管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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78思い出は水晶のなかに…

 姿を見せた警備用スフィアと傀儡兵にレイジングハートを向ける。

 すぐさま、アクセルシューターで迎撃していく。残った傀儡兵は種類も少なく、攻撃手段も単調でなのはは苦も無く倒すことが出来た。

 それを何度か繰り返していると、傀儡兵が足を止め、警備用スフィアが機能を停止させて床に落ちた。

 艦内の隔壁がゆっくりと降りていき、艦内での自由な行き来を禁じる表示が空間モニターに浮かび上がる。

 念の為サーチャーを使って停止した傀儡兵の観測をしたまま、なのははエイブラハムに振り返った。

「アビー…、アナタ君」

「システムの掌握を完了した。生命維持機能以外の全ての操作を禁止。個人単位での外部との通信接続もな。君の無事はハラオウンに伝えておいたから、外部との連絡が出来ないのは、勘弁してくれ」

 エイブラハムが有線接続を引き抜きながら答えた。

「晴れてこの船は今回の騒ぎを起こした黒幕を、締め上げるための証拠品になった…」

「黒幕ですか…」

「そうだ。ヴィヴィオに取り付こうとしたヤツだ。…蝶番め」

 エイブラハムが憎々しいとばかりに顔を歪めて。傷とあいまってかなりの迫力だったが、ヴィヴィオの為に怒ってくれていると思うと、不思議と悪く思えない。

「蝶番?」

「おっと、それはおいおいわかるだろう。正式な逮捕状が出るまで、知らない方がいい」

 謎解きはお預けのようだ。

 エイブラハムが空間モニターを表示し、映る映像を指した。

「それより、こいつの所に行こう…」

 なのはが空間モニター見ると、一人の男が艦橋と連絡艇のある格納庫の間で、隔壁に閉じ込められて立ち往生している。

 エイブラハムが意地悪く笑っている。

「この人が、どうしたの?」

 昔、自身に意地悪をしてきた時の兄に近い笑い方をするエイブラハムに、その笑い方の時はいまいちだね。と、思いながら、なのはが聞いた。

「艦のデータの中に、イデア・グレンヌの使用記録もあった…。こいつがアリサに取り付いていたイデア・グレンヌの主だ」

「ええ!!艦長さんが!!」

 そう、モニターに映っているのはこの船の艦長の姿だった。中年のお腹が出てきてしまった小太りのおじさん。と、いう風体である。その魂がアリサの体に入っていた…。

「…」

 想像してしまいなのはが黙っていると、エイブラハムが遠慮なく口を開いた。

「おぞましいな」

「あ、待って」

 言いながらエイブラハムが歩き始めた、慌ててなのはがついていく。

「イデア・グレンヌは記憶を物質にするって聞いていたのに、艦長さんは無事なんだね?」

「ん?…ああ、魂を体から引っこ抜いて物質化するイメージか?」

「うん、アリサちゃんの記憶は抜けちゃっているし…」

「推測でしかないが、球体の部分に使用者の記憶がコピーされ、そのあと別の人間に取り付く。取り付かれた人間の記憶を糧にしてリンカーコアを生成。使用者の記憶が体を乗っ取る。って、プロセスなんじゃないか?」

「使用実験の資料だと、そんな結果は出ていませんでした」

「使用者と取り付き先が、一緒だったからか?ベルカ時代の記憶のコピーがすでに入っていた…?実験結果は改ざんされたものだった…?追加で調べなきゃならない要件が増えたな…」

 話しながら艦長のいる場所に向かう途中、エイブラハムが近づくと閉じていた隔壁がなのは達が進む分だけ開く。今この船は完全にエイブラハムの掌握下にあるようだ。

 途中で、セーフルームから顔を出した船員と出くわしたが、

「そのまま、セーフルームで待機しなさい」

 なのはがそう言うと、みな大人しく従った。機動六課や、エース・オブ・エースの名前が知れ渡っていたことが役に立ってくれた。

 なのはが複雑な思いを抱きながらエイブラハムを追うと、ある区画でエイブラハムが立ち止まり、銃型デバイスを引き抜く。その区画が艦長を閉じ込めている場所だと、なのはが気が付いた時、エイブラハムが隔壁を開いた。

