管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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75機械仕掛けの神は「星光、あれ」と…

《わたし達の勝ちです》

 次の瞬間なのはは全身に圧力がかけられ、呼吸が困難になるほど息苦しさに襲われた。まるで水の中に飛び込んだかの様な感覚。

 視界はオーロラか、万華鏡の中にいるかの様に千変万化する光に包まれている。だが、なのはのバリアジャケットは何の反応もしていないし、痛みもない。

(魔力流だ)

 なのはは直感的に感じた。プログラムに制御されていない、意味を持たない魔力が宇宙から降り注いでいる。

 全身に感じる圧力や息苦しさは、魔力濃度が急激に上昇したことに着いていけない体が、誤って脳に伝えている錯覚だ。

 光の濁流は数秒間で拡散した。空を満たしていたオーロラが消え、高魔力濃度の息苦しさだけが残る。

「アルカンシェルは…」

 アルカンシェルの光を探すが見あたらない。魔力濃度が通常の数倍になっている大気で見上げる空は、いつもよりも揺らめいているように感じた。しかし、さきほどの明光は見あたらない。

「すごい、本当に防いじゃった…。発射までのわずかな時間で」

 素直な気持ちが、口に乗った。

 振り向くと、エイブラハムは未だに宇宙服を纏ったままだ。先ほどより幾分弱くなっているが、放熱も続いている。

「アビーくん…?」

 アルカンシェルの第一撃は防ぐことが出来た。幾ら次元艦とはいえ再チャージには十数分以上掛かるはずだ。エイブラハムの立場ではすぐさま撤収してしまえば十分に逃げられるはずだ。疑問に思ったなのはが声をかけた。

 エイブラハムは答えない。代わりにレイジングハートが答える。

《現在、全演算能力を使用し、作業中につき回答は不可能と思われます》

「作業中?だってアルカンシェルはもう…」

 なのはは今一度アルカンシェルの魔力光があった辺りを見たが、魔力光は見あたらない。代わりに周囲に飛び散った魔力の残滓が小さな光の粒となって現れていた。

 その粒達がゆっくりと漂い、引き寄せられるようにこちらに寄ってくる。

「自壊したアルカンシェルの魔力が集まっていく…」

 輝きと数を増やし、それらはエイブラハムの目の前で小さな塊になっていた。集まりつつある残滓を見ながら、なのはは信じられない思いで言った。

 通常一度でも使用を終えて空中にバラ撒かれた魔力を再度実用レベルまで集めるのは、それだけでSランクを超える高等技術だ。それもその魔力のほぼ全てがほかの術者や機械のものとなれば、集めることなどほとんど不可能のはず…。

 そう思っているうちに、まるで流星群のように、集い、輝きを増していく魔力は、なのはの知っている大きさを越えてなお、貪欲に周囲の星屑達を集め続ける。

《プログラム書き換え作業終了》

 レイジングハートの声で、なのははエイブラハム達の狙いに気が付いた。彼とレイジングハートはアルカンシェルの自壊を狙っていたのではない。実行中のアルカンシェルの魔導プログラムを書き換える事が目的だったようだ。

 自壊し意味を失った魔力達に細工を加え再利用するために…。

《プログラム実行。実行ファイル名…》

 なのはの思考に答えるようにレイジングハートが言う。

 光球を囲うように新しい環状魔法陣がセットされた。

 もう間違いようがない。この魔法はなのはが魔法に出会う切掛けとなった事件の際に、レイジングハートと共に考え、知恵と勇気、戦術の全てを使って作り上げた最後の切り札。

 レイジングハートが勝利宣言の様にその名前を歌い上げた。

《スターライトブレイカー》

 エイブラハムの前に集いつつあるそれは、星空から流星が落ちるように、集い輝きを増していく。それも複数・・・。

「わ、わ、大きい、大きい!」

 従来の大きさを遙かに越え直径10m以上に膨れ上がった巨大な光球は、心臓が脈打つように鼓動しながら輝きを強めていく。

 なのははぞっとした。スターライトブレイカーは自己の限界を超えた砲撃を可能にするプログラムとはいえ、それでも制御に失敗したら暴発させてしまうことがある。なのはも過去に失敗して酷い目を見たことがある。魔導師単独で戦艦主砲の魔力を使うなんて、幾ら何でもやりすぎだ。

 自分がこれを撃つ時、周りの人達はこんな気分になっていたのかと、今までの自分の所業を棚に上げてなのはが尻込みをしていると、レイジングハートがターゲットに狙いを定める。

《モード:マルチレイド》

 レイジングハートがエイブラハムのセンサー越しに捕らえたセンサー画像を表示した。

 狙いは遙か上空のベルソーをしっかりと捉えている。ベルソーの方はまさかアルカンシェルが防がれると思ってもいなかったのであろう、アルカンシェル発射による出力の低下も相俟って無防備だった。

《シュート》

 天が割れるような閃光と轟音をたて、星屑の塔が空にそびえ立った。

 何とかフィールドの光学防御を調整して、センサー画面を見るがその映像が一瞬ホワイトアウトする。

 白く塗り潰された画面が復旧した後には、複数の個所から火を噴くベルソー。

 エイブラハム達の放ったスターライトブレイカーは、貫通力にその力を集中させて撃たれたモノのようだ。狙いも動力炉を狙わず艦橋からのコントロール、戦闘能力を奪うように狙われていた。

