ハオ様(偽)はニートになりたい 作:文太マリア
突然だが、俺は神様なんてものは信じて居ないし、神を信じる奴は正直苦手だ。
もし、神なんてモノが存在するのなら、もう少し世界はマシな物になっているはずだからだ。
経済は悪くなり、連日連夜に倒産する中小企業。
学校の虐めと増加する自殺者は留まる事を知らない。
そんな世の中だからこそ心の弱い人間は目に見えない神なんてものに縋るのだろう。
彼等も本当は気づいて居るはずだ。ただ気付きたくないだけなのだろう。
祈りを捧げ、供物をささげる事により神が自分達の前にふらりと現れる事を望んでいるのだ。
まあ、だからといって――――
「生贄なんて許されるかぁぁぁああ!!」
会社の同僚に奢ると言われ、キャバクラで豪遊した帰り道。
俺は目の前の現れた黒いボックスカーに詰め込まれて、山奥にある村に連れてこられた。
そう。俺は同僚の罠に引っかかり、磔にされた挙句に神を作る為の生贄にされそうになっているのだ。
ちなみにその同僚はと言うと……。
「ほい。報酬の金だ」
「よっし!!これで借金を返済できる上に海外で遊んで暮らせるぜ!!」
祭壇を作り儀式を行おうとしている着物の男達から現金の入ったアタッシュケースを輝くような笑顔で受け取っていた。
ふざけんな!!
「悪いな幸助!!俺の幸せの為に神にでもなんでもなってくれ!!」
「覚えてろよ!!!絶対に復讐してやるからな!!」
同僚は親指を立てると、スタコラサッサと去って行った。
ちくしょう!!人の命を何だと思ってやがるんだ!!
同僚の背中を睨みつけていると、巫女服を着た女が姿を現した。
黒髪ストレートで胸の大きな女で、この状況でなかったらモーションを掛けようと考えるくらいの美女。
ただし、その表情は能面のように恐ろしい
「神の素体となる幸運な適合者。貴方の魂と肉体は神に上書きされる」
「頭イカレテんのか!?神なんているわけがないだろうが!?」
もっともな怒りを持って、女に怒鳴る。
そして、女の能面の様な恐ろしい表情が近くで灯された松明の明かりによって倍増された。
「これ以上の問答は無用ですね。
――――我等麻倉の神にして『王』の再誕の贄となりなさい」
女はそう言うと、真紅の短剣を俺の心臓へと突き刺した。
★
―――ここは何処だ?
周囲を明るく照らす煉獄の炎。そして、目の前には大きな布を纏った青年が立っていた。
『やあ。初めまして、僕に差し出された哀れな器』
いや、待て。この状況は何だ?何で俺は炎に包まれた地獄で見た事のない青年に声を掛けられなければならんのか。
ん?彼は何と言った?俺を哀れな器といったか?何故だ?ホワイ?
「勘弁してくれよ。ドッキリだったらもういいだろう」
最近見た映画の似たような場面に主人公が言ったセリフが口から洩れた。
「もういいだろ?誘拐された時点で驚いたよ!!今ならまだ間に合うって!!」
まったく訳が分からない。これは最近ハゲが気になる部長と同僚達が考えた悪質なドッキリだと言ってくれ。
『ははは。これが冗談の類だと思うのかい?』
青年は晴れやかな笑顔で問いかける。
そして、これはドッキリでないと言わんばかりに彼の背に巨大な炎の化身が姿を現す。
「俺を……殺すのか?」
『うん。そうだよ』
無邪気に笑う青年。まるで友人と話している様な気軽さだ。
『でも、もういいんだ。この世界ではないけど、平行世界の僕が目的を達した。
だから、もう現世に蘇る必要はないんだ』
????
一体何を言っているんだ?それは俺が助かると言う事か?
『安堵している所に水を差して悪いんだけど―――。
君はもう死んでいるよ』
ありえない。と言いたいが、周囲に広がる現実離れした光景に声が出ない。
『さて、ここで質問だ。君はこの美しくも醜い世界で生きて居たい?それとも死んで楽になりたい?』
「……何者なんだ、お前は」
『僕かい?僕の名前はハオ。目的を失って暇を持て余している亡霊さ』
亡霊?暇を持て余した亡霊?
そんな奴の為に俺は殺されたのか?
『じゃあ、さっきの問の続きだけど―――。
君は生き返りたい?それとも死にたい?』
「―――生き返りたいに決まっているだろう!!
やれるのならやって見せろよ!!」
『分かった。じゃあ特別に僕の力を君の魂と肉体に与えようじゃないか。
せいぜい目的を達成した並行世界の僕に感謝するんだね』
俺の怒り任せの返答ハオと名乗った青年が俺に近付くと、右腕を俺の心臓に突き刺した。
―――またかよ。
★
再び目を覚ますとそこは見覚えのある屋外だった。
そう。俺が殺された儀式場の前に男達が設置していた祭壇の前。
俺は全裸でそこに寝かされていた。
「おおっ!復活された!!我らの――――」
「うるさい」
ハオの復活を喜ぶ彼等を燃やして自身の力であるスピリット・オブ・ファイアの糧とする。
罪悪感はない。俺を殺したんだ。殺されて当然だし、むしろ麻倉ハオとなった俺に殺されて力の糧となったんだ。
こいつ等も本望だろう。
「さて、この身体じゃあ会社には復帰できないし――――。
これからの事は元同僚をスピリット・オブ・ファイアに食わせてから考えよう」
小学生ぐらいにまで縮んだ体を祭壇に使われていた白い布で覆うと、俺は元同僚を殺す為に街へと向かった。