管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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60海鳴市の夜V

 思わず目を閉じた。身体を竦めて、殴られる覚悟をする。

 が、殴られる音の代わりに、小さな風を切るような音が耳にはいると、両腕の拘束が弛んだ。 

「え?」

 理解できずに目を開けると、男は喉を押さえて苦しんでいた。男は声を上げずに代わりに、管から空気が抜けるような奇妙な音を出していた。

 草と落ち葉を踏む音がして、雑木林の闇の中から染み出してくるように、黒い人影が現れる。

 すぐに馬乗りになっていた男の重さが消えた。

「え、え?」

 呆気にとられて、瞬きすると涙が流れて視界が鮮明になり、男の重さが消えた理由を理解した。

 湯気を立ち上らせる拳銃を持ち、無数のナイフをベルトに付った忍者が男を左腕一本で宙吊りにしている。

 忍者は長身というわけではなく、身長170cmぐらいで中肉中背だったが、恐るべき膂力で男の首を締め上げおり、指の間からは男の血が漏れ出していた。

 首の痛みと息苦しさに苦しんだ男が手を組んで、祈るように命乞いをしたが忍者は構わず拳銃を男の胸に押し当てた。

 忍者が何をしようとしているのかを察した、すずかが目をつぶって顔を背けた瞬間。

 小さな風を切るような音が今度は二回、続けて数m先に重いものが放り出される音が聞こえた。

 思わず音のした方を見ると、茂みから男のジーンズをはいた足だけが見えた。

<すまない、来るのが遅れてしまった。立てるか?>

 忍者が使った言葉は少しアクセントが怪しい日本語だった。

(助かった?)

 忍者の言葉に緊張の糸が切れかかるのを、すずかはどうにかこらえた。忍者はこちらを襲ってきた相手とはいえ、人を撃ち殺した相手だ。簡単に信じていいモノではない。

<味方と言えない立場だが、危害を加えるつもりはない>

 こちらの様子に、忍者が言ってきた。

 すずかが答えずにいると、忍者は構わずに近寄り、すずかの身体を抱え上げた。

「_ッ!放して…」

 再び暴れて忍者を叩くが、忍者はビクともしない。特に大柄でも筋肉質にも見えないのにすごく力強い。

<危害を加えるつもりはないと言っただろう。連中は君には死んでもらいたいはずだ。ここにいるのはまずい>

 言いながら忍者は、すずかを抱えたまま雑木林を進む。途中で何度か忍者の弾帯から延びている内視鏡型マニピュレーターが動き、せっせとカードを数枚放り投げている。

 忍者は枯れた小川に降りるとすずかを降ろした。小川が長年掛けて作り出した溝は意外と深く、戦争映画の塹壕をイメージさせた。

 肉体的にも精神的にも、そろそろ限界を迎えそうになっていたすずかが座り込む。アリサはどうなったのか?と、見れば、低い目線のお陰で、外灯に照らされたシルエットがはっきりと見える。

 道路上で≪アリサ≫がドライバーや同乗者達に指示を出している。まるで≪アリサ≫がドライバー達のリーダーのような姿である。

 その≪アリサ≫達に向けて、忍者が拳銃を向ける。

(撃つ気だ!)

 そう思った瞬間、すずかは拳銃を掴んでいた。

<_ッ!なんてことを>

 これはすずかが後から知ったことだが、暴発の可能性がある危険な行為をしてしまったらしい。

「待って…。アリサちゃん…友達が…」

 慌てて引き金から指を放す忍者に、アリサのことを伝えようとするが、呂律が上手く回らない。

<知っている。アリサにあてたりはしない>

 要領を得ない説明にも関わらず忍者はそう答え、すずかの手を無理に振り払おうとはしなかった。

<とりあえず、話して…、チッ!>

 忍者が鋭く舌打ちをすると、あたりが急に明るくなった。明暗の差に眼が眩む。

 光源を探ると茂みの男の遺体から火柱が上がった。ただの炎ではないらしく、ほかの木々に燃え移ることはなかったが、≪アリサ≫達も異変に気が付いたらしい。同乗者達が≪アリサ≫を守るように円陣を組んだかと思ったら、その姿も変わる。

 全員がフード付きの衣装に替わっている。なのは達がBJと呼んでいる特殊な防護服だ。

<こちらに来る。伏せていろ>

 忍者の言葉の通りフード衣装の中の3人が、ガードレールを乗り越え此方に近寄ってくる。今すずか達のいるところは、火柱が上がったところから離れていたが、すぐに見つかってしまうだろう。

 それでも忍者は落ち着いていた。

<1号機、うて>

 淡々と忍者が言ったかと思うと、空から数発の閃光が降り注いだ。その閃光の中の一際大きな光が、≪アリサ≫達と3人の間に突き刺さり、衝撃で土煙を巻き上げる。同時に前の3人に向かって残りの光、その数六つが迫った。

 3人の内一人が、閃光を素早く回避し、一人が光の盾ではじき返した。最後の一人は全身を包むドーム上の防壁を展開させたが、防壁は2、3度瞬いたかと思ったら光が着弾する前に消えた。

ドドン!

 打ち上げ花火のような重い音を立てて、閃光が最後の一人に直撃し、大きくよろめかせる。

 続けて忍者の持つ拳銃が跳ねた。発射音も発火炎もなかったが、血飛沫をあげて最後の一人が倒れる。

 フード付きも黙ってはいなかった。辺りに光弾を各々の方法で撃ち始めた。素早く身を屈めた忍者とすずかの頭の上を、何発もの光弾が通り過ぎストロボのようにすずかの顔を照らした。

 その光で忍者は何かに気が付いたようだ。こちらの顔を見る。

 すずかはハッとして頬に手を当てると、殴られた頬が鈍い痛みと熱を持ち腫れていた。殴られた後時間がたって頬が腫れ上がって来たようだ。今、鏡を覗くのは勇気が必要そうだ。

<動くな>

 忍者が手をかざしてきた。思わず身体を竦めたが、頬の痛みがゆっくりと引いていく。

 治療魔法というモノらしい。すずかも以前シャマルが使っていたのは見たことがあった。

(シャマルさんが使っていた時は、もっと、パッと治していたのに…)

 魔法関係の知り合いと比較して、この忍者は大した力は持っていないのかもしれない。と、すずかは思った。

 すずかがそんなことを考えている間に、光弾が立てる風切り音の回数が増えていく。フード付き2人が弾幕を張りながらジワリ、ジワリと距離を詰めてきているようだ。

 忍者がすずかに手をかざしたまま、弾幕の合間を付いて反撃する。

 命中!フード付きの一人がよろめき、うめき声と悪態を吐いたがそれだけだった。BJを貫くには至っていない。それでも撃たれたフード付きは、見えない攻撃を恐れたのか速度を鈍らせ、替わりに光弾を更に激しくばら撒いた。

 そのころには忍者は、銃を見ながら愚痴をこぼす。

<む、治療魔法を使いながらだと、出力が下がるな>

 言いながらも忍者は手をかざすことを止めなかった。

 すずかには、『すでに出てしまった被害は後回しにして、とにかく反撃をする』という戦闘のセオリーは分からなかったが、忍者が恭也達のような優しい性格をしていることは分かった。

 

 




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