 もう、アルカンシェルが発射されることもなければ、戦艦が地球の重力との拮抗を失って墜落してくることはなさそうだ。

《冷却ジャケット、パージ》

 レイジングハートの声と共に、炭酸飲料のふたを開けたような弾ける音がいくつも聞こえた。

 エイブラハムを包んでいた宇宙服から、翅が抜け落ち、体を守るための溶液が勢いよく排出されると、魔力の残滓になって消えてゆく。

 宇宙服本体も解れて消えつつあったが、エイブラハムはそれを待たずにガチャガチャとヘルメットを脱ぎ捨てた。

 そのままL3Sの背に手を突いて、咳込み始めた。咳とともに口から水より粘性のありそうな液体を吐き出す。

「アビーくん!」

 喘ぐエイブラハムの背中をさすると、それだけで宇宙服が解れて消え、その下から破損したままのバリアジャケットが出てきた。

 エイブラハムはさらに数度せき込んだ後口元抑える。指の間からポタポタと落ちる赤い滴に、なのはが慌てる。

「血が、大丈夫!?」

「毛細血管が切れただけ、単なる鼻血だ」

 顔色を確かめようとなのはが顔をのぞき込むと、エイブラハムはこもった声を出した。気恥ずかしそうな目は、真っ赤に充血している。

「ああ、シマらないな。くそ」

 不満げなエイブラハムを見て、なのははあっけに取られてしまった。

 レイジングハートのサポートがあったとはいえ、魔導師単独で次元世界最高クラスの艦砲を退ける快挙よりも、その負荷で毛細血管が切れたことの方が気になるらしい。

 目が合うとそっぽを向くエイブラハムと、彼の行った快挙にギャップがありすぎて、自然と笑みがこぼれた。

 そこに通信が入る。

『なのはちゃん聞こえる?』

「エイミィさん!」

『シールドが消えて、次元航行部隊への通報が出来た。すぐに援軍を送ってくれるって!』

「じゃあ」

『もう大丈夫だよ。アルカンシェルもあの状態じゃもう撃てない』

「うん!うん!」

 エイミィはディストーションシールドによる通信障害が消えた隙を見逃さず、すばやく本局の信用できる部隊に連絡を入れたらしい。これでもうベルソーを操っている犯人も、うかつなことは出来ないはずだ。

『それにしてもさすがだね、なのはちゃん。まさかブレイカーで、戦艦を大破させちゃうなんて』

「あ、それはわたしじゃなくて…」

 なのはには安堵して、雑談する余裕ができた。

 ベルソーを大破させた、経緯を説明しようとエイブラハムに振り向く。血を止めたエイブラハムが空を睨みつけていた。

「アビーくん?エイミィさんが通報してくれたから、もう…」

「マダだ…、ベルソーは換えの利く単なる駒だ。コマを指している黒幕を捕まえないと意味がない」

「だから、今次元航行部隊が…」

「ブタイが着くまでどのくらいかかる?ベルソーの艦内に黒幕の手先がいるなら、証拠になるデータは全て消される。ソレでは黒幕には届かない。黒幕を捕まえないと似たような事がまた起こる」

「そんな…ッ!」

 ここまで言われれば、なのはにもエイブラハムの言いたいことが分かった。

 一艦長の権限ではさすがにここまでの規模の騒ぎを起こす事は出来ない。ベルソーの背後にはかなりの大物が控えている。少なくともエイブラハムはそう考えているようだ。

 黒幕の目的は聖王の血を引く、ヴィヴィオを手に入れるか、それがかなわないなら消してしまうことだ。

 それならば黒幕を捕まえない限り手を変え、再びヴィヴィオを狙ってくるかもしれない。実行部隊でしかないベルソーを無力化するだけでは足りないのだ。

 根本的な解決をするには、黒幕を捕まえるか、ヴィヴィオの引いている血に意味がなくならなければならない。後者は無理だ。なら、黒幕を捕まえて似たようなことを企む者が出ないことを祈るしかない。

 エイブラハムは銃型のデバイスの弾倉を外し、スライドを引いて装填されているか確かめると、L3Sの武器ボックスを開けて中身を確認し始めた。

「なにをする気なの?」

「ベルソーに突入して、演算室を抑える」

「なら、わたしも…」

「ダメだ。アンタはここの出身者で、ヴィヴィオの母親だ。近しいものが証拠を抑えても証拠として使えない場合がある」

 なのはが聞くとそう言いながらエイブラハムはデバイスに弾倉を戻した。そのデバイスにぼたぼたと血が落ちる。また、鼻から血がこぼれてきている。

「くそ…」

 エイブラハムが毒づき手の甲で顔の鼻血を拭うが、すぐに新しい血が垂れてくる。すずかの話によれば、エイブラハムは治癒の魔法も使えた筈なのに傷が治っていない。呼吸も荒いし様子が変だ。

「アビーくん、顔色悪いよ」

「ヤメロ、必要ない!」

 手を伸ばし覆面の裂け目から額を触ると、エイブラハムに鬱陶しそうに払われた。だが、その僅かな時間でも分かるほど、エイブラハムの体温は高かった。

「アビーくん!熱いよ、熱が!」

「大丈夫だ、まだ戦える」

 なのはは言い募ったがエイブラハムはそう言って、カードを一枚フォルダから抜いた。

「オレのことより、早く戻ってヴィヴィオを安心させてやれ」

 言うが早いか、エイブラハムはカードをこちらに放り投げた。

 思わず受け取ると、中に封じ込められていた強制転送の魔法が発動。なのはの視界はブラックアウトした。

 

 




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