「フェイトを『追い抜いた』ファンって、年下だったっけ?」
言葉で軽いジャブを放ちながら質問するアリサに、一瞬怯みながらもフェイトは答えた。
「う、うん、ファンは一つ年下だよ」
「せやなぁ、元執務官やから、私も少し知ってるんよ」
はやてが続けてファン・ユーゼェァのプロフィールを発表した。
氏名:ファン・ユーゼェァ(出身地方の風習でファミリーネームが前に来る)
出身地 :ルーフェン ビジネス都市部
現住所:ミッドチルダ北部 第7都市区画
職歴・勤務先:元本局執務官、現弁護士(個人事務所)
資格:執務官/普通自動車免許/特殊小型船舶免許
魔法術式:近代ベルカ式・総合SSランク
趣味・特技:ギター演奏、マリンスポーツ全般
身長・体重:183㎝、66kg
家族構成:使い魔が3体『(亀)ビーヤーディ♂、(鳥)ホンチー♂、(虎)オラ♀』
その他:執務官時代から相手の心理を読むことに長け、油断ならない曲者、若手のホープとして注目されていた。が、私的な事情を理由に退局。弁護士に転向。主に管理局員や貧困層相手に事業展開を行っている。
実はファンは機動六課編成の際に、部隊員候補としてリストに上がっていたため、はやても資料上では知っていた。因みに、候補から外れた理由は、市街地では使いにくい効果範囲の広い魔法がメインの魔導師だったためである。
「民間弁護士になったっちゅうのに、お客にしてる人達を見ると…、お金で動くタイプやあらへんな…」
「写真とかないの?試験の話をしてくれた時も、見せてくれなかったじゃない」
「それは、アリサとはやてが笑うからです!」
ファンと出会った時の話をした時、二人がお腹を抱えながら笑い転げたことは今でも忘れない。っと、フェイトが口を尖らせながらも、空間モニターに写真を映し出す。
写真には甘い顔の男が肩に載せた鳥と戯れている姿が写されている。鳥は翼開長が80cmほどの大きさで、金色の冠羽を頂いた姿が神秘的に見えた。
「へー、読モとか、やってそうな顔立ちね」
「そうだよね、付き合い始めたって聞いた時、フェイトちゃんって面食いさんだったんだ。って思ったよ」
アリサの言った第一印象に、なのはが同意する。続けて、すずかも感想を口にする。
「わたしは年下ってことの方が意外かな?てっきり、クロノさんみたいな年上がタイプなんじゃないかなって思ってたから…」
すずかの話を聞いて、ほう、と感嘆の声をあげたはやてが論敵になった。
「へー、すずかちゃんはそっち派やったんやね。私はフェイトちゃんは同い年くらいで男前ーな、なのはちゃんみたいな男の子を連れてくるもんやと思っとった」
「あ、それあたしも」
「え、アリサちゃんは、なのは君(♂)派だったんだ」
「なのは君!わたしの知らないところで、そんなことになってたの?」
勝手にY染色体を着けられたなのはが、心外だとすずかの肩を掴んで揺さぶると、すずかはハハハと笑って「例えの話だよ~」と返していたが…。
「な、なのは君(♂)か…」
フェイトがムムムっと、懊悩し始める。
(やっぱり、ありよりのありって感じね)
(フェイトちゃんが、新しい世界にめざめそうやけど…、今は帰ってきてもらおか)
(そうね、帰ってこないと、聞きたいこと聞けそうにないものね)
アリサとはやてが密談を交わし、ヘットボードに置かれたグラスに甘い果実酒を注ぐ。
「で、そのファンって子、弟みたいな友達。って言っていたでしょ!付き合い始めたキッカケって何なのよ?」
アリサが言いながら、静かにグラスをフェイトに手渡す。
「え、ああ、えっと…」
妄想の世界から呼び戻すアリサの声で、我に返ったフェイトが辺りを見回すと、はやてがオレンジ色の飲み物を飲んでいた。
自分の手にはいつの間にかオレンジ色の飲み物が入ったグラス。妊娠中のはやても飲んでいることから、ソフトドリンクを渡されたのだろう。と、フェイトは思った。
(物思いにふけり過ぎた)
うあの空でボウっとした顔を見られたと思ったフェイトは気恥ずかしさを隠すように、グラスの中身を飲み干した。
体が熱い。身に着けている衣装のせいか、いつも以上に、はにかんでしまう?
