管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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58たまには、のんびりお休みⅦ

 ファリンの必死な声に、恭也が庭に出てみると、

「…あ、ヴィヴィオ、そっち、そっち!」

「あわわ、ダメ、そっち行っちゃダメー!」

 最初に庭に飛び出したアリサが目を丸くして言った。

「わぁ!雫?ヴィヴィオ!?」

 庭に植えられた木によじ登り、雫とヴィヴィオが子猫達を追っていた。

 木の根元では、母ネコが心配そうに見上げている。

「あ、危ないよ、ふたりとも!」

「なにやってるのー」

 アリサに続いて庭に出たすずかとなのはが声をあげる。二人はそこそこ高い所まで上ってしまっていた。

「あ、お父さん!」

「ママ!」

 心配するなのは達に対して、雫とヴィヴィオはいたって呑気に、こちらに向かって手を振った。ファリンがこちらを見つけていってくる。

「申し訳ありません、恭也さん。子猫たちがおやつの取り合いをしているうちに、喧嘩をしてしまって…」

「そうそう、その内この子が木の上に逃げて…、その子が追い駆けたんだけど…」

「高く登り過ぎて、降りられないんじゃないかって…」

「「それで、救助活動を」」

 恭也に説明するファリンの言葉は途中から雫とヴィヴィオに引き継がれ、最後には声が重なった。

 女たちの後に続いた恭也はすぐに動けるように身構えながら思った。

(二人とも息が合うほど仲良くなってくれるのはいいが、腕白な所まで一緒にならないでほしかったな。雫はともかく、ヴィヴィオもなかなかにお転婆のようだ)

 普通の運動が苦手だったなのはと違い、その娘の運動神経は悪くないようだ。雫についていけている。

「ですから、わたしが梯子を持ってくるまで待ってください。と、言ったのに~」

 言ったファリンの足元には脚立が置いてある。多分、物置に脚立を取りに行ったファリンを待ちきれずに、二人が木に上り始めてしまったのだろう。

 大人たちの心配をよそに、雫達は子猫たちに声を掛ける。

「ねこ~、ねこねこー…。…ちっちっ…」

「ほら、おやつあげるから、こっち、おいで~」

「「ふみぃぃぃ」」

 子猫たちは気が立っているようだ。喧嘩した勢いのまま高い木に登り、興奮がそのまま不安に変わってしまったのだろう。

「あ…」

「だめ、あの子」

 子猫のかたわれが、地面を見ながら体を丸める。枝の先から飛び降りようとしているようだ。それにつられて、もう1匹の子猫も跳躍しようとしている。

「!!」

 子猫たちが跳んだ瞬間、雫とヴィヴィオが手を伸ばし、子猫達を確保する。が、

「「…あーー」」

 ズルっと足を滑らせ。二人そろって、体勢を崩した。

 

御神流・奥義 『神速』

 瞬間的に自らの知覚力が爆発的に高められ、全身の毛が逆立つ。モノクロの視界の中、恭也は走り出す。

 普通なら届くはずのない距離を、ゆっくりと詰めていく、ズシリと周囲の空気が重く煩わしい。他の物が完全にスローモーションに見える世界の中、それよりいくらか速い速度で、恭也は二人のもとへ走る。

 いや、一人だけ恭也と同じ速度で、動いているものがいる。エイブラハムだ。

 位置の関係上、恭也の方が一歩だけヴィヴィオに近く、エイブラハムは雫に近い。

(どうする?)

 自分の娘をこの男に任せていいのか?チラリとそんな考えが、頭を掠めたが…。視線の端に映るエイブラハムの目は、まっすぐ木から落ちる二人しか見ていなかった。

 恭也は近いヴィヴィオに向かって走った。途中、肌に魔法が使われる時の独特の振動を感じたが、ヴィヴィオと子猫をしっかりと受け止める。

「はわ!」

「むきゅぅ!」

 ヴィヴィオと雫が間の抜けた声を出す。雫と子猫の片割れはエイブラハムが受け止め、抱き上げていた。

「…軽いな、ちゃんとご飯食べてるか?雫。好き嫌いするといい剣士には慣れないぞ」

 エイブラハムが雫を下ろしながら言う。そう、受け止めたヴィヴィオも軽すぎる。目線をなのはに向けると、小さく相槌を打った。対象に浮遊の効果を与えるフローターと呼ばれる補助魔法を二人に掛けたらしい。エイブラハムがいる前で、魔法を使うとは大胆だなと、思いながらヴィヴィオを下す。

