管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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92WIMPs、MM、岩の上のコマ

「アルカンシェル、第二射命中。やはり、魔力が結合分解されています」

 シャリオが報告した。

 フッケバインの ゼロエフェクトは健在で、アルカンシェルが先ほどと同じように結合分断していく。分断の速度も変わらず、パワーダウンしている気配もないため、まだまだ、エネルギーには余裕があるようだ。

「この数秒を無駄にするな。進路Bを取れ」

「了解、進路B」

 ルキノの操艦でヴォルフラムが、WIMPs型ダークマター群の中に潜り込んでいく。ルキノの操艦は悪いものではなかったが、ダークマターの持つ重力が複雑に絡み合う空間を進むのは難しく、機動力が落ちてしまう。

 ヴィルヘルムの取った進路に疑問を持ったフェイトが聞いた。

「ダークマターを盾にするつもりですか?」

「ん?その通りだ。弱虫 (wimp)とでも、言うつもりか?」

「え、いえ!」

 WIMPs (Weakly interacting massive particles) 素粒子論からダークマターを指す言葉を使った冗談のつもりで、ヴィルヘルムは言ったのだが、フェイトは額面通りに受け取ったらしい。慌てて手を振って否定した。

(ユーモアを出せる程度の余裕はある。と、示すつもりだったんだが、相手が変わると上手くいかんな…)

 普段、隣にいる人物を想定して、「確かに、マッチョ(MACHO:Massive Compact Object)の方が好みやわ」と、言い返してくるのを待っていたヴィルヘルムは肩透かしを食らった気分で続けた。

「それで、提案か?」

「進路Dの方が、攻撃をより遮蔽できると思われます」

 フェイトの言う通り、攻撃回避だけならその選択が正しい。

「いや、それだと反撃しにくい。連中に魔法による探知をさせたくないからな」

「フッケバインはゼロエフェクトの効果で、自身では魔法は使えませんよ?」

「ああ、魔導武装をほぼ無力化できる代償。彼らは魔法の恩恵を預かることもできん」

 艦橋に照準警報がなる。

「アルカンシェル、消滅。フッケバイン、艦首を当艦に指向!」

 アルトの報告で、センサー情報を表示している空間モニターを見れば、表示されたフッケバインの表示が赤く明滅していた。

「撃ってくるぞ。ゲルマニクス、最優先誘導対魔導スキャン。正射、始め!」

 ヴィルヘルムの指示で多用途魔法誘導弾発射装置「ゲルマニクス」から、誘導弾が射出された。空間モニターないで新たな表示となったそれは弧を描くような軌道でフッケバインに向かっていく。

「フッケバインに高エネルギー反応!来ます!」

 外部カメラの映像を写しているモニターが瞬く。しかし、艦の防御フィールドに攻撃が当たった衝撃も、急激な消費魔力の上昇が起こす証明のチラつきも起こらない。

「外れた?回避航行もしていないのに?」

 計器上の数値を確認していたアルトが口にすると、ヴィルヘルムが続けた。

「ああ、言っただろ、フッケバインは魔法の恩恵には預れない。魔法なら感知できるダークマターは、連中にとってはどこにあるかも分からない障害物だ。航行や照準するにしてもダークマターからの影響を補正できない」

「長距離での撃ち合いになる宇宙戦闘においては、目隠しして撃っているようなもの…」

「そうだ、普通ならゼロエフェクトを解除して、周囲を魔法探知したくなるだろうが…」

 ヴィルヘルムの言葉の途中で、シャリオの報告が入る。

「ゲルマニクス、着弾中、敵の損傷は確認できません」

「構わん、攻撃を続けろ。相手に魔導スキャンを使わせるな」

 先ほどヴィルヘルムが命じた多用途魔法誘導弾発射装置「ゲルマニクス」は、複数の誘導方式で相手を追尾する機能のある誘導弾である。レーダー波を感知出来なければ赤外線で、赤外線もダメならば魔法スキャンでと言ったように複数のセンサーで敵を追尾することが出来る。その最優先を決めるということは、最もレーダー波が出ているアンテナを狙う。温度が最も高くなり赤外線を放出する機関部を狙うなど、敵艦のどこを狙うかの選択をするという意味でもある。

 やられているフッケバイン側からすると、目を開けようとしている時に砂を掛けられ続けるような感覚と言えばいいのだろうか?少なくとも、目を開けて周りを見渡すことが出来ない。軍事用語におけるハラスメント(嫌がらせ攻撃)を受けている状態である。

