「ここから一番近いポートは!」
「まずいぞ、よそによっている時間はない!」
「落ち着け、緊急マニュアルにしたがって、民間人を優先だ」
「それだと、お前達が!」
「覚悟はできているわ…、急いで」
「時間がない、間に合うかどうか」
護衛達が焦燥を隠せない声で、言い合っている。
『エイミィ!今からそっち行くよ!』
「だめ。すずかちゃんとアリサちゃんを連れて月村の家に向かって。もしかしたら間に合うかも!」
『何言ってるんだい!カレルとリエラにはまだお母さんが必要なんだよ!』
アリサ達の護衛のため病院に待機していたアルフが、状況を聞き付けエイミィを怒鳴りつけている。
(どうしよう…。どうしよう…、時間が足りない。間に合わない)
言葉が飛び交うが、状況を打破する意見は出てこないようだ。
空間ウインドウの向こうではエイミィは盗聴だけでなく、ありとあらゆる方法で状況を把握してくれた。しかし、残念なことに、そのすべての情報が絶望的な状況であることを補強してしまっている。
転送が使えない以上、航空移動での避難になるが、人を抱えたまま飛ぶとなると、最も機動力のある空戦魔導師のなのはでもかなり速度が落ちる。ベルソーが攻撃位置に着くまでに、転送ポートに移動、ポートの起動、転送を行えるか怪しい。
しかも転送は同時に2~3人が限度だ。転送だけでも時間が掛ってしまう。せめて召喚魔導師がいれば複数同時転送で時間を短縮できるが、あいにく、護衛達にも召喚術が使えるものはいないようだ。
(だめ、たとえアビー君とL3Sが協力してくれたとしても、今、ここにいる人の中から何人か置き去りにしても、間に合わない)
いくら考えても、魔法に出会ってから培ってきた経験がそう決断を下す。
今すぐ、ヴィヴィオだけ助ける方法はないか。と、考えている自分を発見して。なのはは自分のエゴイズムにゾッとする。なんとか気持ちを押しとどめて、せめて数分だけでも攻撃を遅らせることが出来ないか。と、考え直す。
それが出来れば少なくとも数人は確実に助かる。
(数分遅らせる…、あ…)
それを思いついたときなのはの鼓動が激しく打たれた。
(ある。一つだけ…、少なくとも数分攻撃を引き延ばせる…、でも…)
それを実行したらもうみんなには会えない。それだけは確実だった。
全身から冷たい汗が噴き出した。体がふるえだし歯の根があわない。
今までたくさんの思い出をくれた家族と友人、そして、これからたくさん思い出を作っていこうと約束した娘を残していかなければならないと思うと、今にも足から力が抜けて座り込んでしまいそうだった。
「ママ、大丈夫?怪我が痛いの?」
ハッとして振り返ると、ヴィヴィオが心配そうにこちらを見つめていた。
エイミィの報告から数十秒。それほど考え込んでいたわけではなかったが、どんどん悪くなって行くなのはの顔色を心配したようだ。
そんな愛しい娘の前にかがみ込み、目線を合わせると、なのははヴィヴィオの顔を両手で包み込む。ヴィヴィオの子供らしい弾力のある頬の感触を両手に感じる。
しかし、頬に埃と煤を付けてしまった。戦っているうちに、いつの間にか手が汚れてしまっていたようだ。
ああ、最後なのに、こんな恰好で…。
「ヴィヴィオ、聞いて。ママは行かなきゃいけないところがあるの…」
「お仕事?」
ヴィヴィオが不安そうにこちらを見返した。この表情は見覚えがある。JS事件の際、公開意見陳述会の警備のため、出発するなのはをヴィヴィオが見送りに来た時の表情だ。ヴィヴィオが言葉に出来ない漠然とした不安を抱えている。あの時の顔だ。
なのははヴィヴィオの不安を取り除こうと、努めて笑顔で答えるように苦労しながら娘に答えた。
「うん、でも、すぐに帰ってくるから。キャバリエさん達とアリサちゃんのコテージに行って」
「絶対?」
「絶対に、絶対」
笑顔で言ったつもりだったが、ヴィヴィオの表情の憂いは増していく。
最後に笑顔が見たかった…。なのはママ。と呼んで、微笑んでほしい。そう思ってしまった。
もう駄目だ。もう、作り笑いもできない。
