅢ

 眼前に広がる雲海の中から、敵が飛び出してきた。包囲は右後方5時の方角、数は2。

 視界の右下に表示された小さなモニターに映し出された、センサーの情報がわたしにそのことを伝えた。

(大丈夫。やっつけることはできる)

 突然の襲撃にも関わらず、わたしは冷静にそう思えた。

 一気に距離を積めてきた敵は、中距離から威力が大きい誘導弾を2発放ってきた。

 わたしは急激にスピードを上げ敵のとの間合いを離しながら、誘導弾を十分に引きつけ、もっとも効果的なタイミングで誘導妨害用のチャフを撒く。

 目標(わたし)を見失った誘導弾の安全機能が作動自爆する。その光を目くらましに、わたしは雲海の中に飛び込んだ。

 雲の中はどちらを見ても真っ白で、自分がどちらを向いているのかさえ分からなくなりそうだったが、わたしには自身を斜め後ろから眺める俯瞰した視界とセンサーがもたらす情報があった。それらを駆使して難なく敵の背後に回り込む。

 相手はこちらを完全に見失ったようだ。単純な索敵フォーメイションのまま飛行している。

(今だ)

 今度はこちらが短距離から誘導弾を発射すると同時に加速。

 先頭の敵に誘導弾が突き刺さるのと、わたしが僚機を追随していた敵に、至近距離からの猛射を浴びせかけるのはほぼ同時だった。

 敵の撃墜を確信した途端、わたしの活躍を祝福するファンファーレが流れた。

 

 

 

「ねこちゃん、見て見て、飼い主はまた、ハイスコアだよ♪」

 すずかは、ゲーム機・×箱360のコントローラーを放り出すと、寝床のバスケットで丸くなっているネコの母子に、ちいさくガッツポーズを取った。

 反応を返してくれたのは母ネコだけで、その母ネコも億劫そうに瞼をあけこちらを見ると、再び眠ってしまった。

「もう、薄情だな」

 そういってすずかは口を尖らせながらも、テレビのリモコンを引き寄せ音量を絞った。

 母ネコは、数日前エイブラハムと共に助けたあのネコだった。

 状態は安定していたが、病み上がりに放り出す訳にも行かない。予防接種などを受けさせた後、子猫と一緒に月村家で引き取ることになった。しかし、ネコはいまだに体がうまく動かせないらしく、寝床で1日の大半を寝て過ごしている。

 もうしばらくの間は安静にしておいた方がいい。

「ねこちゃんも、遊んでくれないし…、…今日は、講義も特になし…」

 すずかは、ひとり昼間からゲームをして過ごしていた。

 子供達は恭也と雫と共に修行に出て行き。両親と忍は下の子二人と侍女のノエルをつれて、親戚への挨拶回りに行ってしまった。

 もう一人の侍女のファリンは、朝食の時ひっくり返した紅茶のシミを、絨毯から取る作業で忙しい。手伝いを申し出たが、

「ひとりでやらないと、姉さんにおこられるんです~」

 と、泣いて断られた。

「アリサちゃんは、午前中は講義だし、なのはちゃん達が遊びに来るのは午後からか…」

 今着ている買ったばかりのパーカーチェニックとハーフパンツを見せびらかしに、出かけるのも悪くはないが、外は真夏日で少し気が引ける。

「……んー…、どうしようかな…」

 やることがないと、だんだん気分がだらしなくなっていく。

「…こういう時は…うん、寝よう。」

 わたしはハーフパンツを脱いで、ベッドに入る。洗いたてのシーツの肌触りと、微かに残っている洗剤の香りが気持ちいい…。

 リモコンでテレビの電源を切ると、急に、部屋の中が静かになる。

 目を閉じたまま、仰向けになったり、横向きになったり、枕を抱えてみたり…。

 ため息が出た。

(寝ちゃおうかな、と思ったけど…)

