カードに封じ込まれていた魔法でなのはの姿が消え、ヴィヴィオの現在地のすぐそばに転送されたのを確認する。転送誤差なし。
(ヴィヴィオに言ったことは守れたな…)
スターライトブレイカーのダメージで、ディストーションシールドを含めたベルソーの防御機能の幾つかは消えている。
エイブラハム達の放ったスターライトブレイカーが、ベルソーの決定権を持っている艦長クラスが詰めている艦橋と、演算室を繋ぐ回線網を巧みに打ち抜いたため。メインAIは艦長達が死亡したと判断。人命を最優先した自閉モードに入り、ダメージコントロール以外の船員達に退艦準備を奨めているが、ダメージが復旧可能だと判断したならば、方針を変えるかもしれない。
それまでにAIの演算室を抑えることが出来たなら、そこにはベルソーに対して命令をしていた黒幕を特定する証拠が残っている可能性が高い。
(これを抑えることができたなら、高町1尉達は普通の母子にしてやれるな…)
手元にあるベルソーの情報を確認する。と、割り込むように通信が入ってきた。
『よお、うまくいったみたいだな』
『パーシングか?脱出しろと言った』
『この年で走るには脱出用ポートは遠すぎてね。それに言っただろ、俺は今起こっている歴史が好きなのさ。残ったお陰で単独の魔導師によるアルカンシェルの阻止を拝めた。これは少なくとも兵器史に残る出来事だ』
『都市伝説の類になるのがオチだ。誰も信じない』
無駄口を叩きながらも、こちらの意図を汲んだパーシングが情報を送信してくる。管理局で登録している情報では詰めている武装隊員は3個分隊程度、他に高ランクの魔導師は詰めていない。巡回任務の次元戦艦としては平均的な数といえる。
『お前の魔力は底を突きかけている。制圧は無理だ』
『ここで終わっては意味がない。予備の装備もある。やりようはある』
『ポートを開いてくれ』
『分かった…』
パーシングが返事をすると、エイブラハムの周りを転送用の魔法陣が取り囲む。本来なら次元船のポートは、船のオペレータ達が許可を下ろさなければ開かない。
しかし、現在、ベルソーはAIの制御下にあり、パーシングはエイブラハムのADの所属の欄をシルバー(防災部)に偽造し、救援活動のためと偽って乗艦許可をAIに出させた。
『突入する。視覚野の映像を送る』
『了解。録画を開始』
エイブラハムが転送魔法の光に包まれた。
ベルソーの転送ポートに、L3Sとエイブラハムが現れると艦内警備用のオートスフィアが一斉にシュートバレットを撃ち込んできた。
L3Sを盾にして反撃したが、空戦装備の1号機はそれほど強力な防御力は持っておらず、オートスフィアを全て戦闘不能にするころには、1号機の機動力も奪われてしまった。
エイブラハムはオートスフィアの残骸に、マニピュレータを侵入させ無事なメモリーから、ベルソーの警備システムの情報をダウンロードする。
それと同時に、エイブラハムはL3Sの武器ボックスからヴァンデイン・コーポレーションの刻印が刻まれたカービン銃を取り出し、戦闘準備を整える。
ベルソーの航海計画によれば、この船には1小隊の騎士団が編成されていたが、あからさまな侵入があったというのに姿を見せていない。ダウンロードした情報でも、騎士たちに警報を出したログもない。おそらく、騎士たちはフード付きとして、地球に降りてきた者たちだったのだろう。
しかし、どこにも警報を出さなかったわけではないことも判明した。この船には強力な傀儡兵が配備されているらしい。
(対物戦闘になるか…)
対物戦闘になると、エイブラハムの格闘能力はほとんど役に立たない。いくらフィールドの隙を突けるとしても、膂力だけでは装甲を持った機械を破壊することは難しいからだ。
(この怪しげなカービンが頼りか…)
苦々しく思いながらカービンを眺める。
SAP-76。小型魔力炉と新機能「ケースレスカートリッジシステム」を搭載し、魔導師でなくても強力なシュートバレットを発射することができる最新鋭カービン。地球の基準でいうなら50口径アサルトライフルといったところで、軽装甲車のエンジンでも数発でオシャカにする高い破壊力を持つ。
