管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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67聖王再臨

 山岳地下深く、網の目のように掘られたゲリラの基地は珍しく蜂の巣を突いた様な騒ぎになっていた。無線電波、念話回線はもちろん、有線や口頭のすべてを使って、各署での意思疎通が図られようとしていた。しかし、敵に侵入された際のサイレンと放送がない。

 通信・索敵術者になったばかりの僕は、許容量を超えた大量の情報を受信してしまいパニック状態になってしまった。

「おい、ちびっ子シッカリしろ」

 まだ、顔に幼さが残っているゲリラ兵士が声をかけてくれたが、ろくに返事もできなかった。

「通信班長、ちょっとまずくないか?」

「チビに回している回線をいったん切れ!」

 立派な顎鬚を蓄えた通信班長がクーフィーヤの後布を揺らしながら言うと、処理限界を超えて送られてきていた情報が突如としてなくなった。個人的にはありがたいことだが、その分他の兵士達にシワ寄せが行っていると思うと心が痛んだ。

 それを察したのかどうかは分からないが通信班長が言った。

「暇をさせてやるほど、余裕はないぞ。14番観測所に行って通信器代わりになって来い!ライカン!お前は16番だ!途中までチビに付き添ってやれ!」

「はい!」

 最初に声をかけてくれた兵士に引き連れられて、坑道内を小走りに移動していると、徐々に受信した情報を整理することが出来始めた。

 どうやら、管理局の次元戦艦が攻撃的な行動を取っているらしい。

 何年も掛けて掘られたこの基地は広く、外界からの攻撃を力強く受け止める。その防御力は管理局、政府軍双方の高ランク魔法にも何度となく耐えてきた。この基地が最も脅威とするのはアルカンシェルの様な戦略兵器を利用した軌道上からの攻撃だが、当然使用は厳しく制限されているため、今の状況では使用されることはない。と、司令官達は分析していた。

「まさか、管理局はアルカンシェルを撃つつもりなのか?」

「何言っているんだ。ちびっ子。そんなことしたら、さすがにミッドのバカ世論も黙ってないだろ」

 兵士は言って笑おうとしたようだった顔を引きつらせて失敗に終わる。

 アルカンシェルの様な破壊兵器は抑止を狙った防衛的、戦略的な存在意義が強い。実際に地表に向かって使用されるとなると、破滅的な破壊をもたらしてしまうだろう。

 14番観測所にたどり着くと、兵士は無言のまま自分の持ち場に向かった。

 観測所といっても、そこは簡単な掩蔽をした塹壕でしかない。見張りはこちらにすぐに気が付いた。

「どうした、坊主」

「…手伝いに来た」

「そうか、感心だが少し遅かったな。次元戦艦はこっちの頭上を越えていったみたいだぜ」

 回線を切られている間に状況が変わってしまったらしい。機械的な通信器を弄りながら言われた兵士の言葉に拍子抜けしてしまう。

「なんだ、たんなる偶然か…」

「いや、狙いがここではないというだけだ。政府軍の衛星をハッキングした結果だと、首都の方に向かっているようだが…。…ッ!の野郎!首都をロックオンしやがった!」

「目視確認をする!」

 塹壕に設けられた銃眼から首都の方角をのぞき見る。この観測所から首都までは100km近く離れているが、首都の超高層ビル群の頂上ぐらいは確認できる。

天気は良かった。視界の遥か彼方に剣山のように高層ビルや電波塔が見える。

「あ、マズイ!見るな!」

 見張りが叫んだ瞬間、銃眼を覗き込んでいた右目が真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

(あの時、これがあったなら、この傷はなかったな。さすが多次元組織は太っ腹だ)

 

 評議会調査室13課が用意したセーフハウス――安アパート室内で、監視カメラを起動させたL3Sを遠隔操作しながら、昔所属していたゲリラと現在の身を置いている13課の装備の差を思いながらエイブラハムは右目周辺に触れた。

 指には普通の肌とは違うデコボコした触感がある。鏡を覗き込んだならそこには火傷の痕の様な変色があるはずだ。醜い傷跡ではあるが、部隊では最も年下で魔導師ランクも高くないエイブラハムにとっては、過去の戦歴を示す勲章代わりなので気に入っていた。が、平和な世界では人目を引きすぎため、町に出るときは変身魔法の亜種(メンダクス・ペルソナ)を使い傷痕を隠していた。

