管理局世界の人々~Force編 おもちゃ箱~   作:ゴケット

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95醜い脚のハンス

「発射後、反応前に安全距離まで退避する。航路は任せる」

「了解」

 躊躇のないヴィルヘルムの声にルキノが答える。

「アルカンシエル、発射」

 ヴィルヘルムが発射キーを捻る。

 外部カメラの映像が光で染まる。-発射されてしまった-、闇の書事件、JS事件と、フェイト自身も世話になったことのある魔法ではあるが、確実に相手を殺傷するであろう状況で使用されるのは初めてだった。

 発射に合わせ艦を退避させながらルキノは、ヴィルヘルムの様子を伺ったが、うろたえた様子は全くなかった。残忍な分けでも、情に薄いわけでもない。むしろ逆で、部隊に情があるからこそ、はやてには出来ないことをやる。そうすると覚悟を決めていたのだろう。

 普段柔和で幼馴染に振り回されていた自分の旦那も、これと決めた時には、ガンとして譲らない。それと同種の力強さを感じた。

(八神2佐を傷つけられて、相当ご立腹だったのね)

 空間モニターのなかで、発射されたアルカンシエルがフッケバインに迫っていく。-これは当たる。フッケバインは避けきれない-と、誰もがそう思った。

 シャリオのコンソールに表示されたある数字が跳ね上がる。

「フッケバインに転移反応!」

 反射的にシャリオが報告した。とたん、

「機関最大!ランダム回避!」

 ヴィルヘルムが大声で命じた。そのまま、館内放送のスイッチを入れると、

「全員、何かに掴まれ!」

 そう告げると、自身は艦長席のアームレストを掴んだ。

「機関最大、ランダム回避」

 ルキノが命令に応じて操艦すると、中和フィールドで受け止めきれなかったGが艦を揺さぶった。

 運悪くヴィルヘルムに詰め寄りかけていたフェイトにはつり革も手すりもなかった。バランスを崩したところで、太い腕が伸びてフェイトを艦長席に引き据える。腕の主はフェイトに覆いかぶさる姿勢でGに耐えていた。

(ああ、副長がその位置に立っていたのは、何かあったときに、艦長席を守るためだったんだ…)

 艦長席からヴィルヘルムを見上げ、そんなことを思ったところで、急制動によるGはおさまった。

「フッケバインの反応。消えました!」

「アルカンシエルを自己崩壊させろ。全周スキャン!回避航行継続!」

 ヴィルヘルムがもとの姿勢に戻り命ずる。オペレーターは命令を続行したが、フッケバインの反応を捉えることは出来なかった。

 ヴィルヘルムは通常航行に移行させ、言った。

「やはりこうなったか…、ドゥビルとかいう、ショートジャンプ使いだな。高速巡航機動隊に捜索を要請しろ。個人の転送能力ではそう遠くまでは跳べないはずた」

「了解。あ、たったいま高速巡航機動隊から連絡が入りました。フッケバインらしき、反応を捉えたと…、撤退しているもよう」

 アルトが報告して、ため息を着いた。とりあえずの危機は去ったとみていいだろう。

「フィニーノ、転送時のデータを最大限保存しておけ。あの状況だ、今のが敵転送能力の限界とみていいだろう」

「あ…、なるほど…、了解」

 シャリオが含みのある物言いで返事をした。皆、ヴィルヘルムは相手の転送能力を探るために、アルカンシエルを放ったのだと思った。転送反応があった直後、回避航行を取ったのは、その転送先が本艦の背後だった場合を端から想定していたからだ。とも…、

 フェイトも狐につままれたような気分になっていると、空間モニターに新たな艦影が表示された。

「副長、ハラオウン艦隊が来援しました」

 シャリオが報告した。

「ああ、だが、いささか複雑な報告をしなければならないな…」

 ヴィルヘルムはそう言って、フェイトを見下ろした。

「報告はお任せしてよろしいですか?テスタロッサ艦長?」

 戦闘の終息宣言代わりのジョークのつもりでヴィルヘルムが言うと、フェイトは一瞬キョトンとしてから、

「あ!!す、すみません!!」

 座りっぱなしになっていた艦長席から、慌てて立ち上がった。

 

