管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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70二つの一対一Ⅱ

 出力をあげたビット2機が、相手の誘導弾を引き連れ離れていく。続けてガンナーの魔力が上昇。相手の砲撃のタイミングを見計らって、さらにビットを散開させると、ガンナーの砲撃が弧を描いてビット達を追っていく。

 なのははガンナーの追尾から逃れようと、旋回能力いっぱいで防御機動を取った。が、振り切れない。ガンナーは交差角を合わせ、ぴたりと付いて来た。

 エクシードモードは出力と装甲に優れていたが、その分機動力を切り捨てた側面があるため、旋回能力においてはガンナーの方が上手のようだ。しかも、相手の誘導からのがれるために、なのは自身の出力を落とさなければならないため、速力任せに振り切るのも難しい。

 ガンナーが魔力を再チャージ。ガンナーの杖が、デコイ代わりのビットを失ったなのはに、狙いを定めようと動く。

 桜色の砲撃が二人の間に割り込んだ。誘導弾の追尾から逃れたビットが引き返して放ったものだ。

 ビーム・ディフェンス・ポジション、別名サッチ・ウィーブ。味方同士が互いに内側に旋回し、攻撃を受けている味方の後方に迫る敵を、もう一人の味方が正面から攻撃する航空戦法だ。教導隊でも教えられるこの戦法は、本来、相互連携を基本とした集団戦闘に用いられる囮戦術であった。が、高い空間認識能力を持ち、複数のビットを自在に操ることが出来るなのはにとって、一対一の状況でもキルレシオを飛躍的に向上させることができる必勝パターンになっていた。

 ガンナーは砲撃の直前、ビットに気が付き、攻撃を取り止めて際どいところで魔力砲撃を回避する。しかし、魔力に吸引力を付与していたため、なのはの砲撃にガンナーの体が引き寄せられてしまい思うような機動がとれていない。

 砲撃したビットと組になっていたもう1機から、追撃の砲撃。

 これは避けられない。なのはがそう思った瞬間、ガンナーがスキルを反発力に切り替え、一撃目の砲撃との反発力を利用して第二撃を回避した。まるでプロレスラーがロープの反動を利用するかのような機動に、流石の教導隊員も驚いた。

「そんな機動までとれるの!」

 なのはが動揺した隙をつき、ガンナーが再びスキルを吸引力に変える。

 目標は砲撃したビット。先に邪魔になるビットを撃ち落とすことにしたようだ。なのははガンナーが放った砲撃を、もう1組のビット達を使って誤誘導させた。

 ガンナーの砲撃が止む瞬間を狙って、なのはは無数の誘導弾を放った。誘導弾は整列したかのように一直線にならび突き進む。一点を狙ったピンポイント攻撃。これをくらえば高ランク魔導師といえどもただではすまない。

 だが、直撃するかに見えた誘導弾達は、ガンナーの体を掠めバリアジャケットを浅く裂くに留まった。

 被弾する可能性の高い誘導弾を弾くだけのリソースはきっちりと確保している。狂人のような言動とは、裏腹に戦術的なミスをしないアンバランスさがガンナーには見える。

 ガンナーが愉悦を覚えたように笑った。

「そうだ、タカマチ。もっと来てくれ。もっとだ…、もっと!もっとだ!!」

 裏返った声で叫びながらガンナーが迫ってくる。

 振り切れないことは分かっていたが、なのはは相手が狙いをつけづらいように、蛇行飛行に上下方向の動きを加えた、ローリング・シザーズ機動に持ち込んだ。互いにバレルロールを行い、相手をオーバーシュートさせようとせめぎ合う。

『スキを狙って、攻撃を撃ち込んでいるのに防がれちゃう。きっと反応速度の差なんだ。攻撃が止むのを待っていたんじゃ、間に合わない』

《はい、想定よりも、スキルの発動速度を上方修正します》

 レイジングハートが答えた。状況がより厳しくなっているというのに、彼女の声には気力が漲ってきているように感じられる。

『それでも同じ魔導師なんだ。もっと速く。もっとギリギリのところで撃ち抜くんだ』

《ええ、やれます。マスターなら》

 二人が決意を固めていると、ガンナーが魔力弾を放ってきた。今度は複数の弾を同時に当てるのではなく、小さな弾を連射することで、こちらの魔力を削り取るつもりらしい。ビットを使った囮は、同時に二組が限度。この軽いが手数の多い攻撃に使ってしまうと、より重い砲撃を食らってしまう。