(研究室が戦闘機人の固有技能を解析して作った廉価版の魔法。室内で退屈しているよりは、多少危険でも対象の近くで、監視していたほうがいいと思っていたが、さすがにやり過ぎたか…)

 昨日、咄嗟のこととはいえヴィヴィオ達を助けるために、全力を出したのは間違いだったかもしれない。特になのははこちらの正体に確信を得てしまったようで、姿を晒してコンビニに行くこともままならなくなってしまった。

 ヴィヴィオ達の笑顔や平和なこの国の雰囲気にほだされて、のめり込み過ぎたようだ。

(いやいや、あれは仕方なかったって。大体、研究室も欺瞞効果高いけど、物体の表面だけ変化させる魔法ってなんなんだよ。元々、自身の体を変化させる変身偽装能力じゃなかったのか?ライアーズ・マスクって)

 エイブラハムが言い訳じみたことを考えていると、エイブラハムに換わり町に買い出しに出かけている相棒――パーシングから電話で連絡が入った。

『エイブラハム、機材の調子はどうだ?』

「いたって正常だ。光学迷彩で監視任務中のL3Sとの回線に少しノイズが入っているが…、規定値内だ」

『この地球で使われている回線と強引に繋げているからな。エンコードの際、どうしてもノイズが出てしまっているんだろう』

「大丈夫なんだろうな」

『アッチ(管理世界)の通信手段を使えばハラオウン夫人に気が付かれちまうだろ。通信環境のことを考えれば、アッチの人間は普通ニッポン(管理外)の技術は使わない。それにニッポンは日常的に行われている通信もたいしたものだ、紛れてしまえば特定するのはそれなりに…、心理と技術両面からの偽装というわけだ』

「そっちじゃなくて、信頼性の問題だ。回線にノイズが入っているし、原因も不明と発表しているしな」

『お前がバックドアを付けて回ったせいじゃないのか?いざとなったら、この辺の通信網を乗っ取って演算容量を稼ぐつもりだろ』

「そんなヘマはしないさ。いざとなったらちょっと借りるかもしれないがな」

『ヘマはしただろ、乗っ取りの下準備に夢中になり過ぎて、相手がぶつかってきたのに気が付かないとは・・・。見ていたこっちが、肝を冷やした』

「へいへい、そう言うなら。アンタこそ子供には気を付けな」

 

 言って通信を切る。

 監視対象が映っている面に意識を戻すと、その中には単純な図でL3Sの機体状況を図も含まれている。

 全長40cmほどの鳥型の図。この姿こそ現在のL3Sの姿だった。デバイスの待機モードと同じ原理で、ほぼ戦闘能力のない姿になっているが嵩張らず、輸送や市街地での偵察活動をするにはこの姿のほうが有効だ。

 図はすべて異常なしを示す青で塗られていたが、エイブラハムは不満げに鼻を鳴らす。

(機体表面を電磁メタマテリアルに変えると光学センサーに影響が出るな。画像解析ソフトを更新しないと最大望遠の時には影響がでるかもしれない)

 L3Sのカメラが写す先、高町家の庭ではヴィヴィオ達がバレーのようにボールをパスしあっている。

 時々ボールの機動が逸れ、棚にきれいに並べられている盆栽に飛んでいったが、美由希が目にも留まらぬ早業で死守していた。

(鋭い動きだ。速さだけならミスター恭也より速いんじゃないか?それに気配を読むのにも長けているから、迂闊に近寄れない)

 エイブラハムにとっては、攪乱方法をいくつか知っている管理局のセンサーより、美由紀達御神の剣士達の方がよほど驚異である。おかげでかなり遠巻きに、ヴィヴィオを監視しているのである。

 エイブラハム個人としては、なのはやすずか達の様子も気になったが、オーバーSランクの魔導師やAAランク級の使い魔を抵抗もさせずに倒すことは難しく、特に警戒を強める必要はない。と、いうのが13課職員としての結論だった。

 何しろ高町なのは達は監視対象ではない。

(イデア・グレンヌ、理念の種か…、この『種』は過去の実験で1つ、今回の騒動で2つ使用されている。となると、次に使用されるのが最後の1つになるな)

