それから数日、衛星軌道警備の任務を終えたヴォルフラムは特務六課本部にもどり、フッケバイン一家の足取りを追う捜査と訓練に戻ることとなった。
ヴィルヘルムも、自分のデスクで無数の書類を睨みつけていた。
「やはり、削ることが出来るとしたら。民間委託している施設の管理費だな…」
管理局にも施設の管理の部門があるとはいえ、全てを局員だけで行っているわけではない。本庁舎などの清掃、警備、ごみ収集、コンピューター情報処理など、専門性・反復性の高いものは、直接処理せず、民間業者に委託して行っていることもある。特に人の数だけなら地上部隊に劣る次元航行部隊が現地に居を構える際には、民間市場からサービスを購入することが通例になっている。臨時任務の為に編成された特務六課もその方式を取っていたのだが、当然、金が掛かる。特に人件費。何しろ特務六課があるのは、世界別平均年収第一位のミットチルダなのだ。そこに一般的な管理局の装備を使用せず、新規装備が2種類。アイシスのオリジナル武装、トーマ達のエクリプスウェポンの研究費…。
本局の派閥争いを抜きにしても、予算についてケチをつけたくなる者が出てきてもおかしくない。
「これと、これは、勤務の調整で対応できるな。これは、いや、代休を消費出来なくなるか?この間の件を引き合いに出して…。いや、士気に関わる…」
なんとか1週間以内に目処を立てておかないと、2/4半期での民間企業との契約内容の変更が間に合わない。そうなると来年度には、部下を二人ほど退職させなければならない可能性が高まる。
ヴィルヘルムが顔をしかめていると、呼出音が鳴る。
「またトラブルか?」
自分の出したトゲの生えた声を聞いて、まずいと思ったヴィルヘルムは6秒間だけ、相手を待たせることにした。
「どうぞ」
先ほどよりは、ましな声が出た。
「高町1尉、入ります」
「…?何か用かね?」
入ってきたのは、なのはだった。装備に不具合でもあったのだろうか?しかし、その場合内線で一報してくるはずだが…。
「はい、予定していた休暇なのですが…」
「ああ、ヴィヴィオの学校の用事があるのだろう?」
休暇計画はヴィルヘルムも確認する立場にある。休暇理由を思い出しながらヴィルヘルムが返事をする。
「はい。ですが、代休をその日に割り当てますので、代休日はわたしが警備隊長に着きます」
ありがたい話だったが、ヴィヴィオのいきさつを知っているため、ヴィルヘルムの方が気を使って提案した。
「それは助かるが…、いいのか?代休日はヴィヴィオと過ごせば…」
「いえ、最近娘も独り立ちしてきまして…、わたし達を置いて友人宅でお泊り会だそうで…」
中等科になったヴィヴィオは徐々に母<友人になりつつあるようだ。ちょっとだけ、元気がなくなるなのは。
「そ、そうか…、了解した…(ちょっと前まで、ママにべったりだと思っていたんだけどな)」
他人事ながらなのはに同情しながら、ヴィルヘルムは了承した。
それからすぐに、フェイトがやってきて、
「副長、周辺住民との助成金の契約書なんですが、行政書士を入れる必要はありません。私が作成します」
と、なり、
「副長、次の寝具クリーニングですけど、地上部隊に施設を借りることが出来そうなので、業者委託は要りません。地上部隊との交流会をかねてオペレーター班で行ってきます」
と、シャリオ達が来たと思ったら、
「おい、副長さんよ。見習いどもの訓練に、第97管理外世界の修行の要素を取り込むことにした」
「…修行の要素?」
ヴィータの訓練プランの意図が分からず、ヴィルヘルムが聞き返す。
「掃除だよ。第97管理外世界の修行じゃ、精神の鍛錬の為に掃除を取り入れているんだ。つーわけで、暫くの間、隊舎の清掃員は雇わなくていい」
更には、
「ケーニッヒ副長、隊員のケアを栄養面でもサポートしたいので、この期間のKP作業員(炊事場勤務者)は私が加わりますね」
「シャマル先生。では、よろしくお願いします」
ヴィルヘルムは承諾したが、その日のうちにヴィータが飛んできて、トーマと配置が入れ替えになった。
衛星軌道警備の任務前にヴィルヘルムが目星をつけ、稟議の承認を止めていた予算の代替案が概ね出揃ってしまった。皆、休日返上した形になってしまったが、応急措置としては十分。後は補給処とメーカーの契約を結び直せばどうとでもなる。
最後にヴィルヘルムのデスクにやってきたのは、はやてだった。
