観測指定世界ベルテシャツァル 惑星ダニエル衛星軌道。
ヴォルフラムの艦橋で背筋を正したフェイトが言った。
「ハラオウン執務官は艦当直に上番します」
「高町1尉は艦当直を下番します」
同じく背筋を伸ばしたなのはが応じるように言うと、フェイトが艦橋勤めの仲間たちに言った。
「ハラオウン執務官が指揮を取る。勤務交代を開始。申し送りは漏れのないように」
フェイトの指示に従って、リインフォースII、シャリオ、アルト、ルキノが勤務中に起こったこと、これからの予定の確認作業に入った。フェイトも親友に対して労いの言葉を掛けつつ報告を行う。
「なのは、お疲れ様です。高速巡航機動隊からの連絡はあった?」
「ううん、フッケバインと思われる反応はないって」
今回の衛星軌道警備任務に就いているのは、ヴォルフラムだけではない。主力はヴォルフラムではあるのだが、索敵を主目的に、主力と離れて概ね単独で行動し、敵を警戒するレーダーピケットのような役割を高速巡航機動隊がになっている。
「それよりもクロノ君の艦隊が近くで訓練を行っているのは知っているよね」
「うん」
家族の名前が出てフェイトの顔が緩む。
今回の任務の期間中クロノの指揮する艦隊も遠くない場所で訓練を行っていた。
「あと2時間後に艦隊行動の訓練を行うから、センサー群にノイズが入るかもって連絡が来てるよ」
「ダークマターを避けるのに、広域スキャンでも掛けるのかな?了解です」
「それと報告、艦日日点検異常なし。本日の予防整備の予定はありません。航路情報として、ラケル人工衛星群通過確認。次、軌道が重なる可能性があるのは、30分後トビト人工衛星群」
「確か旧型で放棄されている人工衛星群だったよね」
「そう、旧暦時代のものだって。今のところ、外部からのコントロールは受け付けているみたいだけど…。管理責任が曖昧で整備がされていないから気を付けてね」
「分かった」
「他は…」
なのはは人差し指を頬にあて、考えるそぶりを見せた。フェイトが何だろうと、小首を捻っていると…、
(副長、どうしているか分かる?)
オペレーター達に聞かれないように、なのはが念話を飛ばしてきた。
(え、…っと、ずっと予算の見積もりと睨めっこしているみたいだけど…)
(そう…)
(どうしたの、なのは?あ、もしかして、はやての言ってた…)
(うん、副長、フッケバインに対してかなり怒っているからって…)
(う~ん、今のところ普段通りにみえたけどな~)
二人にはよくわからなかったが、はやてからヴィルヘルムの様子を気に掛けるように頼まれていた。曰く、冷静に見えて一度怒らせるとなかなか怒りが収まらないタイプらしい。もっとも、怒りの理由が部隊の仲間たちを傷つけられた為なのだから、当然と言えば当然だ。
(副長の場合、特にはやてちゃんのことになると…)
(そうだね…)
二人の内緒話を終える。
なのはが口頭で続ける。
「うん。報告は以上になります」
日誌を確認しながらなのはが報告を終える。その後は、一言二言、友人としての会話を楽しむのが通例だった。
「それじゃ、私の当直が開けたら…、昼食は一緒に出来るかな?」
「そうだね。確かメニューは…、レシピ考案・はやてちゃんのカレーだね」
「あ、それは楽しみ。カレーって船ごとに味が違うから…」
っと、二人が和やかに離していると、無粋な電子音が鳴り響いた。
通信を知らせる電子音に交代したばかりのシャリオが応じる。
「フェイトさん!高速巡航機動隊が新たな艦影を探知。推定サイズ次元艦クラス。進路、このダニエル宙域に向かって来ています」
シャリオの報告になのはとフェイトの顔が引き締まった。
「フッケバイン?」
「恐らく間違いないかと。画像ではまだ捉えられていないようですが、レーダーにははっきりとした艦影が写っているのに、魔法センサーでは捉えられないとのことです」
「ECディバイダーの効果だね。総員起こし!戦闘配置!!」
フェイトが命じると艦内にブザー音が鳴り響き、戦闘配置を告げるアナウンスが流れる。休息に入ろうとしていたオペレーターがバックアップ席に着く。
「接触までの時間は?」
「このルートだと、30分後にはこちらのセンサーにも捉えられます」
「特務本部に連絡!進路をポイントDへ!」
フェイトはフッケバインと思われる艦影にまっすぐには向かわず、やや迂回するルートを取った。こうすることで相手と接触する頃に、相手の側面か背後を取ることが出来る。
艦の出力が上がり、進路変更が行われると慣性中和フィールドがブルっと震えるような感覚を与える。空間モニターに映るヴォルフラムの航跡がポイントDに向かって進路を変えたころで、ヴィルヘルムが姿を現した。
「状況を」