《チャンスです。マスター》

『うん、わたしも痛いの我慢するから、レイジングハートもつき合って…』

《もちろんです》

 なのはは魔力弾をあえて魔力を防御の強化に回さずに受けた。エクシードの重装甲は初めのうち魔力弾をはじき返していたが、フィールドの魔力が削られ距離が詰まると、数発がフィールドを内に飛び込み、バリアジャケットを引き裂いた。レイジングハートが必死になって、フィールドの調整とジャケットの修復を行うが、なのはの柔肌にも血が流れる。

 ガツンと杖を握る手に衝撃。調整状況を知らせるレイジングハートの声が一瞬止まった。彼女も被弾したようだ。

 ガンナーとの距離がさらに詰まる。

 嵐のような連射にも歯を食いしばり、ビットを引き連れたままローリング・シザーズ機動を維持していたなのはがビットを全機散開させた。放たれていた魔力弾がビットに引かれて離れていく。

 

 

 

「ヒァハァッッッ!!!」

 奇声をあげながら、ガンナーはタカマチに迫っていた。被弾したタカマチは耐えかねたようにビットを散開させた。

 砲撃を叩き込む絶好のチャンスだ。狙いを定めようと相手を見ると、ガンナーの前を飛ぶタカマチのデバイスから、キラキラと光を反射させながら何かが剥離していく。

(デバイスの破片か?)

 タカマチのデバイスが被弾したのは確認している。ガンナーがそう考えたのも無理もないことだった。だが、それが勘違いだったことはすぐ知れた。剥離した物体の一つが、偶然ガンナーのフィールドに衝突し目の前を通り過ぎる。

 ガンナーの前でキラリと光ったカートリッジの薬莢はアッと言う間もなく視界から消え、入れ替わるように高町なのはが現れた。

(_ッ!)

 デバイスを構え直す暇もなかった。タカマチとそのデバイスが唱える。

《ブラスター2》

「ディバインバスター!!!」

 視界一杯に広がる桜色の魔力光。吹き飛ばされながらも、ガンナーの意識はまだあった。反発力を発動させると、竜巻から弾き出された木っ端の如く魔力の激流から放り出された。

 そこに待ちかまえていたかのようなビットからの砲撃をくらう。反発力が作動しているため直撃ではなかったが、そのかわり、交通事故を遥かに超えるGが、ガンナーの体を徹底的に叩きのめす。その数5回。

 5回目の衝撃は真上から・・・。

 頭上から打ち下ろされた砲撃に吹き飛ばされ、地面に激突した衝撃だった。

 

 

 

 傷の痛みに熱された体を冷まそうと、なのはは息を吐いた。

「うまくいったね。レイジングハート」

『お見事です。横転コルク抜き、実戦における初成功です』

 なのはが行ったのは、バレルロールが上方に到達した瞬間に空力を変化させるフィールド調整だ。

 フィールドの空気抵抗を変化させることにより発生する横滑りは、本来のバレルロールの機動より体を速く回転させる。

 このとき生まれた時間差で相手をオーバーシュートさせる高等飛行テクニック。

 横転コルク抜き。

 あれだけ接近した状態でやられたガンナーにとっては、なのはが瞬間移動したように見えたかも知れない。

 交差の瞬間に一撃を叩き込むため、防御に魔力を使わず、温存していたことも功を奏した。

「…んッ!」

 気を抜いた途端全身に痛みが走った。ガンナーに受けた傷だけでなく、内側からの痛みもある。エイブラハムの治療で改善されたといっても、治りかけの体でブラスター2は無理があったようだ。

