後編投稿は明日。
ヴィルヘルムは高町親子を探して、機動六課の図書室にやってきた。いや、この言い方は正確ではない。なのはとヴィヴィオの法律上の関係は保護責任者と被保護者にすぎない。だが、二人の様子はまさに母親と娘だった。今も、ヴィヴィオは児童書のコーナーでなのはの膝の上で絵本を読んでもらっている。本の読み手はスターズの新人二人だ。
児童書の多さにヴィルヘルムは六課が海の所属であることを認識する。普通、地上の部隊では児童書を扱ったりはしていない。
しかし、一度船に乗ると数カ月の間、家に帰ることもできなくなることも多い次元航行部隊などでは、艦内の図書室などで絵本を読みそれをビデオレターとして家族あてに送る局員も多い。六課でのこの絵本の充実はその名残だろう。
ヴィルヘルムがそんなことを考えながらスターズの面々に近づくと、彼に気がついた新人二人が慌てた様子で気を付けの姿勢で敬礼をしてきた。なのはもヴィヴィオを膝からおろすと敬礼をする。膝からおろされたヴィヴィオは少し不満そうだ。ヴィルヘルムは敬礼を返すと用件を切り出した。
「ヴィヴィオの身分証ができた。受け取ってくれ」
「あ、ありがとうございます。でも、呼び出していただければ、取りに伺いましたのに」
「君達はオフシフトだ。緊急時でもない限り、そんな無粋なまねはしない」
ヴィルヘルムは身分証の内容(保護責任者や後見人)の確認をすると屈みこみ、ヴィヴィオに身分証を渡した。身分証は首から下げられるように、ケースに入れられている。
「ヴィヴィオ、この身分証はとても大切なものだ。なくさないようにな」
「あ、ケース付きよかったね~、ヴィヴィオ」
「ホントに、大切なものなんだから、大事にしなきゃダメよ」
ヴィルヘルムに続いてスバルとティアナが言ったが、ヴィヴィオは身分証の意味がわからなかったようだ、不思議そうにケース入りのカードを見つめている。その様子を察したなのはが部隊の家族になった証しだと説明すると、喜び礼を言ってきた。
「ありがとう、ノッポのオジサン」
ヴィヴィオの一言に、星達は氷結呪文をかけられたように凍りついた。
「すすす、すみません副長。ヴィヴィオ、『お兄さん』ね」
「ヴィ、ヴィヴィオ、そんな失礼なこと言っちゃダメ」
「ななな、なんてことを」
慌てふためくなのは、スバル、ティアナだったが、ヴィルヘルムは気にするなといい。「私は子供にオジサンと言われて目くじらを立てるほど年を取っていない」と主張した。それを聞いてスターズが口元を引きつらせていると、「取っていない、そうだな」今度はかなり強く言った。あわてて首を縦に振るスターズ。その様子を疑問に思ったヴィヴィオが口を開く。
「おじ……、副長さんはママ達よりも強いの?」
「ん、偉くはあるが、強くはないな」
「強くないのに、偉いの?」
「ああ、偉い人というのは弱くても勝つ方法を知っているものだ。それに私ならそもそも戦わなくても勝てる」
「???」
ヴィヴィオは理解できなかったようで、首をひねっている。ついでにスバルまで首をひねっている。ヴィルヘルムは「理由はよく考えるように」と言い残して図書室を後にした。
「お疲れさんや、ノッポのオジサン」
その日の午後、部隊長室を訪ねたヴィルヘルムに開口一番にはやてが言ってきた。隣にいるフェイトが袖を引っ張っているところをみると、はやての軽口を止めようとして失敗したというのが見て取れる。しかし、ヴィルヘルムは表情ひとつ変えず……
「あのくらいの子供にはそう見えるでしょう。私もあのくらいの頃には27歳はそう見えました。まあ、子供の言うことです」
「ほほう、認めるん」
「ええ、実際この年になってみると20歳だったころは、ホントに子供だったと思うようになりましたが……」
「そ、そうなん……」
はやては本局や地上部隊のほかの幹部から言われていることを部下に言われると思っていなかったのだろう、ヴィルヘルムの方も本日2度目で虫の居所が悪かったのかもしれない。はやては笑顔のまま(ほほを引きつらせて)、ヴィルヘルムは無表情のまま(眉がピクピク動いている)見つめあう……。
「……そうだ! お茶にしよう! うん!」
2人が怖くなったフェイトは強引に話を変えた。
ソファーに座り、フェイトの入れたお茶を啜ると怒りの衝動はとりあえず引っこんでくれた。心のメモ帳には副長の暴言をしっかりと書き留めておくのも忘れなかったが。
