管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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63海鳴市の夜Ⅵ

 襲いかかってきたフード付きの魔導師は、護衛達との連携で素早く倒せた。バインドでフード付きを拘束。

 戦闘現場に急行したなのはが見たのは、青い水晶クラスターのような魔導物質を銃型のデバイスに格納する忍者の姿。

「動かないで!」

 警告しレイジングハートを向けると、忍者も素早く銃を引き抜き、こちらに銃口を向けた。

「こちらは時空管理局武装隊、高町なのはです。管理外世界での魔法の使用、デバイスの持ち込み許可の提示をお願いします」

 数日前に遭遇した時には出来なかったが、手順に従って忍者に声を掛ける。

『レイジングハート、この人の力は?』

《魔力出力クラスB、今のマスターでも、さほど脅威にはなりません》

 レイジングハートはそう言ったものの迂闊には動けない。

 アリサは気を失っているようで、忍者に支えられてぐったりとしている。顔色はいいので無事のようだが、人質になっているようなものだ。

 護衛の魔導師達もそれを理解しているようで、近寄らずに間合いを計っている。

 不意に、魔法弾の発砲音。

 すぐ近くでも戦闘が行われている。護衛の内2名が発砲音のした方向にデバイスを向ける。

<1号機、すずかを連れてこい>

「えっ」

 忍者が変声された声を出すと、それに呼応するように林の中から大きな影が上空に飛び出した。影――ドラゴン型のロボットは左右のユニットから誘導弾を地上に放つと、そのままこちらに飛んでくる。

「ちっ!」

「待って!」

 忍者の味方が攻撃行動に出た。と、判断した空戦魔導師の護衛キャバリエとクロムウェルがロボットに向かって攻撃しようとするのを、なのははあわてて止める。

 ロボットの背中には、見知った顔。すずかが乗っていた。

 アリサとすずかは一緒にいることが多い、近くにいても不思議ではなかったが、なぜあんなロボットに跨がっているんだろう。

「あ、なのはちゃん…、今晩は」

 地上から17~18mの空中、なのはを見下ろす位置でボバリングしているロボットの背中で、チョコンと座ったすずかが遠慮がちに挨拶をする。

 場にそぐわない間抜けな行為だが、こういう時どういう反応をするといいのか分からないのだろう。

 すずかが跨がっているのは管理局の兵器開発部門が、AMF対策の一つとして開発していた陸戦魔導師サポートシステム(L3S)の試作機だ。

 教導隊でも研究班を設置していると聞いていたが、肝心の地上部隊ではアインヘリアルを主軸とした防衛構想が主流だったため、3機ほどで運用試験を行っている程度の小さい規模だった。

(実戦投入されていたんだ…)

 なのはが浮かんだ疑問を推測する前に、L3Sが飛んできた方角に新たな反応をレイジング・ハートが捉えた。

《マスター、転移魔法反応、多数。種別:現代ベルカ》

『追って!』

《不可能です。多重転移の可能性大》

『ごめ・!こっち・間に合わなかった』

 ノイズ交じりの通信でエイミィが言った。

 エイミィも自宅から各種機材を使い、サーチャーの主警戒エリアを再設定。転移魔法の追跡を行おうとしたが、タッチの差で間に合わなかった。

『でも、サーチャーの再設定は完了。その忍者が逃げても追跡できるよ』

『お願いします』

 なのははエイミィの言葉を受け、忍者達に集中する。なのはは警察権執行のマニュアルに従い。自分の権限を宣言した。

「管理局に所属している部隊の方のようですが、法的根拠がないうえでの管理外世界への干渉は、重犯罪にあたります…。また、先日のわたしに対する襲撃事件に付いて事情聴取のため任意同行を求めます。武装を解除して!抵抗しないなら、弁護の機会もあります」

 忍者はこちらを注視しながら、アリサを地面にそっと寝かせた。アリサを巻き込む意図はないようだが、銃型のデバイスを下ろす気配はない。

 互いに動くに動けず、緊張感だけがピリピリと上がっていこうとしたとき、遠慮がちなすずか声がした。

「あ、あの~、なのはちゃん。できれば、その人を見逃してあげてくれないかな」

「どうして?」

 忍者から視線を離すのは危険と考えたなのはが、すずかを見ずに聞き返すと、すずかは場違いな発言をしたと思ったらしい。少し自信なさげで声も小さくなった。

「え、えっと、その人さっきのフードの人達にひどいことっていうか、待ち伏せされたところを助けてくれて…」

 一瞬どうしようかと迷うが、フード付きと敵対しているならば、彼らの情報を少なからず持っている可能性が高い。友人からの頼みに絆されそうになったが、手順を踏んだ行動が結果的にみんなの為になることを信じて行動することにし、なのはは忍者にデバイスを向ける。

 警戒レベルを上げるこちらに対して、忍者はむしろ逆の反応をして見せた。

<捕まってやってもいいが、弁護士は呼べるんだろうな>

 忍者の合成音声が響き、投降を示すかの内容に護衛たちが気を緩めてしまう。

《警告。炎熱魔法、多数》

 同時に各デバイス達が警鐘を鳴らす。殆ど同時に近くに倒れていたフード付き達の体とデバイスが火を噴いた。それだけならまだしも背後でも火柱があがる。あの方角はなのは達が魔力ノックダウンしたフード付き達のが倒れていた方角だ。

(気を失わせていたのに、そんな!)

