はやての問いを乗せた視線に、なのはが答えた。
「え、わたしの時?アクロバティックなことなんてなくて、全然、普通だったよ」
「アクロバティッ…、むぐ…!」
アクロバティック、普通の人にはできないような、人を驚かせる離れ業。と、言われ反論を試みようとしたアリサの口を、フェイトが塞いだ。そのまま、アリサを抱きかかえるように身動きを取れなくする。
酔っているせいか、フェイトの手元がくるって、鼻まで塞いでしまっているのはご愛敬。
(まあ、あと一分くらいは、大丈夫やろう…)
話を邪魔されたくなかったはやては、そう判断してアリサを助けなかった。
「ほう、普段、アクロバット飛行をしている人とは思えん発言。なのはちゃんの普通とはどないなん?」
「え、えっと、事件の時に、なんだか、放って置けないって思ったのが、最初で…」
なのはの話にすずかが相槌を打つ。
「あの頃、わたし、JS事件の後遺症が出ていた頃で、アナタ君に針治療をしてもらったら…、それがとっても効いて…」
自分の左腕を突っつきなら、なのはは説明する。
「事件のあとも、治療してもらうために会ったり…、アナタ君も拿捕事件のときの無理がたたって体調が優れなかったみたいだったから、わたしが無理のないトレーニングプランを組んであげたり…。それに、ヴィヴィオが、高町ヴィヴィオとして生きることに、尽力してくれて…」
なのはが懐かしそうに語ったのは、事件後の日常の積み重ねだった。
(フフン?一人の女性としてだけでなく、ヴィヴィオのママとしての評価も入っているんやな~)
はやては、翌日の結婚式内で似たような二人の馴れ初めLOVEスピーチを行うにもかかわらず、むずがゆさと、ワクワクを感じて思わず聞き返した。
「ほう、そうやって、会う機会が増えてったと!」
「う、うん、わ、わたしも…その、不器用だけど優しい人なんだなって思ったら。…この人ならって…」
なのはが顔を赤らめ照れ隠しに、えへへと笑いながら頭をかいた。
「かわいいかよっ」
思わずはやてがそう言うと、
「うん、うん」
フェイトが頷いた。はやてがフェイトに視線を向けると、アリサが違う意味で顔を赤くしていた。
「あ、フェイトちゃん、アリサちゃんが息できてないみたいだから、放してあげて」
「ふぇ?」
指摘されフェイトの気が緩んだ瞬間、
「だああ!!」
アリサが全力でフェイトを振り払った。そのまま、あえぐように酸素を取り込む。その様子でフェイトはようやく、自分がアリサの呼吸を封じていたことに気が着いたらしい。
「ご、ごめん、アリサ!!」
「ごめんですんだら!管理局も、執務官も要らないのよ!」
フェイトは慌てて謝ったが、酸欠から回復したアリサに、頬の引き伸ばしの刑に処された。
「ひひゃい、ひひゃい、ひょめんひゃひゃい」
半泣きになって謝るフェイトの声を聞きながら、はやては再びなのはに視線を戻した。
「…で!」
「で。って…?」
はやての問いに、なのはが聞き返す。
「せやから、おっしょーとの、始めては、どないやったんや。まだ、言うてへんやろ」
「い、言うの?」
「当然や…」
静かだが絶対に退く気配を見せないはやてに、なのはは躊躇いながら口を開いた。
「わたしも、…気が付いたら、…大好きって言いながら、アナタ君の名前を大きな声で…」
そこまで何とか口にしてなのはは、はやてを訴えるように見た。これで勘弁しろと言うことらしい。
なのはに上目遣いで見つめられたはやては、可愛かったので許すことにした。続けて質問する。
「ちなみに、なのはちゃんが、おっしょーとそないな感じになったのは、いつ頃なん?」
「事件があってから、1年後ぐらいかな~?」
なのはが答えた辺りで、騒いでいたアリサ達の声が止む。二人も話に耳を傾けることにしたようだ。
「なるほど、なのはちゃんが、一番最初なんやな…?」
はやての眉が寄り、眉間に皺を作る。その仕草からはやてが何か聞きに難いことを言おうとしていることを、察したなのはが無言で待ち受ける。
「…」
「聞いても、ええ?」
「…どうぞ」
問いに、なのはが返事をすると、はやてが口を開いた。
「すずかちゃん達のことを打ち明けられたとき、なのはちゃんはぶっちゃけどう思ったん?」
「ええ、嘘でしょ。って、思ったよ」
「そうやろな~」
