雷霧に包まれしこの世界で 作:ノア(マウントベアーの熊の方)
今回もごゆっくり、見ていってください。
2036年、6月4日。
その日は少し慌ただしく、賑やかな朝だった。
何故ならば、今日というこの日は、俺たちが日本にやって来た理由である、『オペレーション:サンダーアロー』の開催当日だからだ。
今陸では、横須賀基地司令が、訓練の開会式に参加している。
俺たちも行った方がいい気はするのだが、司令官に「君たちは出航の準備をするといい、まだエルドリッジにはこういう場は厳しいだろう?」と言い、参加しなくていいと言ってくれたのだ。
その分、俺たちの今回の訓練におけるポジションが重要ということなのだろう。
そもそもが未だに潜水艦レベルに国家機密……と言うよりは、未だに全貌がわからない、氷山の一角のような存在である、『雷霧の子』を運用しているので、扱いに慎重になっている、というのもあるのだろう。
その辺で発生する雷霧の艦艇ならまだ倒すなりなんなりすれば大丈夫だが、特有の能力を保持していると判明した雷霧の子が反乱でも起こせば、それこそ重大な被害を被りかねない。
それだけ、恐れられている存在でもあるのだ。
そんなピリピリとした空気の中、艦の無線機に無線通信が届いた。
出てみると、パールハーバーにいる、特殊艦隊の司令長官だった。
『これから訓練だろうが…どうだいキリエくん?緊張しているかい?』
「……ええ、まあ。もし能力を発動しないといけないような事があってしまった時は…などと言う、不吉な事ばかり考えてしまっています」
『そうか、それもまあ無理はないさ、君とエルドリッジは初の国際訓練なのだからね……それはそうと、もしもの時は躊躇わず能力を使うといい、日本は幸いにも同盟国、しかも同じ雷霧の子を保有する国同士だ、それに能力を発動したところで私たちにもわからない謎が多い、内容がバレたところで対策は取れないさ』
「…わかりました。……そんな事がないのが1番ですけどね」
『ははっ、まあそうだな…では私はここで、君にとっていい日になることを願うよ』
「ありがとうございます、司令官も良い日を」
そう言って無線を切り、俺は副長席で足をブラブラさせているエルへと目を向けた。
それに気づいたのか、エルはこちらを向いて、ニコッと可愛い笑顔を見せてくれた。
やがて時刻は0700になり、自衛隊の雷霧の艦艇2隻が抜錨し、出航し始めた。
我らが米軍からも俺たち含む2隻が抜錨し、自衛艦艇と艦隊を組んだ。
艦隊運動は初めてではないので難なくこなせたが、艦隊としての戦闘はエルと出会ってから、まだ数える程しかできていないので、まだ不慣れな部分が多く、とても心配になっている。
「艦長、もう少しで訓練海域に着く」
「わかった、気を引き締めていこう」
そう言い、俺たちは艦橋から、斜め前方を進む艦艇を眺めていた。
今俺たちの前を進むのは、自衛隊所属の、昨日艦艇公開を共にしたおおあさと、その姉妹艦のひるあさ、そしてエルドリッジよりも前に建造された『始まりの5艦』と呼ばれる艦のうちの1隻である、アレン級駆逐艦の5番艦、ブルーである。
ひるあさとブルーの2人ともエルよりもお姉さんな2人だが、無線で話した限りはいい人そうだった。
『こちら多用途支援艦『えんしゅう』、標的の操縦を開始します』
『こちら『おおあさ』、了解』
『同じく『おおひる』、了解』
『『ブルー』、Roger.』
「『エルドリッジ』、了解」
そう各艦の艦長からの無線が入り、自分も同じように答える。
やがて、10時方向にいたえんしゅうから、ひとつの反応…自走式自動標的がえんしゅうから離れ、こちらの艦隊へ同航戦を取った。
「エル、自動標的の後ろに小型の標的が4つ曳航されてるだろう?その一番後ろを狙ってくれ」
「わかった、がんばる」
そう言ってふんす!と鼻息をたてて気合を入れているエルを見て少し微笑ましく思い、今回の演習艦隊の旗艦であるおおあさからの指示を待つ。
