ハオ様(偽)はニートになりたい 作:文太マリア
1話
さて、元同僚に苦痛を与えて燃やし尽くしたのはいいが――――どうしよう。
灰となった男の横に落ちていたアタッシュケースには白い帯にまかれた諭吉さんが詰められていた。
うーん。一億くらいはあるかな?春先とはいえ、このままフルチン同然で外にいると風邪をひいてしまう。
朝になったら服を買って、食料と住む場所を探さないとな。
一般論として、未成年は日用品を購入する事は出来るが保護者がいないと高額な買い物は出来ない。
たとえば、車や家だ。マンションを借りるにも様々な手続きが必要になる。
つまり、俺は中身は大人でも見た目のせいで子供にしか見られない。
挙句の果てに、頼みの綱であった漫画喫茶では家出少年に間違われて通報されてしまった。
子供は自由だと思っていたが、思っていた以上に厳しい。
お陰で、何をするにしても犯罪者の如く通報されてしまう。
まあ。実際に、何人も手に掛けているから犯罪者には違いないんだがな。
いっそ、裏世界に足を踏み入れて見るのもいいかもしれない。
この肉体は千年近く前にその名を轟かせた【大陰陽師】麻倉ハオの肉体。
そして、俺の魂に直接刻まれた陰陽術の知識はかなり有用だ。特に隠形と言う術は実に素晴らしい。この術のお陰で俺を保護しに来たと思われるポリスメンから計18回は逃げきる事に成功した。
しかも、この身にはハオから『もう、彼は必要ない』という理由から受け取った五大精霊の一柱であり、【炎の神】と古の時代から崇められているスピリット・オブ・ファイアが宿っている。
彼の力を振るえば、荒事は全て解決。陰陽術と違って、彼は世界によってソコに居る事を許された特別な存在。
力の痕跡は残らず、自然に発火したと言う事実だけが残るだけ。まさに地上最強の兵器と言っても過言ではない。
そうだ。俺は裏世界で安全に金を稼ぎ、大人に成長したら立派なニートになるんだ。
会社勤めなんてクソくらえ。同僚達との出世争いや上司のアルハラとも言える飲みニケーションともさようなら。
俺は自由だ!!!
★
まあ、いきなり裏社会と言っても分からない事だらけな俺は子供らしく素直に知っている大人に聞くことにした。
「へぇ。君達みたいなのを呪詛師って言うのには仕事を紹介してくれる仲介屋がいるんだ?」
「ふぁ、ふぁい」
所々に火傷を負い、ボロボロとなったオッサンをスピリット・オブ・ファイアで逆さ釣りにしての尋問タイム。
ん?この人は誰かって?女子供を呪い殺す事に悦楽を感じる唯の変態さ。
「ご、ごめんなしゃい。ゆ、ゆゆひて―――」
「んー。やだ」
「しょ、しょんな!?」
衝撃を受けるオッサンは全身を紅蓮の炎に焼かれながらスピリット・オブ・ファイアに力と魂を食い尽くされた。
うーん。とんでもないクソ野郎だが、そこそこの力はあったようだ。元同僚や俺を殺した連中よりも力……呪力だっけ?
それが彼等よりも多く吸収されるのが分かる。ふむふむ、スピリット・オブ・ファイアはニートを目指す俺に相応しい力だ。
呪霊や呪詛師と言った呪力を多く持つ存在を食えば食っただけ成長し、宿主である俺の呪力も成長する。
どちらも人間社会の害でしかないし、社会のゴミも駆逐され俺も楽して強くなる。実に素晴らしい。
呪術師とかいう正義の味方の様な集団が居るらしいが……正直パス。
もう会社勤めと労働は嫌なんだよね。ニート最高。
「あ、このおっさんの財布を貰ってから燃やせばよかったかな?」
隣にいるスピリット・オブ・ファイアに問いかけるも、彼は何も答えない。
まあ、人形みたいなもんだしね。しょうがないか。
スピリット・オブ・ファイアを消失させた俺は、この街に居るという仲介屋の下に足を進めた。
………。
「ここが仲介屋?」
オッサンに教わった仲介屋にやって来たはずの俺だったが、目の前にあるのは見覚えのあるオシャレなキャバクラ。
つーか。俺が誘拐される前に遊んでいた店だ。もしかしてグルだった?
まあ、それならそれでいい。交渉に【暴力】というカードが増えただけだ。
ついでに、オッパイの大きなキャバ嬢を傍に呼んでくれたら嬉しいな。
店の中に入ると、愛想笑いを浮かべていた店員が「いらっしゃ―――」と言った所で苦虫を噛んだ表情になった。
まあ、見た感じ明らかに客じゃないからな。彼から見たら俺は不釣り合いなアタッシュケースを持った小汚い布を纏う全裸の小学生。
厄介な客が来たと思っているのだろう。
「あー、坊主。ここは大人の店なんだ。さっさと家に帰んな」
迷惑をしていると全面的に表情で表現をし、ぶっきらぼうに言う。
当然こうなるよな。なので俺は魔法の言葉を使う事にした。
「呪詛師、細呂木からの紹介だ」
俺をつまみ出そうとしたが常連客の名前に店員の手が止まる。
細呂木とは俺が殺したオッサンの名前だ。
「……ガキ。冗談じゃ済まされないぞ?」
そして、ドスの効いた声で呟く。
店員から僅かに呪力が漏れ出すが、全然怖くない。
呪力が小さすぎて赤ちゃんに睨まれたような気分になる。
「……冗談だったらどうなるのかな?」
隠形の術を緩め、少しだけ呪力を放出する。
「わ、分かった!!分かったから抑えろ!!」
俺の呪力に顔色を変える店員。そして集まる視線。
ありゃりゃ。もう少し抑えておけば良かったかな?
他数名の店員は、俺を化け物を見るような目で見ている。
彼等も呪詛師なのかな?店員はこちらを客達に騒がせた事についての謝罪を述べると、俺を連れて店の裏側へと案内してくれた。
「ったく、表はカモフラージュなんだから裏から来てくれ。
あの変態野郎に教わらなかったのか?」
「いや。あのオッサンは場所しか教えてくれなかったよ」
「畜生が!!今度会ったら落とし前を付けさせてやる!!」
廊下を歩きながら細呂木に悪態をつぶやきながら荒ぶる店員。
落とし前以前に死んでんだけどね。言わないけど。
そして、俺は奥の部屋へと入室した。
「で、君は何者かね?」
入室するとそこには三人の男が居た。
部屋の奥に設置された木製の机に膝を付いて、俺に何者かと聞く髭のおっさん。
そのおっさんを守るように左右に立っていくサングラスを付けた黒スーツの男達。
どうみても表社会の人間には見えない。まあ、裏社会の人間だから同然だよな。
「私は誰かと聞いているのだが?」
おっと、いかんいかん。
自己紹介だったな。よく聞けよ、生まれ変わった俺の名は―――――
麻倉ハオ