光の国に転生したら親友がウルトラマンゼットだったのですが   作:ゼロ様の女

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遅れまくったお詫びとして短編をひとつまみ
…ウルトラ嘘です筆が乗って書きました
なので初投稿です


幕間・カブラギの長い一日

 

カブラギ・シンヤ。

ちなみに漢字表記は鏑木慎也。中々格好良い字面だが、それはひとまず置いておくとして。

 

彼は本来、「ウルトラマンZ」のメインヴィランを担う存在である。正確に言えば彼に憑依している寄生生物セレブロの仕業であって、本人に一切の罪はないし、体を使われているだけなのにやれ出番が少ないだの影が薄いだの、ジャグラーに全部持っていかれただのさんざに言われ、挙句の果てには後半戦で乗り捨てられるという酷い扱いを受けてしまった哀れな男なのだ。最終回で元気に登場してくれたのがせめてもの救いとでも言うべきか。

 

ところで。

例えばそんな彼に転生してしまったとして。

セレブロに乗っ取られてこき使われるまでに1年ほどあるとして。

貴方なら、どうする?

 

 

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カブラギの朝はそこそこ早い。

職場がそこそこ自宅から遠いというのもあるし、彼が毎朝かかさないルーティンのせいでもある。ともかく彼の朝は、目覚ましの音声に眠らせてくれない伏井出ケイの迫真の叫びを使わなければいけないくらいには早い。

 

「うぁ…煩いなかわいそうな人め…設定したの俺だけど」

 

のそのそと眠たげに目を擦りながら、カブラギは体を起こす。転生する前よりもやや痩せて背の高いこの身体にも慣れてきた所ではあるが、寝起きだけは未だにおぼつかない。

 

「時間大丈夫か…?まだ五時半か、ギリセーフ」

 

時計を確認すると、顔を叩きながらベッドから這い出す。未だに夏なのにこの状態なのだから、冬など布団から出られなくなってしまうのでは無いだろうか。「貴重な」時間を無駄にしない為にも、カブラギは炬燵を買う気は無い。

とりあえず眠気覚ましに朝風呂を済ませてから、仕事の支度に取りかかる。彼が働く怪獣研究センターは、その職務の関係上あまり外に仕事道具を持ち出すわけにはいかないので、備品の多くが職場での管理になっている。おかげで支度に時間がかからないのは、この仕事のいい所の一つだ。

 

「用意も終わったことだし、あれ観るか」

 

しつこく跳ねた髪との格闘を終えたカブラギは、テレビ前のソファにどっかと座り、リモコンを手に取る。彼の一日は、このルーティンが無ければ始まらないのだ。

 

「『これから30分、あなたの目はあなたの体を離れ、この不思議な時間の中に入って行くのです』…うーん、何度聴いてもいいナレーションだな」

 

ぐるぐる回るマーブル模様を見つめながら、カブラギは20数分間の至福の時間に浸る。今日見ているのはウルトラQ。ちなみに総天然色版である。

そう、これが彼のルーティン。「毎朝、ウルトラシリーズの1話を必ずひとつ観る」というルーティンである。

彼はカブラギでありながら、カブラギではない。たまたま子供を助けてバナナに足を取られてトラックに轢かれ、たまたま神様の目に留まって転生させてもらっただけの一般人であった。

ウルトラマンのTVシリーズのBlu-rayをコンプリートし残りをDVDで保管し、ウルトラマン列伝(新含め)の全録画をDVDに焼き落として保管し、関連書籍を総ナメしているだけの、ただの一般人であった。ちなみに推しトラマンはコスモス。推し怪獣はボルギルスだったりする。

転生させてもらう前、転生者には神様にお願いごとを聞いてもらえるチャンスが存在する。能力を求める者、転生先を選ぶ者、何でもいいから幸せを願う者などなど、願いは様々だ。だがこの男の場合、少し毛色が違った。

 

「お願いします転生先がどこであったとしてもウルトラマンの最新作を追わせてください最新情報が欲しいんですあのせめてこのBlu-rayとDVDと書籍だけでも持って行かせてくださいこの通りです!!!」

 

土下座までしながらの願いに、少々神様が引き気味だったのは余談だが。結論からいえば、願いは叶えられた。手元の専用のスマホ、PCからはいつでもウルトラマンの最新情報にアクセス出来るし、テレビでは最新作を見られる。ギャラクシーファイトだってOK。というか普通にネットが時空を超えて繋がっているのだが、彼は円谷関係以外に割とすごいこの機能を活かす気はない。

ともかくこれであれば、何処へ転生したとしても楽しく生活を送っていける。そう思っていたのは、霧崎に言わせればチョコレートより甘かったのだろう。

カブラギに転生してしまった自分は、この後起こる運命を知ってしまっている。日付が何月何日かは分からないが、そう遠くない内に——多分一年後くらいに、凶暴宇宙鮫がやってきてゼットとハルキに撃破され、破片を収容したところでセレブロに寄生され、しばらくの間地獄が待っているのだ。セレブロ自体はゼットとストレイジが撃破してくれるのを知ってはいるし、その後ユカさんに気に入られて割と楽しそうに生きているのも知っているが、

 

「出来ることなら、平穏に生きたいよなぁ」

 