 ここ数日間で行われた襲撃よりも、攻撃が行われるかもしれない。

(問題は駆けつけている次元艦だな。艦長はメルセデス・ベネディクト…、いったいどこまでするつもりだ…)

 エイブラハムの思考を遮るように、視覚のなかに新しいウインドウが開く。そのウインドウは高町家に電話が掛かってきたことを知らせる盗聴器からの信号だ。

 映像では美由希が家の中に消えたが、電話の子機を持って再び姿を現す。美由希は手招きをして、ヴィヴィオを呼ぶと子機を渡した。

 相手のナンバーは翠屋。回線を開いて内容を盗み聞く。

『もしもし、ヴィヴィオ。桃子だよ』

『はい、桃子ママ。ヴィヴィオです』

 かけてきたのは桃子で、内容はヴィヴィオとなのはの夕飯の予定を確かめているだけのようだ。

 高町家の平凡だが暖かい会話に、エイブラハムが心を和ませていると、むずがるように体をクネらせ不満げなこえをあげた。

『むー』

『どうしたの、ヴィヴィオ?』

『お耳、キーンってなるの』

『キーン?あら、ハウリングでもしているのかしら?それじゃあ、一端切った方がいいわね』

『切る?』

『そう、電話をかけ直すの、そうしたらキーンってならなくなると思うわ』

『うん、分かった!』

『それじゃあね、ヴィヴィオ。なのはによろしく』

『うん』

 ヴィヴィオが電話を切り、遊んでいる内に落とさないよう、縁側に置いていた携帯電話をかけ始めた。

(キーン…ね。また例の通信障害か?)

 この地球は文明レベルBと言っても管理外世界である。先進世界の技術になれた人間には僅かなノイズも耳障りなのかもしれない。

(管理外世界の技術での通信ノイズか。今後、管理外世界に出たときの参考になるかもしれないな)

 朝から外出できずに退屈していたエイブラハムは、退屈しのぎ言い訳を考えつくと、全くの興味本位でヴィヴィオの言うノイズを分析し始めた。

(ああ、確かにあるみたいだな。高音域ノイズ。うちの機材が出すノイズとはまた別のパターンだな。…ん?)

 エイブラハムはノイズの出す波形や位相グラフに違和感を覚えた。

(このパターンどこかで見たことがある?最近のはずだ。いや、音データなんて、触ってないぞ)

 違和感が徐々に不安に変わっていく。

 エイブラハムの不安など意に介さず機械は黙々と働く、盗聴器がヴィヴィオとなのはの電話内容を拾いエイブラハムに届ける。

『もしもし!』

『あ、ママ。お仕事、お疲れ様です!』

 声に引かれて、エイブラハムが意識を映像の中のヴィヴィオに向ける。 ヴィヴィオが地球の通信機械に話しかけている。

(ヴィヴィオ、通信、機械…っ!ノイズのパターン。ヴィヴィオを検査していた医療器具のノイズ!)

 油断していた、とエイブラハムは失態を認めた。

 恭也が撃退した地球で初めての襲撃の際、使用された『種』が実体を持っていたため、実際に使用する際は物理的に持ち運ばなければならないと思いこんでいた。

 『種』は情報物質。通信機器などの媒体を通して音や映像に変換。直接相手に送りつけることも可能だった。敵はそれを利用したらしい。しかも探知されやすい念話や管理局の通信技術を使用せず、地球の電話回線に潜り込ませるあたり、手が込んでいる。

(管理局の人間は、管理外の技術は使わない。そう思いこんでいた、俺も8課の連中と対して変わらないな)

 自身に毒づきながら、エイブラハムは電話回線に侵入する。

『お耳…、…キ、なっ…ホ、ホン…ト…、キキ、って、ててて、な…ッ!』

 ヴィヴィオの様子がおかしくなってきた。もう少しで『種』の送信が完了する。 高町家の近くにある中継施設に強制的に電話を切るように命じる。

(間に合え!)

 プツリと電話回線が切れる。盗聴器からの音が途絶える。

(どうだ!)

