管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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77Don't be long!

 転送魔法に包まれ、一瞬のブラックアウトの後、なのはが見たものは驚きに唖然とした姉と娘の顔だった。

「うあ、なのは…!!」

「…ママ」

 魔法を見慣れていない美由希が驚きの声をあげたが、ヴィヴィオは町角から知り合いが出てきた程度の反応だった。

 対照的な二人の様子に、思わず笑みが浮かんだ。左右を見渡すとハラオウン家の子供たち。子供たちのそばには空間モニターが開いており、エイミィの姿が見える。もちろん護衛の魔導師達も一緒だった。皆、少し弛緩した表情を浮かべていたが、護衛の魔導師達はなのはの姿を認めると姿勢を正した。

「お見事です!高町1尉!おかげで命拾いしました!」

「護衛対象に何度も命を救われる…、警護課としては情けない限りですが…」

 アルカンシェルが撃たれていた場合、退避を諦めていたマークとコメットが言った。二人とも殉職を覚悟していただけに、それを救ってくれたと思っているなのはを見る目に激賛を浮かべている。二人の同僚も同様で惜しみない称賛を送ってきた。

「ママ…」

 もう一度、ヴィヴィオに呼ばれて振り向く。

「ママ、一人で危ないことをしようとしたの?」

「えっ…」

 ヴィヴィオは少し不機嫌そうだ。

「エイブラハムさんが、言ってた…」

「あ、うん」

 予想していなかった娘の言葉に思わずうなずいてしまってから、「しまった」と、思ったが。遅かった。

 ヴィヴィオの不機嫌が増した。

「じゃあ、すぐ帰ってくるって、嘘だったの?」

「いや、嘘じゃ…」

 嘘だった。アルカンシェルの迎撃に向かう前、ヴィヴィオに言ったときはもう戻れないと思っていた。ヴィヴィオを、いや、娘だけじゃない自分自身が怯えないようにするための嘘だった。

「やっぱり、嘘だ。ママが嘘ついた!」

 目を潤ませたヴィヴィオが叫んだ。ヴィヴィオは聡い子だ。なのはが気休めについた嘘などばれていた。

 親が何かを隠そうと嘘をついてくる。子供が不安がるのに、これ以上の理由は要らないだろう。

「いつも、嘘ついちゃいけないって、言っているのに~」

 体を乗っ取られかけた恐怖、アルカンシエルで混乱する大人達を見た動揺、最大のよるべのママが嘘をついて居なくなった不安が、ヴィヴィオの両目から噴き出した。

「ご、ごめん。ごめんね。ヴィヴィオ…」

 すぐに娘を抱きしめる。興奮したヴィヴィオは抱きしめられたまま、なのはの体を叩いてきたが、すぐに縋りついてきた。

 抱きしめた娘の柔らかさ、温もり、子供特有のにおいが、なのはに伝わる。それらは全てもう感じることのできない。と、諦めたもので…。

 なのはの中で何かの堰が切られた。

「…ああ、ヴィヴィオ、ヴィヴィオ」

「あやや、二人そろって…」

 親子揃って声を上げて泣いていると、美由希が二人を包むように背中を撫でてくれた。数分そうしていたら、あふれ出していたものが収まって来た。

 なのはの腕の中で涙を流したままのヴィヴィオが、ふと気が付いたように周りを見た。

「エイブラハムさんは?」

「え、エイブラハムさんは…」

「エイブラハムさん、すぐママに会わせてあげるって言ってくれたの…」

 次元船に突入しているはずだ。とは、言えずなのはが言いよどむと、ヴィヴィオが鼻を啜りながら続けた。

「強くなるって約束してたのに、わたし、前みたいに聖王になって、エイブラハムさんを殺そうとしたのに…、ずっとわたしを傷つけないように戦ってくれて…、それなのにいっぱい殴ってしまうのも止められなくって…、悔しくって。まだ、ごめんなさいって、言えなくって…、だから、エイブラハムさん、怒って帰っちゃったのかな…」

