2on1の模擬戦が始まり、バリアジャッケットを着たスバルとティアナが、なのはに向かって果敢に攻めていく。スバルの移動魔法ウイングロードが展開され、戦闘エリア内に足場と死角を作る。その間をピンクとオレンジ色の魔法弾が乱れ飛ぶ。
スバルが急加速しほとんど一直線になのはに迫る。なのははそれをシールドで受け流し、無謀な攻撃を叱る。
「こら、スバル。だめだよ、そんな危ない機動」
「すみません。でも、ちゃんと防ぎますから!」
生徒たちに何か考えがあるように思えたなのはは、ティアナの姿が見えないことにも気付く。ティアナがビルの屋上に現れ砲撃の構えを見せる。どうやら、砲撃のチャージの間スバルが派手に攻めて時間を稼ぐ作戦、…ではなく、ティアナがウイングロードを駆け上がり、短い魔力剣を掲げ直上から飛び下りてくる。屋上にいたのはティアナが作り出した幻影だ。
スバルの拳とティアナの魔力剣がなのはのフィールドに接触、魔力どうしが反応しあって煙幕のような爆発をおこした。
煙が晴れるとそこには二人の攻撃を素手で受け止めたなのはの姿。なのはは自身の教えを無視し、危険な行為をした二人にショックを受けているようだ。魔力剣を受けた右手から出血していることにも気付かないまま、空ろな声で自分の訓練はそんなに間違っているのかと問う。
問われた生徒達は教官の初めて見せる姿に動揺したようだ。特になのはに怪我を負わせてしまったティアナの動揺はひどく、ほとんど錯乱状態で間合いをあける。
「強くなりたいんです!!」
こう叫びながら砲撃魔法を展開するティアナに、なのはが訓練用魔法弾を浴びせ…
「もう、結構だ」
「はい」
ヴィルヘルムの指示を受けて、グリフィスが端末を操作すると、空間モニター映し出されていた映像が止まった。
機動六課部隊長室に、スターズ分隊が呼び出されていた。理由は先日、ティアナがヤンチャしてしまったことが、『口うるさい副長』の耳に入ってしまったのが原因だ。
海上に現れたガジェットⅡ型対処の報告受けたヴィルヘルムは、その際ティアナが出動待機に入っていなかったことに気が付き問いただした。その際、訓練中の撃墜騒ぎが若干誇張されて報告されてしまったらしい。
これは、はやてやなのは達のミスでもある。なのはやフェイトはケガ人が出たわけでもなく、海上への出撃の後すぐにティアナと和解できたこともあり、はやての負担を減らそうと正式には報告しなかったし。はやてはなのはと同じく教官であるヴィータから詳しい事情を(家族の会話として)聞いていたので、なのはを信頼し特になにも言わなかった。
10年来の友情がなせる暗黙の連携だが、よそから見ると一歩間違えると危険な事故が起こりかけたのになにも対処していない隊長陣ということになる。四角四面の人間が黙っているはずがない。
「では、諸君。この騒ぎを説明してもらおうか」
「こ、これは作戦で…」
「バカ、あんたは黙っていなさい…」
「…」
「…わ、わたしが説明します」
ヴィルヘルムの要求にスターズの隊員が苦い顔をした。叱られた小学生がなんとか言い訳を考えているような顔のスバル、開き直って言い訳をするつもりがなさそうなティアナ、明らかに反感を抱きつつも怒りを押し殺しているヴィータ、そして、0点の答案用紙を教師に突き返された学生のように落ち込んでいるなのは。
ミット人の平均身長より小さな体をさらに小さくしている姿はとてもエース・オブ・エースには見えなかったが、愛らしくもあったので、はやては密かに「副長、グッジョブ」と場違いなことを考えていた。すると不意にヴィータと目が合う。
(このうるせぇのなんとかして)
ヴィータの視線がそう訴えてくるが、今回のはやての立場は撃墜騒ぎの経緯を聞くために4人を呼び出した上司であるため、「もう、ええよ」の一言で返すわけにはいかない。部下を平等に扱えない者が座るのは、部隊長席ではなくリビングのソファーだ。ヴィルヘルムの死角でこっそりと手を合わせると、ヴィータも察してくれたらしくヴィルヘルムを睨みつけるのに専念し始めた。
「…ということです。今回の件は教導の意味を伝えきれていなかったわたしが主な原因です」
「訓練の主眼の徹底は訓練士官の基本だ、なぜ怠った」