渋柿を齧ったような顔で、はやてが頭をかきながら言った。自分だったらどうだと考えて、上手く気持ちを言語化できないようだ。そこになのはが続ける。
「混乱する一方で、「すずかちゃん達だったらアナタ君が好きになっても仕方ないな」という気持ちもあって…。アナタ君も生まれた世界の風習が、風習だから悪気が全然ないの…。そういうことをした相手は妻にするのが決まりみたい…」
言いながらなのはは口を尖らせた。4人で良好な関係を保てているが、嫉妬や独占欲と無縁でいるわけではないようだ。
「わたしが「二人のことを好きにならないで!」と言ったところで、アナタ君の気持ちが変わるわけじゃないから。アナタ君を選んだのはわたしだし、ありのままのアナタ君を受け入れようと覚悟を決めたの」
「すごい覚悟やな…、ま、まあ、3人が納得しているなら、それでええんやけど…。そんなん、恭也さんが聞いたら、おっしょーを手討ちにするって言いそうやろ?どうやって、説得したん?」
はやてが話題を、シスコン気味のなのはの兄に変えた途端、なのはの顔がムッとした無愛想な表情に変わった。そのまま、そっぽを向く。
明らかに不機嫌な様子が伝わってくる。はやてが目をぱちくりさせていると、
「はやて、それなのはには、タブーだから」
「え、そうなん?」
はやての感覚では3人同時に関係を持っているエイブラハムのほうが禁句になりそうに思えるのだが…。
「わたしとアリサちゃんも、アナタ君と、そういう関係になった。って、恭也さんに話した時に、恭也さんも驚いて、そういう関係は不健全じゃないかって言ってたんだけど…」
いったん言葉を切ったすずかが鋭く笑った。少なくても、はやてにはそう見えた。
「それなら、恭也さんとおねぇちゃん、それと、ノエルさんの関係も不健全ですよねって、わたしが反論しちゃったの」
ニコっと笑ってすずか。
「「………………………………ッ。えええええええええええええええええええええええええ!!」」
「「それって、ええっと…」」
事態を飲み込めずにいるはやてと、フェイトの器に、すずかの言葉がよそわれる。
「あ、おねぇちゃん、公認だよ。おねぇちゃん達が高校生の時から、3人で寝室に入っていくところ見たことあるの(多分、ファリンさんも…、とは、言わない方がいいよね)」
※寝室の中でなにが行われているのか詳しく知りたい人は、KSSノベルズの忍・ノエル編を読んでみよう。因みに、忍さん一人で一週間で4箱使い切るそうです。
「高校!?って、ことは私とみんなが出会う前から?て、言うか!すずかちゃん、そん時、何歳!」
はやてにSANチェックが入った。
「す、すずか、子供の頃から大人びてるなって、思ってたけど…。あ、ノエルさんはベットメイクをしていただけとか?」
「ベットメイクって、朝まで掛からないでしょ」
「そ、そうだね…」
フェイトが頑張って勘違い説を唱えようとしたが、あえなく撃沈した。
「なのはの後から、そういう関係になってしまったあたしが言うのもなんだけど」と、前置きしてアリサが続ける。
「ノエルさんに子供がいないのが奇跡みたいなものね。…と、いうわけで、恭也さん。この件については何も言えないのよ。ついでに、なのはの恭也さんを見る目も変わって、この話が出ると…、このあり様よ…」
なのはにつける形容が、ぷんぷん以外見当たらない。
不機嫌顔の治らないなのはに代わり、すずかが続ける。
「そんなかんじで、なのはちゃんとアリサちゃんのご両親も反対はしてないかな?積極的な賛成もできないと思うけど…」
「そうなんや~、…ッ!?」
SANチェックを成功させたはやては納得しかけて、あることに気が付いた。
(なのはちゃんの話を聞いていたのに、話の中心がすずかちゃんになっとるな…。これって、おしょーが、3人をはべらせているんやのうて、両方いけるくちのすずかちゃんが、おしょーと2人をはべらせているのでは…)
すずかが、なのはを抱き寄せ、頬にキスして不機嫌を直そうと宥めている姿を見ながら、そんなことを考えていると、すずかと目が遭った。
「どうしたの?はやてちゃん?」
「ううん、何でもあらへん」
思っていたことを、表情に出さずにはやてが話題を帰る。
「…しずかちゃん(すずかの娘)、そろそろ、1歳やったっけ?」
「まだ、9カ月だよ。つかまり立ちをし始めたから、リビングのテーブルの上が安全地帯じゃなくなっちゃった」