 これにはさすがのなのはも驚き忍者への注意が散漫になる。

 次の瞬間、忍者は空中のロボットの背の上にいた、BJに仕掛けられているワイヤーガンを利用したようだ。

 騎乗の人となった忍者は、そのまますずかを抱き上げる。

「へ、あ、ちょちょっと」

<すずか、こいつは1人乗りだ>

「そ、そうなんだ…」

 忍者の腕に力がグッとこもったことに、すずかはイヤな予感を感じた。顔に冷や汗がつたう。

<降りてくれ>

「ちょ、ちょっと、まってええ~!」

 すずかが叫んで忍者にしがみつこうとしたが、それより早く忍者がすずかをなのはに向かって放り投げた。

 ばたばたと手足を振り回して落下してくるすずかを、なのはがあわてて受け止める。

「きゃー、きゃー、きゃ~!!」

「すずかちゃん、落ち着いて!」

 混乱したすずかが有らん限りの力でしがみついてきて、なのはの視界を塞いだ。

 その間に忍者はロボットの尻尾に装備されたディスチャージャーから発煙弾を発射する。

 視界を奪われて一瞬動きを止めてしまった護衛たちの隙をつき、忍者を乗せたロボットが離脱していくのをなのはの超人的な空間認識能力が捉えた。

 アリサもすずかも忍者から離れている。

「待ちなさい!」

 忍者のいる空間にバインドを複数設置しようとしたが、

《空間座標にエラー発生!!バインド設置不能》

「_ッ!」

 バインドの魔法プログラムの座標設定に、外部からあらぬ数値が入力され魔法が中断される。

 焦れた護衛の1人――陸戦魔導師で名前をマークと聞いていた――が思念誘導弾を忍者の予想進路に複数撃ち込んだ。

《改竄思念感知!》

「_くッ!」

 レイジングハートの警告。同時に気味の悪い予感に突き動かされて、その場にいる全員を防御魔法で包んだ瞬間。発煙弾の煙が揺らいでマークの誘導弾が飛び出してきた。

「「「「__ッ!_ッ!」」」」

 護衛達に向かって飛んできた誘導弾は、なのはのバリアが受け止めたが、これには魔法弾を放ったマーク自身どころか、全員が動きを止めてしまった。

「魔法プログラムに対するハッキング…。空間座標の書き換えに、誘導弾の乗っ取りが出来るなんて…」

 あの忍者はサイバー戦において間違いなく達人(マスター)クラスの使い手だ。このレベルの使い手になると、魔力出力や魔導師ランクなど当てにならない。いい例が第四陸士訓練学校のファーン・コラード校長だ。彼女は自分より高ランクの魔導師を2人まとめてねじ伏せるほど腕が立つ。

 驚いている間に、なのはの空間認識の中で忍者の位置がどんどん離れていく。

『追跡できてるよ。高度1000、TN87°方向に逃走中』

「追います、クロムウェル!」

「おう」

 一拍遅れて、護衛の空戦魔導師のキャバリエとクロムウェルが、エイミィの音声管制で忍者を追跡し始めた。

 煙幕はかなり広範囲に散布されており、視界からもデバイスのセンサーからも忍者の姿を隠していたが、主捜索範囲を再設定したエイミィのサーチャーからは逃れられないようだった。

 なのはも手助けしたいところだったが、すずかを抱えたまま高速機動を取るのは危険だったし、アリサの様子も気になる。

 忍者がアリサから魔法物質を取り出した魔法は、人体に影響のない魔法のようだが、なにかしらの後遺症がある可能性は捨てきれない。

 すずかを宥めながらゆっくりと着地する。

「もう、大丈夫だよ。すずかちゃん」

「きゃ…、へっ!」

 地面に足が着いたことで、なのはにしがみつていたすすかが、瞑っていた目を開ける。近くにあるのがなのはの顔であることに気付くと、ほっとため息を付く。

「ありがとう、なのはちゃん。…あ、アリサちゃんが!」

「大丈夫、無事みたい」

 詰め寄ってくるすずかを宥めながら、まだ晴れきっていない煙幕の中を進むと、3人の人影が見えた。

 忍者の追跡に参加しなかった女性陸戦魔導師のコメットがアリサを介抱し、マークが周囲を警戒していた。

「アリサちゃん!」

「大丈夫なんですか?」

 駆けより容態を聞くと、コメットが微笑む。

「目立った外傷はなし、バイタルも安定しています。気を失っているだけですね」

 ほっとして、アリサとすずかを護衛たちに任せて、エイミィに通信を行う。

 エイミィの話によると、護衛の二人はそろそろ忍者との交戦圏内に入るようだ。こちらも見聞きしたことを報告する。

『忍者はアリサちゃんの体内から、水晶状の魔法物質を引き抜いています』

『なんだって!』

 通信に新しい声が加わる。無限図書館でフード付きが使用しようとしていたロストロギアを調べてくれていたユーノの声だ。

『なのは、その魔法物質の形は?球体じゃなかったのかい?』

『えっと、水晶がいくつかくっついたような形をしてて…』

『くそっ!なんてことだ!』

 ユーノの焦った声に、なのはが戸惑いながら答えると、彼は歯噛みをして悔しがった。

 どういうことか。と、尋ねようとしたなのはの耳に、すずかの声が話って入ってきた。

「アリサちゃん!」

 見るとアリサが目を覚ましている。コメットに支えられ半身を起こしたアリサはキョロキョロと周りを見回していたが、すずかに手を取られるとギョッとしている。

「よかった、気が付いたんだね。アリサちゃん」

 なのはも近づきかがみ込むと、アリサは怪訝な顔する。

「だれよ…。あんた達…」

「___!!」

「…え?」

 アリサはまるで初対面の人間に馴れ馴れしくされたように、なのは達を不愉快そうに見る。

 その視線になのはは背筋を凍り付かせた。

 




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