やがて、
『主砲、左砲戦、各艦指定通りの目標、撃ちー方始め!』
「エル、主砲左砲戦、目標曳航標的4番!撃ち方始め!」
「わかった!」
そうエルは言うと、バッと標的の方向へと手を伸ばした。
それに呼応するようにブザーが鳴って主砲が動き、射撃が開始された。
俺は標的を艦橋から双眼鏡で見つめていると、主砲弾がやがて1発、また1発と、標的の近くに着弾し始めた。
「弾着確認、いい感じだ、そのまま効力射を叩き込んでやれ」
「わかった、がんばる」
そう言い、射撃が継続された。
次々に至近弾が送られ、巨大な水中と共に標的が揺れる。
普通の敵艦艇や舟艇なら既に着弾し、撃沈できているだろうが、やはり船より小さい標的とあって、なかなか着弾しなかった。
『撃ち方やめ、用具収め』
「了解、エル、撃ち方やめ、用具を収めよう」
「……わかった、収める」
そう少し不機嫌そうに言いながら主砲を前に向け、ぶー……と言いながら、エルは副長席に座った。
どうやら当てれなかったことが相当不服らしい。
「エル、当てられなかったからって気にするな、どうせ他の艦も当てれてないさ」
「他の3人、当ててた、当てれてないの、エルだけ……くやしい」
「そうか…まあ気にするな、実戦で当てれれば大丈夫なんだから、な?」
「うん…わかった」
そうまだ残念そうなエルの頭を撫でてやりながら、俺たちは次の指示を待った。
やがて、訓練支援艦『てんりゅう』から無線が入った。
『対空戦闘訓練用標的、発射用意よし』
『こちらおおあさ、任意のタイミングで発射してください』
『てんりゅう了解』
そう無線のやり取りを聞いた後、こちらへ向かう対空目標をレーダーが捉えた。
『120度より2機、真っ直ぐ近づく、対空戦闘用意!』
「エルドリッジ、対空戦闘用意!」
「わかった、対空戦闘用意」
そうエルが言うと、再度ブザーが鳴り、システムが戦闘配置についた。
『目標2機、さらに近づく、目標は本艦と見られる。艦隊第3戦速、一斉回頭、面舵030度ヨーソロー』
「エル、第3戦速、一斉回頭、面舵030度ヨーソロー、おおあさを防御目標に指定」
「了解、機関第3戦速、一斉回頭、面舵030度ヨーソロー、おおあさを防御目標に指定」
そうエルが復唱し、前を進む3隻と同時に面舵を切る。
そして飛翔体を右舷側に捉えた。
『各艦、任意の目標に対して対空ミサイル撃ち方始め。SM-2、攻撃始め!』
「エル、トラックナンバーA001に対してESSM撃ち方始め」
「了解、ESSM、撃ち方始め」
そうエルが言うと、VLSから、1発のESSMが目標へと飛翔を開始した。
「インターセプト5秒前。3、2、1…マーク、インターセプト、もう1つは別の艦が撃破」
「よっし!ナイスキル!やったな、エル!」
「えへへ、ありがとう、艦長」
そう言って嬉しそうにするエルの頭を撫でてやりつつ、俺は次の指示を待っていた。
『機関前進原速、対潜戦闘用意!』
「エル、機関前進原速、対潜戦闘用意」
「了解、機関前進原速、対潜戦闘用意」
その掛け声と共に聴音機が起動され、俺はヘッドセットをつけて、水中の音を聞き始める。
ちなみにエルは前に聞いたのだが、ヘッドセットをつけなくとも音が聞こえるそうだ。
『ソナー、アクティブ捜索始め』
「エル、ソナーアクティブ」
「わかった」
そうエルが言い、その目を閉じると、ヘッドセットからもアクティブソナーの音が聞こえ始めた。
「……見つけた」
そう言ってエルは目を開いた。
それと同時に艦橋のモニターに潜水艦の位置が表示された。
「……自衛隊所属の本物で訓練させてくれるのか、贅沢だな」
「うん、日本の潜水艦の音、初めて聞いた」
「それだけ日米が友好関係にあって、この訓練が重要なものなんだろう、機密中の機密である潜水艦を使ってるということはそういう事だ」
そんな会話をしていると、無線から、『艦載機即時待機、準備出来次第発艦、発艦し次第訓練終了』の指示が届いた。
