雷霧に包まれしこの世界で   作:ノア(マウントベアーの熊の方)

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初めての方は初めまして、そうでない方は本日もありがとうございます、ノアです。

序章と来てからの第1話です。
ごゆっくりと見ていってください。


第1話

コンコン、そう簡素ながらも圧倒的な存在感を発する木でできたドアをノックし、返事が帰ってきたのを確認してから中へと入る。

中には、何かを企んでそうな、かといって悪そうではない顔を浮かべた、1人の少々年老いた男性が、豪華な机を挟んで、こちらも豪華な椅子へと腰掛けて座っていた。

 

「エディ・キリエ、駆逐艦『エルドリッジ』以下2名、参上いたしました」

 

そう言いながら2人で敬礼し、挨拶をする。

すると片手で"敬礼を解いてもいいよ"と合図してくれたので敬礼を解き、2人で"休め"の体勢をとって、特殊艦隊司令長官の言葉を待っていた。

 

「そう畏まらなくていい、今日は君に招待状が届いてね」

 

「…招待状?」

 

そうオウム返しのように聞き返すと、いくつかの書類にまとめられた、作戦司令書を手渡された。

 

「日米雷霧の子共同訓練『オペレーション:サンダーアロー』ですか…」

 

「ああ、今年で3回目だ、2032年から自衛隊も雷霧の子を我が軍の助力あってついに正式配備したからね、その縁でさ」

 

そう話していると、制服の裾をくいくいっと引っ張られていることに気づき、その引っ張ってきている主―――エルを見てみると、興味津々といったように目を輝かせ、口に出さずとも"行ってみたい"といった感情がひしひしと伝わってきた。

 

「ほら、君の"妹"の知識の発展にも繋がるだろう?訓練が終わったらしばらく休暇を入れてもいいから、楽しんで来たまえよ」

 

「…わかりました、その任務、お受け致します」

 

そう答え、司令官から作戦司令書をそのまま受け取り、俺たちは自室へと戻った。

 

「ねぇ、艦長。日本って、どんなところ?」

 

そう目をキラキラさせながら聞いてくるエルの頭を1度撫でて落ち着かせてやりつつ、俺はスマホを弄り、一枚の写真を見せてやった。

 

「…これは?」

 

「日本の京都の写真だよ、昔おじいちゃん達の故郷だから行ったことがあってね、サクラが綺麗だった」

 

「さくら…?それは、花?」

 

「ああ、日本を象徴する花だよ、咲いてから散ったあとまで、とても綺麗な花なんだ」

 

そう言うと、そのまだ見たことの無い花を思い浮かべたのか、ふふふっと楽しそうに微笑み、自分のベッドの上に腰掛けた。

 

その姿を見て微笑ましくなりつつも、5月ということは咲いていないのでは無いかということを伝えるべきかどうかという深い悩みに包まれていた。

とりあえず今の時期に日本で桜が咲いていないかを調べてみてからにしよう、そう思い、スマホで時期を検索してみると、4月下旬から5月上旬と書いており、5月の明日25日に出発し、そこから約10日かかると考えると、桜が見れるのはもはや絶望的となっていた。

 

「これは…流石に伝えるべきか…」

 

そう思い、さっきからウキウキ気分で自分のベッドに座るエルの隣へと行き、少し頭を撫でてやってから、話を切り出すことにした。

 

「?…どうしたの?艦長?」

 

「あー…えっとな…サクラなんだが…多分日本につく頃には見れないと思う」

 

そう言うと、エルは少し悲しそうにしながらも、俺に対して笑顔を見せてくれた。

 

「それでも、いい。艦長と新しい場所に行くの、私、好きだから」

 

「…そうか」

 

そう言い、もう一度頭を撫でてやり、俺は元の席に戻り、なんとか日本の綺麗なものを見せてやれないかと調べ物をすることにした。

 

 

次の日、俺たちはいつもの起床時刻の少し前、0500に起き、早朝から出港作業に取りかかっていた。

 

「機関、兵装のリンク、レーダー感度、全て異常なし、いつでも行ける」

 

「了解、エル、まだ出港まで時間がある、それまでゆっくり休んでてくれ」

 

「わかった、少し休憩する」

 

そう言うと、エルは副長席に腰掛け、そのまま目を閉じてうつらうつらとし始めた。

朝も早かったし眠たかったんだな、そう思いながら、俺は搬入物などのチェックリストを確認し、艦橋から見える朝日を見ていた。

 

「…エルと出会ってからもう1年、か」

 

そう呟き、寝ているエルの顔を頬杖をつきながら見ていると、どこからどう見ても人間の10歳くらいの小さな女の子なのに、この大きな艦を1人で動かす力があるのだと、ほんの少しだが信じられなく感じてくる。

しかし、彼女は紛れもない『雷霧の艦艇』であり、人間ではあるが人間ではない、特殊な存在なのだとこの1年で思い知らされ続けてきた。

 