最新鋭と言われれば聞こえはいいが、現場の人間から言わせれば実績がなく、どんな瑕疵があるか分からない生まれたてのシステムである。
正直、単独では使いたくなかったが、エイブラハム本人には高出力の魔力がない上に、その魔力も底をつきかけ、カード型デバイスや魔力を付与したナイフも、心もとない数になっている。
もし、傀儡兵が通信インフラやプログラムを使用しない兵器システム、例えば火薬式の大砲や機関銃を装備し、物理装甲に覆われたタイプであるならば、エイブラハムでは火力不足だ。
不安ではあるがこのカービン以外他に補う手段もない。覚悟を決めて予備弾倉をタクティカルベルトにつられたポーチにねじ込み、聖王との戦闘で折れた銃剣の予備もベルトに吊り下げる。
「後で改修してやるから、大人しくしていろ」
足を破壊された1号機に言ってやると、L3SのAIが武器管制システムを閉じた。
『エイブラハム、いくつかの艦内センサーを掌握した。参考に使ってくれ』
武器のチェックをしている間に、パーシングも手を打ってくれたようだ。1号機からマニピュレータが延び破れた内壁の中に潜り込んでいる。何かの配線に接続してハッキングしたのだろう。
時には儀礼鑑としての用途もあるため、このベルソーは次元戦艦としても巨大だ。一部だけでも様子が分かるのはありがたい。
『助かる、ドアを開けてくれ』
返事をすると1号機を通じて格納庫の開放信号が送られ、重い隔壁扉が開いていく。
その先に見えたのは斧を手にした3mを超す大きな鎧。
傀儡兵だ。早速出くわしてしまった。
「___ッ!」
咄嗟に引き金を絞って、カービンを発砲すると魔力弾は吸い込まれるように胸部装甲を貫いた。
傀儡兵はビクリと体を振るわせたが、震えるような動きでこちらに振り向こうとする。続けて発砲。装甲の穴が2つ増えたところで、傀儡兵は金色の魔力を噴き出し完全に動きを止めた。初めて見る傀儡兵だったが運良く動力部を捉えたようだ。
崩れ落ちる傀儡兵。それを見ながら舌打ちをする。
(倒すまで数秒掛かったのにも関わらず、通信らしき信号を出さなかった…、完全自律の兵器だと?なにを考えているんだ)
通信を行わないということは、各機体の情報の共有もなければ、指揮所からの指揮や統制も受けていない可能性がある。
人間が制御しない無人機は元々倫理的な問題が指摘されているし、JS事件でも大量の無人機が使用されたこともあって、現在、法律的にも境界線上の存在だ。
エイブラハム自身も「制御のきかない兵器など、フランケンシュタインの怪物と変わらない」と思っている。それに通信を解析してAIを乗っ取るという手も使えない。
「くそったれ!!」
毒づきながらAIまでの最短ルートを走る。途中、非武装の船員と出くわし、混乱した相手に投げつけられた空き缶を潜り抜ける。
1号機を経由して送られてくる監視カメラの映像に2体の傀儡兵を捉えた。
プレートに配線室と書かれた近くの扉を開くと、50㎝四方の小さな空間に大小沢山のケーブルがむき出しになっていた。その内の一本にマニピュレータを繋ぐ。小部屋からカービンだけ通路に突きだして待ち構える。
映像の傀儡兵が死角に入った。聴覚に集中してタイミングを計って、先頭の一体を撃つ!!
装甲を貫いた鈍い音は聞こえなかった、それよりも高い音を立てて魔力弾は弾かれた。偶然だが手にしていた斧にあたってしまったようだ。
「_ッ」
舌打ちする間もなく連射するが、単純な反応なら機械の方が早かった。瞬時にバリアが張られて全弾反らされる。傀儡兵はAランク魔導師相当の出力を持っている。そのバリアを貫くことは、いくら50口径ライフルとはいえ難しい。
傀儡兵達はこちらを火力不足とみて、2体目がシールドを展開。距離を詰めてきた。一拍遅れて1体目もバリアを張ったまま続く。
シールドを無力化するウイルスを送信しながら引き金を引き続ける。斧の間合いに入る前に、シールドを展開した傀儡兵は倒せたが、もう一体のバリアを解除する暇はない。
(間に合え!)
