「あぁっ…!」
コメットが腹のど真ん中に魔力弾を食らい、悲鳴をあげながらひっくり返った。バリアジャケットは魔力弾の貫通は防いだが、衝撃まではストップしきれなかったようだ。
コメットの穴を埋めるように、L3Sが機銃を連射する。フード付きは素早く道場やエイブラハム達が戦っている結界の影に隠れた。
L3Sの弾幕に、マークも加わりフード付き達の頭を抑えつける。
「美由希さん!動いて!」
「二人とも、こっち」
ハラオウン家の子供達を庇いながら、擱座したL3Sの影へと移動する。子供達はたいしたものだ。カレルはリエラの手を握り締め、勇気づけようとしており、リエラも泣き出さずに堪えている。
「OK!」
コメットが体勢を立て直して声をあげると、L3Sは美由紀達を庇う位置取りに移動する。
(ほぼ、互角?いや、私達がいるぶんだけ不利)
美由紀はそう判断した。もちろん、美由紀には魔法の知識は殆ど無かったが、戦いの流れそのものならわかる。護衛達の方が戦いのリズムを取りかねているように感じる。
保護対象を守ることを念頭に置いているため、思い切った行動が取れていないのだろう。
(ボディーガードの仕事なら、即離脱がセオリーなんだけど)
美由希は子供たちを抱えて逃げることも考えたが、結界とよばれる魔法の所為でそれも出来そうにない。
戦闘に参加しようにも、手持ちで武器になりそうなものがシャーペン1本では、いくら美由希でも危険過ぎた。
(なにか武器になりそうな物は?)
視線を彷徨わせると、それはすぐ近くにあった。擱座したL3Sに取りつけられているコンテナ部分が破損して中身が覗いている。
中身は小銃とそれに取り着けるための銃剣のようだ。
美由紀はコンテナの中から、なるべく静かに銃剣を引き出す。鞘からぬくと、真黒に塗られた刀身が鈍く光る。銃剣の方は刃渡りが40cm近くある大型。
これなら使える。
美由紀達、御神の剣士達が使っているのは、60cmほどの小太刀と呼ばれる日本刀で銃剣は20cmほど短いのだが、間合いが短い分はその分踏み込めばいい。
子供たちに体を低くするように言いつけて、穿いていたスカートにスリットをいれるように裂く。
御神流 『心』
耳をそばだてるが、L3Sや護衛達の攻撃音が邪魔をして敵の位置がイメージしにくい。もっと集中しなければならない。
間近で戦闘が起きているのに目を閉じることを、美由紀は一瞬ためらったが、すぐに目を瞑ると更に心静かに集中する。
結界の影に1人、道場の裏に2人。その内二人が散発的に遠距離からの攻撃を繰り返している。
味方の方はマークがバリアを張り、コメットとL3Sが応射しているようだが、決め手に欠いている。
本来のL3Sは、もう少し善戦できる能力をもっていたが、強固な結界を維持する為に魔力リソースの大半を使っており、火力に回すだけの魔力が残っていなかった。
不意に、美由紀の『心』が敵の様子を鮮明に捉えた。不思議に思って目をあけると、『心』の邪魔をしていたL3Sの攻撃、機銃の射撃が止んでいた。
「触媒(たま)切れね…」
コメットが小さな声で呟き、L3Sの攻撃がやんだ分だけ手数を増やした。
しかし、L3Sの触媒(たま)切れに気が付いたのは味方だけではない。道場裏に隠れていた一人が密かに、屋根の上に上がり、棟の反対側で身を低くしている。
一気に接近してくる気だ。護衛達は他のフード付きの頭を押さえるのに手一杯で気が付いていない。
(味方に警告する?…いや!)
屋根の上のフード付きが跳躍した。
不意を突かれたマークとコメットの対応が遅れる。頭上という死角を取ったフード付きがヒッターを振り上げながら、勝利を確信して口端を上げる。
その笑みがヒッターを振り下ろす間もなく、苦痛に歪んだ。
小太刀二刀御神流裏 奥技之参 『射抜』
美由紀は擱座したL3Sの脇から飛び出し、砲弾の様な勢いで相手に銃剣を突きたてた。が、慣れない武器での技は完璧とは言い難かった。
(ダメ!浅い!)