なのははヴィヴィオから、逃げ出すように顔を背けエイブラハムを見た。エイブラハムもなにかできないか、考えているように俯いていた。
『アビー君、お願い。わたしが数分作るから、L3Sで誰かをポートまで運んであげて!』
念話でエイブラハムに語りかけると、エイブラハムがこちらを見た。
返事を待たずに護衛達にも、美由紀達を連れて逃げるように指示を出した。
最後にヴィヴィオに何か言おうとして止めた。きっとなにを言っても言い足りない。結局、ヴィヴィオに背を向けたまま、くだらない小言を口にする。
「ヴィヴィオ、フェイトママの言うことを聞いて、いい子にしなきゃダメだよ」
言った直後に、最大上昇能力で空に上がる。
ヴィヴィオからの返事を聞くのが怖かった。
データ通信以外の通信をすべてカット。ハラオウン家からのデータ通信からベルソーの予想射撃位置を割り出し、アルカンシェルの推定射線をロックオンする。
軌道を修正して、1分ほどで人工衛星の周回軌道に到達した。気温は氷点下以下、空気もほとんどない状況にフィールドの生命維持機能が最大稼働する。ここから更に上昇するには、大気中飛行用のプログラムでは飛べない。宇宙航行用のプログラムが必要になってくる。
姿勢を制御し、レイジングハートを構える。
「アルカンシェルは、着弾前に弾殻が破壊されると、通常の魔力爆発を起こし、消滅反応は起こらない」
教導隊の資料で読んだ記憶のある魔法論文の記述をあえて口にしてみる。
そう、なのははアルカンシェルを迎撃するつもりだった。
もちろんそれは銃で撃たれた弾丸を、同じ銃で撃ち落とすようなものだ。まして、相手が宇宙から撃ってくるなら、荒唐無稽な神話の話だった。が、不可能ではない。
圧倒的に有利な次元戦艦が、動かない地上に対して攻撃する為に回避行動を取りながら攻撃してくるとは思えない。最適な発射位置から攻撃してくると仮定するなら、アルカンシェルは今なのはのいる空間を通過して地表に降り注ぐ。ここで待ちかまえているならタイミング次第でアルカンシェルの弾頭を迎撃できる。
もっとも、暴発させるには魔力値にして500万以上の出力が必要になるため、なのはの高魔力をもってしても、かなりの至近距離で砲撃が必要になる。
つまり、成功したとしても大量の魔力を放出し無防備になったところで、艦砲クラスの魔力爆発に巻き込まれることになる。もちろん、その爆発には非殺傷の設定はない。
(きっと、一瞬で粉々にされて、痛いと思うこともないかな?)
なのははヴィヴィオ達と別れるのはあんなに恐ろしかったのに、自分の死には無頓着にそう考えている自分を奇妙に感じた。
ヴィヴィオ達の比重がそれほど大きくなっているのか?それとも自分の命は諦めてしまったのだろうか?それとも恐怖のあまり自分はおかしくなってしまっているのだろうか?
それは分からなかった。
アルカンシェルの発射まで数分、自問して結論を出す時間はなさそうだ。
それよりも最後の時間で愛機に、いままでの感謝と、こんなことに付き合わせてしまった謝罪をしようと、空を見上げながら語りかけた。
「わたしはレイジングハートに会えたおかげで、空を飛べた。レイジングハートのおかげで『自分はこれがやりたい!』って思えることを見つけられた。…本当にうれしかったんだ。いままで、ありがとうレイジングハート」
なのはの言葉にレイジングハートは答えなかった。なにかを考えているようにチカチカと明滅している。
レイジングハートも思うことがあるのだろう。なのはは気にせず続けた。
「ごめんね。レイジングハート。でも…」
なのはがレイジングハートを構え、砲撃の姿勢に入る。
「これが最後の全力全開!」
使用魔法はなのはの持つ最大火力の収束砲撃スターライトブレイカー。残りの数分間をチャージに使えば、魔力値500万に到達できる。
レイジングハートが答えた。
《いいえ、拒否します。マスター》
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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何卒よろしくお願い申し上げます。