マニピュレータを通して隔壁を強制封鎖。通常、乗組員の安全を配慮してゆっくりとしか動かない開閉機に過剰な電圧が印加され、傀儡兵にギロチンのように襲いかかった。
バリアごと隔壁に挟まれた傀儡兵は動きを止めたが、バリアに守られ破壊される事はなかった。隔壁を押し戻そうとバリアの出力が徐々に上がる。
エイブラハムにはそれを黙って見てやる義理はなかった。バリア弱体化ウイルスを流し込んでやる。僅かなタイムラグの後、バリア出力がみるみる減衰していく。
すかさずカービンを叩きこむと、魔力弾はバリアと装甲を貫き、傀儡兵は胸に大穴をあけて沈黙した。
エイブラハムは傀儡兵の挟まった隔壁をくぐり抜け、再び走る。
(たった2体相手に手こずり過ぎだ。演算能力が低くなっている)
走りながら体内のシステムをチェックする。システムの自己判断はまだ戦闘可能レベルを指していたが、とても当てにならない。
先ほどから各通信の帯域幅が狭くなり、送信できる情報量が減っている。正常なら妨害ウイルスは戦闘中でも複数同時運用可能なのだが、今はとても無理だ。
聖王との戦闘、アルカンシェルへのハッキング、と、連戦によって、システムに負荷がかかり過ぎたのかもしれない。
魔力も体力も底を突きかけ、頼みのウイルスも効果が減っている。長引けばどんどん不利になる。
(この状況で傀儡兵を突破するのはむりか?)
弱気な考えを振り払い、突破するしかないのだと自分に言い聞かせる。一つの部屋そのものが昇降機になっているエリアの壁に背にあるワイヤーを打ち込んで、通常の建物の数階分を駆け上がる。
頭上から2機の傀儡兵、空が飛べる飛行型。ウイルスでバリアを減衰させながら手前の1機に射撃する。ワイヤーで吊られた不自然な姿勢で撃ったため、動力のある胸部に当たらず下腹に当たる。傀儡兵はそれだけでまさに糸が切れた操り人形のように落ちていく。
残った1機がスピアのようにとがった腕を突き出し突進してきたのは、通路に転がり込んで躱す。
振り返ると傀儡兵が追ってくるのが見える。射撃するが傀儡兵の防御手段が変わっていた。魔法弾がシールドに堅くはじき返されるが、牽制のために撃ち続ける。
腰のマニピュレータでカードを引き抜き、傀儡兵のシールドをすり抜けるように床を滑らせると、カードの術式は傀儡兵の真下で炸裂した。
傀儡兵の足がひしゃげ、崩れ落ちる。
(よし!)
カービンの弾倉を手早く交換しながら、踵を返そうとした足にズキリと痛みが走り、脈打つように痛みが広がっていく。
見ると傀儡兵の破片が腿に刺さっていた。
(抜けば出血が酷くなるだけだな)
手当はバリアジャケットの機能で血管を締め上げるだけに留め、痛みをこらえて走る。
なるべく足を意識しないように、見回せば通路の意匠が凝ったものに変わっていることに気がついた。
「儀礼艦だったな…」
聖王教会式の派手さはないが、人を圧倒する内装に思わずつぶやく。
エイブラハムは信心深い方ではないが、こんな場面でなければ厳かな気分になれたかもしれない。いや、信者に清貧を説く割には金が掛かっているじゃないか。と、皮肉を言ったに決まっている。
『ああ、その通路を抜けた先には1000人が入れるホールまであるぞ。その舞台裏のエレベーターが、AIのある中央ブロックに通じている』
『了解』
モニターしていたパーシングが、こちらのつぶやきに答える。エイブラハムが通信で返事をすると、さらに警告してきた。
『おっと、前方十字路。正面から2機、右から2機、正面とは5秒後に接触するぞ』
警告と同時に送られてきたデータを参照すると、確かに4機の傀儡兵が近寄ってきているが、互いに通信をしていないため、連携が取れていない。2組との接触にはタイムラグがありそうだ。
