管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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69二つの一対一Ⅰ

 バリアジャケットを纏い空に舞い上がった途端、景色が急変。なのははつぶらな瞳を細めた。

「これは、強装結界…」

 このタイミングで偶然はあり得ない。誰かが意図的になのはがヴィヴィオと合流することを阻んでいる。

 身構え、バリアジャケットをエクシードに切り替えると、エイミィから通信が入った。

『なのはちゃん、おかしいよ。長距離次元間通信が使えない』

『どういう、意味です?』

 なのはが疑問の形で答えた。

 通常、次元間における通信は直接次元を超える信号を届ける方法と、中継施設を経由で信号を届ける方法がある。長距離の通信となると、前者は高い魔力出力が必要になり、後者は施設の性能に依存することになる。

 ハラオウン家は後者に当たったが、元々闇の書事件の解決のために設置された経緯のあるシステムだ。そうそうトラブルは起こらない。

『システムが妨害を受けてる。被害の拡大は防げたけど管理局に通報が出来ない!』

『それだけ、組織立ってやっているか、すごい技術者がいるってことですね』

『そうだね、あるいは…』

 エイミィとの通信中、なのはの背中を誰かの殺意が撫でた。出力を上げ回避機動を取ると視線の端に誘導弾が数発見えた。

 見覚えのある魔力光を放ちながら誘導弾は、通常の自動誘導ではあり得ない軌道でなのはに迫ってくる。回避を諦めディバイン・シューターを誘導弾の数だけ生成する。

「シュートッ!」

 シューターはなのはの心像に描かれたとおりの軌跡を辿って、誘導弾を撃ち落とした。

「その出力、その運用速度!この間とは比べものにならないではないか!」

 奇声に近い歓声に目を向けると、太陽を背に人影が見えた。逆光になって姿を確認できなかったが、声と魔力の性質で分かった。ガンナーに間違いない。

「…随分と回復しているようではないか」

 太陽を背に取られた戦術的不利よりも、粘り気のある視線で体をなめ回されたことに、なのはは生理的嫌悪を覚えつつも口を開いた。

「どいてください!いま…!」

「娘の様子が急変した、だろう?」

 なのはの言葉の途中で、ガンナーが笑い混じりの声で遮った。

「この結界の解除理論は簡単だ。結界内にいる術者を倒せばいい。そら、どうした?まだ、間に会うかもしれないぞ」

 逆光の中で体をふるわせ笑う影法師。

 なのははその口が三日月のように裂ける姿を幻視した。

「___ッ!」

 理性の鎖が切れ、瞬間的に集められた魔力がはじける。

《ショートバスター!》

 なのはの最速砲撃魔法がうなり声をあげてガンナーに向かっていく。

 しかし、ガンナーはすばやく反応した。まるで待ち構えていたように防御魔法が展開され、光の奔流が拡散し跳ね返されていく。

 それでもいくらかの魔力が防御魔法から削り取られていく。それを見たなのはがさらに出力を上げ防御を抉り貫こうとしたとき、ガンナーがバスターの射線から弾き出されるように抜け出した。

 ガンナーが太陽を背にした位置から移動したことで、姿が見える。

 手にしたデバイスには輝く魔力球。さらに、

《警告、照準波感知!!》

 攻撃をデバイスが、自身は防御に専念。ガンナーとデバイスとの連携も相当高い。打ち出された魔力球が鋭い曲線を描き、なのはの側面から襲いかかってきた。

 相手を挑発し、その隙をつく。そういった類の攻撃だったようだ。頭に血を上らせたせいで、まんまと引っかかってしまった。

 魔力球が鋭角に曲がり、最後に急激に加速。目で追うことしかできないなのはに迫った。

 だが、デバイスと連携がとれるのはガンナーだけではない。

『プロテクション』

「ほう!」

 破裂音と共にガンナーの放った魔力を、レイジングハートが小さな魔法陣の盾でしっかりと受け止めると、ガンナーが感嘆の声をあげた。

「私とボフォースの攻撃を受けきるか!」

 ガンナーはそう言って、目眩を追い払うかのように頭を振った。

 攻撃の切れ目に、レイジングハートがなのはに語りかける。

《マスター、まずは目の前の敵に集中を。そうしなければ、ご息女を迎えに行くのは困難です》

『うん、ごめんね。レイジングハート』

 どこまでも冷静な愛機の声で、なのはも落ち着きを取り戻し、ガンナーの攻撃を思い出す。近づくと吸い寄せられる様に急加速してくる攻撃。それとは逆にこちらの攻撃を反発させるような防御。