 

 

 来援した艦隊に、はやてに、特務本務にと、戦闘が終わっての報告だけでも結構時間が掛かるのが公務員。部下たちには半減休息を言い渡し交代で休ませていたが、ヴィルヘルムが戦闘後のすべての後始末を終えるころには、夕食時間はとうに過ぎていた。もちろん、取り置きをしてくれているはずだが、冷めた食事はあまり食欲を刺激するものでもない。

(強奪した食料の分け前だけ考えていればいいフッケバインが羨ましいことこの上ない)

 不謹慎なことを考えながらヴィルヘルムが艦橋を後にすると、オオカミ姿のザフィーラが扉の脇に座っていた。

「ご苦労」

 ヴィルヘルムが一声かけ通り過ぎようとしたが、ザフィーラが起き上がってついてくる。通路には人影は見えない。艦橋の扉からある程度離れたあたりで、珍しいことにザフィーラから問いかけてきた。

「見習い三人の処遇は?」

 ザフィーラが問うたのは、トーマ達が行った2度の通信封鎖破りに、無許可で持ち場を離れて立ち入り禁止の艦橋にきたこのに対する処罰のことである。

「軽度の命令不服従につき自室待機。ま、初犯なので、何かしらのペナルティを与えて終りだ」

 指示や命令を守るのは、個人のみならず、集団を守るためのルール。命令不服従。立派な懲戒の対象である。しかし、管理局員としての職務年数、正式な教育機関を出ていないことを留意して、正式な書面には残さないことにしたらしい。その後のペナルティを決めるのははやてだ。場合によっては3人が非常に恥ずかしい思いをするかもしれないが、ヴィルヘルムの知ったことではない。精々酒のつまみになってくれるといい。と、ヴィルヘルムは思っていた。

 ザフィーラが続ける。

「なぜ、仕留めそこなった…」

「…」

 ヴィルヘルムは足を止めた。それにならい足を止めたザフィーラは相手の背を見ながら言った。

「聞けば、フッケバインとの接触を数分早めたのだろう?それはハラオウン艦隊の来援時間を伸ばし、この艦のみで仕留めるつもりがあったからだろう。お前が用意した策が衛星だけとは思えん…」

「…打てる手はいくつか残っていた。しかし、一家の能力が想定よりも高く、情報収取に徹した。…だけではないな」

 ヴィルヘルムは無言で深く息を吸った。

「カラスの頭がついていなかったからだ。羽を何本か毟ったところで、悪戯カラスが改心するわけではないからな」

「首尾よく、毛糸で首をしめることが出来たとして、法に触れるのではないか?」

「正当防衛だ。それが適用されなかったとして、クオリファイド・イミュニティの適応範囲内だ。はやては不満に思うかもしれないがな」

 はやての怒りを買うことも含めて、織り込み済みだったようだ。

 ザフィーラは闇の書事件を思い出した。あの時我らは主の意思に反して行動を起こし、結果的に主に負担をかけることになってしまった。が、あの時もし、この男が傍にいたならば、あるいはアインスも…。

「フッ…!」

 もしもを、想像してしまった自分に、ザフィーラは思わず失笑してしまう。それをヴィルヘルムは感づき、振り向く。

「ん?何が可笑しい」

「いや、つまらん空想だ。気にするな」

 ザフィーラはそう言って口を閉ざしたので、ヴィルヘルムはそれ以上追及することはなかった。

 ヴィルヘルムの当面の課題は、カラスの羽の枚数やオオカミの毛並みよりも、狸の皮算用である。

(食事を終えたら、もう一度予算案を練り直すか。最低でも2人の予算を捻り出さなければ…)

 そんなことを考えながらヴィルヘルムは食堂に向かった。

 




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