「そういえば副長」
「はい、課長」
「ヴィヴィオになのはちゃんに勝てるゆうたらしいやん。副長も六課最強決定戦に参戦する気なん」
六課最強決定戦とは、最近、曹士の間ではやっている話題の1つだ。きっかけは些細なことだったようだが、話がどんどん膨らみ六課で最強は誰か? という話題に発展していったようだ。はやて自身もティアナに何度か聞かれたことがある。
「ええ、少なくとも勝つ見込みはあります」
「へえ、どんな手を使うん」
話をふったのははやてだが、フェイトもこの手の話には興味があるらしい。若干、体が前のめりになる。ヴィルヘルムは仮に試合をするならと前置きしてから……
「彼女の負傷経験を利用し、後遺症の検査という名目で入院させ、不戦勝を狙います」
実戦だったら同ランクの魔導師を2人雇って二人同時にぶつけますと、ヴィルヘルムは続けたが誰も聞いていなかった。フェイトはガクッと頭を下げ、はやてはあきれた顔をした。
「
「戦わずに敵を制する、戦略の基本です」
「金持ち喧嘩せずて、ホントのことやったんやね」
「ほう、何処の世界の言葉ですか?」
はやてが第97管理外世界の言葉だと投げやりに答えながら、ヴィルヘルムが20歳で入局するまで、友人と会社経営をしていたという変わった経歴の持ち主だったことを思い出した。ガチンコ勝負にはあまり重きを置いていないようだ。
(そうやな、民間経営者から見たら予言やスカリエッティはどう映るんやろ? 公開意見陳述会も近いことやし、話を聞いてみよ)
騎士カリム、クロノ提督、そして、はやてはスカリエッティは公開意見陳述会を襲撃すると予測し動いている。そのため、警備は地上の部隊だけで行うと主張している地上本部の意見を押しのけ六課のフロントを警備にねじ込み。なのは、フェイトの両隊長をはやての付添名目で参加者リストに潜り込ませているが、未然に防ぐことができるなら、それが一番いい。正直、行き詰りつつある捜査に新しい視点が欲しかったところだ。ヴィルヘルムの用件がすんだら聞いて見るのもいいかもしれない。
「そいや、副長の用件は?」
「ちょっとした報告です、次元航行艦整備のマニュアル化が終了しました。今後は、業務幹部かロウラン補佐の指揮で十分お役にたてる状態を維持できます」
「そうなん、もうちょっと先になると思っとったけど」
「頼りになるようになってきたのは、フロント陣だけではないということです」
数日前、フロント陣はナカジマ3佐の部隊に随分と褒められていたそうだが、事務方の方も頑張ってくれている。地味で目立たない仕事ではあるが、この間の地上部隊の査察を乗り越えることができたのは、六課の事務方が不備やミスをしなかったおかげであることは間違いない。六課最強決定戦などという話題で盛り上がれるのは、仕事に余裕が生まれてきた証拠でもある。はやては部下達に感謝しながら、ヴィルヘルムに質問をした。
「副長、その戦略家としての意見を聞きたいんやけど」
「と言いますと」
「騎士カリムの予言のことや」
「……そのことですか。正直いいますが、いまだに半信半疑です」
ヴィルヘルムは珍しく表情を崩し、乗り気ではなさそうな顔をした。彼は地上出身の士官局員がそうであるようにレアスキルをあまり重要視していない。六課への配属に同意したのも、AMF対策に対して予算すら組まない地上本部よりまし程度の考えからだ。
ヴィルヘルムはエースやレアスキルを優秀なモノは優秀と認める柔軟性も持っていたが、それら希少で換えのきかない特定の才能に頼るのは嫌っていた。人間に絶対はない。エースやレアスキル保有者が病気や事故、プライベートの事情などで突然活躍できなくなることは往々にしてありうるからだ。換えの利かない才能に頼った組織は脆弱であるこれが彼の持論だ。もっとも、はやてはだからこそ六課にはこの男が必要だと考えているのだが……
「理由を聞かせてもらってええ?」
「他の方々とそう違った意見もっているわけではありません。確かにスカリエッティの戦闘機人は強力です。ガジェットと連携させ組織的に運用できるなら、地上本部に大打撃を与えることも可能でしょう」
はやてとフェイトは頷いた、AMFに不慣れな地上部隊では組織的な抵抗すらできない部隊もあるかもしれない。ヴィータが教官として出張するのは、AMFに対応できる部隊を増やす意味合いもある。
「しかし、あくまで個人の戦闘能力を超えません。次元空間に浮かぶ本局を落とせるとは思いません」