 魔力素自体に働きかけるレアスキルの類だ。間違いない。

 前回の襲撃以来、なのはも対ガンナー対策をなにもしてこなかった訳ではない。「打ちのめされた経験から学び取る」のは、なのはの所属する教導隊の教育方針でもあるのだ。

 ガンナーの使用しているレアスキルの理論をいくつも検討し、それに対抗するための戦術を編み上げ、分割思考を使ってのイメージファイト訓練も重ねてきた。

「ブラスター1」

《了解、ブラスタービット展開》

 エクセリオンモードのレイジングハートのヘッド部分に似た、遠隔操作機が四機出現する。途端、消費魔力が増大。ビット制御の為、送受信されるデータがレイジングハートの処理装置を圧迫する。それに構わず自身と四機に魔力を均等に配分する。

『エイミィさんは、そのまま通信障害の対応を』

『了解!まかせて!』

 念話を使ってエイミィに頼むと、暗号通信のため内容は分からないにしても念話を使っているのを察したらしいガンナーが顔を不満で歪める。

「タカマチ、私と対峙しているというのに、他の者など捨てておけ!」

 ガンナーの魔力出力がグングン上昇し、無数の魔力弾がガンナーの周囲に生成される。杖の先端にも魔力球が膨れ上がって行く。

 反応炸裂魔法!でも、近すぎる!

「命を賭けた戦いこそ、人間とっての至高の行為。だからこそ、貴様はこの惰弱な辺境を捨て、戦場に現れたのだろう!」

 炸裂魔法は今のような間合いで放てば、自爆めいたことになりかねない無茶な攻撃だったが、ガンナーは何の迷いもなく砲撃してきた。

 が、無茶と思い切りの良さでは、なのはも負けてはいなかった。

「エクセリオンバスター!!」

 ブラスターモードでの砲撃は、抜き打ちであるにも関わらず力負けしなかった。いや、それどころか相手の砲撃を破壊しながら突き進む。

「ちぃ!」

 咄嗟に砲撃を取りやめたガンナーの防御魔法にバスターが命中すると、やはりガンナーが射線から弾き出されて直撃させることができなかった。ガンナーが生成していた魔力弾も弾かれたように分散し、砲撃に巻き込まれた弾はないようだ。

「いいぞ、タカマチ」

 恍惚の表情をしたガンナーの声がだんだん裏返ってきた。

「我々の戦いはこうでなければいけない!!」

 ヒステリックに叫ぶガンナーに呼応して、飛び散っていた魔力弾達が活性化した。四方からなのはに向かって突き進んでくる。

 高い誘導性能を持つ魔力弾を大きく躱すことはできない。回避をするならば、寸前で躱すのがセオリーだったが、ガンナーはそのセオリーを逆手に取るレアスキルを持っている。躱したと思っても全く別の誘導方法で、魔力弾の軌道を変え誘導することが可能なのである。

 むろん、防御魔法で受けることは出来る。しかし、受けることでも魔力は消費されていくのである。互いの実力が拮抗している場合の戦闘では、その消耗は勝敗を左右する。

 なのはもそれをよく理解した上で、大きく回避行動を取った。四機のビットが後に続く。

 砲撃を撃った直後の自身に比べて、ビット達の出力が高いのを確認すると、なのはは2機ずつを組ませてビットを散開させた。すると、魔力弾達はビットを追った。さらにビット達が二手に別れ、出力を交互に上げ下げ変化させると、魔力弾達は目標を決めかねるように揺れ動く。ビットに誤誘導されているのである。