銃剣はバリアジャケットを貫き、敵に深手を負わせたが、まだ意識を絶てていない。美由紀は空中で、相手に組みつくと体の捻り、主導権を持ったまま落下した。
御神流 『萌木割り』
「ギャッ!」
地面にぶつかる衝撃とともに気味の悪い音と悲鳴が上がり、ヒッターを持つ敵の腕の関節が破壊された。それでも、美由紀は動きを止めず、引き抜いた銃剣で今度は膝を破壊する。
「___ッ!」
悲鳴すら上げずに、フード付きはのた打ち回る。
普通の人間ならばこれで戦闘不能だったが、魔導師となると油断はできないと判断して、美由紀はその場から飛びすさった。
「えっ!」
誰が声を出したのか。
魔導師が魔力を一切持たない女性に、白兵戦で敗れる。管理世界の常識ではあり得ない自体に、その場にいた魔導師達全員が同時に凍り付く。
しかし、立ち直るのは窮地を救われた護衛達の方が若干早かった。
「…あ、今!」
「おう!」
マークとコメットが同時に放ったスタンバレットは、無防備になったフード付き達を捕らえた。
「ふー」
『心』で相手から抵抗する気配が消えたことを確認し、美由紀が一息付いたところで、マークが叫んだ。
「美由紀さん!離れて!」
「…!」
マークの声と同時に魔法の発動音を捕らえた美由紀が身構えた。が、途端片足が固定されたように動かなくなる。見ると光の輪が足首をしっかりと固定していた。
バインドと呼ばれる束縛魔法だ。
[神罰をくれてやる…]
美由紀に腹を突かれたフード付きが、知らない言葉で呪いを吐きながら、動く手足だけで飛びかかってきた。
足を封じられたとはいえ、傷ついた相手の動きは単調で余裕で対処できる。しかし、行動をとる間もなく、大きな影が割って入り、フード付きを蹴り飛ばした。フード付きはワンパクな子供に蹴られたボールのように、壁に叩きつけられ崩れ落ちる。
フード付きを蹴り飛ばしたL3Sが、美由紀に覆いかぶさるようにかがみ込むと、視界が赤く染まる。見上げるほどの火柱が、フード付きの体から立ち上っていた。一泊遅れてマーク達が倒したフード付き達の体からも火柱が上がる。
「…自爆」
炎の熱はL3Sの体のお陰で殆ど遮られたが、あのまま対処していたら巻き込まれていたかも知れない。
「ありがとう、助かっちゃった」
美由紀は危ういところで、助けてくれたL3Sの装甲をポンと叩いて礼を言った。
するとL3Sは首を巡らせ、お辞儀のようなジェスチャーをした。意外と人なつこい仕草をする。
そう思いながら火柱が上がった辺りをみると、フード付き達は地面や壁に黒い影を残すのみとなっていた。
「戦うのって…好きになれないな…」
美由紀は自分にしか聞こえない小さな声で呟くと、数秒目を閉じ緊張の糸を切らない程度に、昂揚を押さえた。
(とりあえず子供たちに人死にを見せずにすんだね)
そう考えることにして、出来るだけ普段通りの声を出すよう意識しながら、子供たちに声を掛けた。
「カレル、リエラ、もう大丈夫だよ」
美由紀が声に、カレルが擱座したL3Sから頭を覗かせ、周りを確かめると、リエラに何かを言ったらしい。
L3Sの裏からリエラが飛び出した。リエラは美由紀の姿を確認すると、一目散に駆け寄ってきた。
「美由紀おねーさん!」
「リエラ、よしよし」
リエラにガッシリと抱きつかれ、よろめいた美由紀だったが、やさしくリエラの頭を撫でる。
やはり怖かったのだろう。カレルの方はどうだろうと見ると、美由紀から数歩離れた所で止まり唇を噛みしめている。
美由紀はカレルも怖かったのだろうと思い、手招きをしたが、カレルは唇を尖らせ首を左右に振った。
恥ずかしいのか、片意地を張っているのか?最初はそう思った美由紀だったが、カレルの表情に見覚えがあることに気が付いた。
あれはそう、まだ美由紀が幼かった頃、大けがをした父を見舞いに行ったときに、恭也が見せた表情だ。なにもできない自分自身に対して、怒りを感じている時の顔だ。
そのことを思い出して、美由紀は「この子は将来大物になるぞ」と、思った。
この表情をしたあと、恭也は剣の訓練や家の手伝いも真摯に取り組み急成長して行った。きっと、カレルもこの悔しさをバネに成長してくれるのではないだろうか?