「でも、乗っ取ることはできるかもしれませんよ。あちらにも召喚士がいますし」
フェイトは可能性の1つをあげてみたがあまり本気で言ったわけではなかった。本局にはテロに備えて転移を妨害する対策が取られているので、転移を使えるのは限られた場所でしかない。転移してきたところをエース級数名と武装隊で包囲してしまえば、戦闘機人と言えひとたまりもないだろう。次元航行船を乗っ取り突入してくる可能性もあるが、テロリストに乗っ取られた船というのは、あまり大きな声で言えることではないが、撃ち落としても罪には問われない。
ヴィルヘルムもフェイトが本気ではないことに気が付いていたので、「その可能性は低い」としか答えなかった。
はやては質問の仕方を変えてみることにした。
「副長がスカリエッティの立場だったとしたら何を『備える』?」
「それは奴の目的によります。テスタロッサ執務官?」
「はい」
「君が一番奴について詳しいな、奴の目的はなんだと考えている?」
「あの男はドクターの通り名のとおり、生命操作とか生体改造に関して異常な情熱を持っています。命をもてあそぶ生体兵器の開発と運用自体が目的になっているんです」
フェイトが答えながら美しい顔をゆがめる。彼女にとってスカリエッティの行為や技術はもっとも嫌悪すべき犯罪なのだろう。
フェイトの話を聞いてヴィルヘルムは会社を経営していた時のことを思い出す。奴は技術者。技術開発部のスタッフや自分で発明したものを持ちこんできた発明家たちと同じ、自分の技術力を追求することにしか興味がない。
ならば、奴の欲しがるものも彼らと同じものだろう、すなわち研究資金と研究できる環境だ。しかし、スカリエッティはすでにこの二つを確保しているように思える。
では、次に欲しがるものは、彼らは何を欲しがった? そうだ、公の評価だ。発明家は自分の発明を認めさせるため、あらゆる方法でデモンストレーションを行って見せる。高い評価を与えざるを得ない方法が効果的だ。騎士カリムやハラオウン提督は万全の警備が敷かれている公開意見陳述会を襲撃すると予想している。確かにいいデモンストレーションになるだろう、だがそのあとはどうなる? 課長はスカリエッティとレジアス中将は通じていると、ほぼ確信しているようだが、陳述会を襲撃しようものなら間違いなくその繋がりはなくなる。中将は研究所を抑えにかかり、今まで使用していた研究環境も使用できなくなるに違いない。そうなった時の用意、今、スカリエッティが準備しているであろうものそれは……
「研究所……」
「研究所? 今更そんなん欲しがるやろか?」
思わず口から洩れた言葉に、はやてが反応する。ヴィルヘルムは自分の考えを2人に説明すると、『スカリエッティは現在研究所を移し替えている最中』と推論を告げた。
「それも地上部隊に手出しされないほど秘密裏の場所か、あるいは次元航行可能な庭園クラスのものです」
「……時の庭園」
フェイトが思わず口にすると、ヴィルヘルムは何の事かと思ったが、すぐに彼女の経歴を思い出す。
「ああ、すまなかった。配慮に欠けた」
「いえ、捜査とは別ですから」
謝罪され、フェイトはかえって慌ててしまった。ワタワタと手を振りながら気にしないで下さいと言いながら考える。確かに今までの調査は、ガジェットや戦闘機人の方に目が行き過ぎていて、生体部品や電子パーツの流れを洗っていた。副長の読みが正しいならクラナガン周辺で、庭園や次元航行艦の部品や材料の流通を調べなおす必要があるだろう。しかし……
「フェイト執務官、どうやろ調べられそうか?」
「ちょっと人手が足りないかな、ガジェットや生体パーツ周りだけでもかなりの数のダミー会社を経由していることがあるから、その確認作業だけでも時間が掛っているんだ。庭園関係までとなると捜査指揮を執れる人がいないと……」
「それならちょうどいいのが居るやん」
はやてはヴィルヘルムを指さす、
「私ですか? 私は捜査に関しては門外漢です」
「現場捜査に関してはやろ、お金や物資の流れ、書類に不審な点がないかを調べることについては専門家のはずや」
「……」
その通りだったがヴィルヘルムのそれだけが彼の仕事ではない。そのことを指摘したが、はやては怯まなかった。
「さっき、手のかかる『彼女』の世話は他の業務幹部でもできるようにしたゆうたやん」
「ええ」
