管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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68エイブラハム・ハーベイ

「は?…て、ええ!」

『どうして、そう思うんだい?』

「戦闘時の動きやリズムだよ。武装隊や教導隊でいろんな人の戦い方を見てきたけど、ギリギリの戦いをするとき、ひとりひとりの癖が必ず出るものなんだ」

 入局当時から教導隊を目指していたなのはは、若干二十歳と年齢ながらにして見巧者である。

 たとえば航空魔導師の場合なら、顔を隠した全く同じ背格好の人達が編隊飛行をしていても、誰が何番目に飛んでいるか。どの程度の腕前なのかを把握することができる。

 その技術で、月村邸でエイブラハムが見せた神速の動きから、なのははエイブラハムとニンジャが同一人物だと確信していた。

『そこまで、分かるものなんだ』

「うん」

「さすが、天下の教導隊ってわけだね。でも、できれば、もう少し早く言ってほしかったな~」

「ごめんなさい、エイミィさん。すずかちゃんのお家に行った日には確信があったんですが…」

「確証がなかった。ま、確かにね、『疑わしきは罰せず』は刑事裁判の基本だからね。とりあえず、このアビーって人をサーチャーの監視対象の一人に設定する」

『じゃあ、僕は地球への渡航記録でその人がどこにいるか探してみるよ。その人の名前は…』

「ええっと、エイブラハム…、ハーヴェイ?じゃない、ハーベイ。エイブラハム・ハーベイ」

『ハーベイか、ミッドの古い発音形式の方だね。他に分かっていることはあるかい』

「…もしかしたら、地球出身かもしれない…」

「ええ、地球出身?!海鳴で育ったとか、そんな感じのこと言ってたの?」

 なのはが答えにエイミィが驚きの声をあげる。

「ええと、前に先生のお墓が藤見台にあるって言っていたんです」

「なるほど、お世話になった人が海鳴出身なら、エイブラハムって人も、地球出身なんじゃないかと思ったんだね」

『ええと、第97管理外世界「地球」極東地区日本・海鳴市出身者からの移住者…』

 ユーノが無限書庫のライブラリーに検索を掛ける。

『いた、海鳴市出身じゃないけど、20年以上前に日本から神埼玖遠さんという人がミッドチルダに移住している…、でも…、NGOに参加しているときに亡くなってしまったみたいだね。その人の旦那さんが、神埼弥太さん…。海鳴の出身のようだね』

「それで海鳴にお墓が…」

 ユーノが検索した情報を共有すると、

「その人が参加した支援活動の行先は…、マガフ…か…、もしかしたら、メルカバ人なのかもね…。」

「メルカバ人?」

「十数年前からマガフはメルカバ人って民族が、革命を成功させて政権を取っているんだけど…、メルカバ人は古代ベルカ社会から疎外されたり、聖王統一戦争の際には「ゆりかご」の被害を一番受けたとも言われているんだ」

「…それは、300年前も昔のことなんじゃ…」

『残念だけど…。新暦になっても、酷い所は残っていたみたいだね。黎明期には迫害も残っていたらしいよ…』

「リンディ提督の世代でも、なんというか自称ナショナリストというか、自称ファシストの歴史学者は、偉大な覇王を殺した罪人なんて言い方をする人もいるらしいから…」

『歴史的事実、宗教的解釈が混ぜ合わさって…、そんなところかな、差別を許していい理由にはならないんだけどね…』

 言いながらユーノは、メルカバ民族の概要を表示した。

 要約するとメルカバ民族とは、数千年前、アルハザードから逃れてきた人々の末裔と呼ばれている民族で、遺伝的にリンカーコアの発生率が少なく、アルハザードでは奴隷として働かされていたと伝えられている。

 宗教的に偶像を禁じているため、自らの家系を偶像のように扱っていた古代ベルカ時代の王達には受けが悪く、弾圧の的になった。現在でも聖王教会の一部には、聖王を認めなかった民族として、罪人扱いをする宗教家もいる。その弾圧は新暦になっても続き、黎明期には強制居住区(ゲットー)や、強制収容所が、まだ存在していた世界もある。