 ここでなのはが反撃に出た。直進しかしないシュートバレットをあえて甘い照準で放つ。

 本来はずれたはずの弾丸は、ガンナーに近づくと吸い寄せられるように軌道を変え、ガンナーに向かって飛翔した。

 ガンナーが身を翻しバレットを躱したのと、誘導弾の追尾が止んだのはほぼ同時だった。

 バレットをギリギリのところで躱したガンナーが飛翔を止めると、なのはも攻撃の効果を確かめるため空中で停止した。

 ガンナーが自分の頬に触れる。そこはシュートバレットが掠めた衝撃で血がにじんでいた。それを確認したガンナーが、くくくと含み笑いをし始めた。

「傷、傷だ~、1対1で傷を負ったなど、いつ以来だろうか?」

 熱に浮かされたように自答するガンナーを見ながら、なのはは愛機と戦術を討議する。

 ガンナーのレアスキルは、特定の魔力に対して磁石のような吸引力や反発力を持たせることができる。と、いうものだ。これを利用し、攻撃の際は魔力に吸引力を付与し攻撃を強化。防御の際は反発力を持たせ相手の魔力そのものを反発させることで、攻撃の直撃を反らしているのだろう。

 だが、当然ながら無敵の能力ではなさそうだ。なのは達が気付いただけでも三つ欠点がある。

 第一に特定の魔力に反応させるということは、多人数からの同時攻撃には対応できないということ。たとえば、2人組の相手から同時に攻撃を受けた場合、2人の内1人の攻撃にはスキルを発動できるが、もう1人の攻撃に対しては、通常の防御としてしか意味をなさない。チーム戦向きではない能力ともいえるのだが、今回のような場合には欠点になり得ない。

 第二に吸引力にしても反発力にしても、互いの出力に左右されすぎてしまうことだ。攻撃の場合なら、目標と同質でより出力のある魔力があると、そちらに誤誘導されてしまう。防御の場合は、砲撃のようなパンチ力のある攻撃を受けると、その反発力によって空中に踏みとどまっていることができずに、弾き飛ばされてしまう。この時の急制動で生まれるGはフィールドの吸収能力を超えるので、肉体にかなり負担が掛かることが推測できる。

 最後に吸引力と反発力を同時に発動させることができない。と、いうことだ。使い方を誤れば攻撃は逸れてしまうし、なにより、自分自身に攻撃を引き寄せてしまうことにもなりかねない。

 そういったこれまでの攻防で得た相手の能力をふまえて検討した結果、レイジングハートは砲撃による打撃を重ね、相手の体力を削り取っていくことを提言した。

《砲撃戦を推奨。殴り合いなら負けません》

『いい考えだけど、それだと時間が掛かりすぎる』

 レイジングハートの意見はより勝率の高い物だったが、ヴィヴィオの元に駆けつけるために、なによりも時間が惜しかった。

『ちょっと危険だけど、勝負に出よう。相手に撃たせてそのスキを突くよ。付き合ってくれる、レイジングハート』

《大丈夫、やりましょう。マスター》

 レイジングハートは即答した。どうやら、なのはと同じ考えにたどり着いたようである。

 デバイスからの信頼と愛情を感じながら、なのはは飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風を切る鋭い音と共に、魔力弾が体のすぐ側を掠める。

 お返しに一発撃ち返す。が、相手のとった行動は片腕をあげて頭を守る位だった。

 ガンッ、と中身の入ったドラム缶を殴ったような音がして、魔力弾がガントレットに命中したが、コイン程度の凹みを作った程度で、エイブラハムの放った魔力弾は弾き返されてしまった。

「ちっ!」

 舌打ちをしながらフェイントを入れてステップ。<自称>聖王の放った魔力弾がエイブラハムのいた場所を貫いて行く。幸いにして相手の射撃を躱すのは難しくなかった。

 もともと、ベルカの騎士は射撃を得意としている者は数が少ない。この<自称>聖王もまた純粋なベルカ式のプログラムしか用意していないらしく、射撃戦は苦手のようだ。攪乱信号も有効に働いている。今のエイブラハムはリソースに制限があるため、複数の術式に干渉することは難しかったが、体術だけでも単純な射撃だけでやられることはまずない。

 しかし、<自称>聖王の防御は厚く、エイブラハムの放つ魔力弾による攻撃がことごとくはじき返されてしまう。

 もちろん、分厚い装甲を突破、または無視する攻撃方法がないわけではなかったが、それを行ってしまうとヴィヴィオが無事ではすまない。

 肉体、精神、魔法的にもヴィヴィオはまだまだ脆い、特に精神と魔法に関していえば、『種』が取り付き記憶を吸収している間は不安定になっているのが感じ取れる。魔力ダメージでノックアウトという乱暴な手段をとると、深刻な後遺症を残してしまうかもしれない。

(魔力ダメージにしても、点穴にしても、あの騎士甲冑が邪魔だな)

