管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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65海鳴市の朝、友達と、これからと…

 イデア・グレンヌを取り戻して、アリサ達の処に戻ると、空を飛んでやってきたなのはの姿にアリサは目を丸くしていた。

「アリサちゃん!」

「えっ!…な、なによ!」

 なのはが声をかけると、魔導師などの魔法関係の記憶も失っているアリサが虚勢を張って答えたが、すこし腰が引けている。

 アリサが自分を見て怖がる姿に、傷つきながらも取り戻したイデア・グレンヌを渡そうとして…、それがないことに気が付く。

 イデア・グレンヌを握っていた右手には、なにもない。

「え!なんで、ないの?!…間違いなく…!」

 驚いて声を上げると、アリサに付き添っていたすずかが心配げに聞いてきた。

「あの、どうかしましたか?」

「すずかちゃん!イデア・グレンヌが…!」

 なのはが答えようとすると、すずかは気味が悪いように身を引き。不審の眼差しを向けて言った。

「どうして、わたしの名前を知ってるんですか?」

「な…にを…、わたし、なのはだよ…」

「なのはさん?いいえ、知りませんよ、初対面ですよ。ねぇ、アリサちゃんの知り合い?」

 すずかがアリサの方に振り向き、問いかけると、

「知らないわよ。誰なのよ。あんた」

 アリサがそう答えた。

「え…、なんで…!わ、わたし…」

「それがイデア・グレンヌの効果です。高町1尉」

 混乱するなのはの背後から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 振り向くと無限書庫にいるはずのユーノがいた。

「ユーノ君!」

 名前を呼んでも、ユーノは軽く会釈をしただけで、説明を続けた。

「人の記憶を吸収して、成長する機構石。それがイデア・グレンヌの正体です。一部とはいえ記憶を吸収した種が奪われた以上、…残念ながら『バニングスさん』の記憶を取り戻すことは…」

 他人行儀な口調で淡々と話すユーノの態度に、なのはは腹を立てた。

「ユーノ君!何で、そんな簡単に諦めるの!」

 思わずキツイ言い方になったなのはに、ユーノが不愉快そうに柳眉をつり上げた。

「高町1尉、僕たちのチームの検索能力は管理局でもトップと自負しています。他のチームでも結論は同じものになりますよ」

 ユーノの対応に、なのはは怒りよりも不安を覚えた。

 声を荒げて態度が悪くなってしまったのは事実だが、普段のユーノならこちらの心情を察して、もう少し柔らかい対応をしてくれたはずだ。

 だが、これではまるで…。

「…あの、ユーノ君?アリサちゃんのこと…、覚えているよね…。地球の…」

「地球…?地球、ええっと、…ああ、確か97管理外世界のことを現地の人はそう呼称しているんでしたね。資料で読んだことがあります」

「…っ!」

 言葉が出なかった。

 これ以上ユーノと会話をするのが怖くなり、次の言葉が出る前に背を向ける。

 すると…。

「…っ。…ぐすっ」

 うさぎのぬいぐるみを抱いた、金髪の女の子が泣いていた。

 女の子は特徴的な左右非対称の瞳に涙をためて、息をつまらせている

「ママ、ママ」

 娘の姿に驚き駆け寄る。

「どうしたの、どこか痛いの?」

「ママが、いないの…」

「大丈夫だよ。わたし、ここにいるよ」

 娘が顔を上げ、ハッキリとこっちを見る。

「あなたは、…ママじゃない」

「…なにを言ってるの?」

 この子も記憶を失っている!?

