99フッケバインとの戦闘報告1/2
■■■■■■■■戦闘報告書 第■■号「EC因子適合者フッケバインとの戦闘報告」
戦闘の概要
戦闘の場所:第■■管理外世界『■■■■■』
戦闘の日時:新暦80年■月■日
参加局員:■■■■■■■■2人(AEC武装戦闘員1人、支援員1人)
敵兵力:EC因子適合者3人(強度の病化済3人)ディバイダーの所持を確認。
作戦経過:
ミッドチルダ標準時1256(現地時間では夕暮れ)
フッケバインの出現予想ポイントA-3に転送反応を感知。AEC武装戦闘員が隠密転送にて現着。無人機を使用した監視を開始。
『エイブラハム、A-3サーチャーに感あり、どうやら当たりを引いたらしい』
『管理世界に近いから可能性は低いと思っていたんだが…』
『最近、連中の艦が、アルカンシェル搭載艦とやり合ったという話が合っただろ。あれ以降、管理世界近くでも活動するようになっている』
『自信をつけたってことだな。行動が大胆になっている…、あるいは殺戮衝動が加速しているのか…』
『テーの予想は正しかったな』
『…観測ポイントを移動する』
作戦のナビゲーションを担当しているパーシングからの連絡でエイブラハムはすぐに行動に出た。カード型デバイスの魔力を起動させ。本棚型の魔法陣を潜ると、大小の岩がゴロゴロと転がる岩場に出た。太陽は沈みかけていて空を様々な色に染めていたが、未知のウイルスにより殺戮衝動を持った集団が近くにいると思うと、美しさより不気味さの方が勝った。エイブラハムはAEC武装を起動させると、無人機を転送反応のあった地点に向かわせた。
無人機は魔法の電磁メタマテリアル加工で、透明化していたが要人の為に岩場に隠れて接近する。死角の多い場所なので発見は手間取るかと思っていたが、目標はすぐに見つかった。
フッケバインは堂々と姿を晒し、周囲のなかで一際大きな巨石に乗って街道を行くキャラバンの様子を探っていた。
『稜線上に身を晒すとは、戦術を無視している。次元航行技術はなくても、魔法は存在しているんだけどな、この世界…』
『自分たちのゼロエフェクトに自信があるんだろ』
『慢心だな…』
エイブラハムが通信で答えながら武器ラックの中から円柱状のボトルを二つ取り出す。残量計を覗くと、一方には黒い液体が、もう片方には白い液体が満ちていた。イーグレットSSなどの民間軍事会社でも使用されているパフュームと呼ばれる戦闘用の薬品だ。
ボトルについた安全ピンに指をかけ、エイブラハムがフッケバインを改めて観察する。
相手は3名、男が1、女が2、男は青々とした髪をしてローブのような服を纏っている。積極的に先頭に立つタイプには見えない。対して女たちは二人とも活動的な服装をしている。一人は褐色の肌に金髪、一人は黒髪のアジア系、アジア系の女は腰からサーベルを下げていた。
サーベルを見たパーシングが言った。
『あれがディバイダーか?』
『いや、確認されているものとは違う。あれは…』
『待て、エネルギー反応』
女たち手の平から光が伸び形をなした。褐色の女の手には双剣、アジア系には魔導書。
『仕掛けるつもりだな。そうは行くか』
作戦経過:
ミッドチルダ標準時1304
フッケバインが、小規模なキャラバン隊を襲撃する意図を見せたため。■■■■■■が、フッケバインに攻撃。キャラバンの防衛を開始しました。
ボトルのピンを抜いて振りかぶる。風速2m/s、距離160m、戦闘用のデバイスが演算したベクトルにボトルを投擲すると狙い通りフッケバイン頭上に届いた。
『白の香No.15 フォグ・オブ・ダウト』
白のボトルが先に弾け中から無数の白い蝶が飛び出す。蝶たちは大量の鱗粉を撒いてフッケバイン達の視界を覆った。
これでフッケバインの視界はほぼゼロ。煙幕で相手の視界を遮って距離を詰める。古典的だが今も有効な戦法には違いない。
腰のハードポイントで保持していた二本の大型マチェット。その片方をを引き抜き、一気に距離を詰める。が、蝶たちの作った煙幕から、本のページのようなものが飛び出し、エイブラハムを確認するかのような動きを見せると、囲うように距離を詰めてきた。アジア系の女が操っているのか、自動なのかは分からないが素早い反撃である。
(こちらも備えをしているけどな)
白のボトルから一拍遅れで弾けた黒のボトルから、黒い鳥の群れが飛び出しページと、ページの本に向かって攻撃を始めた。
『黒の香 No.5 ランブリングスパロー』