「なら、副長の才能がぬけても大丈夫なはずやろ」
「了解」
持論を盾にされヴィルヘルムは観念し、すぐに始めますと席を立った。
ヴィルヘルムの調べた時空航行船資材や研究器材の購入者リストを見て、はやてがまずしたことはため息を付きそうになるのを堪えることだった。目の前にぎっしりと名前の書かれた空間モニターが並びヴィルヘルムの顔が見えない。
捜査班の首脳陣は会議室に集まっていた。執務官服のフェイトは深刻そうな顔をしている。地上部隊服のシャリオ、ギンガは苦笑い。本局所属を示す青い制服の上から白衣を羽織っているマリエル技官は開いたメモ帳を片手にどうすべきか思案している。
「立派な名簿やね、ミッドチルダ会社図鑑ができそうや」
「この中から管理局と多少なりとも繋がりのあり、地理的な問題を考慮しますと3分の2になります」
「ん~」
「次元航行船や庭園に搭載可能な器材ということを考慮しますと、もっと絞れますよ」
マリーが技術屋の視点から幾つか条件を絞り込むと、幾つかの空間モニターが電子音と共に消えていき、ようやっとヴィルヘルムの顔が見え始めたが副長はいつもの無表情だった。「少しぐらい困ったような顔をしたらどうや」と、理不尽なことを思いながら捜査方法を考えた。新しい情報が入ったのはいいが状況はあまり変わっていない、この量だとまともに調べていたら六課が解散するまで調べていても終わりそうにない。騎士カリムやクロノ提督に調査依頼をしても、彼女達の動かせる部隊にも限度があるので、数カ月はかかってしまいそうだ。
「ナカジマ陸曹」
「はい、ヴィルヘルム3佐。ギンガで結構です」
「では、ギンガ陸曹。キミの持ってきた生体部品を扱っている業者のリストと、テスタロッサ執務官のリストをクロス検索しろ」
「はい」
出向してきたばかりのギンガが若干緊張した面持ち(妹のスバルから副長は怖いと聞かされていた)で、データを整理すると数十件が該当。公開意見陳述会まで間に合うかどうか微妙な数だ、もう少し絞り込める要素が欲しい。
「課長、少々時間を頂いて宜しいでしょうか?」
「ん?」
「実は人と会う約束をしています」
「女のひと?」
こんな時にだれと会うのかと、はやてが茶化すと「御冗談を」と返してから。
「以前、ある地上部隊の捜査班長に貸しを作っていたので、取り立てに行ってきます」
「いけずせいへん」
「私は対等な交渉だと考えています」
「わかった、こっちは通信ログを使って絞り込んでみる。もしかしたら、何かしらの情報が残ってるかもしれへん」
「分かりました」
「さ、みんな、可能性の高い順に片っ端や」
「「「了解」」」
クラナガンの中心部から少し離れた住宅地の公園に背の高いビジネスマンがやってきた。下げている鞄のほかには、脇に挟んだスポーツ新聞と缶コーヒー、どうやら休憩を取りに来たようだ。ビジネスマンは公園の端に背もたれのないベンチを見つけると、ネクタイを緩めながら近づいていく。ベンチには先客がいた。通信端末で競馬でもしているらしくビジネスマンには見向きもしない。ビジネスマンは先客との間に缶コーヒーを置いてパーソナルスペースを主張し、新聞を読み始めた。
「陸上警備隊部隊長、贈賄容疑で逮捕か。逮捕者が1名だけってことは、早々に周りから捨てられたなこの部隊長」
「無能なくせにゴマスリで出世したようなやつだからな、自分を優秀と勘違いして現場に口を出してくる類のバカだった。アンタから話を貰った時は思わず笑っちまったよ」
「そうか、だが無料ではないぞ」
「わかっているさ、三佐殿。借りは返したからな」
「ああ、これで私達は赤の他人ということになる」
「顔も名前も知らないが、連絡方法だけは知っている間柄だ」
先客が立ち去るとしばらく時間がたってから、ビジネスマンは缶コーヒーを持ち立ち去った。
『バックヤード0からグランド1、グランド3へ、状況終了。車で落ち合おう』
『『了解』』
ビジネスマンが立ち去った数分後、公園の出入口近くの芝生で昼寝をしていた若者と、別のベンチで休憩をしていた作業員風の男が公園を出て行った。
ビジネススーツから制服に着替えたヴィルヘルムが自分の私有車に戻ると部下達はすでに戻ってきていた。
「お疲れ様です、副長」
「うっす!」
「ああ、監視任務、御苦労」