 こちらを真っ直ぐ見ながら言ってくる娘の言葉に衝撃を受けながらも、どうにか口を開く。震える声が出る。

「…わたし、なのはママだよ、……!!」

 名乗って、娘の名前を呼ぼうとして愕然とする。

 娘の名前が出てこない。

「あ、…あ」

 娘の名前を叫びたいのに、出てくるのは無意味な喘ぎだった。

 助けを求めて左右を見渡すと、ここにいないはずの家族や友人達の姿。その家族達も赤の他人の奇行を見るような怪訝な顔をしている。

 助けを求めようとしたが、彼らの名前も思い出せない。

 いや、いた一人だけ名前の思い出せる相手がいた。目立たない容姿で低めの鼻が特徴と言えば特徴だった。手には水晶クラスターの様な物質を持っている。

「------ッ!」

 

 

 

 

 

 夢の中で何かを叫んだことだけ覚えていた。

 自室のベッドでシーツを押しのけながら身を起こすと、夏だというのに肌寒さを感じて身震いをする。

 ひどい寝汗の為、寝間着がひどく湿っている。寝相も相当悪かったようだ。

 忍者との戦闘から丸一日。アリサ達の病院への搬送、フード付きや忍者の遺留品の回収、ようやく駆けつけた騎士団所属の次元戦艦『ベルソー』への報告を終える頃には、さすがのなのはもクタクタになってしまっていた。

 とはいえ、被害者になったのは友人ということもあり、なのはは捜査への協力を申し出たのだが、なのはの疲労具合を見たベルソーの艦長ベルトラン・ド・ヴォワチュールは、

「事件担当の当艦が到着した以上、捜査の指揮権は私達にあります。ご友人が心配なのは分かりますが、今は体を休めるのがよろしいでしょう。捜査に進展があり次第報告しますので、ご安心ください」

 と、申し出を断り、なのはを帰らせた。

 家に帰ると、憔悴した姿を心配したヴィヴィオが側を離れたがらなかったが、ヴィヴィオを必要以上に心配させるのが嫌で、桃子にうまくヴィヴィオを引き離すように頼んでいた。

(おかーさん達がヴィヴィオを預かってくれてよかった)

 いつもなら隣で寝ているはずのヴィヴィオは、桃子と士郎の寝室で寝ている。もし一緒に寝ていたら、起こして心配させてしまっていたかもしれない。

 ヴィヴィオに心配かけずに済んで安心したが、酷く喉が渇いている、寝間着や下着が肌に張り付いて気持ちが悪い。

 ベッドから這いだし寝間着を脱いで裸体になっても、肌には大粒の汗が浮かんでいた。

「___ふぅ」

 思った以上に疲れているみたい。

 ノロノロと汗を拭いた後、着替え、キッチンに向かった。

 途中、士郎と桃子の部屋の前を通りかかり、ほんの少し襖を開けて覗いてみる。

 なのはの両親に挟まれヴィヴィオが寝ていた。子供の頃なのは自身が時々そうして貰っていたように…。

(わたしも、あんな感じだったのかな…?)

 少しだけ元気が出た。

 ふと部屋の中に二つの光るものに気が付いた。

 士郎の瞳がこちらを見ている。目が合うと士郎はパチリとウインクをして見せた。

 よく眠っている。安心していいよ。

 そう言っているようだった。返事の代わりにウインクを返して、キッチンで水を飲んでから二階に戻ると、自室の前で美由希が待っていた。

「どうしたの。怖い夢でも、見た?」

「…なんにも…忘れてないよね?わたしのこととか…みんなのこととか…」

 聞いてきた美由希に、なのはが聞き返す。

「…忘れてないよー、…高町なのは、3月15日生まれのO型、好きなおやつはシュークリーム…、今回は休暇で帰省中」

「…うん…」

 美由希の優しい表情に、安心したなのはは少し甘えてみた。ぎゅーっと、美由希に抱き付く…

 …よかった…。

「…久しぶりに、一緒に寝ようか?」

 抱きついたなのはの頭を撫でながら、美由希が言った。

「…うん…」

 姉と一緒に潜り込んだベッドの中はとても安心できて…。

「…ちょっと暑いね。くっついて寝ると」

「う~ん、夏だからね…」

 少しだけ寝苦しかった。

 

 

 

 

 

