管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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61鴉の夜A

 アリサ・バニングスと月村すずかを監視していたL3S1号機からの報告を受け、隠密転移魔法『動く本棚』をくぐり抜けると、最初に眼に飛び込んできたのは、女を襲っている白人の男の姿だった。

 面食らい、転移座標が狂ったのかと思ったが、そこは間違いなく目的の場所。なにしろ、馬乗りになられても、激しく抵抗しているのは月村すずかだったからだ。

 しかし、抵抗虚しくすずかが両手を押さえられ、組み敷かれてしまう。

 男が拳を振り上げた!

(この○眼野郎!)

 そう思ったときには、身体が動いていた。

 フットフォルスターの拳銃型デバイスを引き抜き、躊躇なく発砲する。空薬莢と共に、紫外線の魔力光を発するシューターが吐き出され、男の声帯を裂く。

 

>通信防止結界 作動

 - モード:対ベルカ 防止範囲:超短距離

 

 数メートル範囲程度でしか作用しない通信妨害を掛けながら接近。男の喉を掴んで吊り上げてやると、男はジェスチャーで命乞いをしてきた。

(ダメだ)

 思ったのはそれだけだった。銃口を男の胸に当て止めを刺す。

 するとすぐにセンサーが微弱な魔力をとらえた。魔力が人為的に動く時の反応。

 すぐさま敵デバイスAIとプログラム間の通信をスニファして、プログラム内容を推測する。

(ベルカ式、タイマー付きの炎熱魔法。証拠隠滅用だな)

 炎熱魔法の発動には数分の余裕がある。

(さすがに戦闘を行えば、ハラオウン達にも察知されるな。高町1尉が転送の魔法を得意としているとは、情報にはない。その護衛とここにたどり着くまで10分弱と言ったところか)

 残りの敵の数はアリサを含めても12人。正面から戦うのでは不利だが、敵はまだBJも着ていない。不意打ちで半数を倒すことができたなら、すずかを庇いながらでも十分目的を達成できると判断する。

『パーシング、仕掛けるぞ。1号機は?』

『すでに射撃ポイントに着いている』

『合図を待て』

 相棒に指示を出しながら、すずかに近づく。

<すまない、来るのが遅れてしまった。立てるか?>

 こちらの声にすずかは驚いたようだ。構わずに続ける。

<味方と言えない立場だが、危害を加えるつもりはない>

 すずかは当面の危機が去ったことで、すこし放心しているようだった。この状況でパニックにもならずによく自制している。

(たいしたものだな。この日本の女はみんなこうなのだろうか?)

 すずかを抱え上げながら思う。

 十数年ぶりに尋ねる世界だったが、作戦前にざっと調べ直しただけでも幾つか資料が追加されていた。

 そのなかでも、目を引いたのが、PT事件での高町なのは、闇の書事件での八神はやてだった。この二人は魔法の存在も知らなかった年端もいかない少女だったにも関わらず、ベテラン武装隊員でもビビるような大事件を解決に導いたという。

 読んだ時には、広報が吹聴して歩いている作り話か、噂話が一人歩きしたデマだろう。と、同僚と笑っていたのを覚えている。

 しかし、腕の中で暴れるすずかを見ていると、真実味があるように思えてくる。

「_ッ!放して…」

<危害を加えるつもりはないと言っただろう。連中はキミには死んで貰いたいはずだ。ここにいるのはまずい>

 言いながら、攻撃に都合が良さそうな位置に移動する。途中に送信用のカードを有線でBJに繋ぎ、幾つかのトラップのカードを仕掛けておくのも忘れない。

 十分に放れた場所に移動。小川が作り出した溝に隠れて射撃体制に入る。

(よし、いける!)

 引き金に指をかけた瞬間、白く細い手が横からニュッと出てきて拳銃を掴んだ。

(誰だ!)

 すずかだった。反射的に引き金から指を放して、暴発を防ぐ。

<_ッ!なんてことを>

 思わず鋭い声が出た。すずかはコッキングピースを掴んでいる。暴発していたら、人の指ぐらい簡単にへし折られてしまう危険な行為をしているというのに、それに気が付いていないのか、必死に訴えてくる。

「待って…。アリサちゃん…友達が…」

 まずい、予定が狂いそうだ。思っていた以上に、すずかは行動的だ。

<シッテいる。カノジョに当てたりしない>

 そう言いはしたが、焦った態度が表に出たらしい。アリサの心配をしているすずかが、なかなか銃を放そうとしない。

<取り合えず、放して…、チッ!>

 説得しようとしたが、先に炎熱魔法が発動してしまった。

 立ち上る火柱に気付いて、アリサの周りに残っていた男女がBJを纏って、円陣を組む。

 ハラオウン家のセンサー群に感知されるのを恐れているのか、広範囲・高性能のアクティブ探査を使わずに、3名が火柱が上がった方向を警戒しながら近づいていく。

<こちらに来る。伏せていろ>

 予定が狂った。

 まだ相手に位置を特定されていないとはいえ、今から攻撃を仕掛けても倒せるのは精々1~2名がいいところだ。

 情報リンクで状況を把握していたパーシングの通信が入る。

『どうする、金髪の子は諦めて、いったん引くか?』

『いや、当初の予定通り、高町1尉達とつぶし合って貰う』

『戦闘のどさくさをねらうのか?』

『ああ、それまで踏みとどまる』

 斥候の3名が円陣から十分に離れた瞬間。

<1号機、撃て>

 同時に、

 