 大出力魔力運用によって傷付いた体の痛みがぶり返してきた。

《大丈夫ですか?マスター》

「うん、大丈夫だよ、レイジングハートは?」

《問題ありません》

 全然大丈夫では無かったが、心配してくれる愛機についそう答えてしまった。もっとも、聞き返すと答えたレイジングハートも自己修復の途中なのでお互い様だろう。

 こういうところが、一心同体ゆえに一緒になって無茶をする。と、ある執務官を心配させているのだが、性格というものはなかなか直らないものらしい。

(ごめんなさい。シャマル先生。なのはは、やっぱり悪い患者さんです)

 見上げると灰色がかった景色が、虫食いのようにもとの青空に戻っていく。

 地面に叩きつけられたガンナーには、もう、結界を維持するだけの力も無いようだ。自分でやっておいてなんだが、地面に出来たクレーターの中心で、踏みつぶされた蛙のようになっているガンナーを見ていると、だんだん心配になってきた。

「やりすきた?」

『いいんじゃないでしょうか』

 苦笑いしながら口にしたなのはに、しれっとした口調でレイジングハートが言った。

「だよね」

 それに合わせて、なのはもケロッとして答える。体だけでなく神経も頑丈な二人であった。

 ガンナーをバインドしようと地上に降りると、ガンナーが倒れたまま含み笑いをしていた。

「くくくく、強いな~。タカマチ。強いぜ」

 ガンナーのバリアジャケットはすでに機能を停止し、デバイスにも無数のヒビが入っている。このまま放置したら、デバイスは修復不可能なレベルで根幹部分の機能が失われるかも知れない。

 ガンナー自身もそうだ。魔力ダメージを受けた上に、強烈なGにもみくちゃにされ、内蔵にもダメージが蓄積されているはずだ。さらに近づいて気が付いたことだが、右足があらぬ方向に曲がっている。だというのに…。

「もっとだ。もっと、ヤろう…」

 ガンナーは立ち上がった。

 傷ついた杖で体を支え、実に幸せそうな表情をなのはに向けた。それを見たなのはの表情が曇る。

(この人はこんなものにしか、喜びを感じることが出来ないの?)

 なのはには分からない。

 PT事件の時、闇の書事件の時も、JS事件の時だって、強敵を打ち倒したことや、事件を解決できたことなんかより、そこにあった出会いや、生徒達の成長の方がうれしかったのに…。

 どうして、この人はこれを選んでしまったの?わからないよ…。

 それでもなのはは口を開いた。

「あなた、戦うのが好きなんだね…。でも、もう終わり」

「もっとだ…。もっと、もっと!終わっちゃ…」

 風を切る音と共に飛来した青と緑の輝きが、ガンナーを横殴りにした。さらに立て続けに数発の魔力弾が飛来する。なのはの魔力に波長を合わせていたガンナーの反発力は作用せず、直撃をくらったガンナーは今度こそ倒れ伏し動かなくなった。

 そのまま、ガンナーに二重のバインドが掛けられる。

「大丈夫ですか?なのはさん」

「ええ」

 結界が解かれたことで駆けつけた護衛のキャバリエとクロムウェルに答える。2人もバリアジャケットが損傷していた。またフード付きが現れたようだ。

 護衛達に振り向いた拍子に、髪のツインテールの一房がほどけていることに気がついた。被弾していたらしい。

 バランスを取るためもう片方のリボンも解く。

「家に向かいます」

「了解」

 なのはは最後に一度、ガンナーに振り向いてから、高町家へ急いだ。

 

 

 

 

 

 魔弾となって打ち出される複数の剣を、エイブラハムは軽いステップで避ける。<自称>聖王は打ち出される剣を完全に牽制用にするつもりのようだ。無理に狙いを付けようとせず、こちらの動きを制限するための弾幕代わりにバラ撒いてくる。

