管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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55たまには、のんびりお休みⅣ

 午後になり、海鳴駅でエイブラハムを拾って、月村邸に向かう。(壊された車はバックアップデータを使用し、魔法で復旧。注意点:何度も魔法での復旧をくり返すと劣化する恐れあり)

 車の中でエイブラハムはヴィヴィオの質問攻めにあっていたが、エイブラハムは笑って対応していた。しかし、忍者設定は健在のようでプライベートな内容は、曖昧に答えていた。

 月村邸に着くと、

「結構な…、歴史がありそうな屋敷だな」

「うん、月村の家は結構由緒正しい家らしいよ」

「雫のお家は西洋館って言うんだよ。旧暦の終りのころから、新暦の始まりの頃の建物のことをいうの」

「…あ」

 エイブラハムが月村邸の感想になのはが返し、ヴィヴィオがお泊りの時に聞いた話を披露した。しかし、ヴィヴィオは建物が立てられた時期をミッドチルダの暦に変換して覚えていたらしい。それを口にしたことでなのははドキリとしたが…。

「新暦…。ああ、日本には独自の年の数え方があったな、昭和、平成とか…」

「ええ、そうなんです…」

 幸いエイブラハムが勘違いしてくれたので、なのははそれに乗ったが、ヴィヴィオが小首を傾げる。エイブラハムが勘違いしていることに気が付いたのだろう。

「さあ、行こう。ヴィヴィオ」

 ヴィヴィオが口を開く前に、なのはは土産の品が入ったトートバックを片手にヴィヴィオの手を引いた。

「うん」

 少し困惑を残した顔でヴィヴィオは従ったが、やや強引に手を引かれたことによってヴィヴィオがバランスを崩し、なのはの腕にしがみつく。その手は左腕だった。

「…いっ!」

 左腕から痺れるような痛みがなのはの体を襲った。何とかヴィヴィオの手を離すことはなかったが、傷んだ左腕ではヴィヴィオを支えきれず、トートバックを放り出してヴィヴィオを支える。

(あ、ヴィヴィオのクッキー…)

 トートバックの中身を心配して目で追うが、視線だけで落下は止められない。しかし、トートバックは地面に落ちることはなかった。既の所でトートバックを掴み、なのはごと抱き寄せる形で、ヴィヴィオを支える手があった。

「大丈夫ですか?」

「…あ、はい」

 エイブラハムの力強さに驚く。

「ヴィヴィオもか?」

「うん…、大丈夫…」

 返事をしながらヴィヴィオは不安そうになのはを見上げた。苦痛の表情をしたなのはを心配してのことだろう。

「大丈夫だよ、筋肉痛みたいなものだから…」

「…」

 なのはが娘の不安を掃おうとしたが、ヴィヴィオには難しい説明になったようだ。ヴィヴィオが更に眉を寄せる。すると、

「明日か、明後日には治るって言っているんだよ」

 エイブラハムが言った。

「本当?」

「ああ、本当だ。そうだろう?高町1尉」

「うん。本当だよ」

「うん。よかった!」

 ヴィヴィオがようやく安心して笑った。ホッとするなのはにエイブラハムが小声で言った。

「…荷物は私が持ちましょう。左腕、痛めているのでしょう?」

「…うん、じゃあ、お願いします」

 

 なのは達が月村邸に入ると、お疲れ気味のファリンが出迎えてくれた。訪ねる相手にエイブラハムが追加されたことを連絡した時に聞いたのだが、朝から重労働をする羽目になり疲れてしまったらしい。

 ファリンは土産を受け取ると、エイブラハムを応接間に案内する。

 なのはは勝手知ったる月村邸を進む。目的の部屋に着くとオーク材の扉をノックした。

「す、ず、か、ちゃ~ん」

「す、ず、か、さ~ン」

 茶目っけたっぷりのなのはの口調を、ヴィヴィオが真似る姿にほほ笑みながら、返事を待っていると一拍の間の後、

「うひゃあ!」

「きゃッ…!」

 扉の向こうから2つの小さな悲鳴が聞こえた。続いて、バサッと何かか落ちる音が聞こえた。

 最初の声は…アリサちゃん?でも、悲鳴を上げるなんて何かあったのだろうか!?