「0558…そろそろだな、エル、起きろ」

 

「ふわぁぁぁ…おはよう、艦長…」

 

そう眠そうな目を擦りながら目を覚まし、エルはこちらを向いて微笑んできた。

 

「おはよう、エル…よし、出港用意!錨を上げろ!」

 

「わかった、出港用意、抜錨開始」

 

そう元気よくエルが言い、少し目が黄緑色に光ったかと思うと、艦の機関が唸りを上げ始め、投錨されていた錨を上げ始めた。

 

「両舷前進微速、260°ヨーソロー」

 

「了解、両舷前進微速、260°ヨーソロー」

 

「駆逐艦『エルドリッジ』、出港!」

 

その掛け声と共に、俺たちは、母港であるパールハーバーを出港した。

 

 

2036/5/31

 

出港してから1週間、俺たちは特に変わり映えもしない航路を、ただ黙々と航海していた。

時々、所属不明の上に霧や雷雲を纏った艦艇…まあ察しの通り雷霧の艦艇なのだが、主砲を手のように振って来たり、国際信号旗でUWと掲げてきたり、まるで船だけなのに生きているのでは無いかということをする艦に出くわし続けた。

過去の練習航海などの時にも出くわし、その時も驚かされてきたが、やはり未だに慣れないものだ。

 

未だに人類は、彼女たちの思惑も、どこから来て、どこへ向かっているのかもわかっていない。

だが、少なくとも現れ始めた頃よりは、人類に友好的な存在が増えたと考えられているらしい。

 

「…ん、200フィート先、雷霧の艦艇発生」

 

「了解、エル、友好信号とかは出してるかい?」

 

「…まだ何も出てない、わかるのはそこにいるということだけ」

 

「了解、警戒しておこうか」

 

「わかった。いつでも撃てるようにしておく」

 

そうエルが言うと、短くブーッというブザーが鳴り、艦に搭載されているシステムが全て『戦闘配置』に変わった。

なぜ人でもないのに戦闘配置というのかと前に上官に聞いたことがあるのだが、自動化された武装やシステムが戦闘モードに入ると普段使いの一部の回線を使わなくなったりして、完全に戦闘特化に入る様が実際の人間の戦闘配置に似ているからそのままの言い方になったらしい。

 

「システム、全て戦闘配置についた」

 

「了解、何かあるまでこのまま前進、レーダーで座標も割り出しといてくれ」

 

「了解、座標を割り出す」

 

そうエルが言った時、現れた雷霧の艦艇のレーダー識別信号が赤…敵へと変わり、その瞬間、こちらに向かって1発の飛翔体が発射された。

 

「対象を敵艦と断定、飛翔体をトラックナンバーA001と認定、両舷、機関第3戦速、VLS、対空戦闘開始」

 

「了解、機関第3戦速、ESSM、目標に向け発射開始」

 

そう言うと、艦橋の前にあるVLSが1つ開き、中からESSM"発展型シースパロー"が白煙を立てながら発射された。

 

「インターセプト5秒前、3…2…1…マーク、インターセプト」

 

「よくやった、LRASM2発発射用意、敵艦へ向け一斉撃ち方始め」

 

「了解、LRASM一斉撃ち方始め、目標敵雷霧の艦艇」

 

そうエルドリッジが言うと、VLSから2本のLRASMが発射され、レーダーに示された敵艦へと突撃して行った。

 

「着弾まで3…2…1…着弾、敵艦の撃沈を確認」

 

「よし、よくやった、機関原速、戦闘終了だ、お疲れ様」

 

そう言いながら、エルドリッジの頭を撫でてやる。

すると、撫でられた時は嬉しそうだったが、徐々にその笑顔が曇っていった。

 

「……どうした?」

 

「あの敵艦…アーレイ・バーク級、だった」

 

「そうか…なに、気にすることは無いさ、エルの本当の姉妹艦じゃないんだ、それに向こうはエルを殺しに来てた、向こうも死ぬことくらいは覚悟してたはずさ」

 

そう言いながら抱きしめてやり、慰めてやると、今度は明るい満面の笑みを浮かべ、抱き締め返してきた。

 

「よし、ヨコスカまでもう少しだ、また敵が出てくるかもしれないから気を引き締めて行こう」

 

「わかった、エル、頑張る」

 

そう言い気を引き締めるエルの頭を撫でてやり、俺たちは再び、日本へと進路を向けた。




はい、いかがでしたでしょうか?
楽しめていただけそうなら2話から先をお待ちください。
ではまた次回、お会いしましょう!

2021/01/25追記:VLSからハープーンを撃っていたところをLRASMに変更しました。
そうじゃんVLSからハープーン撃てないじゃん!(今更)
これでLRASMがボツになったら泣きます、本当に。
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