 突然開かれた隔壁と、そこから姿を表したエイブラハムと顔に艦長は動揺したようだったが、少しでも優位に立とうと虚勢を張る。

「なんだね、君たちは。この船は聖王騎士団にも所属している…」

「めんどくせぇ」

 艦長の口上の途中でエイブラハムが、スタンバレットを撃ち込んだ。そのまま、無造作に近寄って、ボカスカと暴行を加える。艦長が「痛い」「やめて」と叫んでもお構いなしである。最後に股間を蹴りあげられた艦長が泡を吹いて倒れる。

「アナタ君、やりすぎじゃない?」

 なのはは口ではそういったが、殴られているのは親友の体を乗っ取ろうとした相手である。痛快に思ってしまった。そんな、心情を察しているのか、エイブラハムが続ける。

「そうか?きっとアリサがここにいたら、もっと殴っているだろ?」

「にゃはは、そうかも」

 なのはが返すと、エイブラハムが気を失った艦長の頭を鷲掴みにして吊り上げると、魔法陣を展開させた。

「思考捜査?」

「いや、脳の電気信号を測っているだけだ。稀少技能ほどの力はない。だが…」

 エイブラハムはイデア・グレンヌを取り出した。アリサから取り出した水晶クラスター型のイデア・グレンヌである。

「こいつには使える」

「それ!」

「ああ。アリサの記憶を吸収しているモノだ」

 エイブラハムが魔法陣と翅型の排熱板を展開させる。すると、氷にヒビ割れるような音を立てながら、イデア・グレンヌの水晶クラスターが剥離していく。剥離した水晶はイデア・グレンヌを中心に宙をくるくると回っている。水晶が全て剥がれ、イデア・グレンヌが完全な球体に戻ると、エイブラハムは艦長を放した。

 バタりと倒れる艦長を放置して、エイブラハムが両手でより分けるような仕草をすると、左手にイデア・グレンヌ、右手に水晶の欠片が集まり、一つの結晶になった。

「こっちがアリサの記憶だ。本人の体に押し付けてやれば、記憶が元に戻るだろう」

 ヴィヴィオに送信されたイデア・グレンヌを取り出した時の様に、エイブラハムはイデア・グレンヌの元となった人物の情報と、アリサの記憶をより分けてくれたようだ。

「うん!うん!ありがとう!」

 アリサの記憶が戻る。素直にうれしい。自然と笑顔がこぼれた。

 なのはが水晶を受け取りながら礼を言うと、エイブラハムがそっぽを向いて右目の周りに触れた。

「礼には及ばない、アリサあのままにしていたら、後々祟られそうだしな」

「…アリサちゃんは怒りっぽいけど、今回のことでアナタ君を恨んだりする子じゃないよ」

「そうか?納得いかないと地縛霊になって、関係者を呪殺しそうなタイプじゃないか?」

 エイブラハムに言われ、なのはは少し想像してしてしまった。半透明な姿ながら元気に宙に浮く幽霊が気さくに話しかけてくる姿を…。

 あれ、余り違和感を感じないのは、どうしてだろう?

 なのはが首を捻っていると、エイブラハムが身震いをしてから、青い顔をしていった。

「ま、まあ、これで、取り返せるだけのものは取り返したな…」

 エイブラハムが背中の翅を消した。

「さ、これでこの船には…、用はないだろ。ヴィヴィオのもとに行ってやれ」

 エイブラハムがなのはの背を押す。このルートは転送ポートに向かっているらしい。背後で隔壁がしっかりと閉じる。船員の移動は許可する気はないようだ。

「エイミィ・ハラオウンの通報先は…、腹立たしいが…この件について信用できる部隊だ。1時間もしないうちに…この船を拿捕するだろう」

「腹立たしいって?」

「通報を受けて動いている部隊の指揮を取っているのが…、カリム・グラシアの子飼い…、犬使いのヴェロッサ・アコースだ。…どこまで知ってやがったんだか…」

「…?」

 エイブラハムの言葉の意味がわからず首を捻っていると、それを察したのかエイブラハムが続けた。

「聖王教会も一枚岩ではないってことさ…。カリム・グラシアはオラクル派、聖王が受けた神託とその教えをよしとする連中…。この船の船長とその後ろにいる奴はファクション派、直系ではないにしても…、ベルカの消滅から逃れた聖王家の血筋、シャルロット・ボーソレイユをベルカの正統な後継者としていた派閥だ…。ま、オラクルよりも、禁忌や制約がどうのこうのうるさいから…、人気はねぇな」