運転席に座り礼儀正しく挨拶してきた男は、見るからに逞しく歴戦の兵士のように見えた。見た目道理の古兵で魔力はさほど高くはないが短い詠唱で魔力を高周波等様々な物理エネルギーに変換することを得意としており、新兵からの信頼も厚い男だ。対して、助手席に座っている若い男はあまり品のいい風貌ではない、さすがにヴィルヘルムの前では身なりを正してはいたが、服務規則違反もなんのその普段は制服を着崩し自称俺流を語っている。中距離からの機動射撃を得意とするガードウイングで、先程からハンドルを握りたくてウズウズしているらしい。
「おやっさん、運転、疲れてません?」
「走り屋に変わるほど疲れていないさ」
ヴィルヘルムは車に乗り込みながら、缶コーヒーを取りだすと、貼り付けられていた記録媒体を剥がす。懐から出した懐中時計型のデバイスに読み込ませるとあるリストが表示された。
「ほお、面白い。フロイライン、リストを六課に」
懐中時計型のデバイスが女性型の無機質な合成音で返事をする。
「車を出してくれ」
「行先はどちらで?」
「次元世界で最も働き者の公務員に会いに行く」
「は?」
「国税局だ」
ヴィルヘルムから六課に送られてきたリストは、地上本部が使っているタレこみ屋(情報提供者又は仲介人)のリストだった。罪を犯した者の中には、管理局活動への参加や情報提供者になることで、刑の軽減などの司法取引をする者がいる、そういった者のリスト。はやても数人の名前は知っていたし、ロストロギア密売の情報を受けたこともある。
早速、今まで絞り込んでいた企業と通信を取った記録がないか、検索を支持する。その結果を待ちながら想像する。
もし、10年前、わたしと家族達が深くかかわった闇の書事件。解決に導いたのがアースラチームではなかったら? わたしと家族達は未だにこの類のリストに載っていまより危うい立場で働いている……。もしそうなら、わたしは今と同じ気持ちで管理局を見ることができただろうか? ぼんやりとも想像できないのはわたしが周りの人に恵まれているからなのだろうか?
「はやて?」
「へ、な、なんや、フェイトちゃん」
自分の友人の声で、想像迷路から抜け出す。フェイトは怪訝な顔をしていたが、捜査方針でも考えていたのだろうと考えたらしい。すぐに報告に入った。
「検索結果がでたよ。それと副長から通信」
「うん、繋いで」
空間モニターに映ったヴィルヘルムはすぐに口を開きかけたが、はやての顔を見ると思うところがあったのか黙った。はやてはなるべく明るい声を出すように努めた。
「んん~、どうしたん。わたしの顔に見とれてたん?」
「あなたが黙っているのなら、それも悪くはありません」
「ほほう」
皮肉が返ってきたので、怒った顔することができた。副長は口が過ぎたと謝罪してから、国税庁の協力を取りつけたことを報告してきた。はやてが企業とのつながりの確認を取れた名前を伝えると、税金の支払記録から怪しい収入がないかなどを調べ始める。
(やっぱり、わたしは恵まれているんやな……)
お金に関する作業はヴィルヘルムにとって得意分野のようだ、幾つかの名前が浮かんでくる。
「あれ?」
「どうしたの、シャーリー」
「この所得税の入金記録ですけど、この人とこの人アクセスしている端末が同じなんです」
「ホントだ、会社も住所も違うのに」
通信ログを洗っていたシャーリーとフェイトが声を上げた。はやては端末の情報をヴィルヘルムに送ると同じ端末から支払われた税金がないか調べさせた。
「この端末の持ち主は随分羽振りがいいようです。名義は変わっていますが1年間に豪邸にマンション、高級車、大型クルーザー、宝石の購入の際、資産税を随分払っています。タレこみ屋の収入では無理な額です」
「シャーリー、一番新しい端末の使用記録を探して」
「もう、やっています……、ありました! 昨日その豪邸から!」
フェイトが豪邸の持ち主の名前で前科者リストを調べると、密売の容疑で逮捕歴が出てきた。これで参考人として身柄の確保ができる。
「この男の身柄を確保、自宅、クルーザー内はもちろん、勤め先のロッカーまですべて家宅捜索する。フェイト執務官は令状を!」
「わかった」
「副長、捜査班から一人回します。合流したのち勤め先に向かってや」
「了解」
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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何卒よろしくお願い申し上げます。