はやては表面上ニコニコと笑いながら、
「お疲れ様です。ケーニッヒ3佐。先日は、ヴォルフラムの指揮官代理、ありがとうございました。
おかげさまで、私が見落としていたフッケバイン一家の能力についての新しい情報を収集できたと、特務本部より称賛を受けることが出来ました。
特別審査会当日は、まさにフッケバイン一家に対する対応についてご質問をうけましたが、ケーニッヒ3佐の取った私が行った机上演習を基とする作戦のおかげで、回答することができました。これもケーニッヒ3佐のおかげです。お願いして本当に良かったと思います」
警備任務につく直前のやり取りの意趣返しのつもりなのか、慇懃な言葉遣いで話し掛けてきた。
「こちらこそ、出張の際には、さまざまなお心遣いをいただき、誠にありがとうございました。深くお礼申し上げます。
ご多忙中にもかかわらず、補給業務の調整、人員割り当てにご協力くださったことを、心より感謝しております。おかげで、部下が救われました」
同じく慇懃に返してやると、はやての頬が引きつった。が、
「ところで、ケーニッヒ3佐の取った作戦では、最終的に使用された装備が机上演習とは異なっていました。問題がなければどういった意図で使用されたのか、説明していただけると助かります」
まだ続けるつもりらしい。
ヴィルヘルムも面の皮を厚くするのは得意だったが、はやての引きつる頬が気になり音を上げた。
「分かった、分かった。いつまで、Sie(ズィー)を使う気だ。Du (ドゥー)で話せ」
「ふん!で、どういうつもりやったんや?」
鼻を鳴らしたはやてが、いつもの奇妙なイントネーションのある話し方に戻った。
「無論。仕留めるつもりで使った。投降の意思がないことも確認していたしな」
「なんでや!ビルなら、確保する方法も思いついたやろ」
「…まあ、そうなのかもしれないな。しかし、私にはフッケバインをただで返すという考えはなかった。公私を上手いこと噛み合わせた私的制裁だった。と、言ってもいい」
「それ、口にしていいことやないんよ」
はやての目が細まった。上司と部下という関係だけだたのならば、処罰を考えなければならないレベルの発言だ。
「そうだろうな。審査や査察で口にしたら致命的な失言だ。だが、どうして私が私的制裁なんてことを考えたのかも理解していた方がいいぞ」
「…」
「大切なものを傷つけられて怒りを感じるのは、不思議かね?」
ヴィルヘルムがそう言いはやてを見つめると、はやては視線をそらして口を尖らせた。
「…(そないなこと言われたら、なんも言えへん)」
ボソボソと何かを呟くはやてに、ヴィルヘルムが続ける。
「私にそういう真似をさせたくないのなら、最低でも無事に返ってくることだな。…もし、君が指揮が取れなくなるようなことがあるならば…」
ヴィルヘルムの目に猛毒の殺意が込められていくのを見て、はやてが止めた。
「わかっとる。私かて痛いのはややからな」
はやての言葉を聞いて、ヴィルヘルムが眼がしらを揉んで深呼吸をすると、目から毒が消えていた。
「それと、予算の件は助かった。正直、皆からの同意を求めるのは難航しそうだと思っていた」
命令してしまえばそれまでなのだが、士気を下げることになりかねない。士気の低下はヒューマンエラーの発生に繋がる。事件を追っている今なら尚更だ。
「普通に頼んだらよかったのに。みんな仲間のピンチで、副長が困っとる言うたら喜んで協力してくれたで~」
ヴィルヘルムは部隊の煩型など、嫌われているぐらいが丁度いいと思っているので、そう言われると悪い気はしない。
「…そうか。なら、協力してくれた者たちに、差し入れの一つも考えるか」
思わず口に載せたのが失敗だった。
「おっ、ラッキー、審査会を乗り切ったらご褒美で行ったろと思っとった店があるんや」
はやてがニヤリと逆らい難い笑みを浮かべてヴィルヘルムを見た。無駄だと知りつつヴィルヘルムは一応反論した。
「なんで、君が催促するんだ」
「私が一番の功労者やからな」
自慢げに、はやては少々小振り(ヴィルヘルム基準)の胸を張る。
「わかったよ。どこの店なんだ?」
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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