そのテーブルの上を荒らす御前様は、現在、父親が子守をしている。
「と、なると、うーん、この子っち達とは、同級生にはならへんな~」
大きくなったお腹をなでながらはやて。親友の子供と、自分の子供が同級生と言うのも悪くないと思っていたが、そううまくいかないらしい。
「あ~、しずかは、静馬くん(美由希の息子)と同級生になるんだけどな~」
すずかが指を下り数えると、アリサに言った。
「アリサ社長、来年も産休いただいてもいいですか?」
「ぶっ…!」
聞いたアリサが口にしていた果実酒を噴き出し掛けた。計算上、早生まれなら、まだ、間に合うかも?と、考えたすずかの発言だったが…。
アリサは少し咳き込んだのち、すずかを自分の会社の役職名で呼んだ。
「システム部長、次はあたしか、なのはの番って言ってなかった?」
現在、アリサは父のデビットから任された子会社の社長をしており、すずかはその会社の執行役員である。
「それなら、それでいいの。どう?アリサちゃん」
「ん、んん、今からだと、今年度末頃になるでしょ、社長的に…、それはちょっと…」
年末に役員が抜けるのは業務に響く、欲しいと思っていても時間がない。残念ながら働く女性の現実である。
「なのはちゃん、フェイトちゃんも予定は?」
すずかは、民間社長の苦労も分かるので、公務員に話を振った。
「そ、そうだね。来年度でヴィヴィオも中等科卒業だからな~、そろそろ、欲しいかも?」
「え、あ、そうだね。ヴィヴィオなら、いいお姉ちゃんになるね」
なのはの希望にフェイトが頷いたが…。
「でも、ヴィヴィオ、卒業と一緒に家を出るかも…」
「え、ええええええ、き、聞いてないよ!!」
なのはの言った未来のカタチに、フェイトが悲鳴に近い声を出した。
「うん、わたしもはっきりと聞いてない。でも、アインハルトと、ルームシェアすることも考えているみたい…」
「で、でも、中等科卒業したばかりの子が、友達と二人暮らしなんて!」
なのはが娘が思い描いている構想の一つを口にすると、フェイトが子離れできない親のようなことを言い出した。
「フェイト、あたし、中学卒業と同時に、家どころか地球を飛び出して言ったやつ、知ってるんだけど…」
「そうだよね~、その子も、確か友達とルームシェアをして二人暮らしから始めたんだよね~?」
アリサとすずかが意味ありげな視線を、なのはに投げつける。
「にゃははは!」
身に覚えがあるなのはが笑った。
「え、あ、そ、そうか」
「そら、そうなるわ~」
元々、管理局世界の住人のフェイトや、家族ごと移住したはやてにくらべると、たった一人で時空を超えたなのははとんでもない肝っ玉に思える。その肝っ玉はヴィヴィオにしっかりと受け継がれている。
しかし、
「でも、いざ、ヴィヴィオが出て行っちゃったら、寂しくて泣いちゃうかも…」
眉を下げなのはが、本音を言った。
「…諦めなさい!桃子さんも通ってきた道よ。アンタの順番が回ってきたの!」
アリサが語気を強めて言う。多分励ましの言葉なのだろうと、なのはは何とか口元だけを笑みの形に変え、
「にゃはは、そうだね…。うん」
はやては、なのはの表情を見て、
(あ、これは今度海鳴に帰ったとき、桃子さんに甘えよ思うてる顔やな…)
早くに親をなくしたはやては、なのはに憧憬の念を抱いたが、話を少し戻すことにした。
「まあ、子供は授かりものやから。生まれてくるタイミングはしゃあないとして…。みんな、何人欲しいとかあるん?アリサちゃんなんか、お仕事が忙しそうやけど…」
「え、ああ、さっきのは、年度末はちょっとってだけで、欲しくないって思っているわけじゃないわよ。それに、その…」
自分の本心を語るのが恥ずかしくなったのか、アリサは視線を少し泳がせながら続ける。
「あたしって、一人っ子だったでしょ。姉妹とか、兄弟って欲しかったのよ」
「そうだね、家に帰ったときに、一人って結構寂しいもん。わたしもヴィヴィオを外で迎えて帰るようにしてた」
アリサの答えに、なのはも同意する。
「ほう、じゃあ、なのはちゃんとアリサちゃんは二人以上は欲しいと…」
はやてが頷く。
「わたしも、あと一人か二人は欲しいかな?おねぇちゃんを見ていると…」
すずかが姉の月村忍と3人の子供たちのやり取りを見ていると、そう思うことがあるようだ。