>デバリア ウイルス送信 

 - モード:対ベルカ

 

 L3Sの主砲と追加兵装の誘導弾を使った射撃が降り注ぐ。

 主砲は円陣組と斥候達の連携を分断するため、本命は斥候に襲いかかる誘導弾。不意打ちであったにも関わらず、3人はそれぞれの方法で誘導弾を回避、防御しようとした。その中の一人が展開したバリアが、バラ撒いたウイルスに犯され消滅。斥候の一人が誘導弾の直撃を受けた。なんとかフィールドを強化して誘導弾には耐えたようだが、フィールドの出力は著しく低下している。

 チャンスを見逃さずに射殺し、相手が倒れる頃には身を伏せる。

 残った斥候は、無誘導弾を連射して牽制してきた。が、こちらの弾は威力は低いが極小音・魔力光を紫外線に調整しているため、射撃場所を特定できなかったらしい。有効な牽制になっていない。

(よし、いいぞ。なんとかなりそうだ)

 すずかの方を見ると、先ほどのやり取りで最後の体力も尽きたのか、おとなしくしている。

 頭上を通り過ぎた敵弾の光が、すずかの顔を照らす。お陰で気付いてしまった。すずかの整った顔立ちが腫れて歪んでいる。

 こちらの視線に気が付いた、すずかが隠すように頬に手を当てる。

 とりあえず治療魔法を掛けてやる。ここで気の利いた慰め台詞が出てくれは良かったのだが、生憎そんなストックは持ち合わせていなかった。

 代わりに敵に対しての怒りがわいてくる。それを押しとどめたのは相棒の通信だった。

『おい、治療は後回しにしておけ、隠密行動の出力で治療しながらの戦闘は無理だ』

『…こっちは数分保たせるだけでいいんだ。計算じゃ、まだ少し余裕がある』

 言いながら間合いを詰めてくる残り二人の斥候に牽制射撃。

 うめき声と悪態を吐きながら斥候の動きが鈍る。しかし、斥候は反撃してきた。

 撃ってきたのは斥候だけではない。円陣を組んでいた敵も、斥候が射撃している辺りに向かって射撃を行っている。

 突然砲撃された混乱から立ち直ってきたようだ。

 通信には乗せずに愚痴をこぼす。

 美女を片手に抱えて、敵をなぎ払うヒーローするには、魔力不足らしい。しぶしぶ認めて、治療の方は顔だけで我慢して貰おうと決める。

 斥候の二人が引いた。攻撃方法を変えてくる予兆だ。

 対応の速度としては遅いくらいだが、それは敵がデータ通信を行っていないからだ。原始的な口答とハンドシグナルだけで連携を取っている。

(こちらのクラッキングや妨害能力があることを理解したらしいな…)

 データ通信を利用して敵全体にウイルスを感染させて一網打尽という訳にはいかないようだ。一つ一つの戦闘用プログラムの脆弱性をついて対処する必要がある。

 敵の立場ならどうする?敵はこちらの正確な位置がわからないせいで、大雑把な攻撃しかできない。なら当然…

 センサーの設定を調整し、対砲戦に最適化する。早速、反応があった。直射砲撃の反応が1つ、榴弾の反応が3つ。共にチャージをしている。

(やはり、面による絨毯攻撃か)

 すずかを抱えたまま回避するとなると、強力なフィールドを張って彼女を高速移動の負荷から保護する必要がでる。だが、そんなフィールドは相手のパッシブセンサーでもすぐ関知されてしまうので、火力を集中されて一巻の終わりだ。

(並の魔導師だったら。有効だったな)

 直射対して緊急周波数を使って大量にアクセス信号を送信してやる。

 緊急回線は魔法の才能がある者なら受信してしまう念話周波数だ。場合によっては肉体操作など、攻撃にも使用されるためデバイスは危険の有無を常に判定する処理を行っている。そこに大量の信号が送り込まれたため、砲撃のチャージを行っていたフード付きのデバイスは、処理容量が飽和状態になってしまった。

 制御を失った砲撃用の魔力が暴走し、乾いた炸裂音と共に術者自身を殴り倒した。

(次!)