 眠れない。それはそうだ、今日は思いっきり朝寝坊をして起きたのだから。

「…本でも読もう、かな…」

 寝るのを諦めてベッドから這い出すと、本棚に向かう。

「まだ読んでいない本は、なにがあったかな…。そういえば、お姉ちゃんが貸してくれた本、まだ読んでなかったね」

 すずかは分厚い一冊を手に取ると、ベッドの中に戻った。

 タイトルには、『三角形の心』とある。

 本の内容は聞いていなかったが、忍が大学生時代に雑誌で話題になったことが切っ掛けで、シリーズ化した小説らしい。

「…折角貸してくれたんだから…少し、読んでみようかな…」

 忍が奨めて…というか、強引に押しつけてきた時の薄笑いを思い出したが、すずかはパラリッと、ページをめくる…。

 内容は…いわゆる『ハードボイルド』なのかな…?一章のテーマになっているのが『守りたいモノありますか?』だし…。

 主人公のボディガードを目指している青年は、恭也さんに少し似ていてカッコいいかもしれない…。

「わー」

 …この主人公とヒロイン、ことあるごとに…。ええっと、愛を確かめ合うんだね…。なんかこう、甘い言葉をささやきあいながら…。

「…うう…」

 ほとんど無意識に身を捩らせてしまう。

 …昼間っから、読む本じゃないかもしれない、これ…。

 でも、なんか…ドキドキする。

「…い、いいよね、どうせだれも見ていないんだから…。…お姉ちゃんに早く返してあげないといけないし…」

 誰かに言い訳するように独り言を言うと、すずかは本を読み進め、一気に一巻を読み終えてしまった。

 ぱん、と本を閉じる。

「ふー」

 赤くなった頬をさますように、すずかは長く息を吐いた。

 上気した体からは、汗がにじみ出ており、いつの間にか艶のある長い黒髪が額や頬に張り付いていた。

「…うう…」

 ヘンな気分になったすずかがうめき声を出した、その時…。

「そんなに面白かったの?その本?」

 すぐ隣から聞きなれた声が降り注いだ。

「______________________________________ッ!」

 声なき断末魔を上げ、ベッドから逃げ出そうとして、すずかはシーツに足を取られる。

 スッテーンという擬音が聞こえてきそうなほど見事に転び、ベッドから転がり落ちたすずかは尻を強打した。

「いった~」

 そんなすずかを呆れた表情で見下ろしていたのはアリサだった。彼女はベッド脇でワゴンに乗ったサンドイッチをつまんでいる。

 なぜ、講義のはずのアリサが?

 サンドイッチはどこから?

 

 疑問が頭を掠めたが、混乱して言葉がうまく出てこない。かわりにキョロキョロと視線を彷徨わせると、掛け時計が目に入った。時刻は午後1時を回ってだいぶたっていた。

 車で移動するアリサが講義を聴き終えた後に遊びに来ていても、おかしくない時間帯だ。サンドイッチはきっと、いつまで経っても部屋から出てこない、すずかのために、ファリンが作って、部屋の前にでも置いてくれていたのだろう。

 4時間近く小説に夢中になり、来客にも気がつかなかったらしい。

「こ、こんにちは、アア、アリサちゃん…」

「うん、こんにちは、すずか」

 震える声で挨拶しながら、表情が不自然に引きつるのを自覚する。

 アリサの方もいつもの挨拶の時とは違う笑顔になっている。なんというかこう、毒を盛ったワイングラスを相手に渡すときの頬笑みと、言えばいいのだろうか?

 おかしい。結果的にアリサを無視してしまっていたわけだから、普段のアリサならもっとストレートに怒りを露わしているはずだ。

「すずか…」

「な、なあに…。アリサちゃん」

 声を掛けられ、ハタと自分の恰好を思い出した、すずかはあわててパーカーチェニックの裾を引っ張る。

…あぅ、湿ってる…

 しかし、アリサはこちらのことなど見ていなかった。その視線の先には、逃げだそうとした時ベッドの上に放りだした文庫本。

 アリサがニヤッと笑う。

「ダメ!」

 文庫本に飛びかかるが、一瞬遅かった。

 アリサは文庫本素早く拾い上げると、ベッドの上にうつ伏せに倒れたすずかに馬乗りになった。

「アリサちゃん!返して!」

「いいじゃない文庫本ぐらい」

 もがくがベッドが柔らかすぎてうまく身動きが取れない。アリサはそんなすずかをニヤニヤと笑いながら、文庫本を開いた。

(ああ…、もう、お嫁にいけない…)