フェイトがはやてが飲んでいるオレンジジュースにつられて、アルコール度数の高めの果実酒を飲むのを確認し、アリサは「よし!」っと、ほくそ笑んだ。人の悪い笑みを誤魔化す為に、自身もグラスに口をつける。もちろん、一気に飲み干したりせずに、舐めるように一口だ。
「で、付き合い始めたのはいつよ?はやての…、機動六課?が、解散した頃にはデートしてたって聞いているけど…」
「え、え~っと、正式にお付き合い始めたのは…、最近…」
フェイトの言葉にアリサの口がへの字に結ばれる。はやても片眉を跳ね上げていたし、なのはとすずかもじゃれ合いを止め聞いていた。
「最近?今まで、遊びで付き合ってたの?」
機動六課の解散は数年前の話だ。しかし、フェイトは最近の話と言う。
アリサが眉を寄せて怪訝な顔をした。はやてとすずかも首を捻り納得がいかないような顔をしている。3人ともフェイトが恋愛を遊びでできるほど、器用なタイプだと思ってないからだ。
「なのはちゃん、kwsk」
客観的な意見を求めてはやてがなのはに聞いた。一緒に暮らしているなのはなら何か知っているだろう。
「そうだね。わたしから見たら付き合い始めたのが最近と言うより、くっついたり離れたりしている…かな~?」
「え、そう、見えてたの?」
「うん」
即答するなのはと自分との認識の差に驚き、自分の行いを振り返るため黙考し始めたフェイト。すかさずアリサが飲み物の代わりを差し出す。フェイトは再びグラスを飲み干し気持ちを落ち着けようとしている。
アリサとはやてが邪悪な笑みを浮かべていることには、気が付いていないようだ。
フェイトが次の質問を受け付けるまで間が空きそうだ。と、思ったすずかがなのはに聞いた。
「なのはちゃんが、そう思い始めたのっていつなの?」
「ティアナ…、覚えてる?わたしの教え子の…」
「オレンジの髪の勝気そうな子でしょ?覚えているよ」
「そのティアナがフェイトちゃんの元にいたころだから…、もう、4年くらい前になるのかな?担当していた事件を解決した後、数日予定より遅く帰ってきた日があって…」
当時、初等科のヴィヴィオが家にいたこともあって、何があったかはなのはは確認はしなかった。が、洗濯籠から男性向けのオーデコロンの香りがしていたことがあった。
「ほほう、念の為聞くんやけど、理由は仕事でないんやな?」
「はい、仕事ではありません、八神部隊長。その頃は、気にかけて欲しいと、ティアナからも相談も受けました」
キリッ顔で質問をしてくるはやてに合わせて、なのはもキリッ顔で返した。
「フェイト・T・ハラオウン君!この証言に偽りはあるかね?!」
はやてはそのままの顔でフェイトに返したが、
「…そっか、ティアナにも心配かけてたんだ…」
フェイトは乗らず、少し声のトーンを落した。
「…ごめん、フェイトちゃん。聞いちゃいけないことだった?」
執務官の守秘義務があるフェイトは担当した事件の内容を話すことが出来ないことも多い。踏み入ってはいけないことだったのだろうか?と、なのはがフェイトを気遣って言った。
「あ、ううん。…その、あの時は、その、執務官と弁護士って立場で、ファンと同じ事件を取り扱うことになったんだけど…。お互いに、思うような結果にならなくて…。」
「お互いに慰め合ったのが、始まりってわけね」
アリサが言いながら再度、飲み物のお代りをフェイトに渡す。
フェイトが受け取ろうとすると、アリサが僅かに目配せをしてきた。せっかく、はやての新しい門出の為に集まったのだから、暗い顔は似合わない。と、言うことだろう。
「うん、でも、その事件が切っ掛けで、ファンも自分の深い所の話をしてくれるようになって…。その、ああ、ファンもこんなところがあるんだなぁ…。って…思うようになって…」
答えながらフェイトは顔が熱くなっていくことを自覚した。熱さから逃れようとグラスに口をつける。
「そっかー、フェイトちゃんは、その時が…、ってことかな?」
「…多分ね。ヴィヴィオに、この香り何?って聞かれてから。洗濯物も気を付けるようにしたみたいだけど…」
フェイトの様子を見たすずかが、唇をペロリとなめた後、なのはに耳打ちをした。なのはは、なのはで、女子会の雰囲気に当てられたのか、こっそりとすずかに、フェイトの秘密を暴露した。
二人は一応フェイトに気を使い小声で話していたが、この会の主催者は遠慮しなかった。
「で、そん時に神ったってことやな?」
「へっ?カミっ?」
はやてはフェイトを見つめ真っ直ぐな質問をぶつけたが、フェイトはそのネットミームを知らなかったようだ。
「ちょ、おま…!聞く!?そういうこと!!」
「そら、そうやろ!何のための女子会やと思ってるねん!」
暴走気味のはやてに、アリサがツッコミを入れたが、はやては怯まなかった。はやては目ぢからでフェイトに迫った。
「えっ、えっ!私、何を聞かれたの?」
「だから…!」