 ヴィヴィオは携帯電話を持ったままピクリとも動かない。心配した美由希がヴィヴィオの肩に手を掛けたところで、異変が起こった。

 ヴィヴィオの足下にベルカ式の魔法陣が現れ、大量の魔力が吹き出してくる。

(間に合わなかった。まずい)

 美由希が咄嗟に飛び退き、魔力の噴出で起きた突風からカレル達をかばった頃には、ヴィヴィオの様子は変わっていた。漏れ出す歓喜を押さえきれないとばかりに薄ら笑いをしている。少なくともヴィヴィオがこんな笑い方をするなど想像できない表情だ。

 エイブラハムはL3Sの待機モードを戦闘モードに切り替えさせ、現場に向かわせるよう信号を送りながら、手の届くところに置いてあったデバイスを掴む。

 

>外部デバイス(G)接続

 - HGS-712 「カートリッジ搭載型ストレージ」 装填済み 残弾11

>疑似リンカーコア出力上昇「battle」

>バリアジャケット セットアップ

 

 視覚野の画面の中では、異変に気がついた護衛のマークとコメットが駆けつけたところだった。

 

『大丈夫ですか』

『いったい、なにが』

 

 美由希が返事をするまもなく、ヴィヴィオが腕を振るい。魔力弾を撃ち放った。二人の護衛は守るべき対象から攻撃を受けるとは思ってなかったのだろう、辛うじて直撃を防いだものの衝撃で吹き飛ばされた。

 続けてヴィヴィオは振り上げた手を美由希に向けて牽制をした。

 普段の美由希ならデバイスの補助のない魔力弾など、容易に避けて反撃することも可能だったが、今はカレル達をかばっているし、相手はヴィヴィオだ。迂闊に動けず、足を止めている。

 エイブラハムがカードを抜いて転移魔法を発動する。行き先は高町家。豹変したヴィヴィオの正面に出ることになるが、この際構っていられない。

 L3Sから送られてくる情報の中に、高町家に転移魔法の反応が加わる。その数4。

 4!のこり3は敵の増援!?

 一瞬のブラックアウト。景色が一変したときには、目の前にフードをかぶった3人組が突然現れたこちらに驚きを止めている。

 3人とも襲撃の際に現れたフード付きの格好をしていたが、1人だけ反りのある剣を持っていた。

(ヤツだけ違う装備。リーダー格?レアスキル持ち?理由は分からないが、とにかく潰す)

 エイブラハムが拳銃型デバイスのHGS-712を引き抜くと、それを阻止するようにヴィヴィオも魔力弾を放ってきた。

 体勢を反らしながら発砲。ヴィヴィオの弾は頭を掠めて覆面とゴーグルを引き裂いた。こちらの撃った弾は目標を逸れて、背後の柱を抉った。

「なにをしているの。撃ちなさい!」

 ヴィヴィオがフード付き達の持つ剣を掴みながら、指示を跳ばすとフード付き達は弾かれたように攻撃してきた。

 通常ならかわしながら、デバイスの起動阻止信号を出してやるところだが、攻撃の効果範囲には美由希達もいる。

 敵の弾道を狂わす攪乱信号を送信しながら、カードを引き抜いてバリアを展開。

 攪乱信号は効力を発揮したが距離が近すぎた、ほとんどが展開したバリアを削り取っていく。

 フード付きの背後で『ヴィヴィオ』が剣を受け取り、魔力光に包まれる。

『2号機、撃て!』

 念話で指示を出した瞬間、戦闘体型に戻ったL3Sが飛び込んで来た。

 L3Sが機銃をバラ撒く。攻守が逆転し今度はフードつきたちがバリアを張って攻撃を受け止めた。

「エイブラハムくんだよね、どういうこと!」

 こちらが攻勢にまわったところで、美由希がシールドが攻撃を防ぐ騒音に負けない大声をあげた。

「事情は、あとで!!」

 叫び返すと、視界の隅で『ヴィヴィオ』に弾き飛ばされたダメージから立ち直った、護衛の二人が見える。

 昨夜、矛を交えることになっただけあって、エイブラハムが美由希達を守るように行動していても、警戒を解かず、エイブラハムとフード付き双方にデバイスを向ける。

「撃つなよ、こっちも管理局だ」

「所属は!」

「調査室だ。あんたらの子供たちと定員さんでも守ってろ!」

 エイブラハムが護衛の二人に、ミッド語で話しかけると、少なくともコミュニケーションを取れることに安心したのか、護衛達の態度が軟化したように見えた。少なくとも後ろから撃たれることはなさそうだ。