鳥たちがページに接触すると小爆発を起こして周囲のページを吹き飛ばす。それは煙幕の中でも同じだったようだ。爆音の合間に女の驚いたような声が聞こえてきた。
(驚き…、余裕がありそうだな。なら…)
エイブラハムはアジア系の女に追撃を掛けるために煙幕に飛び込もうとしたが、すんでのところで後方に跳んだ。
荒々しい風切り音がエイブラハムのいた空間を通り過ぎると、そのままエイブラハムに跳ねてきた。風切り音、褐色の肌の女は、エイブラハムが双剣の間合いに入っていないのにもかかわらず、腕を交差させ、手にした剣を担ぐような構えを取った。
(間合い外にも関わらず、十文字切り…。って、ことは、だ)
双剣が振られるタイミングでエイブラハムは地に伏せた。背筋をゾクリと冷やす何かが、真上を通り過ぎると後方の岩が縦ずれ断層を起こした。何らかの粒子を噴出させた遠距離攻撃を行ったのだろう。
(常に間合いに入っていると思えば、どうってことはないな。それに…)
エイブラハムはそのまま地を這う爬虫類のような姿勢で間合いを詰め、打ち終わりの姿勢のままの褐色の肌の女の片足を両断した。
「_ぬッ!」
褐色の肌の女はバランスを崩して倒れたが、上げた声は苦悶の声ではなく、予想外のことが起こったことに対する疑問の声のようだった。
(四肢を絶たれても動揺一つなしか…、だが、脳を潰せば流石に終わりだろ)
エイブラハムが返す刀で眼窩部を通す突きを放とうとしたが、ローブの男が煙幕の中から飛び出し、エイブラハムに向かって拳を振るってきた。音響センサーで、男の動きを捉えていたエイブラハムは男の拳を掛け受けでいなそうとしたが、予想以上のパワーで受けきれず、頬に拳を貰って吹き飛ばされてしまった。
持てる技術を総動員して衝撃をいなしたがフレームが軋み、右の視覚にも影響が出た。
(戦闘に参加しない援護型のEC因子適合者ですら、ここまでパワーがあるのか)
回転する視界の中なんとか受け身を取る。と、
「灰被り」
煙幕の中から女の声が聞こえたかと思うと、爆発が巻き起こり白の香と黒の香が吹き飛ばされた。爆発を起こした本人は宙に舞っていたページ達を魔導書型ディバイダーに回収しながら、こちらの姿を見て、にぃっと笑う。
「こんにちは。最高評議会の殺し屋さん」
「評議会の?ああ、魔法に寄らずに陸戦魔導師なみの戦闘能力を見せるエージェントがいると情報がありましたね」
笑うアジア系の女に続いて、男も口を開いた。
「こいつが?案外普通のなりをしているんだな」
続いて褐色の肌の女が尻餅をついたまま、エイブラハムのつま先から頭までを見回す。エイブラハムも釣られて手にしたマチェットに映る自分の姿を確認してしまった。
いつもの覆面は破れ、マチェットになんの特徴もない男の無表情が反射されていた。
アジア系の女が続ける。
「まあ、腕前に関しては情報のとおりって、思っていいのかしら?フォルティス」
「ええ、そのようです。油断は禁物ですよ、カレン」
アジア系の女カレンの問いに、ローブの男フォルティスが返事をする。
「相手の受けごと頭を砕く予定でしたが…、腕を落されてしまいました」
言いながらフォルティスは地面に落ちていた自身の手を拾い上げた。今のフォルティスの片腕は肘から先が殆どない。拳の威力を落すためエイブラハムが吹き飛ばされる直前に切り落としていたからだ。
「推定の筋力は常人の数十倍。まあ、大したことではありませんけどね」
フォルティスはゴミでも捨てるかのように、腕を放り投げた。投げられた腕が地面に落ちるまでに、フォルティスの腕が新しく再生する。
「問題はあの剣の方だな…」
褐色の肌の女が言いながら立ち上がる。こちらも足が新たに生えたようだ。立ち上がった女は、再生した足が裸足のためバランスが悪かったのか、残った靴のヒールを地面に打ち付けて折りながら続けた。
「私たちの手足を両断できる実体剣。あれがAEC装備か」
褐色の肌の女がいうと、カレンが答えた。
「いいえ、違うわ、サイファー。AEC装備は、まだ、一号機が教導に納品されたばかりよ。多分、その前の基礎研究で作られたモノでしょう」
(正解)
エイブラハムは口には出さずにカレンに答えた。手にしているマチェットは。CW-AEC00X フォートレスの内臓武器である「近接近用実体剣」の試作品を、今回の任務用の個人兵装として改造したものである。
(しかし、この情報力。何処のバカだ?真水不足と騒いだヤツは?…仕込みに対する対応もされているのか?)