この艦には俺とエルの2人だけだ。
だが、この艦には無人機が2機搭載されている。
「エル、ドローン一機即時待機、準備出来次第発艦」
「了解、ドローン即時待機、準備出来次第発艦する」
そうエルが言い、後部格納庫から甲板にドローンが移動され、ドローンのプロペラが回り始めた。
しばらくして、ドローンの準備が完了し、ドローンが発艦して行った。
「ドローン発艦完了。艦長、次はどうしたらいい?」
「うーん…一応終了指示はあるからここまでのはずなんだけど…指示を待とうか」
「了解」
そう言って待っていると、旗艦であるおおあさから、連絡が入った。
『艦載機を着艦させ次第昼食にしましょう、昼食が終わったら、さっきの訓練をもう一通りしたいと思います』
「…だそうだ、エル、昼食にしようか」
「わかった」
そう言い、俺たちはシステムを自動へと切り替え、艦内の食堂へと向かった。
「さて…今日の昼食はどうしようか」
そう言いながら食堂のタッチパネルとにらめっこしつつ、今日の昼食を考える。
この艦を含む人類側の雷霧の艦艇は、艦内の食堂が全て自動化されており、タッチパネルで選ぶと、艦長と雷霧の子の2名分がデフォルトで作られる。
昨日ご馳走になったように、乗艦している人数を設定しておけば、その人数分の料理が作られる。
味は特別凄く美味しい!という訳では無いが、AIによる自動調理にしては人間味があり、個人的には美味しい部類だと思う。
「エルは何がいい?俺はなんでもいいからエルが決めてくれ」
「うーん……ミートスパゲティにする」
そうエルが言ったのを聞き、俺はミートスパゲティの項目のボタンを押す。
このミートスパゲティのソースは簡略化されており、温めるだけのレーションと同じなのだが、MREとは違ってとても美味しいのだ。
いやまぁ、MREにパスタはないと思うのだが。
しばらくしてパスタが茹で上がり、温められたソースをかけて食べ始めた。
とても美味しそうに食べるエルを見て微笑ましくなりながら、俺もパスタを食べ、午後の訓練に備えて気持ちを作っていた。
やがて食べ終わって艦橋へと戻り、俺たちは午後の訓練を開始した。
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次の日、俺たちはまだ日の昇りきらないうちに目を覚まし、艦橋で2日目の訓練開始まで待機していた。
「ふわぁぁぁ…艦長、眠たい……」
「だな…俺も眠たいよ」
そんな会話をしていると、やがておおあさとおおひるから、自衛隊の起床ラッパが聞こえてきた。
0600、この時間から、今日はゲリラ的に訓練が始まる。
いつ支援艦から標的が発射されたり曳航されたりするかも、こっちには事前に伝えられていない。
……いやまあ、レーダーにはずっと支援艦が写っているので、色々とわかるにはわかるのだが、そこに突っ込んだら何も出来ないだろう。
『本艦隊より9時の方向より仮想敵艦、主砲撃ち方』
そんなことを思っていると、早速始まったようだ。
「了解、エル、左舷砲撃戦、目標最後尾の曳航標的」
「わかった。……今度こそ当てる」
「頑張れ、エルなら当てれるさ」
そう言いながら艦橋から双眼鏡で目標を見る。
それと同時に、主砲弾の弾着が始まった。
至近弾が次々に送られ、やがて、標的に弾着した。
「Good kill !よくやったな、エル!」
「うん…!ありがとう、艦長!」
そう言いハイタッチを交わした後、俺たちは次の指示に備えていた。
お昼くらいまで続いた訓練も1度休憩となり、俺たちは昼食を取ったあと、艦橋から海を眺めていた。
と言っても、周りには海以外には何もないので、結局は訓練後の休暇に何をするかと話し合うだけにとどまっていた。
やがて休憩が終わり、今回の演習最後の訓練になっていた。
…まあ、お金の都合上もあり、基本的に実射ではない訓練が大体の割合を占める予定らしいのだが。
そこはまあ、日本の国情を考えれば仕方ないと言えよう。