 不意でも突かないと、あの騎士甲冑がまともに機能しているときは、あの装甲を貫くのは難しい。点穴を仕掛けるにしても、全身を覆った鎧が邪魔をする。先に騎士甲冑を破壊するか、<自称>聖王自体を無力化する必要があった。

 そこでさきほどから、軽い脳震盪をさせてやるつもりで頭を狙っているのだが、アリサの時とは違って、この<自称>聖王はかなりの腕前を持っているようだ。単純な攻撃には引っかかってくれない。

「ちょろちょろとネズミのように…、この卑怯者が!」

 <自称>聖王が魔力弾を撃ちつつ距離を詰めてきた。見た目は重量級だが出力が高いだけあって、なかなかのダッシュ力がある。だが、初速や小回りを含めた総合的な機動力はこちらが上だ。

 かき回してやる。

 十分に引きつけたのち、カードを投げつけてやると、<自称>聖王は避けきれずに炎熱魔法の中に飛び込んだ。エイブラハムもこの程度で、相手が倒せると思っていない。

 センサーが魔力の上昇を検知。

 魔力弾を火炎の中に撃ち込み、高く跳躍する。炎熱魔法も魔力弾もものともせず、<自称>聖王がバリアを張りつつ、火炎から飛び出してきたのはその直後だった。

 白刃が閃き空を切る。<自称>聖王が炎熱魔法と射撃が攻撃を空振りさせるための誘導だったことに気が付いた時には、エイブラハムは<自称>聖王の背後に降り立っていた。

 一瞬の脱力からの加速。振り向いた<自称>聖王の側頭部へ掌底打ちを叩き込む。違和感。

 ビクッと痙攣する<自称>聖王。違和感。

 よし、勝っ…。違和感。

 柔軟体操のように、体を反らせる。と、甲高い音をたてて刃風が鼻先を掠めていった。

 鼻が低くてよかった。いや、そんなことはどうでもいい。

 <自称>聖王の胸当てを蹴り飛ばして間合いを取る。相手のバランスを崩したはずなのに、追ってくる殺気。攪乱信号が効いていない。急所を守るため咄嗟に腕を上げると、左腕に深く痛みが走る。

 互いに体勢を立て直して、にらみ合う。

(くそ、ヴィヴィオを傷つけることを恐れて、加減しすぎた)

 本当にどうかしている。入れ込み過ぎもいいところだ。

 痛みに顔をしかめないように左腕を見れば、短剣が突き刺さっていた。近世ベルカの騎士達が戦場にでる際持っていた短剣を模して、騎士甲冑と共に魔力で編み上げたものだろう。よく相手の姿を観察すると、腰に小さな鞘だけがぶら下がっていた。そこに差していた短剣を投げつけたのだろう。プログラムを使用しない投擲攻撃には攪乱信号は通じない。

「いいのか?その短剣、たしか騎士が名誉の自刃するためのモノじゃなかったのか?」

「おだまり!!貴様のような畜生を追い払うのに、騎士の礼など不要ですわ!!」

 時間稼ぎのつもりで口を開くと、<自称>聖王が激高する。

「おや、おかしいな。その風習が出来たのは、最後の聖王オリヴィアの後だった筈だぜ。なんで、<自称>聖王のあんたが知っているんだ?」

「…ッ!!あなた、あなた、わたくしを聖王と認めないとおっしゃるの!!」

 エイブラハムはニヤニヤと笑いながら、スクライア一族に聞いた教科書に載っていない古代と近世の風習の違いを指摘した。日本でいうなら、ピラミットはお墓じゃないぞ。と、雑学を披露して相手をからかうようなものだ。挑発を受けて<自称>聖王は歯噛みをして悔しがった。

 挑発で出来た隙にエイブラハムは短剣を引き抜き、バリアジャケットで患部を締め上げ、止血を完成させる。小指の腱が傷ついたようだが、武器を握るときに、気を付けてさえいれば問題なさそうだ。

 だが、どうする?頭に血が上っているとはいえ、相手だってバカじゃない。今の攻防でこちらが頭を狙っていたことぐらい気が付いただろう。そうそう、隙を突かせてはもらえない。