「…もしかして」

「ああ、そのファクション派のやんごとなきお方が…、聖王家直系の肉体を手に入れようとした…。てのが、真相だろう」

「でも、クローンに相続権はありませんよね。ヴィヴィオはベルカ自治領との友好調印文章も作成していますし…」

 ベルカ自治領との友好調印文章、この場合はヴィヴィオは聖王家の後継者ではなく、聖王家の遺産相続の権利を主張しない。と、いう内容である。これをやっておかないと、ヴィヴィオを祀り上げて、ベルカ自治領に住んでいた人々から土地の使用料などの請求をしようとする輩が出てくる可能性が無ではない。

「ベルカの歴史の中には…、一度王位継承放棄して、そのあと返り咲いたヤツがいたな…、たしか放棄してから1年後の話だ…。それを前例とするなら、JS事件解決の際…、ヴィヴィオが文章に調印して1年弱…。まだ、調印文章を反故にしていいって論調なんだろ…」

「歴史的に前例があるからって、約束や法律を破っていいんですか!?」

「いい訳ないだろ…。だが…、あの艦長が優先しているのは、法律ではなく宗教だ…。理屈じゃないんだよ…」

 エイブラハムがうんざりしたように言うと同時に、紫煙の匂いがしてきた。

「こんな時に…」

 なのはが振り向くと、エイブラハムがいつの間にかタバコを銜えている。

「…こんな時だからさ、俺の出身世界が荒れていた時でも…、周りの連中はこいつを銜えていた…」

「……」

「多少の悪癖を持っていた方が…、神が不在の時に…、気のいい悪魔が助けてくれる」

「ヴィヴィオには聞かせられない金言ですね…」

 なのはがそういうと、エイブラハムが愉快だと言わんばかりに口元を歪める。

「そうだ…、俺は多少の悪癖では…、すまないからな…。ヴィヴィオには、…近寄らない方がいいだろう。…この見た目を怖がっていたところだしな」

 エイブラハムが右目の周りの傷痕を撫でながらいうと、なのはが不機嫌な顔になった。

「ヴィヴィオは見た目で人を判断したりしません!」

「…?イデア・グレンヌを…、引き抜いたあと、怖がっていただろ…?」

「それはアナタ君に、悪いことをしてしまったと思っていたからです」

「…悪いこと?」

 エイブラハムが首を捻ると、なのはが娘の気持ちを代弁しようと熱弁する。

「体を操られて、アナタ君を殴ってしまったって…」

「んん…?…それはヴィヴィオのせいじゃないだろう?」

「アナタ君はそう思ってくれるかも知れないけど。JS事件で似たようなことがあって、そこからなにも変わってないって…。何もできずに守られてばかりなのが、悔しいみたいです」