「入るよ!すずかちゃん!」

 大きな声で言ってから、ドアノブを掴む。

「ま、まちなさい!なのは!Wait a moment!入るなー!!」

 扉を開けかけた処で、今度こそ間違いないアリサの怒鳴り声が聞こえてきた。

「あ、アリサちゃん?」

「なのはちゃん?ヴィヴィオも一緒だよね。ごめん、ちょっと待ってね」

 アリサの剣幕に驚いて動きを止めると、すずかの声も聞こえてきた。なぜだか声が高揚している。

 なのはは何がなんだか分からなかったが、とりあえず、二人とも大丈夫そうだったので、ドアの前で待つと、一分もしないうちに返事が来た。

「なのはちゃん、ヴィヴィオ。もう、いいよ」

 促されて部屋の中に入ると、すずかは開け放たれた窓の前で、髪を整えようと手櫛で梳いており、アリサはベッドに腰掛け自分の鼓動を確かめるように、胸を押さえていた。

「こ、こんにちわ…」

 いつもと違う2人の様子に、ヴィヴィオが遠慮がちに挨拶をする。

 ヴィヴィオを落ち着かせるつもりで、頭を撫でながら、なのはは聞いた。

「どうしたの?二人と…」

「ううん、何でもないよ」

 言い終わる前に、すずかが答えてきた。なんだか様子がおかしい。姿もだ。

 いつもキチンとした格好をしているすずかの髪が、微妙に崩れているし、着ているパーカーチェニックの裾が、ハーフパンツの中に入ってしまっている。

 まるで慌てふためいて穿いたみたい…。

 指摘しようか迷っていると、アリサが口を開いた。

「なのは…」

「うん?なに、アリサちゃん?」

「あ、ありがとう。お礼を言っておくわ…」

「へ、ど、どうしたの!?」

 突然、礼を言われてなのはは動揺した。

 アリサはどちらかというと、他者に感謝していても、素直に言葉に出せないタイプだ。態度に出ているので、心情を把握するのに困ったことはなかったが、お礼を言われるとは…。いったい何があったのだろう?

「アリサちゃん、わたし、何かしたっけ?」

「いろいろ、危ないところだったのよ…」

「危ない?なにが…」

「それは知らなくいいの!いいから!黙って!受け取っておきなさい!」

「う、うん…」

 お礼を言われているはずなのに、すごい剣幕でなんだか怖い。

 なのはがパチクリしていると、すずかがボソッと何かをつぶやく。

「わたしはちょっと、惜しかったかな~」

「す!ず!か!それ以上ふざけたら、つき合い方を変えるから(怒)」

「は~い」

 三白眼になるアリサと、喜々として返しているすずか。

 すずかの呟きは、なのはには聞こえなかったが、今のやりとりで何となく察しが付いてしまった。すずかが、アリサになにか悪戯をしたらしい。こういう姿を見ると姉の忍にそっくりに思えてくる。