美由紀がカレルに幼かった頃の恭也の姿を重ね、頼もしさを感じていると、マークとコメットが苦笑しながら近寄ってきた。
「助かりました。美由紀さん、あなたにかかったら魔導師も形無しだ」
「ええ、ありがとうございます」
二人は助太刀に対して礼を言いつつ、美由紀達を背後に誘導し、L3Sとの間に割ってはいる。
「確保する」
「兵装封印!」
マーク達はそういってL3Sの結界維持に必要ない機銃などの武装にリング状のバインドを掛けていく。L3Sも特に抵抗するように命令されていないのか、縄を掛けられ梱包された彫像のようになっていった。
その姿を見たカレルが不満そうな顔をしたが、二人の魔導師は気が付かないフリをして、それ以上近づくことを許さなかった。
単純に自分に味方してくれたから良い者と考える子供と違い、二人はエイブラハムが管理局と名乗ったからといって、所属不明の相手が使う兵器を無条件で信頼できないのだろう。
「はい、二人とも動いている車には近づいちゃダメって、お母さんに言われているでしょう」
「ええ~、ロボットだよ」
「大きなロボットも同じです」
護衛二人の心情を察した美由紀が、護衛達の味方をして、子供達にL3Sから離れるように促すと二人はほっとしたようだ。
護衛達は眼だけで礼を言うと、結界とL3Sから注意を離さないようにしながら、通信を試みたようだ。空間ウインドウが開き、ノイズ混じりの画面に妹の顔が映った。
『こちら、1等空尉 高町なのは。マークさん、コメットさん、聞こえますか?』
「なのは!」
妹の姿と声に思わず、マークを押しのけ空間ウインドウの前にたってしまった。
画面の向こうでなのはが突然変わった通信相手に、戸惑ったようだがすぐに気を取り直して聞いてきた。
『おねえちゃん?今そっちに向かっているんだけど、結界の中はどうなってるの?』
「ええっと、とりあえずフードを被った人たちを3人やっつけて…」
聞かれた美由紀が答えようとしたが魔法の知識が乏しいため、どう説明したらいいか分からず言葉が止まってしまった。
「変わります、美由紀さん」
横からコメットが助け船を出してくれた。彼女は淡々とヴィヴィオが大人の姿に変身し、エイブラハムと戦っていること、その様子が2重に張られた結界の為に分からないことを報告していく。
デバイスによるデータ通信も行われ、口頭より遥かに多くの情報を交換していく。
「結界内に入ります」
それを確認したなのはが宣言すると、大気が震えた。
見上げると、轟音を立てて灰色の景色に穴が空き、青空が見える。その穴からなのはと空を飛べる護衛の魔導師が飛び込んでくる。
なのは達はL3Sの1機が活動しているのを認めると、デバイスを向けないまでも警戒しながら降りてきた。
「おねぇちゃん、大丈夫?」
「なのは!それはこっちの台詞!」
直に妹の姿を見た美由紀が声をあげた。
先ほど空間モニターに映った姿は不鮮明だったため気が付かなかったが、なのはのバリアジャケットはあちらこちらが裂けており、覗いた素肌からは血が滲んでいる。
「大丈夫、かすり傷だから」
「だからって…」
美由紀は言いかけて途中でやめた。今言っても、どうにもならないことだと知っているからだ。
なのはは自分の道を自分で選んでいる。心配はしても、信じて待っていることにしたんだ。と、自分に言い聞かせる。
そうこうしているうちに、なのは達は内側に張られた結界に入ることに決めたらしい。結界とそれを維持しているL3Sを交互に見比べる。結界を破るかL3Sを破壊するか考えているのだろう。美由紀にもそれが分かった。
《そいつの耐久試験は終わっている。撃たないでやってくれ高町1尉》
L3Sから響いた声に、魔導師達が身構える。だが、実際に変化があったのはL3Sが維持していた結界の方だった。結界表面が揺らいだかと思ったら。空気が抜けた風船のように萎んで、あっけなく消滅した。
結界の消滅跡に、エイブラハムとヴィヴィオが現れる。エイブラハムは地面に寝そべった姿勢で、右手に球体状のイデア・グレンヌ、左手には剣を持ち、腹の上に意識のないヴィヴィオを乗せている。
「…アビーくん?」
「…そちらに危害を加える理由も意図もないよ、高町1尉」
なのははエイブラハムの右目の周囲から頬に掛けての傷跡に驚いたようで、確認するように名前を呼んだ。
エイブラハムはなのはの様子に肩を竦めながら答えた。
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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何卒よろしくお願い申し上げます。