管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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62鴉の夜B

 敵は散発的な射撃をウイルスの送信場所に撃ち続けている。

 ウイルスやトラップ、さらには長距離から攻撃したL3Sが潜在的脅威になっているお陰で敵は攻め手に欠いているようだ。

 元々、ベルカ系の魔法は1対1で正々堂々切り結ぶ、個人の優を重要視してきた魔法で、一部を除いて探査や射撃を軽視している傾向がある。敵もどうやら、ご多分に漏れないベルカの騎士のようだ。

 彼らの射撃精度では、的の小さな送信用のカードに当たる確率は殆どないだろう。このまま、ずるずる時間が過ぎてくれれば、高町1尉達が現れ、その隙に乗ずることが出来ると、内心でほくそ笑む。

 決して油断しているわけではなかった。しかし、勝利の女神はその驕りはお気に召さなかったようだ。

 

ジジッ!

 

 通信に小さなノイズが混じったかと思うと、有線で繋がっていたカードからの反応がなくなる。敵の撃った魔法弾にケーブルが撃ち抜かれていた。こちらの戦術ミスというよりも完全に運の問題だったが、拮抗していた流れが大きく傾く。

(まずい!)

 ウイルスの送信が止んだ隙を見逃さず、敵は再び飛行魔法を起動させようとしている。阻止するには直にウイルスを送信しなければならないが、そうすると通信波を捉えられ、こちらの正確な位置が敵にばれる。

 しかし、それは敵に飛ばれても同じことだ。それならば、頭上から撃ち下ろされるリスクは避けるべきだ。

<ゼッタイ、頭を上げるなよ>

 すずかの耳元で警告してからウイルスを再送信する。

 飛行魔法の反応は消えたが、魔法弾の密度が増す。先ほどまでとは違い確実にこちらを狙っている射撃だ。牽制の為に撃ち返す隙がない。

 更に飛行を取りやめた4名が魔力榴弾と直射砲の魔力をチャージしている。先ほど同じ方法で妨害を掛けるが、今度はこちらの処理容量が限界を迎える。つまり、もう他のウイルスや妨害波を送信できない。

 敵の4名が魔力出力を上げ、右側面から回り込んでくる。右側面にはトラップを設置していない。

『1号機、ガン発射!』

 命令に応じてL3Sの右腕に装備されたイーグレットSS製の重機関銃から、黒の香(ブラックパフューム)Type-Aノイジー・ウッドペッカーが分間600発の連射で吐き出される。通常の魔法とは違い、黒い爆薬を用いた弾丸は今の探知魔法では発見されにくい。

 だが、約1km先からの射撃を、4人はシールドとバリアの複合防御でしっかりとガードした。

 さすがにしっかりと警戒されている。攻撃方法を変えて誘導弾で攻撃してみるが結果は同じだった。誘導弾の弾幕は足止め程度の効果しかない。L3Sの魔力コンデンサーの値が見る見る減少していく。

(まずいな)

 手詰まりだ。

 せめて、もう2、3人数を減らせていれば、相手の懐に飛び込むことも出来たのだが。もう、目的を諦めて残りの装備を使って逃げ出すのが精一杯だ。それは同時にアリサを見捨てることにもなるが、こちらの力ではどうすることも出来ない。

 

<掴まっていろ>

「えっ」

 逃げ出すためにすずかを抱えると、只ならぬ雰囲気を感じ取ったらしいすずかが不安げに見てくる。

 気休めにぐらいは言ってやろうとして、取り止める。

 その必要はなくなったからだ。

 パッシブセンサーでも分かる力強い魔力反応が5つ。高町なのはとその護衛の空戦魔導師の反応だ。

 パーシングが少し弾んだ声をだした。

『識別信号に合致、高町1尉に間違いない』

『想定より早いな』

『さすがエース・オブ・エース様ってことだろう』

 新たな反応に敵も気が付いたようだ。動きに一瞬の動揺が走る。

 

>ノー・フライ ウイルス停止

 

 ウイルスの送信を止め、右側面に発砲。側面の敵の注意がこちらに向いた瞬間、L3Sの主砲が火を吹いた。攻撃は防がれたが爆炎と衝撃が相手の行動を封じ込める。

 隙を逃さすL3Sが飛行魔法で一気に合流。木々の枝を折りながら目の前に着地する。

「ドラゴン?」

 L3Sの姿を見たすずかが疑問系で感想を漏らす。空戦用ユニットを装備したL3Sは、ファンタジーの中に出てくる西洋の竜に見えなくもない姿をしている。

 L3Sの背中がバイクの座席のように変化。陸戦魔導師を支援するための鉄の竜は、魔導師を騎乗させることも想定されている。この座席はそのためのものだ。

 その背にすずかを強引に乗せる。

「え、え、わたし、操縦なんて無理だよ!原付免許も持ってないよ!」

<大丈夫だ。操縦は遠隔操作で仲間がやる。事故ったらそいつを訴えろ>

 悲鳴に近い声を出したすずかを、L3Sのフィールドが包み込むのを確認すると、1人と1機は跳んでその場を放れた、そのまま乱数回避機動に移行する。

 次の瞬間には、元いた場所に魔法弾が数発叩き込まれる。側面の敵が立ち直って撃ってきたようだ、敵弾のうち数発は、体の大きいL3Sに命中したが、丈夫な装甲とフィールドがこれらからすずかを守った。