「武器としての魅力には欠けるというわけか…。なら、私の足を落したのはこいつ自身の腕前か…」
エイブラハムが答えずにいると、カレンの言葉にサイファーと呼ばれた女はより嬉しそうな顔をした。
(あ、こいつ。シグナムと同じバトルマニアだな)
いつだったかの長期休みで、ある教導官に付き合わされたオフトレーニングで出会ったベルカ騎士を、エイブラハムは思い出した。そして、覆面が裂け顔が露出していることを思い出し、挑発の意味も込めてマチェットに着いた相手の血を舐めて見せた。
それを見たサイファーの両目に、更に妖刀のような輝きが増していく。
「カレン、フォルティス、手を出すな。こいつは私が…」
「駄目です」
制止をしたのは、フォルティスだった。
「キャラバンが逃げてしまいました」
フッケバインが先ほどまで狙いをつけていたキャラバン隊がいた方角を指さした。キャラバン隊はエイブラハム達が戦闘を始めた時点で全ての荷物ごと、運搬の魔法を使って逃げだしていた。エイブラハムの目から見るとえらく燃費の悪い魔法だったが、長い隊列のキャラバン隊を逃がす手段としては及第点だろう。
フォルティスがにこやかに笑いながら続けた。
「物資の類は諦めるしかありませんが、殺戮衝動の方は彼で治めないといけません。八つ裂きにするなら皆でです」
フォルティスが言いながら、エイブラハムに意味深な笑みを浮かべた。EC因子適合者のもつ殺戮衝動をエイブラハムにぶつけ、解消しようという腹らしい。3対1の圧倒的に有利な状況により嗜虐心が煽られているのかもしれない。
…が、エイブラハムに取って、今の状況は無慮に過ごす休日のようなもので、アクション映画でも見ているような気分だった。フォルティスの脅しもこけ脅しにしか見えない。
思わず笑ってしまう。
「それで脅しているつもりか?絶対に出来ないことを言っても脅しにはならないぞ」
エイブラハムの発言に、フォルティスが眉をひそめ、明らかな不快感を示した。
(丁寧なのは言葉使いだけだな)
エイブラハムが鼻を鳴らすような仕草をすると、フォルティスがますます攻撃的な態度を取ったが、
「あら、ようやくしゃべったと思ったら挨拶もなし?この状況で勝てるとでも思っているのかしら」
カレンが言いながら浮かべる笑みに制された。
エイブラハムはセンサーで相手を観察しながら返した。
「無論だ。感染者は不死身になるだの言われているが、こんな出来損ないでも十分殺せそうだ」
エイブラハムがマチェットを振って見せると、サイファーが口角を上げた。
ピシッ!
エイブラハムが持つマチェットがひび割れを起こし、それが連鎖的に広がっていく。エイブラハムも後に名前を知ることになったサイファーの能力「対鋼破蝕」である。
(切りつけた褐色か、男かどちらかの体に、ガリュウムのように金属の結晶構造を破壊する力があるのか…)
エイブラハムは起こった現象をそう分析した。
カレンがニコニコと微笑んだまま告げる。
「さあ、どうするの?」
エイブラハムのセンサーが、サイファーとフォルティスの数値が急上昇しているのを捉える。エイブラハムは慌てずもう一本のマチェットを引き抜く。
「問題ない。あと一本でアンタを倒せばいいだけの話だろ」
「へぇ、私たちは無視ですか」
フォルティスが目を細めて言ってきたので、エイブラハムは返してやることにした。
「ああ、お前たちには投与済みだからな」
エイブラハムの構えたマチェットには、細い溝が切られており、刀身は僅かに濡れていた。
「_ッ!」
それに気が付いたカレンが目を見開いた瞬間。サイファーとフォルティスの再生したばかりの手足が破裂した。血と肉片をまき散らした手足はすぐさま再生、膨張、破裂を繰り返す。それが四肢の先端から徐々に体の中心へと這い上がっていく。
カレンはすぐに動いた。本のページを展開させ警戒態勢を取らせると、カレン自身はフォルティスの腕を肩口から、サイファーの足を鼠径部あたりからサーベルでバッサリと切り落としに掛かる。
≪出力リミッター解除≫
エイブラハムも同時に動いた。ボディへの負荷を無視して限界出力でカレンに迫る。ページ達はエイブラハムのスピードを読み違えて反応できていない。更にエイブラハムは両腕をサイファーとフォルティスに向けると、手甲に仕込まれた発射器から数本のニードルを放った。
フォルティスはバランスを崩しながらもニードルを回避できたが、足を失っていたサイファーは防ぎきることが出来なかった。ニードルの一本がサイファーの右目に命中する。
ニードルが着弾するころには、エイブラハムはカレンに肉薄していた。エイブラハムはフェイントもいれずに、最短最速の太刀筋でマチェットをカレンの首筋に叩きこんだ。
カレンは咄嗟にサーベルで受けようとしたが、これは明らかに失敗だった。何しろこのサーベルで、「対鋼破蝕」のあるサイファーの足を切り落とした直後だ。サーベルは簡単に折れた。カレンが咄嗟に首を庇って、両腕をマチェットの刃先に差し入れた。
カレンは引き裂かれる肉を無視して、骨を刃に引っ掛ける形でマチェットを止めようとしたが、超振動を起こすマチェットは、その程度では止まらない。骨から伝わってくる振動が途切れ、腕を絶たれた。と、カレンが確信した瞬間。
「リアクト!」
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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