「そんなことないよ」

 そうだ。わたしをここに帰すために、助けてくれた人がいる。

「エイブラハムさんは、わたしにヴィヴィオを安心させてあげてって、先に返してくれたんだよ」

 あんなに傷ついているのに…。

「じゃあ、わたし、エイブラハムさんに、ごめんなさい出来る?」

「もちろん、エイブラハム…、アビー君のお仕事が終わったらね…」

 まだ戦っている人がいる。

「いつ終わるかな?」

「うーん、わからないけど…、これからママが手伝ってくるから、早く終わると思うよ」

 先ほど嘘で安心させた時とは違い。言葉に力が乗った。

 その力を感じ取れたようで、ヴィヴィオが安心したようだ。

「うん、ママが手伝うなら、すぐ終わるよね」

 会話を聞いていた護衛達が慌てた。

「待ってください。まさか、次元艦に突入するつもりですか!?」

「はい、もう一度あがります。アルカンシェルの光を見た人も多いと思うので、皆さんは一般人への認識操作をお願いします」

「いや、わかりますけど…。我々の任務は本来…」

「大丈夫です。わたし、こう見えても頑丈なんです」

「いや、そう言う意味では…」

 護衛達が呆気に取られていると、美由希が進み出る。護衛達は家族ならば止めてくれるかと期待したが…、

「なのは、晩御飯までには帰ってくるんだよー」

 美由希の言葉により混乱を深めるだけだった。ヴィヴィオも続ける。

「ママ、早く帰って来てね」

「うん、行ってきます!」

 なのはは再び天に上る。

 飛びながら、エイミィに通信。

「エイミィさん、次元船内にゲートを開けますか?」

≪AM-45が使用した侵入ルートを推奨。ゲートが閉じ切っていません≫

「よーし、それなら大丈夫!行っちゃえ、なのはちゃん」

 レイジングハートがエイミィにデータを渡すと、エイミィは遠隔操作で次元船の転送装置を操作。先ほどアルカンシェルを迎撃した空域に侵入用ゲートが開かれる。

 なのはがゲートに飛び込むと、景色が傀儡兵の残骸が転がる次元船内に変わった。

 ダメージコントロールのため状況確認に来ている一般的な次元船乗組員が数名、ギョッとした驚きの表情をしていた。

「た、高町なのは?なんで?」

「エース・オブ・エース?」

 乗組員の表情から、ほとんどの乗組員が状況を聞かされていないことを悟ったなのはは乗組員に警告を発した。

「武装隊1等空尉高町なのはです。この艦には不正なアルカンシェル使用の嫌疑があります。全員セーフルームで待機しなさい!」

 この警告を数度くり返しながら先に進む。エイブラハムが向かった先は戦闘の痕跡を辿るだけなので間違い様がない。

 砲撃の音と激しい射撃の音が聞こえたかと思うと、数名が争う乱戦の音が聞こえてきた。

≪AM-45が包囲されつつあります≫

 レイジングハートのセンサーでも捉えたようだ。しかし、かなりまずい状況のようだ。なのはの飛行魔法には次元船の通路は狭すぎたが、無理やり加速して先を急ぐ。

 大きなホールの入り口にたどり着いたなのはの目に、太い腕を振り上げエイブラハムを叩き潰そうとする像の姿が見えた。

「エクセリオンバスター!!」

 なのはの呪文と共に吐き出された砲撃は、エイブラハムに迫っていた巨腕の像を押し流し、その先に鎮座していた王の像に当たって炸裂した。

 入り口をくぐってホールの中を見渡す。かなりの大きさだ。空中戦とはいかないが、3次元の戦闘が可能な空間が広がっていた。床には破壊された鎧姿の像が数体。まだ、動いている像もある。