そう思うのが、一般人ではないだろうか。

 

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「カブラギ、入りましたー」

「おう、最近早いな、なんかあったか?」

 

心ゆくまでウルトラQを堪能したカブラギは、職場に到着した。先輩の反応からすると、どうもカブラギは遅刻常習犯であったらしい。鈍臭いなど当たりが強かった気がするのは、その勤務態度のせいなのではないかと、訝しんだり。

 

「いや、真面目になろっかなー、と」

「え?お、おう…まあ、やる気があるのはいいな、うん」

 

何だか微妙な反応をされた気がするが、何かまずいことでも言ってしまったのだろうか。まあ元の彼を再現出来る訳では無いのだから、仕方ないといえばそうなのだが。神様はちょっと気が利かなかったのか、もしくはそもそも出来ない仕様なのか、転生元の記憶を見ることはできない。考えても埒が明かないと、カブラギは書類整理を始めた。

 

「なぁ…あいつ最近どうしたんだろな」

「勤務態度がなんか急に良くなったというか…真面目になったというか…前はもっと『早く解剖させてくださいよーー!!まだ回収係なんすかーー!?』とか二言目には愚痴ってたのに」

 

なおカブラギ本人がセレブロの解剖に熱を燃やしていた所にも表れているように、割とユカと似たタイプのマッドサイエンティストの気があったりすることを、今の彼は知らない。

 

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(うーん、まだハルキも入隊してないみたいだし、ゲネガーグが来るまでには余裕があるけど…やっぱりこの状況はもどかしいというか…)

 

書類整理をしながら、彼はいつも考える。どうすれば悲劇を回避して、安全安心な生活を送っていけるのかを。手っ取り早いのは今の仕事をやめてしまうことだが、正直前世での経歴のせいで、どの仕事にも向いていない知識しか持っていない。それに、怪獣研究センターというのは、ウルトラファン(自称)としては中々にテンションの上がる職場なのだ。あの画面の中でしか見られなかった怪獣が、細胞の欠片とはいえ実際に目の前にある。収容の時には未だにちょっとビクついているが。おまけにそこそこ危険だったりするので割と給料がいい。こんな美味しい仕事を辞めるのは、ちょっと勇気が足りないのだ。ならばどうするか。

そこで考えたのが、ひたすらに真面目に仕事をして、回収係から抜け出すという方法だ。たかが1年あるかないかで昇進とかできるのかと考えもしたが、正直ほかに方法が思い付かなかった。天才ユカさん助けて。

 

「って言っても、まだまともに喋ったことも無いんだけどな」

 

ストレイジの開発担当のユカは、怪獣マニア解剖マニアでもあるので、よく怪獣研究センターに顔を出す。ただ多忙なので、喋る機会はほとんどないし、出来たとして業務連絡くらい。やっぱり美人なので見ているだけでも眼福ではあるのだが、ウルトラファン(自称)としては、仲良くなりたかったりもする。

 

「よーし、休憩時間だ…首いて…」

 

前世ではあまりやってこなかったデスクワークは、思ったより体にくる。首と肩をポキポキ鳴らしながら、カブラギは休憩に入った。この時間は、現在彼にとって唯一のウルトラ以外の楽しみでも有る。

 

「おっ、ラルフくん来てるな」

 

そう、転生板を見ることだ。転生者特典として必ず与えられる転生板は、転生先で生きていく為に重要な物であると同時に、どのような状況でも人と繋がれる貴重なツールでもある。これによって救われた転生者は数知れないだろう。というか恐らく全員がそうである。かくいうカブラギもその一人。話しているだけでも楽しいし、自分の知識が役に立てばもっと嬉しい。といってもウルトラ世界の転生者はなかなか居ないので、役に立つ事もそんなになかったが、レッド族ことラルフくんが入ってきてから、出来ることが格段に増えた。嬉しい事この上ない。

 

「おーい、カブラギ」

「今日はなになに…訓練か?頑張って欲しいなあ…」

「聞いてるか?おい」

「っ!はい!何ですか?」

 

転生板に集中して、話を全く聞いていなかった。見ると、先輩が何とも言えない顔をして見ていた。怒っているのだろうか。先輩が口を開く。

 

「だから、今度やるオオタ隊員主導のツインテール解剖のインターン、お前どうかっていう話だよ」

「え!?」

 

願っても居ない話だ。カブラギは心中で舞い踊った。ここでもう解剖を手伝わせてもらえて、しかもユカさんのを見学できる…

 

「最高じゃないですか!!!ありがとうございます!!!」

「お、おお…凄い勢いだないきなり」

「やったぁー!変えるぜ運命!ってねー!」

「聞いてないし」

「やっぱり変わったとか気の所為なんじゃない?いつものカブラギじゃん」

「まあ…確かにな。よし、じゃあ話通してこねえと」

 

先輩は席を立ったが、当のカブラギは本当にツインテールがエビの味がするかどうかで頭がいっぱいで、それには気が付かなかった。

カブラギの一日は、まだ続く。

 

 




もしかしたら続くかもしれないカブラギの一日(まだ半日)
活動報告更新しました。ウルトラ(そんなにない)裏話があるよ
あ、アンケート置いときますね〜
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