「すみません、不十分でした」
ヴィルヘルムは他にも安全規則違反や、意思疎通の不備を指摘していく。それはけして大きな声ではなかったが、その分鋭く、有無言わせぬ口調でありヴィルヘルムの怒りがひしひしと伝わってきた。なのはは背に鉄の支柱を入れたような直立不動の姿勢で、ヴィルヘルムの非難を受け止めた。ヴィルヘルムをまっすぐ見つめ、言い訳ひとつすることなく謝罪する姿はさすがに元気がない。
その姿を見て、スバルとティアナの顔がみるみる蒼白になっていく。なのはへの指摘に胸を締め付けられ、非難に心臓を刺されるような気分を味わっているのだろう。この間スバル達はなのはに助け船を出そうとしていたが、ヴィルヘルムが「高町教導官、君の分隊では上官が話をしているときに、割り込んでくる愚か者がいるのか?」と、スバル達を一瞥もせず言ったため押し黙った。
詰問と答弁が数分間続いたあと、ヴィルヘルムははやてにこの件をどう処理するのか尋ねてきた。
「確かに今回は危うくケガ人が出るところやった。しかし、そうならなかった。わたしはこの幸運を、学ぶチャンスを与えられたものと考えます。本人たちも反省しとるようやし、今回は書面に残るような処分はなしの『口頭注意』とします。ただ、スターズ分隊には罰として環境整備の手伝い、立ち入り禁止地区の清掃を命じます。」
「甘いですね、ランスターに限って言えば2度目の危険行為です」
「んん?なんのことやろな~」
ヴィルヘルムはホテル・アグスタにおけるミスショットを持ち出したが、はやてはとぼけた。はやても、もちろんティアナが撃った魔法弾が狙いを外し、スバルに直撃しそうになったのをヴィータが助けたと言う報告を受けている。
(まあ、フレンドリーファイアで裁判、ティアナの身分剥奪てな、最悪の結果を想像して身震いをしたのも確かやったけどな…)
チームを必要以上に危険にさらす行為はそれだけで十分クビの理由になる。はやてが心のなかで続けていると、はやての寛大な処置にまで否定的な意見を言ったヴィルヘルムの態度が許せなかったのだろう、ヴィータが文句を言った。
「副長さんよ。あんた部隊長のやることにまで、ケチをつけるってのか」
「それが私の仕事だ、ヴィータ3尉。管理局からはそう依頼されている。それを実行する権限と共にな」
「なんだと!」
ヴィータが眼の色を変えてヴィルヘルムを睨みつける。身長差があるのでほとんど天井を見上げるような恰好になったヴィータを、表情一つ変えることなく見下ろすヴィルヘルム。それが気に入らなかったヴィータはとうとう殺気を放ち始めた。それを見て、はやてはあわてて仲裁する。
「はいはい、そこまで。ともかく、この件はこれで終いや。ええな、副長」
「…命令ですか」
「うん」
「命令とは発令者が責任を負うべきものです。それをお忘れなく」
暗に何かあっても責任はすべてはやてに押し付けるぞ。と、言っている副長を見てヴィータがまた爆発しそうになっているが、何とかこらえてくれたらしい。解散を命じるとおとなしく隊長室を出ていく、ドアが閉まる際に思い切りヴィルヘルムを睨みつけていくことは忘れなかったが…
呼び出されていたなのは達を心配したライトニング分隊が迎えに来ていたようだ。扉を挟んで向こうの気配が伝わってくる。合流した2チームが十分離れていったのを確認してから、はやては口を開いた。
「見事な悪役っぷりやなー、ヴィータなんて本気で怒っていたで」
「士官の階級章を付けている以上、彼女も政治を覚えるべきですね。前線で鉄槌を振りまわすだけが部下を守る行為ではありません」
「ん~そうやな。でも、なのはちゃんも本気でへこんでたからなあ~」
はやてが責めるような顔をすると、ヴィルヘルムは数秒黙考しグリフィスに「どう見えた?」と尋ねた。グリフィスが正直に「父親に怒鳴られた時のようだった」と答えると一度咳払いをしてから
「では、課長。高町教導官には謝罪を、今回はダシにしてしまったと」
「自分で言ったら、ええやん」
「駄目です」
どうやらこの年上の部下は、自分を嫌われ者のフォローまでしてまわる理解ある部隊長に仕立て上げたいらしい。そこまでして貰わなくとも、自分はそれなりに部下達の支持を得ているつもりだったのだが、ヴィルヘルムからはそう見えていなかったのだろうか?はやてが疑問を口にすると、副長はこう答えた。