 エイブラハムも無事だった。荒っぽい援護になってしまったが、砲撃を撃った瞬間にその場に伏せていたことから、こちらの意図が上手く伝わって…。

「高町1尉、何しに来た!!」

 いなかった。エイブラハムが取り落した弾倉を拾い銃型デバイスに再装填すると、こちらに向けながら言ってきた。

「何しにって、助けに!」

 エイブラハムがシュートバレットを放った。応じるようになのはもアクセルシューターを放つ。互いのデバイスが排莢したカートリッジが床に落ちる。

 バレットがなのはの背後の空間に突き刺さると、火花をあげながら細身の像が染み出すように現れた。

 シューターは弧を描きエイブラハムの背後で跳躍しようとしていたライオンの像を仕留める。

≪カートリッジ、残弾0。AM-45、魔力枯渇≫

 レイジングハートが自機とエイブラハムの状況を伝えるころには、なのははエイブラハムが放り投げたカートリッジシステムの弾倉をキャッチ。

 エイブラハムもなのはからのディバイドエナジーで魔力を回復させた。

「あれほど至近で砲撃支援を受けたのは初めてだ」

「ナイスでしょ?」

 子機を操っていた像がなのは達に向かって、腕を向けると小手に仕込まれたボルトを発射してきた。なのはは急上昇しホールの天井を撫でるように跳んでかわし、エイブラハムは一足飛びで像に向かって接敵するように躱した。そのまま予備の銃剣を引き抜く。

「てっきり、とどめを刺しに来たのかと思ったよ!」

 像が子機を二人の回避先にショートジャンプをさせようとしたが、天井と自機に近すぎた。子機を転送させる空間が確保できずに攻撃を断念した像。それとのすれ違いざまに、エイブラハムが魔力を付与した斬撃を四度叩きこむ。

「ひどい!!ピンチみたいだから、急いできたのに!!なんで、わかってくれないの?!」

 急所を切り裂かれた像が倒れる。

 攻撃の残心を残したエイブラハムの横合いから、毒剣の像が攻撃をくわえようと迫ろうとした。が、なのはのショートバスターで胸部に大穴を開けられ、頭部と両腕を四散させながら沈黙した。

「じゃあ、紙のような防御しかないのに、砲撃魔法を至近で炸裂される恐怖を…、なんでわかってくれないんだ」

 魔力を一点に集中、切っ先を単分子サイズまで研ぎ澄ました斬撃を使ったエイブラハム。対して、なのはの砲撃は実に豪快だ。射程と威力を犠牲にした最速砲撃ですら、物理的な装甲のある像を軽々引きちぎる。