 これですずかの安全はある程度保証された。

 回避しながら戦況を見直す。ウイルスが止まったことで敵空戦戦力が、高町1尉達に向かっていくのが分かる。

 居場所の分かっている支援型魔導師なら、戦力を二つに分けて空戦戦力が高町1尉達を足止め。その間に残りでこちらを倒すことが可能だと考えたようだ。

 戦力を分散させることになり、離れた敵航空戦力は『アリサ』達からの援護を受けられなくなってしまっているが、これにはまだ『アリサ』の姿を高町1尉に見せたくないという意図が感じ取れる。ようするに敵の目的は『アリサ』の姿で高町1尉に近づくのが目的だったのだろう、すずかとこちらは消しておきたい目撃者という訳だ。

 しかし、こちらにとってはチャンスでもある。今アリサの護衛をしているのはたった2名しかも一人は、トラップを受けて負傷している。

『1機で何秒持たせられる?』

『60秒』

『上等だ』

 短いやり取りの後、カードを一枚取り出し右側面に投げつける。カードから放たれた光が一瞬視界を奪う。

 

>メンダクス・ペルソナ モード切替

 - モード 電磁メタマテリアル

 

 JS事件で死亡した戦闘機人の固有スキルを模倣したプログラムによって、BJの表面が変化。可視領域の光を反対側に迂回させる電磁メタマテリアルに変化する。所謂光学迷彩モードを起動させた。妨害波の送信を止め、必要以外の魔力をすべてカット。人工リンカーコア出力を最小限で森の中を疾走する。

 魔法の強化がなくとも林を抜けるのに1秒も掛からなかった。外灯に照らされた『アリサ』達を灰色の視界で捉えた。

 『アリサ』の前にはフード付きが一人、立ちふさがるように立っている。負傷している方は後方で、結界の中で傷を癒しながらも警戒している。結界の種類は、防御と回復を同時に生み出すラウンドガーダー・エクステンドのベルカ版だろう。

 脇に吊っている投擲ナイフを2本引き抜き、両手で構えて最後の坂を駆け上がる。

 

>警告 探査波 感知

 - 解析結果(クレアボヤンス・ビジョン)

 

 相手がアクティブ・スキャンを感知したが、敵はもう目の前だ。身を隠せる障害物も、欺瞞している時間はない。それに、今更止まれない。

 速度を落とさず、結界に向かって投擲ナイフを結界に投げつける。柄に防御破りのプログラムが付与されたナイフの切っ先が、結界内部にめり込んだ瞬間、刃に仕込まれた指向性炎熱術式が炸裂した。結界内という密閉空間で、炎熱魔法はその破壊力を余すところなく発揮し、内部の術者を焼いた。

 手前のフード付きは味方がやられても動揺せずに反撃してきた。単眼鏡のような空間モニターを左目で睨み、映し出された情報を頼りにヒッターを振りかぶる。

 間合いはまだ遠い。だが、何かある。

 こちらは魔力出力が下がっているため防御は出来ない。転倒するかのように体を倒し、体をほぼ水平にしたまま駆ける。

 ヒッターが振り抜かれると鉄鎖が伸び、バチバチと放電しながら頭上を通り過ぎる。

 手首の力のみで、ナイフを投擲。刃がフード付きの喉元に向かって真っすぐに走った。

 それに対してフード付きは手首を捻る。たったそれだけの動作で、鉄鎖がうねりナイフを弾く。

 その衝撃でプログラムが作動し、炎熱魔法の余波が両者を襲う。フード付きはフィールドで守られたが、低魔力のこちらはBJが焦げ電磁メタマテリアルが効力を失う。

 これが相手の油断を誘った。

 雷を纏ったヒッターが振り下ろされる。魔力の大きさに頼った単調な動き。見切るのは用意だった。

「なに!?」

 地面を叩いたヒッターに驚愕するフード付き。相手からはこちらが再び姿を消したように見えたのだろう。

 灰色の視界の中、愕然としている相手の周囲を回るように、蹴り、掌底を連続で叩き込み、止めに顔面に肘打ちを叩き込む。恭也や美由希が見ていたら見事な『貫』と『徹』だ。と、言ったかもしれない。

「_ッ!」

 衝撃がフード付きを襲い、最後の肘打ちは鼻骨を砕く。鼻骨の破片は脳まで届いた。

 フード付きが血の固まりを吐きながら崩れ落ちると、すぐさま『アリサ』に振り向く。

[お、王命を授かった私に手を挙げるか!?聖王の神罰が下るぞ!!]

 『アリサ』が後ずさりをしながら、ベルカ語で言った。植え付けられた『種』の影響か、アリサとは思えない発音だった。

<その体で、気持ちの悪い話し方をするな>

 人工リンカーコアの出力が上げ、右手に『リンカーコア捕獲』と同型の魔法を付与して胸を突く。

[ヒッ!]

 『アリサ』は武の心得はないらしく、殆ど無抵抗に突きが命中する。透過した手が、魔力反応のある物質を掴む。手を引き抜くとそれは青い水晶クラスターのような形状をしていた。大きさは握り拳ほど。

 糸の切れた人形のように力を失ったアリサの体を支え、マニピュレーターで銃型デバイスを引き抜いた。

 水晶クラスターを格納し、ブルームハンドルを掴む。

 照準は空へ。

「動かないで!」

 そこにはレイジングハートを構えた高町なのはがツインテールを夜空になびかせていた。

 

 




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