 どうしたものか。と悩んでいると。相棒のパーシングから連絡が入った。異変を感じてセーフハウスにあわてて戻ってきたようだ。

『エイブラハム状況は?』

『見ての通りだ。ちと、まずいな』

『仕方ない。8課の後追いをするようで、気に入らないが第2プランに…』

『いや、ヴィヴィオをあきらめる前にやってみたいことがある。電話、テレビ、ラジオ。ヴィヴィオが接触した可能性のあるすべての媒体のデータを集めてくれ。ヴィヴィオが通っていた聖王医療院でのノイズとやらもな…』

『一体なにに…?ああ、そういうことか』

 セーフハウスのモニターに、表示された通信ログや、エイブラハムが処理しているのデータをみて、パーシングが言った。

『察しがよくて助かるね。頼んだぞ』

 エイブラハムが答えて牽制のために銃をむけると、<自称>聖王も構えなおし、自らのデバイスに命じた。

「オートクレール!カートリッジ、ロード」

 <自称>聖王の持つ剣に搭載されたカートリッジシステムが3発炸裂する。すると手にした剣の形が変化。刃が三股に分かれたのち、真ん中の刀身が2倍近くに延びた。

 変化が終わったときには奇妙な形の長剣が出来ていた。さらに<自称>聖王の周囲に複数の宙に浮く剣が出現する。

「クレティアン・ド・トロワ!!」

 剣が次々と射出された。速度も破壊力も先ほどまでの魔力弾とは比べものにならなかったが、エイブラハムの行ったことは攪乱信号の種類を変えた程度だ。相手の照準方法は、スターダストフォールに代表される物質加速型射撃魔法と同じモノ。対応策はいくらでも用意してある。

 射出と同時に、<自称>聖王が延びた刀身を真っ直ぐこちらに向け突進してきた。だが、剣の長さが違うといってもエイブラハムにとって、この突進攻撃は先ほどと何の変わりのない攻撃に見えた。

 射撃からの突進。余裕で対処できる。そう思って回避のタイミングを合わせようとした瞬間。

「フー!」

「_ッ!」

 

 刀身の延長部分が射出されてきた。咄嗟に左に避けて逃れたが、三股に分かれた刀身の左側がこちらに向いているのに気が付いた。

 ヤバい、間に合え。

 引き抜いて盾にしたナイフに衝撃。同時に何かが千切れていくような異音と痛み。

 残弾をフルオートで撃ち込み、腰の2本のマニピュレータがカードを投げつける。先ほどの教訓からか<自称>聖王は、先ほどの二倍の火炎の中に飛び込んでまで、深追いしてこなかった。

(危なかった)

 左小指は…、まだ何とか動く。

 しかし、射出機能付きの剣とは恐れ入った。しかも、狙い剣を向けた角度で操作するので、攪乱信号が入り込む余地がない。

 銃とナイフを持ち替える。左手では1、2合攻撃を受けただけで小指の腱が切れそうだった。

(ま、それでも、うまくやるしかないんだけどな)

 そう思いながら身構えると、<自称>聖王が再び複数の剣を出現させるところだった。

 

 

 

 

 

 システムに対するハッキングによる被害の拡大をどうにか押しとどめ。相手の居場所を突き止めてやろうと、タタタッと淀みのない動きでキーボードをタイプするエイミィの視線が、空間ウインドウに写された数字の羅列で止まった。

「なにこれ?大きく迂回しているけど…。妨害の発信点、意外と近い…」

 ポンッ!と、警告音が鳴って、ハッカーの痕跡を逆探知する作業と並行で行っていた作業の終了を示す表示が、別の空間ウインドウに映し出された。ハッカーのプログラムが何処の世界で作られてきたのか解析する作業が終了したようだ。

 プログラムには、使用された機材のOSやBIOS、プログラミング言語などによって癖がでる。素人目には同じミッドチルダ式のシステムに対する命令プログラムだったとしても、エイミィには人の顔のように個性豊かに見えるのだ。

「このプログラムの出身地…」

 プログラムの『顔』を見たエイミィが呟き、目まぐるしく手が動く。

 エイミィは何度か空間ウインドウを開閉させた後、目当てのデータを見つけた。

「やっぱり、この船の船籍と同じ…、いったいなにをたくらんでいるの?」

 次元船の航海プランを引っ張り出し、エイミィが言った。

 そのまま、乗船名簿の中から個人通信端末のパワーを落としていない迂闊者を探し始めた。




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