「課長の支持率を心配する必要はありません。この呼び出しを提案したのはわたしです。非難を被るのも私であるべきです」
「ま、そういうことにしとこか。」
ヴィルヘルムが今回この呼び出しを提案してきた理由は、今回の件で地上本部等から干渉を受けないように、すでに一定の処分と対策を終えているとポーズをとる必要があるというものだった。醜聞は何処からか漏れるものだ、用心するに越したことはない。
「しかし、スバルとティアナをいじめ過ぎとちゃうん、真っ青になっていたで」
「そうでしょうね、これで自分達の失策がチームに泥を塗るということを学んでくれるなら、今後前線に出た時、血気にはやることがなくなるでしょう…」
ヴィルヘルムは若い部下達が学んでくれるなら、多少の悪評など安いものだと締めくくった。が、言葉の外にこれでも学ばなかった場合、処分を辞さないと主張しているのだ。部隊運営には必要な処置だが気分がいい仕事というわけでもない、嫌われ役を買って出ようとするヴィルヘルムを気遣って、はやてはなるべく明るい声を出して言った。
「大丈夫やって、ティアナは自分が思っているより才能も、思いやりもある子や。グリフィスくんもそう思うやろ」
「はい、もちろんです」
「…そうですか。では、新人たちを失わないように少し骨を折るとしましょう」
「な、何をする気や…」
この間の立てこもり事件の報告を受けた時と同じ、いけずな顔をしたヴィルヘルムを見て、若干引きながらはやては聞いた。ヴィルヘルムは不愉快な話ですがと、前置きしてから言ってきた。
「昨日、地上本部の知人から、本部長が視察の準備をしているとの、噂を聞きました」
「視察?いつか来ると思っとったけど、随分早いなぁ」
「ええ、査察ではなく視察です。地上本部長独自の行動のようです。本部長は我々に対する直接的な権限を持ってはいませんので、我々に対する圧力のつもりか、あるいはレジアス中将への機嫌取りのつもりでしょう」
六課はガジェットを仮想敵(AMF対応策等)としてかなり多くの予算を確保している。対してレジアス中将はAMF対応予算を2年前より却下し続けている。本部長から見ると六課は、政治的に対立している組織が地上に居座っていることになる。嫌がらせのひとつもしたくなってきたのだろう。
「そこでイロイロ手を回して遅らせることにします。いつまでもというわけにはいきませんが、暫くの間は先送りにできるでしょう」
「その間に出動の1つもあれば、ティアナ達に実績を持たせることができる。きょう以降の実績があれば、視察の際にミスショットやヤンチャのことがばれても、早々突っ込まれない。そういうことやな?」
「そういうことです」
「そういうことなら、わたしもナカジマ3佐に何か事件があったら、うちの子たちを使ってあげてくださいと頼んどくわ」
「いい考えです。それともう1つ」
「なんや?」
「私が動いている最中、『彼女』の世話をロウラン補佐に頼みたいのですが、よろしいでしょうか」
「グリフィスくんに?」
佐官が揃ってグリフィスを見ると本人はいきなりの話で驚いたようだが、やりますと威勢のいい返事をしてきた。
うん、男の子はこうでなくちゃあかん。と、はやては次元航行艦整備指揮官補佐に、グリフィスを任命した。
「ええよ。副長、グリフィスくんを頼みます」
「では、早速動くことします。ロウラン補佐、先に行って車を温めておいてくれ。私はいくつか書類を取ってから向かう」
そう言ってマイカーのキーを渡すと、グリフィスに続いて隊長室を出ていくヴィルヘルム。去り際にはやてに敬礼すると
「先程はお気遣いありがとうございました」
と、言って行くのも忘れない。はやては、
(そういうのは、黙って受け取っておくもんや)
とだけ、心の中で返した。
あれだけヤンチャしたティアナに、何のお咎めもなし?と、疑問が残ったので書いた話です。
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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