管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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88副長とはやて、はやてと依頼

「どういうことですか?課長」

「え、なにぃ?」

 特務六課の司令室にやってきたヴィルヘルムが開口一番に放った言葉に、さすがのはやても困惑した。

「需品科のサウルの元に再就職支援の話が来ている。他にも輸送科ホセア。給養科エステルも対象に上がっているようだ」

「はぁ?なんやその話…、聞いてへんで?」

 はやても再就職支援が通常、管理局を退職する局員向けの業務であることは理解できているので、その整った眉を潜めた。

「しかも輸送課のホセアは陸士学校出身やろ?任期、関係あらへんやんか…」

「ですが、案内が届いています」

 言いながらヴィルヘルムは幾つかの文書を空間ウインドに表示された。はやてが確認すると、管理局内で予算の事業仕分けが行われる予定があり、そのあおりで特務六課の予算も削減させようとする動きがあるようだ。

「三人の増員があったのだから、三人減らしても問題はないだろう…。新兵装を優先的に回しているのだから、その分何処かで割を食ってもらう…。と、言ったとこですね」

「更に言うなら、フッケバインからのメッセージの件があるからな。断りづらいやろ…っと思っておるんやろな」

 はやては不愉快そうに髪をかきあげた。自分の知らないうちに部下が勝手に切られ掛けていたのだから当然である。

 ヴィルヘルムが提案する。

「新規のAEC装備(オクスタン)とCW-ADXと取りやめてはいかかですか?数の戦闘でAEC装備の破損率が高いことが分かっています。まだ、実戦に耐えれるような装備ではないのでしょう」

「EC因子保有者への鎮圧能力があるのは確かや、対応する局員の生存性が上がるのもな…」

 はやてにはヴィルヘルムが、新しく出たばかりのAEC装備は費用対効果が悪く、そのしわ寄せが他の隊員にいっているのではないか。と、言っているように聞こえた。

「AEC装備がEC因子保有者への鎮圧能力があるのは確かでしょう。しかし、もっと安価で効果的な方法があります」

 いや、言っているのだ。

 はやては不愉快そうに眉を歪めると反論した。

「確かにAEC装備や第五世代を使用せずにEC因子保有者との戦闘に勝利した記録は知っとる。しかし、それは相手の殺傷を厭わない方法や」

「EC因子保有者全体としての課長の基本的姿勢は、管理局憲章としても正しいでしょう。しかし、フッケバインと自称する一団はすでに、3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる凶悪な罪を現に犯したか、既に犯したと疑うに足りる十分な理由がありあります」

「_ッ!!」

 ヴィルヘルムの言葉に、はやては発言者を睨みつけた。ヴィルヘルムが言ったのは、管理局員職務執行法における「武器(直接人を殺傷し、又は、武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装置、魔法式次第等)により人に危害を加えて良い場合」に規定されている事例である。

 遠回しだがEC因子保有者の生命に気を遣う必要はない。と、言っているようだ。

「審議官や査察官に対するような口ぶりやな。裁判中のように発言が全て記録されているわけやないんや。はっきり言ったらどうや!」

「なら、言ってやろう。フッケバインに対し、手加減のし過ぎだ!理想を掲げるのは結構だが、それでやられたらどうするつもりだ!」

 荒い口調になったヴィルヘルムの視線が落ち、はやての腹部に向かう。丁度、フッケバインの首領 カレンに背後からの貫かれた傷があるあたりだ。

「____っ、ふう」

 ヴィルヘルムの意図が分かって、はやては苛立ちを飲み込むことにした。

 はやて自身の負傷もそうだが、シグナムとアギトも一時、予断を許さない状態にいた。ヴィルヘルムにはずいぶん心配をさせてしまっていたようだ。

(あん時、ヴォルフラムに搭乗してへんかったのも、ビルがイライラしてまう理由かもしれへんな…)

 ヴィルヘルムの手の届かないところで、はやて達が負傷したと思ったら、今度は自身の知らないところで、部下がクビにされそうになっている…。面白いはずがない。

 恐らくヴィルヘルムの中での優先順位が、隊員の生命>隊員の生活>>>大きく離して>>>フッケバインの生命ぐらいになってしまっているのだろう。

「この程度、なんでもあらへんよ。シグナム達も回復出来たしな」

「君が無事だったのは、フッケバインどもの都合。シグナム達が無事だったのは、連中が二人の耐久性を見誤ったからだ。決して慈悲を掛けられたからではない」

 ヴィルヘルムの眉間に皺がよる。

 飛空艇フッケバイン戦闘後、負傷した体のまま「なんでもない」といって指揮を取り続けていることにも、ヴィルヘルムは多少なりとも不満を持っているようだ。

 次に何かあったら、負傷を理由に指揮権を取り上げられていたかもしれない。

「それでもや。可能な限り殺生は避ける。たとえ相手が抵抗した場合でも、ほかに手段がある場合はそれを選ぶ。これは、管理局の規定でもあるし、わたしの信念でもある」

「……知っています」

 ヴィルヘルムが不満そうに答えた。顔には、そこは曲げて正当防衛を上手く使えばいいだろう。と、書いてあった。しかし、はやてが頑固なことを再確認したのだろう。口には出さなかった。