 <自称>聖王はこちらが避けたところを狙って猛然と踏み込んでくる。それに合わせてエイブラハムがカードを投げつける。炎熱魔法が起動。

 しかし、三度目となると相手も読んでいる。手早く耐火バリアを張った<自称>聖王が剣をエイブラハムに向ける。

 刃が打ち出されるより早く、エイブラハムが発砲した。魔力弾が<自称>聖王の腕に当たり、僅かに狙いを狂わせたが<自称>聖王は構わず刃を一本射出してきた。

 高速で打ち出された刃は、エイブラハムを掠めただけだったが、剣と刃で左右を挟まれる形となったエイブラハムの足が止まった。

 <自称>聖王が延びた長剣に魔力をたっぷりと乗せ振りかざした。これだけの魔力がこもった一撃なら、エイブラハムの防御やナイフなど、もろとも叩き切られてしまう。

「取りましたわ!」

 ギギン、と、必勝の一撃が金属を響かせながら火花をあげたが、エイブラハムの体には届かなかった。

 いつぞや恭也がフード付きにやったのと同じ要領だ。小さな力しかなくとも、タイミングさえ間違わなければ、高ランク魔導師の一撃を受け流すことは可能だ。

 だが、恭也のよりうまくいかなかった。強烈な負荷がナイフに掛り、部品同士がガタつき始めた。

 しかし、<自称>聖王は受けながされるとは思っていなかった。驚きと攻撃を受け流された勢いが<自称>聖王に空足を踏ませた。

 すかさず、バランスを崩した<自称>聖王の頭部に銃を向け引き金を絞る。が、魔力弾はボクサーのスウェービングのように、首を振った<自称>聖王にかわされた。

(さすがに警戒しているか…)

 銃撃をかわした<自称>聖王が犬を追い払うかのように剣を薙払う。これが普通の長剣だったのならば、エイブラハムにとっては単なる縄跳びにしかならなかったのだが、おそらく飛び上がったところに刃を射出するのが<自称>聖王の狙いだろう。と、エイブラハムは考えた。

 ジャンプと同時に射撃。さきほどと同じ要領で刃の狙いを反らしてやる。さらにカードを一枚投擲。耐火バリアに阻まれダメージは与えられないだろうが、着地のスキを埋める目隠しに利用する。着地の瞬間すぐさま横に飛ぶと着地地点あたりに刃と剣が突き刺さった。

 火炎が消え、<自称>聖王が姿を現す。すでにカートリッジをロードしたようだ。剣を含めた刃がすべて揃っている。

『エイブラハム、待たせたな!準備できたぞ!』

『揃ったか、じゃあ、そいつの中から…』

『もう、終わっている。送信するぞ、受け取れ!!』

『いいね、さすがは、スクライア』

『データを見つけだすのは、得意分野だ』

 エイブラハムは軽口を叩きながら、パーシングが送信してきたプログラムを確認すると、出来栄えに思わずニヤリと笑った。

「なにが可笑しい!」

 その笑みをどう受け取ったのか、<自称>聖王が怒鳴声と共に剣を放ってきた。

 間合いが遠い。難なく回避する。

(待ってろよ、ヴィヴィオ!)

 銃をフォルスターに戻し、マニピュレータにはカードを1枚づつ、細く息を吸い。

 走る。

 同時にエイブラハムの世界から音と色が消えた。引き延ばされた時間の中、<自称>聖王が剣を向けようとするのがはっきりと見える。

(いまだ!)

 エイブラハムは攪乱信号を維持しつつ、相手のデバイスに刃の射出命令を送りつけた。

 射出信号はホワイトリストに含まれていたため、デバイスは正規のものと誤認した。デバイスが刃を全弾射出させる。狙いの甘い刃がエイブラハムを掠める。

 <自称>聖王が迎え撃とうと身構えたところに、マニピュレータの一本でカードを投げつける。

 カードは炎熱魔法。パターン化された攻撃に<自称>聖王が素早く対処した。破裂する火炎を耐火バリアが受け止めた瞬間、火炎が電撃に変わる。エイブラハムが発動中のプログラムを書き換え、魔力変換『炎』を、『電』に再変換したのだ。

「_ッ!」

 

 耐火バリアをすり抜けた電撃が<自称>聖王を打つ。再変換された電撃は炎よりも減衰していたが、虚をつかれた<自称>聖王の動きが止まる。

 間合いが詰まる。後、数歩。

 <自称>聖王の周囲に剣が現れる。もし、エイブラハムの聴覚が働いていたら「バタイユ・デ・ロンスヴォー」と、いう<自称>聖王の呪文が聞こえていたかもしれない。

 現れた剣の数は先ほどの数倍。

(なっ!)