ヴィルヘルムはそれだけ言って、状況を確認するとフェイトの取った行動が正しいと認め、艦長席の隣に立った。はやてが不在のため、ヴィルヘルムが艦長席についても問題ないのだが、はやてに義理立てしているのか座りたがらない。
「ケーニッヒ3佐が指揮をとる。ハラオウン執務官、高町1尉、リィンフォース曹長、君たちも持ち場につけ」
ヴィルヘルムの指示になのはとフェイトは顔を見合わせてから、フェイトが言った。
「副長、艦橋にジャンプされた場合を考え、私は艦橋に残ります」
フェイトは接近戦を得意とする魔導師であり、万が一艦橋で戦闘になったとしても、流れ弾を出す可能性が低い。それに海の執務官だけあって次元艦での戦いも心得ている。
ヴィルヘルムは頷いて許可を出した。
「許可する。しかし、指揮権は譲らんぞ」
「はい」
特に反対もされず、フェイトはホッとした。これではやての頼み「ヴィルヘルムの様子を気に掛ける」こともできる。
「じゃあ。フェイトちゃん。ここはお願い」
「うん、任せて」
フェイトはそう言うと、デバイスを待機モードのまま、バリアジャケットにセットアップした。
「では、わたしは船外作業ハッチに向かいます」
続いてなのは達もバリアジャケットにセットアップ。艦橋を後にする。
丁度、前足に脛当てをつけた大柄のオオカミが歩いてきた。オオカミ、ザフィーラはなのは達の姿を認めると、無言で頷き。艦橋の扉の前で腰を下した。何者も通さない番犬のような姿になのはは安心して自分の配置場所に向かった。
なのは達が艦橋を出て数分もたたないうちに、各所から配置完了の報告が入ってくる。報告を聞きながらヴィルヘルムがオペレーターに指示を出した。
「人工衛星群と周囲のダークマターを表示してくれ」
「了解です」
シャリオが答えて空間モニターに表示させると、ヴィルヘルムが情報を少しの間眺めてから口を開く。
「早めるか。接触時間を5分程早めることは出来るか?」
ヴィルヘルムが言うと、ルキノが答えた。
「可能です。前進3分の2になりますが…」
「構わない。そうしてくれ」
「了解。増速します」
「よろしい。これより本艦は、対艦戦闘に入る」
飛空艇フッケバインにリアクトしていたステラは、電磁センサーに捉えていたヴォルフラムが増速したことに気が付いた。
「あれ、こっちに向かって来ていた船、増速したみたいだよ」
「お、なんだ、なんだぁ。特務の連中やろってのかい?」
へそ出しショートパンツの赤毛の少女、アルナージが骨付きローストチキンを齧りながら、馬鹿にしたように笑いを上げた。
「あ?今回ヴァンデインの番犬をやっているのは、特務の連中なのか?」
他者を威嚇して回るような目つきをした青年、ヴェイロンも短い髪の毛をかきあげ、イラついた声を上げる。
それに答えるように筋骨隆々の男、ドゥビルが口を開いた。
「近くで演習を行っている艦隊が増援に来るのを待つべきだろうが…?どういうことだ?」
ドゥビルは他の三人を見ながら続ける。
「今回の情報…、カレンは欺瞞情報だと言っていただろう。特務でこちらの足を止め、艦隊で包囲殲滅を行う可能性が高い。とな。こちらに向かって来ることだけを取るなら、カレンの予想通りの動きだ。ヴァンデインのプラントに原初の種があると言う情報も信用できない。引くべきだ」
飛空艇フッケバインには、現在この4人しか乗船しておらず、また、観測指定世界ベルテシャツァルに来たことも、カレンの意思にそぐわない行動だった。彼らが求めている原初の種と呼ばれる何かの情報を聞いた若い3名が、カレンの不在時に暴走した形だ。
ドゥビルは彼らの行動を止めていた。が、先日のヴァンデインの工場襲撃で情報を掴めたことや、正面からの襲撃でもフッケバインに被害が出なかったことで、他の3人は気を大きくして、行動に出てしまった。
そこでドゥビルは見えないところで、行動を起こされるぐらいならついていったほうが、まだ、3人を御せるだろうと行動をともにした。…のだが、
「それだと、私達が艦隊ごときを怖がっているみたいじゃない」
「…それは、気に入らねぇな」
「そうだぜ、ビル兄。ヴァンデインに何もねぇとしても、行き掛けの駄賃だ。特務の連中をファックしてやろうぜ!」
普段、口数の少ないドゥビルでは、3人の説得は難しいようだ。ドゥビルはため息を飲み込む。
(結合分断(ゼロエフェクト)がある限り単艦でこのフッケバインを落すのは不可能だろう。タイムリミットは…、近くで演習をしている艦隊が押し寄せてくるまでだな。俺が引き際をわきまえていれば問題ない)
結局、ドゥビルは口を閉ざし、3人に好きなようにさせることにした。
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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