 榴弾が放物線を描く、こちらは威力・効果範囲が直射砲撃ほど大きくはないがチャージが早いため、発射前には阻止できない。その分防ぐのは簡単だった。センサーで解析したデータを元に、榴弾の信管を誤作動させる共振周波数の念波を放ってやる。

<[伏せろ!]>

 すずかに警告したが、頭の回転か早い彼女にしては珍しくキョトンとしている。

 しまった。今のはミッド語だった。

 警告し直している時間はない。無理矢理引き倒して、覆い被さる。

「きゃっ…ぶっ!」

 連続花火のような音を立てて、榴弾が加害効果範囲外で爆発していく。 それでも、ビリビリと空気が震える。衝撃波が耳に入っていたら耳がおかしくなっても不思議ではない。

<無事か>

「……」

 身体をどけて聞くが、すずかは答えなかった。その代わりゆっくりを身を起こした。顔にたっぷりと腐葉土をつけて…。

 どうやら、顔から地面に引き倒してしまったらしい。

 気まずくなって、敵の出方を窺っているフリをしていると、すずかは後ろを向いて、ポケットからハンカチを取り出す。

 小さく、ぺっ、ぺっ、と、聞こえてくるところを見ると、口の中にも入ったらしい。

 すずかが後ろを向いている間に、敵は攻撃方法を変えてきた。

 飛行系の魔法が出す漏れ魔力を関知する。パターンを解析すると使用プログラムがミッド式飛行魔法だとわかる。

(ミッド式のプログラムをエミュレーターを介して、現代ベルカ式のデバイスOSでも使用できるように細工してあるな)

 航空戦力で頭を押さえるのと同時に、上空からの熱源探査でこちらの位置を掴むつもりだろう。

 こちらは先ほど立ち上った火柱の影に位置していたので、BJを着ていないすずかの体温も捉えられずにすんでいたが、さすがに上空からは丸見えだ。

 飛行系魔法のプログラムに感染するウイルスをバラ撒こうとして一瞬躊躇する。

 戦闘用のこのウイルスは敵味方の区別なく感染してしまう強力なものだ。使えば自分自身を含めて念話通信波の届く範囲で飛行系魔法は使用できなくなってしまう。

 通信波に指向性を保たせたとしても漏洩通信波というのはどうしても出てしまうため、控えさせているL3Sが飛行して一息に援護に駆けつけることはできない。また、高町1尉達が接近してくるのを躊躇するおそれがある。

 せめて敵が使っているプログラムが、ベルカ式の飛行魔法だったならより分けることが出来るのだが、それも無理だ。

『一号機、飛ぶんじゃないぞ』

 居場所がばれた方が今は危険と判断して、一号機に警告してからウイルスを送信する。

 

>ノー・フライ ウイルス送信 

 - モード:対ミッド

 

 ウイルスを乗せた通信波は光も音も出さなかったが効果は絶大だった。宙に浮かび掛けていた敵4名が魔法のコントロールを失って地面に叩きつけられる。しかし、フィールドに守られて大きな怪我には至っていないようだ。すぐに立ち上がり射撃魔法を放ってくる。

 その射撃は通信波の送信元周囲を狙っている。敵は妨害信号や現在送信中のウイルスの送信元のおおよその位置を特定したようだ。密度の高い射撃で行動の自由を奪った後に、左側面から接近して仕留めるつもりらしい。

 2名が大きく迂回して送信元に近づいていく。

 同士討ちを避けるために敵の射撃が止むと、同時に2名が送信元に突っ込んで行く。

〈耳を塞げ〉

 バラ撒いて置いたカードの数枚が作動して、2人を吹き飛ばした。

 その内一名が腕を吹き飛ばされて地面をのた打ち回る。もう一人は最大効果範囲外にいたようで軽傷ですんだようだが、このまま攻撃するのは危険だと判断したらしい。立ち上がると相棒を抱えて後退していく。

(よし、かかった)

 敵が後退していく様子は、十数m放れた枯れた小川でも何とか捕らえることが出来た。

 こちらが使ったのは、センサーや通信の送信場所と受信場所を離すバイスタティックという技術の応用だ。カードの一枚を有線ケーブルで繋ぎ、そこからウイルスや妨害信号を送信。こちらの位置を欺瞞していたわけだ。

 すずかの方をみると、今度は事前に日本語で警告したため、しっかりと耳をふさいでいる。

 こちらの視線に気が付いたすずかが顔を上げ、何とも粘りけの合る視線を向けてくる。

「……」

 マスクの中でこめかみに一筋の汗が伝っていくのがわかる。

 こちらが黙っていると、すずかはあまつさえハンカチを取り出し、顔を拭くまねをしてみせる。

 やはり、先ほど顔から腐葉土に押しつけたことに不満があるらしい。

 「仕方ないじゃないか」と言いたかったが、『じ~~~~』という視線に負けて謝ってしまう。

<悪かった>

「……」

 すずかはそれ以上睨んでくることはなかったが、耳を塞いだまま背を向けた。拗ねてしまったようだ。

(俺、なんで頑張っているんだろう?)

 再開された敵の射撃を牽制しながら。ふとそんな思いにかられる。

(この後のタバコは、どんな味になるだろう?)

 

 




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