「すずかちゃん、もしかして、今日はお寝坊さんだった?すずかちゃんにはメッセージを入れたし、ファリンさんに電話したんだけど…」

「え…」

 すずかがベットから落ちていたスマホを拾い上げると、未読のメッセージと通信障害に対するお詫びが受信されていた。

「あ、ホントだ!着信も…。ゴメン、なのはちゃん、ちょっと本に夢中になっちゃって…」

 すずかがなのはに訳を話しながら、アリサにチラリと視線を送ったが、アリサは少しだけ顔を赤らめてそっぽを向いた。

 すずかは続けた。

「それはそうと。いらっしゃい、なのはちゃん、ヴィヴィオちゃん」

「おじゃましま~す」

「おじゃましまス。ネコちゃんも、こんにちわ」

 ヴィヴィオが声を掛けると、一連の騒ぎで目を覚ましていたネコが、億劫そうにだが一鳴きした。

 返事をもらったヴィヴィオがパタパタと籠に近づいていき…。

 足下に落ちていた文庫本に躓いて転んだ。

「ヴィヴィオ!」

「ヴィヴィオちゃん!」

「あ、大丈夫」

 驚いて駆け寄ろうとした、友人達をなのはは止めた。

 ヴィヴィオはちゃんと手を突いて転んでいたし、幸い月村邸の床には上等な絨毯が引かれている。怪我はないはずだ。

 案の定、すぐに四つん這いになると、照れくさそうに振り向き笑った。

「えへへ、転んじゃった…」

「…大丈夫?」

「うん、一人で立てるよ!」

 なのはは娘の姿に一際優しい表情を見せた。ヴィヴィオは、なのはの笑顔を背中に浴びながら立ち上がろうとして、自分が躓いた文庫本が目の前にあることに気が付いた。

「「_ッ!」」

 ヴィヴィオが文庫本を手に取ると、なぜかアリサとすずかが息を飲んだ。

「あ、あぁ…」

「まぁ…」

 2人が声を上げられずにいる間に、好奇心旺盛な子供らしさで、ヴィヴィオが文庫本を開く。

「ヤスナリもヤスナリなりに、フィアッセの・に・わせて、・け・うように・いついた」

「え、なにそれ…?」

 ヴィヴィオが読み上げた、内容にアリサが声を上げた。

「え~、そうかいてあるよ~」

「あ、ヴィヴィオちゃん。漢字ってしってる?」

「漢字?」

 アリサの言葉に不満そうな声を上げたヴィヴィオだったが、ずずかの質問に首を傾げた。

 すずかの指摘通り、ヴィヴィオにはまだ漢字を教えていなかった。漢字を読み飛ばして読んだらしい。

「どれどれ…?」

「はい、ママ」

 なのはも興味が沸いてのぞき込むと、ヴィヴィオがページを開いたまま、文庫本を渡してくれた。

「………」

 黙読して、本の内容に体温が上がる。頭に血が上りボンヤリした気分になると同時に、顔が赤くなるのが止められない…。

「どうしたの?ママ」

「…え!あっ…、えっと、ヴィ、ヴィヴィオには、まだ、ちょっっと早いって言うか、む、難しいんじゃないかな?この本…、にゃ、にゃはははぁ…」

 なのはの様子が急変したのを見て、心配したヴィヴィオが言ってきたが、この本の内容をまだ説明するわけにはいかない。

 なんというか情操教育的に…。

 何とか苦しい言い訳と、笑いでごまかし、ヴィヴィオが疑問を口にする前に強引に話を変えようとあたりを見渡すと、母ネコ達が寝そべっているぺット用のベット籠が目に入った。

「そうだ!ヴィヴィオ。ネコちゃんをエイブラハムさんの所に連れていってくれるかな?」

 言いながらなのははベット籠を静かに抱く。揺れる籠の中で子猫たちは、なのはを不思議そうに見上げる。母ネコは煩わしそうに目を開け、なのはに敵意がないことを確認すると、大あくびをしてから再び目を閉じた。

「ん?その子、この間のこでしょ?あんまり、動かさない方がいいんじゃないの?ただでさえ元気がないんだから…」

「うん、それをエイブラハムさんなら、直せるかもしれないって…」

「え、エイブラハムって、この間の人でしょ、なんであいつが出てくんのよ」

「針治療だよ、アリサちゃん。エイブラハムさんは針治療が出来る人なんでしょう?」

「なんで、すずかが答えるのよ」

「なのはちゃんのメッセージにエイブラハムさんなら、ねこちゃんを何とかできるかもしれないから来てもらうって。それにわたしはエイブラハムさんがねこちゃんを手当てするところを見ているから…」

 すずかの言葉に、アリサが目を大きくして言った。

「へー、応急手当だけじゃなくって、東洋医学もできるのね」

 アリサが納得したところで、ヴィヴィオにベット籠を抱かせる。初等科1年生のヴィヴィオには重いだろうか?と、思ったが母ネコは小柄な方だったので問題なさそうだ。

「なるべく、優しく連れて行ってあげてね。できる?」

「うん!できるよ」

「そう、お願いね…」

 ヴィヴィオが部屋を出て離れていくのを確認すると、なのはは困った友人達に向き直った。

 アリサとすずかは、こちらと目を会わせないように、明後日の方向を見ている。

 努めて冷静を装って声を出そうとしたが、失敗した。震え気味の声が出る。

「2人とも、お話があります」

「はい…」

 アリサは殊勝な態度で返事をし、すずかはちょっと困ったように笑った。

 なのはが言葉に詰まりながらも二人に説教をし始めた。

「こ、こ、こういうのはいけないと思います。その、ヴィ、ヴィヴィオもいるんだから」

「悪かったわよ。でも、ちょっと隠すのが遅れただけじゃない」

「で、でも、こんな…え、エッチなの、読んじゃ…」

 文庫の内容を思い出し言い淀む。

 さすがになのはも二十歳を過ぎた女性だ。そういった知識はあったし、女同士の会話では、女性向け週刊誌顔負けの話をする同僚もいるが、正式に男性と付き合ったこともなければ、そういった経験のないなのははもっぱら聞き役だった。