 美由希にむかって慣れない日本語を捻りだす。

「美由希、子供たちのそばに!」

「……」

 幸いなことに、美由希はこちらの指示に素直に従った、子供たちを引きつれてマークとコメットに合流したところで、遅ればせながら、到着した1号機が周囲に強襲結界を張る。

(よし、取り敢えず…)

 閃光が走った。

 フード付きのバリアを引き裂き現れた閃光は、機銃弾などものともせず、L3Sの装甲を貫いた。

 ダメージを負った2号機は痙攣するように機体をふるわせ擱座した。

 閃光を放った人物は、全身を覆うプレートメイルから金属音を響かせながらゆっくりと現れた。

 身の丈は160cm強、面当てを跳ね上げた兜を被った顔は、年の頃なら18歳ほど。翠と紅の左右非対称の瞳…。

 現れた人物を見て、美由希が声を漏らす。

「ヴィヴィオ…なの?」

 『ヴィヴィオ』は風の音でも聞いたかのよう、ベルカ語で言ったフード付きの1人に聞いた。

「ヴィヴィオ…?わたくしのことかしら?」

「そのようです」

「聖王たるこのわたくしの名前も知らないうえに、下賤な者が声を掛けるなんて…!」

 声を掛けられたフード付きが答えると、『ヴィヴィオ』は嘆かわしいと首を振る。

 ヴィヴィオらしい面影のない尊大な態度が、エイブラハムを苛つかせた。

「美由希!ヴィヴィオは任せろ!」

 返事を待たず、1号機に強襲結界の設定を変えさせる。

 灰色の景色が一瞬揺らめき。『ヴィヴィオ』とエイブラハム以外の人間が結界外に押し出される。

 敵が結界を張っている1号機に狙いをさだめる前に発砲。これは剣で簡単にはじかれる。が、魔力弾が砕かれた火花を利用して、相手が防御しにくい死角に移動し再び発砲。

 だが、これも防がれた。ただ、反射神経がいいとか、魔力がでかいだけではない、こちらの行動を読む老獪な戦術眼がある。強力な結界を張りながら戦闘するにはL3Sは能力不足だろう。

『結界の外に出て、結界と通信の維持に勤めろ!』

 死角、死角に滑り込みながら発砲し、命じると1号機も姿を消した。チラッと『ヴィヴィオ』の視線が、1号機の消えたあたりの空間を向く。

(油断か?)

 開いた死角を利用してカードを放り投げ、さらに発砲。上方と側面の2方向から攻撃する。

 魔力弾が弾かれた瞬間にカードを起爆。ちょっとした時間差攻撃だ。

 非殺傷設定の衝撃と閃光をまき散らす。

「___ッ!」

 衝撃の余波が止む前に、魔力センサーの数値が跳ね上がる。

 勘で右に跳ぶ。

 ほぼ同時に、エイブラハムのいた空間を閃光が切り裂いていった。

「卑怯者!戦いの礼も知らぬか!」

 『ヴィヴィオ』が叫ぶが、ダメージを受けているようには見えなかった。どうやら、『ヴィヴィオ』は相当な腕前を持っているようだ。強力な魔力を手に入れて浮かれている素人だと思っていると致命傷を受けかねない。

 『ヴィヴィオ』が面を下ろしながら口上を続ける。

「卑劣な金貸しのメルカバ人!この聖王に向かっての狼藉、万死に値します」

 古い戯曲の一節を使い、歌い上げるように言う『ヴィヴィオ』にエイブラハムは罵声で応じた。

「なにが聖王だ。ジンのようにヴィヴィオに取り付きやがって!」

「まあ、なんと無礼な!今の発言はわたくしだけでなく、聖王家に対しての侮辱。その不敬は万死に値します」

 聖王は舞台役者のように、剣を掲げると口上を続けた。

「聖王たる、このオリヴィエ・ゼーゲブレヒトが直々に成敗してさしあげますわ」

「現在に不敬罪なんてものはないんだよ!」

 正面から突進してくる聖王に、エイブラハムは素早く身をひるがえした。

 

 




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聖王のイメージ図

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