 戦乱や弾圧を逃れるために各世界に流浪し、各世界に散在しているため人口は次元世界では少数派になる1億ほどと言われているが、正確な人口は分かっていない。

『ミットチルダにいるとあまり感じないけど、排他的な世界に行くと他民族に厳しい政策を取っている世界は…、あるからね…。』

 空間モニター越しにユーノが顔を曇らせた。遺跡発掘をして流浪の旅をするスクライア一族である彼も悩まされたことのある問題のようだ。

「それとエイブラハムってひとが、マガフのメルカバ人ならもう一つ納得がいく理由が一つ…」

「『…?」』

 神妙な顔でエイミィが言ったので、なのはとユーノが顔に疑問符を浮かべていると、エイミィは得意げに続けた。

「女戦士イレイン…!」

 が…、

「…?」

「…は~」

 エイミィの言葉に聞き覚えのないなのははますます首を捻るだけだったが、ユーノはため息を付いた。

「エイミィさん、それは単なる都市伝説ですよ」

「そんなことないよ!って言うか、この記事書いたのスクライアの人でしょ?!」

「そうですけど、その人は突飛な記事を書くことで有名な人ですよ。いくら何でもたった一人の女戦士が、魔法を一切使わず管理局の支援を受けた基地を殲滅したというのは…」

「残念でしたー。それはその人のが書いた記事を元に流行った、ソーシャルメディアの切り抜きですー」

「え、えーっと…、いったい何の話ですか?」

 話についていけないなのはが疑問を口にする。

『ああ、ごめん。十年ぐらい前にマガフの革命に関する報道で話題になった話だよ、新暦の60年くらい?なのはが魔法と出会う前の話だから知らなくても仕方ないよ』

「そう、魔法を使わずに刃物や電撃ワイヤー、携帯火器を駆使して高ランク魔導師と戦った女戦士がいたって話があってね。その人の技が伝わっているなら、美由希相手に魔法を殆ど使わずにやりあったってのも、納得いくでしょう?」

「その手の戦闘技術と言うと、真っ先にルーフェン伝統武術が上がりますけど…、他の世界にもあるんですね…」

「でも、その技術の映像とか、資料が残ってないんだよね。その謎めいた所がソーシャルメディアで流行った理由でもあるんだけど…」

『一応、イレインと言う女性は実在しているんだけどね。革命後の暫定政権だったショット国家主席の第1夫人。民間軍事会社「静かなる蛇」の設立者であり、特別顧問。ただ、新暦64年・亡くなっているね。お葬・の規模が国葬みたいな規模で執り行われた。と、・・・が・い・・・』

 説明の途中で空間モニター上のユーノの動きが止まり、声も途切れてしまった。

「ああ、もう、まただ…」

 エイミィが毒づいて、通信回線の状況を調べる。いくつかの通信エラーが出ていたが、原因は分からないようだ。それらを調べているうちに、突然、通信状況が改善した。モニターの向こう側で、キョトンとした顔のユーノが手を振っている。

「なのは、聞こえてる?」

「うん、見えてるよ、ユーノくん」

 ユーノの姿が始めて動画を取られている人のように見えてしまい、なのははクスっと笑いながら答える。と、ユーノは振っていた自分の手を見ると、照れた調子で言った。

『通信環境が悪いみたいだね』

 エイミィが続ける。

「ごめんね。どうも海鳴一帯で通信障害が出てるみたいなんだよ。原因も、いまいちわかってなくってさー」

「あのニンジャは通信魔法を使ったウイルス攻撃をしてきました。もしかして…」

「うーん、そういうのとは、症状が違うっぽいんだよねー。なんと言うか、ウイルス攻撃がすり抜けるって感じなら、こっちのは手当たり次第にバラ巻いているものが、たまたま、こっちに当たったって言うか…?」

 通信障害と聞いてもしやと思ったが、ニンジャと今の通信障害は別の問題らしい。なのははここ最近地球の通信ネットワークにも障害が起こっていることを思い出した。ミットチルダの環境に慣れているなのはは、管理外世界ならこんなものかと思っていたのだが、日本ではそれなりに珍しいのかもしれない。

 そんなことを考えていると、カバンの中か電子音。スマホを取り出してみると通信障害のお詫びの通知が届いていた。海鳴に帰ってきてから何度か見た内容と同じだったので、カバンに戻そうとすると今度は着信の電子音が鳴った。

 ディスプレイの表示は、ヴィヴィオ。

「はい、なのはママです」

『あ、ママ。お仕事、お疲れ様です!』

「はい、お疲れ様です。ヴィヴィオ、どうしたのっ…」

『あのね、桃子ママがお夕食は一緒に食べることが出来るか聞いてだって!』

「あ、え、ええっと!」

 フード付き達の狙いが自分にあることが捨てきれないなのはが返事を躊躇っていると、 ヴィヴィオは拙い日本語の語彙で、桃子の作る夕食がいかに素晴らしいのか語り始めた。  

 元気になのはを送り出してくれたヴィヴィオだったが、アリサの記憶が亡くなってしまったことは理解でき、そのことでなのはが気を病んでいることを心配していた。なのはの姿を数時間見ないことで心配が不安になり、帰って来てほしがっているようだ。

「うん、大丈夫。夕食までには帰るから」

 こんな顔をされては仕方がない。さすがのエース・オブ・エースも自分の娘には勝てずに言うと、ヴィヴィオがパッと顔を輝かせる。

『ホン…!』

 喜びの声を上げかけたヴィヴィオが、突然、言葉を止めた。

「ヴィヴィオ?」

『お耳ガ、キーンって…なって…』

 不審に思ったなのはが名前を呼ぶが、ヴィヴィオの声から抑揚が亡くなっていく。

『お耳…、…キ、なっ…ホ、ホン…ト…、キキ、って、ててて、な…ッ!』

 とうとう、言葉がままならなくなると、ブツリと回線が切れた。

 

 ママ、お電話しているとき、お耳キーンてしない?

 この宝石はイデア・グレンヌと名前のつけられている情報物質です。

 形を変えて送信することもできるようです。

 

「なのはちゃん?」

「家に戻ります!」

 ヴィヴィオの声が聞こえていないエイミィが怪訝な顔をするなか、部屋を飛び出すなのはを追うように、強力な魔力反応を感知したことを示すアラームがハラオウン家に響いた。

 




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