はやての目ぢからに怯えるフェイトに、アリサが耳打ちをする。
「SEっ、え、えええ!そんなこと聞いちゃうの!?」
助けを求めてなのはを見たが、すずかと共に目をランランとさせていた。
それならば。っと、先ほどはやてにツッコミを入れていたアリサを見たが、
「さ、キリキリ、吐きなさい」
一瞬で、はやて側に回っていた。アリサの目の輝きが、本当は聞きたくてたまらなかった。っと、語っている。
逃げ場がないと悟ったフェイトは、消え入りそうな声で一言。
「…はい。事件後に様子を見に行ったら、ファン…、凄く荒れてて…。わたしで、良かったら…って、なってしまって、その時が、初めてです…」
フェイトが答えた瞬間、他のメンバーが黄色い歓声を上げる。言質は取った。次にみんなが聞きたいことは一つ。
「…それで、その、ファン君は、どうなの?」
メンバーの気持ちを代表して、なのはが聞いた。
「普段は…、優しいです」
顔を赤く染め、伏し目がちにながらもフェイトが答えた。
「普段は!」
「は」を、強調してアリサ。
「違う日も、あるってことだよね…」
追及の手を休める気がなさそうなすずか。
「そういうことやな…」
「うん、そう言うことだよね」
はやてとなのはもそれに乗る。
4人が視線で促すと、少し心の堰が切れたのかフェイトが続ける。
「その、初めての時は、二人とも心の余裕がなくって、その、…ちょっと、乱暴だったかも」
フェイトの声に、心がひかれ焦がれているようなニュアンスが乗っていた。
「へぇ、フェイトちゃんは、荒っぽくされるのが、いいんだね…」
すずかがフェイトに送る視線が、猫が鼠を見るような視線に変わっていく、
「なのは。すずかを抑えておいて、何だったら魔法を使ってもいいわ」
「はーい」
アリサが、すずかからフェイトを隠すように前に出ると、なのはが笑いながら本当にバインド魔法を起動する。
ガッチン!っと、音を立てて、桃色のバインドがすずかの足に掛けられた。
「ああ!ひどいよ、なのはちゃん!」
「そうかな?適切な処置だと思うけど…」
すずかの抗議を、なのはは聞き入れず、代わりにサイドテーブルのワインを手に取る。
「はい、すずかちゃん、これで我慢して」
なのはが言いながら、ワイングラスを手渡した。
「んー、残念」
グラスに注がれた真っ赤なイエスの血で、すずかは喉を潤した。
なのは達の話に加わらなかったはやては、フェイト達の相性を考えていた。
(フェイトちゃんはMやな。まあ、知っとったけど…)
話を聞いてはやてはますます心配になった。生い立ちのせいかフェイトは寂しがりやで、心配性な所がある。愛されている実感が乏しくネガティブな感情が離れない。と、言い換えてもいい。
くっついたり離れたりしている。と、なのはに見えていたのも、愛されているという実感を得ようとして、フェイトが無意識にとった行動かもしれない。
(もし、先方が、フェイトちゃんは、「心配性なだけで、ちょっと我慢すれば、うまく付き合っていけるはず!」と、思ってくれているなら、縁が切れたりしないやろが…、モテそうやな、この子)
女にモテそうなところも、「浮気されるかも」と、フェイトの心配性を煽るのかもしれない。
「…やっぱりちょう心配やな。フェイトちゃん、浮気とかが心配になっても、いきなり疑っちゃいかんよ」
「な、ファンはそんなことしないよ…、たぶん…」
「捜査なら私が得意やから、友達に凄腕捜査官がいるからなぁ言うとき。きっと抑止になるから」
はやては、フェイトの味方だと伝えるつもりで言ったのだが、上手く伝わらなかったようだ。不満げにフェイトが、言い返してきた。
「そう言うはやて達はどうなの?副長とは一回り近く離れているし、よくケンカしているようにも見えるけど?」
「私達?そうやな、たしかにビルと会うのがもう少し早かったら、こんな風になっていなかったかもしれへんね」
はやては左手で大きくなったお腹を撫でながら、薬指の婚約指輪を見ている。
「えっ!そうなの?」
てっきり、「年の差なんて関係あらへんし、あんなんケンカの内に入らへんわ」と、返してくると考えていたフェイトが驚きの声を上げた。
「せや、まあ、それでも、こうなってるんやから、縁があったっちゅうことやろな」
はやてがそう言うと、いつの間にかフェイト以外の視線も、はやてに集まっていた。
「じゃ、今度ははやてちゃんがビルさんを語る番だね」
すずかがムフフと思わせぶりに笑った。
ファンのような少し年下派、クロノのような年上派、エリオのようなショタ派、なのは君(♂)派…、私は少し年下を推させていただきましたが、皆さんは何派でしょう?
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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