 剣がファランクス部隊を思わせるような密度で生成された。

 動きを止められれば、<自称>聖王が射撃か剣で牽制してくることは予想していたが、その数が増えることは予想していなかった。

 大きくかわして、仕切り直すべきか?いや、この数ではかわし切れない。

(退くな!攻めろ!)

 感覚をより鋭く。集中力を高める。イメージするのは美由希と対峙した時だ。あの時は自分より数段上の使い手が持つ気配に当てられ、より感覚を深く潜らせることができた。

 あの時を思い出せ!

 エイブラハムは自分自身の体と、世界の動きがより減速して行くのを感じた。

 減速した世界で、<自称>聖王の剣が射出される。手近な数本の剣の切っ先の狙いは狂っている。撹乱信号の影響は出ている。

 影響のなかった剣のうち、真っ先に飛んできた一本をナイフで打ち払おうとする。灰色の中では空気抵抗がまるで水あめのように重く感じる。それでも、何とか剣の弾道にナイフを振るう。ナイフと剣が火花を上げた。

 つづく剣はほぼ同時に放たれた三連射。一本に左手を伸ばし、残る一本にはマニピュレータが保持していたカードで、小型ながらも強力なシールドを張ることにする。

 迎撃に耐えきれずに折れたナイフを捨て、最後の1本になった剣に右手を伸ばす。

 剣がシールドに弾かれ甲高い音を立てた時、エイブラハムの手には2本の剣が握られていた。

(左小指の腱が、切れた)

 痛覚から機械的にそう判断する。感覚が深く潜り過ぎていて、痛覚はただの信号になっていた。かまわず、接敵する。

 <自称>聖王も黙ってはいない。手にしたデバイスを袈裟がけに振り下ろしてくる。左の剣で打ち払う。

 金属音と衝撃。

 小指の支えがない左手から剣がすっぽ抜ける。が、<自称>聖王の構えも崩れた。

 エイブラハムは右手の剣に込められた付与魔力の設定を、甲冑破壊に最適な数値に書き換えた。そのまま、膂力を総動員して<自称>聖王の胸部装甲に剣を叩き付けた。

(フィールド・ブレイク)

 装甲が砕け、破片が舞った。

 <自称>聖王が剣を引きもどし反撃してくる前に、エイブラハムはインナーが露出した胴に向かって組みついた。そのまま、股の間に強引に足を差し入れ押し倒す。

 エイブラハムは素早く、<自称>聖王に馬乗りになると、『リンカーコア捕獲』を付与させた右腕で突く。

「ああ…」

 いつの間にか、聴覚が働いていた。リンカーコアを掴まれた<自称>聖王が小さく悲鳴をあげ抵抗してくる。エイブラハムは、剣を振り回そうとした<自称>聖王の右手を掴んで、捻り上げようとしたが小指が動かないせいでうまくいかない。体重を掛けて地面に押さえつけておくのが精一杯だった。だが、十分だ。<自称>聖王はリンカーコアを握られているため、まともに魔力が使えていない。腕力ならこちらの勝ちだ。

 なりふりかまっていられなくなったのか、<自称>聖王が口を開いた。

「放しなさい!イデア・グレンヌを抜いたりしたら、この子の記憶は失われるのよ!!」

「人質を取ったつもりか!馬脚を出したな、カルト野郎!」

 <自称>聖王がことさら剣を振り回そうしたことに対し、エイブラハムが対抗して体重を前に掛けた。

 直後、

 ガッ!

 目の前が真っ白になる。体重を掛けるため顔を下げたことで殴られたらしい。相手の右手とリンカーコアは放さなかったが、この隙に、転がるように体勢の上下も入れ替えられた。

 片腕でしか抵抗できないエイブラハムの首に、体重を乗せられた剣が大型裁断機のようにじりじりと迫った。




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