「アウグスト用意、目標フッケバイン」

 ヴォルフラムに搭載されている長距離射程魔導砲「アウグスト」は、艦首前面に魔法陣を展開させて攻撃する。魔法陣の角度を調整して10時から2時方向に攻撃が可能だがある程度、相手に対して艦首を向ける必要がある。

 素早く命中率を計算したシャリオが報告する。

「今の航路ですとB-2-3まで、移動が必要になります」

「そうしてくれ。アウグストは3正射。撃っている間は、ゲルマニクスはMM(Mobile Mine)に設定して放出しろ」

 ヴィルヘルムが指示を出している間にも、フッケバインの攻撃は続いていたが当たらず、ダークマターの影響で明後日の方向に飛んで行く。

 ここまでは想定通り、ヴィルヘルムがそう考えたころ、内線の呼出音がなった。操艦や武器管制の仕事がないフェイトが応じる。

「…うん、分かった。報告、ありがとう。」

 トーマ達からの内線を受けたフェイトが、ヴィルヘルムに振り向く。

「副長、フッケバインから、トーマ達に対して通信が入ったと…」

「トーマ達に対する勧誘か?」

「え、あ、はい…」

 言い当てられてフェイトが言いよどむ。どうしてわかったのか?と、顔に表示しているフェイトにヴィルヘルムが言った。

「向こうからの通信はいつもそうだからな。それより、戦闘中は無線封鎖だ。双方向通信を繋いでどうする」

「あ!」

「フロント全員、後でペナルティを覚悟しておけ」

 落ち着いているが、低い声を出したヴィルヘルムに、フェイトは頬を引きつらせた。

 

 

 

「ヘイヘイ、ステラ。当たってないよ!」

 フッケバインの艦橋でエンゲージワイヤーに繋がれたステラに向かって、アルナージが煽るように声を掛けた。

「ロックオンは出来てるわよ!なぜか砲撃が直進しないの!」

「あぁん!?管理局の新型フィールドか?」

 座席の背もたれを倒し欠伸を嚙み殺していたヴェイロンが口を開いた。

 基本的に相手の顔が見える距離で銃を使った戦闘を好むヴェイロンに取って艦対艦戦闘は興味なかったのだが、射撃に影響が出る技術と言われて興味が湧いたようだ。

「いや、恐らく付近のダークマターからの重力の影響だろう。補正をかけなければ、直射だろうと誘導弾だろうと、まともに飛ばん」

「げ、それ先に言いなよ、ビル兄」

 ドゥビルが説明をいれると、アルナージが計算なんて面倒くさい。と、言わんばかりに舌を出した。

「カレンからの忠告のメッセージも届いていた。警告もした」

「ああ、言ってたな。フッケバインの新航行システムを試す。って聞かなかったのは、お前らじゃねぇか…」

 ドゥビルに続いてヴェイロンがイライラした口調で言った。艦内で昼寝をしている間に強制的に付き合わされる形になっているので機嫌が悪いようだ。

「…ああ、もう。このタイプのダークマターなら…」

 ステラは一度魔法センサーの受信機を伸ばし、ゼロエフェクトの解除を試みたが…、

「…ッ!もう!!」

 殺到してきたゲルマニクスによって受信機を破壊されてしまった。受信機の破損程度、瞬く間に再生できるフッケバインだったが、静電気のような破損を知らせるフィードバックが鬱陶しい。魔法によるスキャンを諦めたステラが不機嫌に言った。

「ようは、ダークマターの影響を気にしなくていいぐらい近づけばいいんでしょ。新航行システムの力、見せてあげる」

 

 

 