「私が欲しいって言ったら、ファン、喜んでくれるかな?」
フェイトは少し不安のようだ。相手のことや自分の生い立ちなど、色々考えてしまうようだ。
「大丈夫やて、ビルを見てみぃ。顔に出してへんつもり見たいやけど、今めっちゃ浮かれてるんやから…。それこそ、ほれ、産むが易しってもんや…」
はやてがあっけらかんと笑う。いきなり三つ子を妊娠しても、どんと構えているはやての様子に、フェイトも安心したようだ。
「はやては…、その子達の後のことは、考えているの?」
フェイトが聞き返してきた。
「う~ん、ビルに言ってへんのやけど…。この子達みんな女の子なんや」
はやてが言うと、皆が軽く感嘆の声を上げる。
「でも、ビルは男の子もほしぃ思ってるんや。しばらくは、この子っちに掛かりきりになりそうやけど、落ち着いたら再挑戦してもいいかもなぁ」
はやてが笑みと共に言うと、皆が冷やかしの声をはやてに掛ける。それをさばきながら、
「ま、要望に答えてやるかどうかは、これからのビルの態度によるけどなぁ」
エネ夫になるようなら、絶対に泣かす。と、はやてが息巻く。それにすずかが加勢した。
「あ、それ言えてるかも、アナタは普段は殆ど会えないし…」
「それねー、まあ、まめに連絡は寄こしているけど…」
「そうだね、でも、アナタ君のメッセージの内容って、淡白じゃない?」
「「あー、それねー」」
「あ、おっしょーも、そうなん?ビルのヤツ、渾身のネタメッセージをスタンプ一つだけですませよって!!」
「はは、副長もどう返したらいいか、分からなかったんじゃないかな?」
「そうか~?」
「わたしは、既読が付かない時の方が気になっちゃう。」
「何かあったんじゃないかと心配になっちゃうよね」
「そのあとのフォローもないのよね。こっちがどんだけ心配してるのかわっかんないのかしら!」
「心配と言えば、タバコもやめてくれないし…」
「あー、キャンディー銜えているけど、服からタバコの匂いさせていることあるわねー」
(キャンディーが効果がないのは、なのはちゃんがキッスの小道具にしちゃうからじゃないかな?)
「ファンはお酒かな?飲み過ぎちゃうことがあるから…」
「そんならビルは~」
あれもこれも、そっちもこっちも…。
一度言い出したら、出るは出るは男の愚痴。女たちは散々相手を貶した後、いざとなったら男を叩きだして、女だけで一緒に住もう!と、笑いあったところで就寝となった。
翌日、バチェラーパーティーの影響で二日酔い気味のヴィルヘルムが酔い覚ましを求めて、「湖の騎士」シャマルを尋ねると、ゆったりとした普段着姿のはやてが、瞼を重たげに診断を受けていた。シャマルがカルテに何事か書き込んでから、はやてに釘をさす。
「はい、異常なし。ただし、寝不足には要注意!!」
「は~い」
しまりのない返事をするはやてを見て、ヴィルヘルムが言った。
「眠そうだな。それとも頭に葉っぱを乗せ忘れたのか?」
聞いたはやてがニヤリと笑う、
「そういうビルも、フロックコート(王子様の礼服)を着てないんやな?」
「昼までには、着こんでおくさ。乞食に見られないように…」
「私かて、取って置きの葉っぱを用意してあるからな~。ビルかて、しっかり騙したる」
自信ありげな表情で笑うはやての様子に、マリッジブルーで気持ちが沈んでいたりはしていないようだ。と、ヴィルヘルムは安心した。
「ん、どうやら、すっかりガス抜きは出来たようだな」
「うん。もちろんや、昨日の女子会の内容…、知りたいぃ?」
「絶対ごめんだ。女の口から出るモノは男にとっては猛毒だ」
こんなやり取りをしながらも、はやて達の結婚式はつつがなく執り行われた。
とらいあんぐるハート3の、月村忍は恭也の前を歩くタイプ。神咲那美は恭也の後ろについてくるタイプ。と、何かで読んだ記憶があります。
そのタイプの分け方をすると、アリサが前をいき、なのはが隣を歩き、すずかが…、後ろから押してくるタイプのヒロインになるのでしょうか?
以上で~不思議で不可欠、女子会編~ 終了になります。
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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何卒よろしくお願い申し上げます。