そんなことを思いながら艦橋から双眼鏡で外を見ていると、豆粒程度に見えるほど遠くに、霧と雷雲が立ち込めるエリアがあった。
雷霧の艦艇が現れるのだと悟った俺は旗艦に伝え、艦隊全艦で警戒しておくことになった。
やがて霧の中から、5隻の雷霧の艦艇の反応がレーダーに写り、それらはなんの躊躇いもなく、こちらへと向かってきていた。
「エル!あの艦隊の識別信号は?」
「全部赤、敵対してる。いつ撃ってきてもおかしくない」
「嘘だろ!?こんな時に!?旗艦はどうする気なんだ……?」
そう思っていると、旗艦であるおおあさから無線が入った。
『…すみません、我々自衛隊は、専守防衛しかできません、攻撃されれば反撃はしますが、攻撃許可が出るまで我々は攻撃できません…ですが、あなた方米軍はそんな事に縛られず攻撃できます…つまり…えーと……最大限のバックアップはします、我々に構わずやっちゃってください』
『ブルー了解、ではエルドリッジと共に攻撃を開始します、エルドリッジ、行けますね?』
「了解です、俺もエルもいつでも行けます」
『了解、陣形そのまま!目標敵艦隊!対水上戦闘始め、各自目標は自由!』
「了解、陣形そのまま、目標敵艦隊、対水上戦闘始め。目標敵梯形陣最後尾!LRASM2発一斉撃ち方始め!サルボー!」
「了解、目標敵艦隊梯形陣最後尾、LRASM2発一斉撃ち方、サルボー!」
そう言うと、VLSから2発のLRASMが撃ち出され、目標へと飛翔を開始した。
それと同時に敵艦隊からもミサイルが飛翔し始め、8発のミサイルが一斉にこちらへと向かってきた。
「反応8!艦長、指示を!」
「ああ、トラックナンバーA001へ向けESSM2発一斉撃t『ちょっと待ってください!』……え?」
そう指示を遮られ困惑していると、旗艦であるおおあさから続いて無線が入った。
『ちょっと待ってください、我々にお任せを…おおあさ!能力を!』
『はいは〜い、『朝霧の幻想』、行っきますよぉ!』
そう聞こえたと思うと、前方を進むおおあさの船体がオレンジ色に輝き始めた。
それと同時に、レーダー上の俺たちの反応が消え、別の位置に俺たちと同じ反応が現れた。
ミサイルもその別の反応へと突っ込んで行ったが、その反応の位置を肉眼で見てもその位置には何もいなかった。
おそらく、レーダー上やミサイルの誘導システムのみに作用するデコイなのだろう。
「艦長、そろそろエルが撃ったミサイルが着弾する」
「了解、何秒前だ?」
「10秒前。5…4…3…2…1…着弾、ターゲットキル」
「Good kill,next target ! LRASM2発一斉撃ち方!」
「了解、LRASM2発一斉撃ち方!」
そう言い、再度VLSからLRASMが放たれる。
そのLRASMも命中し、ブルーと合わせて4隻の撃沈戦果が上がった。
「残り1隻!エル、反応は?」
「うーん…水上に反応がない…」
「そんなバカな、さっきまで反応は5つあったはずだぞ…?」
そんな会話をしていると、前方を進むブルーが蒼く輝き始めた。
恐らく、能力を使ったのだろう。
一体どんな能力なのかと思っていると、ブルーの左舷から、1発の短魚雷が発射された。
「…エル、アクティブソナーを」
「わかった……あ、水中に魚雷以外の推進音がある」
「そうか、なるほど、5隻目は潜水艦か!」
そう言った途端、少し離れた場所で巨大な水柱が立った。
「……目標の推進音なし、多分撃沈した」
「了解…ふぅ……終わった………お疲れ様!」
そう言いながらエルとハイタッチを交し、波乱のあった訓練は終わりを告げた。
訓練の中身の詳細は基本的に教えてくれるわけもないので想像で書きました…
支援艦の支援ってどうやってるんでしょうね…
ではまた次回、お会いしましょう!
2021/01/25追記:対潜訓練は実艦を使って本格的にすると知ったのでセリフを一部変更、及び1話と同じくハープーンをLRASMに変更しました。