 フッケバインは一度魔法によるスキャンを試みたようだったが、ゲルマニクスによる攻撃が続いているため、 ゼロエフェクトを解除するわけにも行かない。

 業を煮やしたフッケバインの操舵手は距離を詰めて、直接照準で狙いを定めることにしたらしい。フッケバインの推進機構が火を噴き、ヴォルフラムを追ってくる。

「副長!フッケバインの機動力が向上しています。このまま距離を詰められると、直接照準される可能性が!」

 以前のフッケバインのデータと比較して、アルトが驚きと焦りを持った声で報告してきた。フッケバインの航行システムに何かしらのバージョンアップが施されたらしい。

「落ち着け。敵の足が早くなったとしても、障害物の位置を把握していないフッケバインがこちらに追い付くのは困難だ。それよりも、B-2-3に到達するぞ」

 ヴィルヘルムが空間モニターに表示を確認しながら答えると、アルトは慌てて武器システムを確認した。

「りょ、了解。アウグスト、照準よし。ゲルマニクス、モード切替MM」

「アウグスト、スタンダード、正射3連!MM放出開始!」

「アウグスト正射後、ゲルマニクスは先ほどの設定へ切り戻せ。航路はDを逆進」

「逆進ですか?」

 操艦するルキノが聞き返した。

「そうだ。今しばらく、フッケバインをここに留める」

 ヴォルフラムが進路を変えると、それを追い駆けるフッケバインがB-2-3のポイントまで移動し始める。ヴォルフラムと全く同じ航路をたどり、速力に任せて捉えるつもりのようだ。

「フッケバイン、増速。こちらと同じ進路を辿って追撃してきます。これではダークマターの影響がありません」

「そのとおりだ、ロウラン操舵長。同じ道を辿っているならば条件は同じ。向こうが速ければいずれ追い付かれるな」

「では、増速を?」

「無用だ。暫く、鈍足のふりをしていろ」

「それだと光学照準された場合、一方的に攻撃を受けることに…」

 こちらの攻撃が有効でない以上シャリオの意見は正しい。が、ヴィルヘルムは堂々と言った。

「無用の心配だ。それまでに段取りは終わらせる…。D-4-1でアウグストの正射は可能か?」

「は、はい」

「では、そこで同じく3正射。今度は魔力収束最大。ゲルマニクスは設定そのまま」

「了解」

「アルト、B-2-3のポイントで放出したMMゲルマニクスの活性化準備をしておけ」

 ヴォルフラムの攻撃は無効化され、フッケバインの攻撃は当たらない。そんな不毛とも思える攻防が数分続き。互いにD-4-1とB-2-3付近にたどり着く。

「敵が減速するぞ。そこを狙え」

 フッケバインの新航行システムであっても、方向転換中には減速してしまうことには変わりない。ヴィルヘルムの言う通り、B-2-3のポイントに到達したフッケバインが進路を変更。減速する。

「MMを活性化!同時にアウグスト正射、3連。ゲルマニクス、スタンダードも撃ち続けろ」

「MM活性化、フッケバインを捉えました」

 MM(Mobile Mine)は、艦から射出され自走した後に、指定された場所で相手を待ち伏せ攻撃を行う魔法弾である。相手がこちらと同じ航路を通るのなら、仕掛けるのはたやすい。

「アウグスト、ゲルマニクスとの同時着弾を狙え」

「アウグスト、正射!」

 フッケバインの後方からMM、前方からはスタンダードと アウグストとの同時攻撃。結果から言えば、それはフッケバインに対して有効な攻撃にはならなかった。

 シャリオが報告してくる。

「フッケバイン、さらに減速。しかし、攻撃はすべて無力化された模様!」

「航路Dの逆進を継続。ゲルマニクスの攻撃も止めるな」

「了解、逆進を継続」

「ゲルマニクス攻撃継続。しかし、副長、ゲルマニクスが加熱しています。攻撃継続は十数分が限界です」

「それだけ撃つことが出来るなら問題はない。クラエッタ1士。それよりも、同時攻撃した際、ゲルマニクスの無力化に変化はあったか?」

「いえ、無力化にかかる時間。MMとスタンダードの間に差は見受けられません」

 アルトが答えるとヴィルヘルムは、シャリオに聞いた。

「アウグストの方はどうか?」

「一撃目よりも、二撃、三撃目の方が短い時間で無力化されています。これはフッケバインの減速と同じタイミングです」

「わかった」

 報告に対して返事をしながらヴィルヘルムはフッケバインのゼロエフェクトの性質を考える。効果の強弱はあるようだが、部分的な集中、例えば艦の前面だけに効果を集めてエネルギーの消耗を抑える。と、言った運用方法は出来ないようだ。言い方を変えるとゼロエフェクトが効果を及ぼしている間は、低出力の攻撃は不意打ちでも意味をなさないことになる。

 しかし、ヴィルヘルムは表情を変えずに言った。

「取るべきデータは取ったな、後は安全地帯まで走るだけだ。よし、航路N。増速して、防衛線まで後退する」

「しかし、フッケバインを防衛目標に近づけることになりますが…」

 ヴィルヘルムの指示に、ルキノが疑問を投げかける。

「構わん、防衛線にたどり着くころには、援軍が来ているはずだ。岩の上のコマと同じだ。安全地帯に駆け込め」

「了解、航路N。防衛線まで後退」

 




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