「ゆりかご騒動のとき…、の話だよな?初等部に入ったばかりの子供が…、言うセリフか?」

「…わたしも何もできなくて、…悔しくて辛かった時期があります。どうして、わたしの手はこんなにちいさいんだろうって」

「…」

「アナタ君も、そう思ったことない?」

「さあ、どうだったかな…、忘れてしまったよ…」

「とにかく、ヴィヴィオはアナタ君にきちんと謝りたいんです」

「それなら…、…そんな必要はない。と…、…アンタが早く帰って教えてやればいいだろ」

「だから~、わたしの言葉だけじゃ納得してくれないんだって。ヴィヴィオって結構言い出したらきかないんだよ~。なんでわかってくれないかな~」

 それを説得するのが親の仕事だろ。と、エイブラハムはさらに帰るように促したが…。無駄な努力だと気が付いたようだ。

 ヴィヴィオの謝罪を直接エイブラハムが受け取らないと納得しないのは、ヴィヴィオだけではない。

 エイブラハムが別の言葉を吐き出した。

「…ヴィヴィオが頑固なのは、アンタのまねをしているからじゃないのか?」

「え、わたし、頑固なんかじゃないよ!」

「…アリサが、…記憶を取り戻したら聞いてみな…」

「む~」

 エイブラハムの声に呆れが混じったことに、納得がいかないなのはが膨れて、不満げに声をあげた。

 エイブラハムに背中を押されて歩いていると、転送ポートまでたどり着いた。

 最後に一突き、エイブラハムが背中を押してくる。

「さあ…、引継ぎは俺がやっておく…。ヴィヴィオのもとへ帰れ…」

 そう言ってこちらを送り出そうとしてくるが、だんだん、エイブラハムの声に力が、なくなっていくのが気になった。

 なのはが振り向くと、エイブラハムがL3Sに背を預けて、ズルズルと座り込むところだった。

「アナタ君!!」

「あー…、問題ない…、さっき貰った魔力が…、まだ残っている。」

 エイブラハムが緩慢な動作で、足に刺さった破片を引き抜く。

「んんっ!!」

 血があふれ出るかと思われたが、同時に治療魔法を発動させたのだろう。出血は最小限におさまった。

「…大丈夫…じゃないよね、これは…」

「そういうアンタも、結構な格好だぞ」

 言われて自分の体を見下ろす、バリアジャケットの機能は生きていたが、あちらこちらが裂けており、露出した肌には擦過傷、挫滅創が見える。

「あ…」

 傷だらけの体が恥ずかしくなり、体を縮こませていると、足元に魔法陣が浮かび上がり傷の痛みが和らいだ。見た目だけだがバリアジャケットの裂け目も消えていく。乱れていた髪型も普段しているサイドテールにまとまった。が、少し再構成の設定が間違っている。

「わたしはいいよ。まず、自分を優先して!」

 自分より体調の悪そうなエイブラハムが、治癒魔法を使ってきたことに驚いてなのはは言った。が、エイブラハムが首を振る。

「元々アンタの魔力だ…。返しているだけだ…。…それに俺は人工魔導師だ。旧式とはいえ…、体内のマイクロデバイスのおかげで、…そう簡単には死なない」

 荒い息をつくエイブラハムの額に触れる。と、やはり熱い。あちこちが破れたBJの隙間からは、無数の古傷、生傷が覗いている。

「…」

 ふと父や兄の体を思い出す。事故や厳しい鍛錬で傷だらけだったが、叩き上げられた剣士の体。エイブラハムの体はそれを彷彿とさせた。

「…おっと、見苦しいものを見せたな…」

「ううん、でも、どうしてこんなにまでなって…」

「…俺は、なにかを生み出したり…、…誰かを育てったりってことが…、出来たためしがないからな…」

「…」

 なのはが黙って聞いていると、ぼんやりとした表情で口を開く。限界を超えた魔法の制御による反動と疲労で、意識が朦朧としているようだ。

「…だから、余計に…、そんなやつらの敵を狩る人型兵器…、…それくらいしか、俺に価値は無い…」

「…ダメだよ…そんなこと言っちゃ…。…大切な人だって、いるでしょう…?」

「……」

 少しの沈黙。

 昏睡してしまったのか?と、なのはがエイブラハムの顔を覗き込むと、僅かだがエイブラハムの瞳は開いていた。

「…大切だった人は、…死んじまった…。先生も…、師匠も…、こいつ(タバコ)をやってた連中の大半も…」

「…これからだって…大切な人はいくらでも、できていくんだよ…。…生きていたら…人と触れあっていくんだから」

「いらないさ…。そんなことになったら…、また…、何もできずに失うだけだ…」

 朦朧としていても、エイブラハムの声に嫌悪のようなものが乗る。それも、自分に向けての…

(ああ、アナタ君は自分が好きじゃないんだ)

 なのはにも覚えがある。父の怪我の後、大切な人が困っているとき、苦しんでいるとき、無力だった時の自分への憎しみ。それが他人には優しくできても、自分に優しくなることを阻んでいる。

「そんなことないよ。少なくてもわたしやヴィヴィオ、海鳴の人たちを助けてくれたじゃない…」

 わたしには周りのみんなが…、自分のことは好きになれなくても…、わたしを好きでいてくれるひとたちが、それを包んでくれた。

 なら、

「少なくとも、わたしは…、アナタ君にいなくなられたら…困るよ」

「…なぜ?」

「翠屋のメニュー。まだ、食べてないのあるんだよね。常連になってくれるかもしれない人にいなくなられたら…困るよ」

 なのはの言葉にエイブラハムは震えながら息をはいた。笑ったつもりのようだ。

「…そうか。それは…、足しげく通わないとな…」

 そう言うとエイブラハムの瞼が落ちていった。




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