 翌日、ずいぶんと遅めに起床したなのはは、午前の内に海鳴大学病院を訪れアリサとすずかを見舞った。

 優秀とされる日本の警察も、アリサ達の巻き込まれた魔法による事件を解明することは出来なかったようだ。

 証人になるはずのアリサは記憶を失っていたし、すずかの方も魔法の話を出して警察を納得させることは出来ないと考え、当時のことは気を失っていて覚えていない。気が付いた時には道路がメチャクチャになっていたと一貫して通したそうだ。

 これに困った警察は、道路に残された焼け跡や爆発のあとから、アリサ達に追突した車が何かしらの危険物が積まれており、事故の衝撃でそれらが落下、道路上で爆発し道路を損傷させた。追突した車の持ち主たちはそれらの発覚を恐れて逃走したものと、とりあえず結論付けたらしい。

 ハッキリとした人的被害がなかったためか、マスコミも地方紙がわずかに取り上げた程度で済んだ。

「ごめんね、すずかちゃん。管理世界の事件に巻き込んじゃって」

「ううん。なのはちゃんのせいじゃないでしょ」

 個室の病室で謝るなのはに、体に複数の包帯を巻いたすずかが言った。一つ一つの怪我を見ると軽傷でしかないのだが、一緒にいたアリサが記憶を失ったこともあり、検査の為医師達に殆ど強引に入院させられていた。

「でも…。わたし、なにも…」

 自分を責めるなのはを見て、すずかは、少し気負いすぎているな。と、思った。

 なのはは子供のころから、気持ちの強い子だった。その強い気持ちが責任や使命に向かうのは悪いことではないのだが、気持ちを暴走させ無意味に考え込んでしまっているのかもしれない。考えすぎて思いつめてしまうのは、なのはの数少ない欠点かもしれない。

 このなのはの欠点と、察しが良く気遣いが細かいため突っ走りしすぎるアリサの手綱を緩めるのは、半歩引いて友人を見守ってきた自分の役割だとすずかは思っている。

「なのはちゃん、それ以上言うとしばらく口を聞いてあげないよ」

 すずかは眉間にしわを寄せて叱ってみせると、なのはは目を丸くしたが、すぐにこちらの意図に察しが付いたらしい。困ったように笑った。

「すずかちゃん、ときどき厳しいよね」

「そうかな~」

「そうだよ」

 すずかは、うん。と納得してから続けた。

「でも、なのはちゃん。本当に頑張りすぎないでね。わたしはなのはちゃんが危ないことをしてまで、アリサちゃんの記憶を取り戻す必要はないと思っているから」

「え!!!」

 これにはなのはが驚いた。

 驚くなのはを置いて、すずかは個室の窓に近づき、庭をのぞく。

「確かに、アリサちゃんがわたし達のことを忘れちゃったのは悲しいけど、いなくなっちゃったわけじゃないから」

 言いながらすずかは窓の外に何か見つけたのか、クスリと笑った。

 気になったなのはも窓に近づいて外を眺めると、ヴィヴィオがアリサの手を引いて庭に出てきたところのようだ。ヴィヴィオ達は背を向けているために表情は読み取れなかったが、躊躇いがちなアリサの仕草は、初めて会う子供に強引に手を引かれているように見える。

 アリサはヴィヴィオに関しての記憶も失っている。ヴィヴィオにもアリサの容体は伝えてあった。それでもヴィヴィオは、花壇に連れていく。

 その様子を見ながら、すずかが言った。

「いなくなっちゃったわけじゃないから、また友達になればいいんだよ。わたしもきっとアリサちゃんも、なのはちゃんが、また大けがしちゃったり、いなくなったりしちゃう方がヤダよ」

 すずかは8年前、なのはが撃墜された時のことを思い出しているようだ。

「…うん。気をつけるよ」

 なのはは一旦、そう、頷いたが言葉を続けた。

「でも、やっぱり、出来るなら思い出してほしいよ」

「なのはちゃんって、ときどき欲張りだよね」

 子供の頃から変わらない頑固さを見せたなのはに、すずかが微笑みかけたことで、

「上昇志向だって言ってほしかったな~」

 ぎこちないながらも、なのはも笑い返すことができた。

 

 




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