エイブラハムは十字路まで素早く移動し、右通路側に見えたいくつかの火災報知器の周囲に数発発砲した。着弾した魔力弾が報知器の間近に穴をあけ、余ったエネルギーが熱を生む。報知器はその熱を火災と判断したようだ。けたたましいベルがなり、隔壁が降りてくる。これで右から来る傀儡兵に対してはかなり時間が稼げる。
通路正面方向から射撃魔法。T字状になった通路の壁に隠れて射撃をやり過ごし、やむと同時にウイルスを送信しながら応射する。ウイルスは有効に働いたが、今度の敵は両腕の代わりに巨大な物理装甲を持つ防御型と、銃身になっている射撃型の2体編成だった。防御型がカービン弾をはじき返し、射撃型が牽制射撃をしながら悠々と距離を詰めてくる。
(
隠れたままマニピュレータでカードを放り投げる。炸裂する閃光術式にあわせて、飛び出し投擲ナイフを2本投げつける。魔力を封じ込められたナイフは狙いどおりに機能し、防御型の両方の装甲を吹き飛ばした。
腕代わりの装甲を吹き飛ばされた防御型がバランスを崩して、射撃型により掛ったすきに、スライディングで股下を潜りながら、腰だめに構えたカービンで傀儡兵達の下腹を撃つ。
腹に穴を開けた傀儡兵達は突然制御を失って動きを止める。
先ほどの飛行型の時に気が付いたが、どうやらこの傀儡兵の脳は腹に配置されているらしい。
爆発のような衝突音が聞こえて振り返ると、閉鎖していた隔壁がボコリと突出していた。さらにもう一度、衝突音がすると隔壁の一部が外れ、隙間から防御型のアイカメラが覗く。
慌ててカービンを構えると、ストックに押しつけた頬に激痛が走った。顔を離して確認すると、頬の皮膚がストックに張り付き、イヤな臭いを立てていた。
SAP-76の小型魔力炉の熱が、いつの間にかストックまで伝わってきていた。冷却システムに欠陥があったようだ。
「欠陥品め!!」
カービンを捨て、拳銃型デバイスで覗いているアイカメラに射撃。破壊する。しかし、衝突音は止まない。隔壁に体当たりをしている防御型の背後には無傷の射撃型もいる。
出力が下がっている今では拳銃型デバイスの射撃では火力不足。そう判断したエイブラハムは倒した射撃型の腹部の穴にマニピュレータを滑り込ませた。まだ生きている神経達に繋げる。
射撃型の動力を再起動したところで、隔壁が破られた。隔壁を突き破った防御型が勢い余って倒れ込む。その背後から射撃型が姿を現した。
射撃型はこちらに銃口を向けたが、その脇腹を魔法弾が貫く。先に倒した射撃型の掌握が間に合った。そのまま、アイカメラを失い立ち上がれずにいる防御型を破壊する。
「なかなかの威力だ」
腕から射撃後の魔力残渣を排出する射撃型を起きあがらせる。
脳がなくなっているので自主的な行動は取ってくれないが、そのぶん道具としての使い勝手はいい。
L3Sの代わりに背中に乗る。いや、取り付くと言った方がいいか、
「乗りやすさは、1号機の方が上だな」
傀儡兵の背中で揺られながら言っている間に、彫刻されたオークの木を表面に貼り合わせて装飾した扉にたどり着いた。
パーシングが1号機を経由して信号を送ると、重い扉が左右にスライドしていく。
ホールの内装は神殿や教会をイメージさせた。正面に5m以上はある武装した女性の像が設置され。その像の正面にイスがズラリと並んでいる。さらにそのイスを囲むように、傀儡兵と同じサイズの鎧姿の像が並んでいる。何代か前の聖王とその守護騎士たちを模しているようだ。
エイブラハムはホールの雰囲気に違和感を覚えた。聖王教徒ではない自分が、教会のようなところにいることで、落ち着けずにいるのだろうか?