 こう言ったことを口にする側になると、恥ずかしさの方が先に立つ。

「あんた、そんなんで、ヴィヴィオが好きな人ができましたって言って、男の子を連れてきたらどうすんのよ」

「だ、大丈夫だよ。き、きっと…」

「そう?」

 と、なのはにススッとすずかが近づいてきた。

 なんとなく目つきがあやしい。

「ところで、なのはちゃん」

 お腹は空いていないが、暇を持て余した猫がネズミを見る目をしたすずかは、なのはのあいている腕をしっかりと抱いた。

 すずかの豊かな双丘の感触と体温が、なのはに伝わる。

「す、すずかちゃん?」

 すずかから、異様な雰囲気を感じ取り、なのはが少し怯えたように身を引いた。

 それがイケなかったのかもしれない。

 次の瞬間、すずかの目から光が失われた。なのはの弱気な対応が、すずかの嗜虐心に燃焼促進剤を放りこんでしまったらしい。

 すずかの手に力がこもり、ガッチリと腕を掴んだまま、耳元で言ってくる。

「ねぇ、なのはちゃん。この文学作品のどこがエッチなの?おしえて?」

「_ッ!え、え、どこって!」

 耳に掛る吐息の熱さに、なのはは悲鳴を上げそうになった。

 さらに、すずかが追及してくる。

「ねぇ、どこなの?読み上げて…」

「よ、よよよ、読み上げてって!?なに言ってるの!すずかちゃん!」

 とても無理。そんなこと恥ずかしくって出来ない。

 本能的な危険を感じて逃げだそうとしたが、しっかりと掴まれた腕はびくともしなかった。

「さあ、なのはちゃん…!早く、教えて…」

「えと、え、えっと…」

 逃げることができずに、まるで妖気を放つ吸血鬼じみたすずかに迫られ、背筋に寒気が走る。

 混乱したなのはは溺れている人間がそうするように、手近なものに縋りつこうとした。

「そ、そういうことは、アリサちゃんの方が…」

「ほらほら、どこがいけないのよ。わたしにも教えなさい!」

 しかし、一瞬で吸血鬼の軍門に下ったアリサがすずかの反対側から、なのはに抱き付き一緒になって、さらになのはを追い詰める。

「「さあ、さあ」」

 二人係で追い詰められ、混乱したなのはが、羞恥で顔をトマトより赤く染め、涙目になりながら口を開く。

 

 

ヤスナリもヤスナリなりに、フィ…舌に合わせて、溶け合うように…。

ふ、ふ、ふたりで抱きしめ合い、息が苦しくなるほどに、し、舌を…。

そんな、く、くり返しに飽きると、…ッセが目でヤスナリに合図する。

…ヤスナリの手が…の横髪を梳き、お、おお、後れ毛をわずかに梳きながら、ぅなじを通り、少しだけ服の下に、く、く、くぐらせるようにして襟元に。

あ…

…ッセは陶然とし、しした表情になる。

もう一度、お、同じように指を頬からゆるりと流す。

はぁ…

じょ、じょ、じょ、上気した口から今一度、甘い吐息。

…もう一度、軽いキキキキススススを交わしつつ、ヤスナリはフィアののののシャツのひとつ目のボタンに、に、に…

 

 

 ここまで読んで、なのはは許しを乞うような表情ですずかを見た。

 後で冷静になってみれば、「なんで、わたしが謝る側になってたんだろう?」とも、思ったが、この時は混乱してそんなことには気が付かなかった。

 そんな様子にすずかは満足したのか、標的を変えた。

「じゃあ、続きはアリサちゃん。お願い」

「え?ええ!」

 突如として、攻撃の矛先を向けられて、アリサが声を上げて二人から離れようとしたが、今度はなのはがアリサの腰に腕を回して離さなかった。

 なのはの目には涙がたまり、なんだかやけっぱちで、「死なば諸共」と言っているようにも見えたが、とにかく、アリサを逃がすまいとしている。

「アリサちゃん。なのはちゃんが読んだ続きを…」

「ここだよ、アリサちゃん」

「ひッ…」

 小さく悲鳴を上げるアリサに迫りながら、すずかがペロリと唇をなめる。なのはが目をすわらせたままニッコリとほほ笑む。

 今度はアリサが恐怖に震える番だった。唇も震え呂律がうまく回らない。

「ちょちょ、ちょっっと、ま、待って…」

「次」

「ここからだよ」

「ッ…!」

 二人が大きな声を出さないことが、かえって怖い。

 恐怖に負けたアリサが文庫の続きを読み始めた。

 




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