「では、AEC装備の補給請求は、そのまま。それと…」

 はやてが続けようとしたところで、はやてに対しての呼出音がなる。呼出音の種類から言って外部からの連絡らしい。

「…ッ」

 話を邪魔されてはやては不快に思ったが、外部からの通信となると、上級部隊からの連絡かもしれない。

「出た方がいい。フッケバインからの『借り』とやらの件かもしれん」

「…せやな、解雇の話はまた後で、ビルはわたしの机上演習N81 Designs01からN81 Designs23の熟読と、引き続き予算調整をお願い」

「机上演習はすでに目を通しています。予算に関しては大幅に変更させて頂きます」

 ヴィルヘルムが口調を慇懃ながらも強い声で答え、はやての執務室を後にする。

「…あかんな~。ありゃ、機嫌取りをしなきゃあかんな~」

 執務室の扉が閉まるのを確認した後、はやてはそれだけ呟いてから、通信用の空間モニターを開く。と、スラリとしたハンサムが人好きのする笑顔を向けてきた。

「やあ、はやて。久しぶり…だね」

 男、ヴェロッサ・アコースのそれを向けるだけで、周囲の女性を虜にできそうな笑顔が声と共に萎んでいく。

(あれ、おかしぃな~、ちょお引きつってるかもしれへんけど、とびっきり笑顔で迎えているはずなんやけど?)

 はやてはそう自分に言い聞かせた。が、ヴェロッサに向けられていたのは、曇天のような笑顔の重圧である。

「あれ、なんだか、ご機嫌ななめ?」

「いや、人事と予算のことで部下と意見が対立してもうて…。大したことあらへん」

 容貌魁偉なヴィルヘルムの不機嫌な顔の後に、眉目秀麗なヴェロッサの笑顔を見せられ。「何を能天気な顔をしているのか」と、ヴェロッサに対して理不尽な怒りを覚えてしまった。とは言えず、はやては深く呼吸をした。

 その様子にヴェロッサが薄っすらと口角を片方だけ上げた。

「人事で…。なるほど…」

「何が、なるほどなんや?」

 まだ少し圧の残る声ではやてが聞き返す。気心が知れいている相手のせいか、少しばかり遠慮がなくなってしまっている。

「おっと、ごめんよ、はやて。二つほど分かったことがあってね」

「ん?」

 はやてが怪訝な顔をすると、ヴェロッサが笑みを消して続ける。

「先のフッケバインによるヴァンデイン・コーポレーション襲撃事件。同社は複数の世界を股に掛けるデバイスメーカーにもかかわらず、彼らに重要とみていた第八企画室室長がいた第4工場をピンポイントで襲撃している。一応、潜入を試みたようだが、その方法は稚拙で結局は強引な力技になっている」

「諜報能力は、そんなに高くない?でも、自分たちの必要なモノがどこにあるかわかっている?」

「その通り。そして、必要なモノを持っているのはヴァンデイン・コーポレーションも同じ…」

「ハラオウン執務官がハーディス専務取締役を尋ねたとたん、感染者の行動予測データの提出を材料に取引を持ちかけてきたからやな」

「あの規模の会社ならおかしくはないけれど…。管理局と言うよりも、特務六課が事態をどの程度把握していて、なにを欲しがっているかよくわかっているようだね…」

 ヴェロッサの目が細くなった。

 はやてにもヴェロッサの言わんとしていることは分かる。情報を漏らしている誰かがいる可能性が高いと言っているのだ。ヴェロッサの所属している査察部か、別の部署なのかまでは分からないが…。

「水漏れが酷いんちゃうん?ヴェロッサ」

「ああ、面目ない。それで漏水調査に付き合ってもらいたくてね」

「仕方あらへんな~。って、言いたいところやけど、水漏れ調査って言うより、釣りやろそれ」

「ああ、そうかもしれないね」

 言いながらヴェロッサがデータを送ってくる。

 資料を斜め読みして、おおよその内容を把握したはやてが言う。

「これって、うちの役割はお口の軽い魚を捕まえる針やのうて、浮きの役割やな」

「そうなるね。でも勘弁しておくれ。君たちの獲物は怪鳥だろ、魚は僕たちに譲ってほしい」

「なるほど。で、撒いたエサに魚たちが反応しているってのが、分かったことの一つなんやな」

「そういうこと」

「それって、ヴェロッサの撒いたエサのせいで、うちが割りくったって話やん」

「陸士学校出身の再就職援護室からの案内の件は無視して構わないよ。こちらで対処する。でも、予算の方は僕の所とは無関係。特務六課の計上していいる予算が膨らんでいるのは事実だから、どうにかしないと本当に予算の面で人を減らさなくてはならなくなる」

「え!!くぅ~」

 ヴィルヘルムの眉間に皺が寄ることを想像して、はやては頭を抱えたくなった。すがるように口を開く。

「ちなみに、もう一つの分かったってことは?」

 ヴェロッサは目を泳がせてから答えた。

「あ~、部下の扱いで苦労しているってことだね」

「やかましい!」

 はやては殴りつけるような動作で空間モニターを消した。




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