 羞恥で顔を赤くしたすずかは、昭和のマンガのようなことを考えなから、シーツを頭にかぶった。

 そして、罵倒とか揶揄など、とにかく降りかかってくる言葉に耐えようとしたのだが…、

「…………………………」

 覚悟していたカラカイが、何時まで立ってもこない。

 すずかが不振に思って、シーツを少しだけあげ、背中に乗ったアリサを肩越しに見上げる。

 アリサは…

「…うわ…すごい…」

 興味津々のご様子。

 耳まで赤くなっているアリサだったが、それでも紙面から目を離さない。

「や、ヤバくない?こんなことまで…!」

 アリサが赤くなったまま表情を変える姿はおもしろかったが、さすがに4時間待たされるのは堪らない。意をけっして話しかける。

「あ、あの、アリサちゃん、面白かった?その本?」

「へっ…」

 我に返ったアリサと目が合う。真っ赤になっていたアリサの顔が、一旦真っ青になり、再び赤くなった。

「あ、あ、あ、あ…」

「…?」

「アリサ・キック!!」

 理不尽に背中を蹴飛ばされたが、アリサが不自然な姿勢だったため痛くはなかった。

「あ、あんたねぇ~、なんてもん読ませるのよ!」

「え~、アリサちゃんが勝手に…」

「Be quiet!」

 アリサがベッドの上に立ち上がり、怒鳴りつけてきた。

 至極まっとうな意見を言ってみたが、羞恥のあまり混乱しているためか、聞き入れる様子がない。

「っだ、だいたい、こ、こんな本何時の間に買ったのよ!」

「お姉ちゃんが貸してくれたんだ」

「あ、あのひとは~…!」

 そこまで怒鳴ってから、アリサは急に勢いをなくし、穿いているキュロットスカートの裾を気にし始めた。

「…、…替えたい…」

 消え去るような小さく呟くアリサの声を聞いて、すずかの滅多に表に出てこない衝動がくすぐられた。

 すなわち、攻撃衝動だ。

 すずかは立ち上がり、アリサの隣に並ぶと、甘えた調子で言った。

「ねぇ、アリサちゃん。一緒にシャワー浴びない?」

「へ、ええ!」

「ほら、今日は暑いし、汗かいちゃったから…」

 体を寄せ、抱きつくように腰に手を回す。

「あ、あたしはいいってば…、いま、このテンションでシャワーなんて浴びたら…」

「あびたら…?どうなるの…?アリサちゃん」

 腕から逃れようとしているアリサの抵抗を、力任せにねじ伏せる。

 大学の友人達には意外に思われることが多いが、実は活発なアリサより、物静かなすずかの方が力が強い。

「ほら、分かるでしょ…。…てか、すずかなんか変…」

「いつもどうりだよ。だから、イイでしょ、アリサちゃん」

 すずかの力強さに、アリサがビックと怯える。いつも強きの友人が、滅多に見せることのない姿に、すずかの嗜虐心が刺激されてしまう。

(…アリサちゃん、意外とベーコン・アスパラ系女子だよね…)

「だから、ダメだってば!…あっ」

「アリサちゃん!」

 さらに力を込めてしまったすずかから逃れようと、アリサが無理に体をよじってバランスを崩した。

 すずかは慌てて支えようとしたが、もつれ合うようにベッドに倒れ込んでしまった。

「きゃッ!」

「んっ!」

 すずかはアリサに覆い被さるように倒れていた。アリサの体温を感じながら、さすがにふざけすぎたかと反省する。

「ごめん、アリサちゃん。大丈夫?」

「平気よ…、コレくらい…」

 退こうとして身を起こすと、アリサと目が合った。

「「…あ…」」

 互いに感嘆をあげてしまった。

 アリサの瞳は涙が溜まり潤んでおり、上気した頬は朱を注いだように赤く染まっている。感嘆の吐息を吐き出した唇は小さく震えていた。

(アリサちゃん…、すごく…、すごく、かわいい)

 アリサとはいつも一緒にいるが、これほど近くで顔を見るのは、いつ以来だろう?彼女が髪型を変えて以来、なかったかもしれない…。

 頭の中に霧が掛かったようにぼ~っとしてしまう。

「すずか…」

 名前を呼ぶアリサの声が遠くに聞こえる。

 わたしの中で、必死にわたし自身を止めようとしている自分がいるが、自分がなにをしようとしているかが、分からないので、止まりようがない。

 蜜のような空気に溺れて、息もできない。

「アリサちゃん…」

 唇に吸い込まれそうになっている。と、気が付いたときにはアリサの顔はすぐそこまで来ていた。

(と、止めて…)

 

 




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