 ならば、反応炸裂型砲撃魔法の威力のほどは…。と、考える方が普通である。

「う、だって、アビー君が危ないと思ったら力が入って…」

「これで本調子じゃないってんだから…、とんでもない、馬鹿魔力だ」

 金属がきしむような音を立てて、女性の像が動き出しその目の前に設置されていた椅子を踏みつぶした。

「シャルロット大帝が、ご機嫌斜めになったようだな」

 エイブラハムが皮肉気に言ったが、相当な力を持った傀儡兵だ。先ほど巨腕の像ごとエクセリオンバスターを受けたにも係わらず、表面の装甲には致命的な傷がない。

「一回りでかいだけあって、防御が硬い」

「うん」

 エイブラハムが観測したデータをレイジングハートに回してくれた。相手の防御の術式、最大出力。

 今のわたしでもカートリッジを多用することで、防御を貫くことが出来そうだ。

「まかせて!」

 なのはがレイジングハートを構えてディバインバスターを使おうとしたが、

「待て!あいつの後ろは、演算室だ。壁抜きなんてもの使われたら、証拠ごと吹き飛んでしまう!」

「じゃあ…」

 聖王の像が魔力斬撃を飛ばしてきた。二人が左右に躱す。

「左右からの砲撃で押し潰す。合わせろ、なのは!」

「っぁ、…うん、うん、うん!!」

 聖王の像から放たれる斬撃を器用にかいくぐりエイブラハムが進む。なのはは一拍待ってから、聖王の像が斬撃を放つタイミングを待った。

 聖王の像が剣を振りかぶるのにあわせて、レイジングハートを構える。

「ショートバスター」

 魔力斬撃に向かって放たれた砲撃が爆ぜ、魔力煙がおこった。煙に紛れて一気に聖王の像の側面に回り込む。カートリッジを2発ロード。

「エクセリオンバスター」

 先に攻撃位置についたエイブラハムは6枚のカードで六芒星の魔法陣を展開させていた。カートリッジを6発ロード。

「バイナリーバスター、ヘキサグラム」

「せーのっ!」

 なのはの声で、砲撃のタイミングを合わせる。

「「シュート!!」」

 聖王の像は全身を覆うバリアを展開し、左右からの砲撃に耐えていたが、二人の砲撃がやむ前に動力炉が悲鳴をあげた。

 動力炉が爆発を起こし、鎧の隙間から火が噴き出すとバリアが崩壊。文字通り押しつぶされる形になった聖王の像が圧壊した。

 レイジングハートから余剰魔力が水蒸気のように排出され、エイブラハムの背に翅型の排熱板が出現する。

 排熱作業が終わるのを待たず、エイブラハムは聖王像が立っていた後ろのハッチに取り付き、解放コードを解析して演算室の扉を解放させた。エイブラハムが扉が開ききる前に、隙間に滑り込み演算室に飛び込んだ。なのはも後を追う。

 演算室に入ったなのはが見たのは、マニュピレーターや腕のアンカー、デバイスからの有線接続など、あらゆる手段で次元船のAIと接続しているエイブラハムの姿だった。

 エイブラハムが通常インターフェイスのキーボードを叩きながら言った。

「ここまで来た以上、利用させてもらうぞ、高町1尉」

「え!アビー君!?」

 先ほど、なのはと呼んでくれたのに、高町1尉に逆戻りしてしまった。なのはが驚いていると、エイブラハムが続ける。

「アンタは事情を知らずに、俺たち13課に利用されたんだ。事情を知らず俺の協力要請に応じただけ…、わかったな、武装隊の高町1尉」

「あっ!」

 エイブラハムは法律上の責任の所在を気にしているようだ。この船は管理局内の船でありながら、聖王教会の騎士団に所属している船でもある。政治的なごたごたに巻き込まれると、なのはが管理局世界で生きていくには面倒になるかもしれない。最悪、里親の資格なしとして、ヴィヴィオと引き離される事態になる可能性もあるかもしれない。エイブラハムはそういう心配をしているようだ。

「…うん、ありがとう。アビー君…」

 感謝しつつも、非難や責任がエイブラハムに向かってしまうことに、罪悪感を感じながらなのはが答えた。

「気にするな。君がいなかったなら、そもそも任務は失敗だった」

 言いながらエイブラハムが艦内の情報とカートリッジの弾倉を渡してくる。

 情報は艦内の警備用スフィア、傀儡兵が演算室に向かってきていることを知らせていた。完全自立型に見えて、何かしらの方法で情報共有はしているようだ。それが分かれば、エイブラハムなら制御を奪うことが出来るだろう。

「それで看板だ。申し訳ないけどな…、」

 最後の弾倉を渡しながら、エイブラハムが言ってきた。

「180秒くれ、その間にこの艦のシステムを掌握してみせる」

「任せて、アビー君!」

 なのはが元気よく答えると、エイブラハムがチラリをなのはに目線を向けた。

「…アナタ」

「えっ?」

「エイブラハムはコードネームだ。本名じゃない…」

「…」

 なのはが目を丸くしていると、エイブラハムが続けた。

「先生が俺のことをそう呼んだ。だから、俺は戦友にはアナタと名乗っている」

「アナタ、アナタ君?」

「そうだ。頼んだぞ、なのは。バックアップを!」

「うん、うん!!」

 再び、エイブラハムがキーボードを叩き始めると、なのははサーチャーを飛ばしてホールの様子を伺った。警備用スフィアと傀儡兵数体が姿を見せていた。

 

 




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