 子猫がするりとヴィヴィオの手の中らか抜けて、母ネコの元に駆けていった。

 と、

「エイブラハムさん!女の子に体重のこと言っちゃダメなんだよ!!」

「…む、そ、そうか…」

 雫がエイブラハムを説教していた。

 まず、助けてもらった礼を言うのが先だろう。と、雫の頭をペッチンとやりながら、エイブラハムに頭を下げる。

「娘が危ない所をありがとうございました」

 言いながら、恭也は雫の頭を掴んで下げさせた。

「いいえ、貴方の腕ならば二人とも、受け止めることが出来たでしょう。要らぬ世話を焼きました」

 エイブラハムが謙遜して答える。

「ヴィヴィオ、雫、大丈夫だった?」

「うん」

「平気」

 なのはが駆け寄って来て、2人が元気に答えるとホッと息を付いた。

 が、なのははすぐに母親の顔になり、恭也も雫を叱った。

「平気じゃないだろ、雫!あんな高いところまで登るなと言ってあるだろ」

「ヴィヴィオもだよ。危ないことしちゃいけないって約束したよね」

「「ごめんなさい」」

 子供達をしかる兄妹の表情はよく似ていた。子供たちも、シュンとして聞いている。

「おお、なのはがちゃんと、ママをやっているわ」

「そうだね。でも、なのはちゃんって、昔から怒ると怖かったよね」

「そういえばそうね。そういうところ、桃子さん譲りよね」

「そうなのか?桃子が?想像つかないのだが…」

「う~ん、桃子さんの場合、怖いだけじゃなくて、本当に悪い事した気分に…」

 外野になってしまったアリサ、すずか、エイブラハムの三人が、そんな会話をしていると…

 エイブラハムの近くでニョキっと何かが伸びた。

「何だ?散水スプリンクラーか?」

 エイブラハムが言う。確かにそれはスプリンクラーによく似ていた。

 ガシャコン、と、砲身のようなものをエイブラハムに向け、狙いを定めるまでは…。

「ん?」

「あ、ちょっと!」

「アビーさん!!」

 エイブラハムが暢気に砲身を覗き込み、アリサとすずかが警告した瞬間だった。

 ボフンッ!

 圧縮空気のちょっと間の抜けた音がしてエイブラハムの顔面にゴムボールが飛んできた。

「イっっ!何だこれ!」

 ボールを避けずに(避けるとアリサとすずかに当たる)咄嗟に手で払ってエイブラハムが叫んだ。

「大丈夫、アビーさん!?それセールス撃退用のトラップ!」

「セールス?そんなレベルのものか!?これが!顔に当たろうものなら、鼻が引っ込みそうだぞ」

 払った手がかなり痛かったようだ、言葉遣いが荒っぽくなっている。

 そんなエイブラハムにアリサが一言。

「もともと低いじゃない」

「なんだと!あんたこそ出すぎた性格を引っ込めたらどうだ!」

「なんですって!すずか!どんどんやっちゃって!」

 エイブラハムに言い返され、激昂したアリサに呼応するように、ニョキ、ニョキと新たな砲身が現る。

「うわ、本当に増えた!」

 言ったアリサ自身が驚いている間に、射撃が開始される。

 咄嗟にエイブラハムの後ろに隠れるアリサ、すずかは飛んでくるボールが見えているので、ヒラリと避ける。

「_ッ!」

 エイブラハムは命中コースのボールをキャッチして見せた。が、流れ弾や跳弾がなのは達にも降り注いだ。

「わぁ、わぁ!」

 驚きながらも、なのははボールの軌道が、初めからわかっているかのように、手のひらで受けていた。目の利く人には、ボールを受けるなのはの手のひらから、桜色の何かが弾けるのが見えていただろう。

「あわわわ」

 ファリンは頭を抱えてしゃがみ込んでいるが、なのはが近くにいたおかげで、無事のようだ。

「おっと!」

 恭也も子供たちに飛んでくるボールを払っている。こちらはこういうことにはちょっと慣れている。と、言った風情だ。

「ちょっと、アビー!アンタが狙われてるんじゃないの!?あっち行きなさい!」

「やかましい。見てわからないのか!無差別に撃っているじゃないか!」

「じゃあ、せめて盾になりなさいよ、男でしょ!」

「その言い方は最近じゃ、炎上案件だぞ」

 言いながらもエイブラハムの後ろに隠れたアリサを、飛んでくるゴムボールから守るエイブラハム。

 トラップの装弾数がなかなかあるようで止まる気配を見せない。

「すずか、忍が止める合言葉があるって言ってなかったか?」

「そんなのあるの!きゃあ!すずかちゃん、止めて!」

「そ、そうだね。確かコード・ズルー(Z)」

 すずかの言葉に機械達が射撃を止める。が、

《あなたのデータは登録されていません》

 機械の発した言葉と共に攻撃が再開された。

「な、なんで、どうして?」

 すずかが珍しく驚くが射撃は止まない。

《警告、警告、月村家では、セールスその他の勧誘を一切お断りしています。ただちに退去してください。退去が確認されない場合は威嚇射撃を行います》

「いまさら、警告!?おそ!!」

「にゃあああ、もう、撃ってるよ!」

「プログラムの優先順位が変わってる!」

「この家の交戦規定は、どうなっているんだ!」

 機械から響く合成音に、弾雨にさらされているもの達が大声を上げる。

「そういえば。忍がトラップを改良したと言っていたな。昨日」

 冷静な恭也の声。

 見れば雫達をトラップの射線が通らない安全な木の影に隠し、高みの見物を決め込んでいる。

「あ、ずるい!お兄ちゃん」

「もう、お姉ちゃん!また、失敗して!」

 それぞれの兄と姉に不満を言うなのはとすずか。2人の口ぶりからこういうことは、1度や2度ではないようだ。

 すずかが伏せながらスマートフォンを操作し始める。オンラインでシステムの設定を確認し、

「あ、この設定だと、登録にない人が一定時間いると、撃つ設定になっているみたい」

「あ~、もう、やっぱり、あんたのせいよ!とっとと、帰りなさい!」

 混沌としてきた状況にとうとう、アリサがキレて足元にあったボールをエイブラハムに投げつけた。

「いて!言われなくてもそうするさ。こんな危険地帯!」

「あ、でも、車…」

「適当にタクシーを捕まえるさ!!」

 別れの挨拶もそこそこに、エイブラハムは月村邸から逃げ出した。

 

 




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