「よお、聖王さん、教徒じゃないんで、祈ったりはしないぜ」
像に向かって軽口を叩き、気を紛らわしてみるが、違和感は消えない。
仕方なく小さく深呼吸をすると、焚かれた香の臭いに混じり機械油の臭いがする。
(スクライアを主人公にした冒険小説だと、ああいった像は大抵…、いや、やめておこう…)
危険な思考をあわてて追い払ったとき、低い音を立て、守護騎士達が小さく震えだした。
「やっぱり動くのか!」
射撃型を操り守護騎士達に魔法弾をバラ撒く、エイブラハム自身も銃を抜きバイナリーボムを利用した砲撃呪文を用意する。
「バイナリーバスター」
起動途中の像が砕かれていくが、全てを破壊するには至らなかった。背後にランサー系統のスフィアの出現を感知したエイブラハムは、遮蔽物を利用し自分の操る傀儡兵を回避させた。数秒前までエイブラハム達のいた空間に鋭いランサーが通り過ぎていく。エイブラハム自身も背後を取られないように傀儡兵を壁際によせながら応射。ランサーを放ってきた像を破壊した。
続けてその隣の像に向かって、射撃するがバリアが展開、はじかれる。残った像が戦闘の構えを取った。もう、無抵抗にはやられてくれないようだ。
エイブラハムは使える全センサーを利用して、像達をスキャンする。個々の見た目はずいぶん異なっているが、像は基本的に傀儡兵と同じ構造、同じ動力で動いているようだ。いわば傀儡兵のカスタム機。
うち1体が円盤のような子機を4機操り、周囲に旋回させ始めた。子機達からよく知る術式を感知したエイブラハムは、素早くマニピュレータでカードを引き抜き中に放り投げ、カードとは反対方向に傀儡兵を射撃させながら突進させた。途端、投げ放たれたカードと射撃を塗りつぶすように子機が現れた。子機の2機がこちらの攻撃を体内に取り込んでしまい内部から破壊される。
エイブラハムは子機の使う術式がショートジャンプに使われるものだと見ると、転送ポイントを予想し、転送された瞬間、攻撃が当たるように行動していた。エイブラハムにとって、ショートジャンプは攻撃の絶好の機会にしからない。
左右に残った2機の円盤が現れ糸状のバインドを放出してエイブラハムを捕らえようとしたが、効果範囲は狭く、突進する傀儡兵はすでに効果範囲から脱出した後だった。
複数の敵に囲まれている状態で足を止めるのはまずい。エイブラハムは射撃を継続させ、傀儡兵を一体の像に突進させた。
射撃が像に当たるかに見えた瞬間、その像はその巨体に似合わぬ俊敏さでヒラリと跳躍し、四肢を使って着地した。頭部からは鬣が延び、まるでライオンのような姿に変わっている。しなやかな動きで飛びかかってくる鋼鉄の猛獣にマニピュレータでカードを投げバインドする。同時にカートリッジを激発。バリアを展開する。
1体の像が進路を塞ぐ形で回り込んできていた。その両手には炎が揺らめいている。
鞭のように伸びた炎がバリアを叩く。受けきれなかった熱が露出した肌から水分を奪う。
エイブラハムは炎の間隙を縫って応射したが、それは他の一体の巨腕に跳ね返された。シオマネキのように片腕だけを強化された1体は見ただけでもわかるパワータイプ。装甲も厚い。
接近されると不利と考えたエイブラハムは、傀儡兵を後退させた。が、傀儡兵の脚部が突然破壊され、マニピュレータで繋がれたエイブラハムごと転倒する。
なんとか傀儡兵の下敷きになる危機から逃れたエイブラハムには、うっすらと輪郭だけの像が見えたような気がした。オプティックハイドで姿を消せる機体もいるらしい。
最後の一体が手にした剣を傀儡兵の胸に突き立てると、マニピュレータを通じてエイブラハムにも攻撃的な魔力が流れ込んできた。あわてて、マニピュレータを切り離すが、間に合わずシステムにダメージを受ける。しかもエイブラハムの命綱、ウイルスを送信する送受信系にも被害が広がった。
(しまった!非接触でのウイルス送信が出来ない!)
体内にわずかに残った像の魔力が、エイブラハムの魔力連結をジワジワ解除していく。あの剣には毒のような魔法が付与されているらしい。
巨腕の像がドスドスと接近してくる。毒剣の像も剣を引き抜き追撃の構えを取った。
立ち上がるいとまも惜しく、エイブラハムは背のワイヤーを使って後退。残ったマニピュレータでカードを引き抜きつつ牽制射撃。
像達はアイカメラを守るために足を止めたが、巨腕の像だけは違った。エイブラハムの銃撃などものともせず、巨腕を盾にして突っ込んでくる。
(銃は弾切れだが、バイナリーバスターで対応できる)
カードの魔法陣を展開させながら、弾倉を交換しようとしたが、弾倉を握った左手はいうことを聞いてはくれなかった。動かない小指の隙間から弾倉を取り落とす。
意味をなさない魔法陣が虚しく宙に浮いている。巨腕の像はもう目の前だ。
像がその巨腕を振り上げた瞬間、エイブラハムは背中に粟立つような圧倒的なプレッシャーを感じた。母親に怒鳴りつけられた子供のように、本能に任せて頭を抱えてその場に伏せた。
次の瞬間、エイブラハムの視界を桜色の閃光が埋め尽くした。
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
感想、評価、お気に入り登録を頂けましたら、励みになります。
何卒よろしくお願い申し上げます。