今回の依頼主は周五郎の目の前にいる、小柄で幼い顔立ちの女の子、小杉である。
依頼内容は、小杉に送られてきた名無しのラブレターを誰が書いたか探し出すこと、なわけなのだが……。
「まず、ラブレターを見つけたときの詳しい話を教えてくれないか?」
「うん、もちろんいいんだよ」と小杉は元気に返事をする。
「あれは、たしか4日前だったんだ。 朝学校に行って、昇降口で靴をスリッパにかえようとしたら、私の靴箱の中にそれが入ってたの」
「それは何時ごろの話だ?」
「えーと、音楽部の朝練で、早く行ってたから、だいたい7時くらいかな」
当たり前のように言う小杉に、周五郎は素直に感心した。
「7時か、随分と早いんだな」
「うん、今度O市の文化会館で、定期演奏会があるの。それの練習なんだけど……、そうだ、周くんも見に来てよ?」と小杉はまぶしい笑顔を見せる。
「へえ、音楽か……。わかった、時間があったら見に行くよ」
「わーい、ありがとう」 と小杉がその場で跳び跳ねている。
「ところで、なんで俺のところに来るのに4日もかかったんだ?」
「えへへ、ラブレターなんて貰うの初めてだったんだよね。だから、パニックになっちゃって。誰がくれたのかな〜って想像してたの」
小杉はくねくねしながら、頬を紅く染めている。
(くそ、むちゃくちゃ腹が立つ。 けっ、リア充予備軍はいいよな)
と周五郎は心の中で舌打ちする。周五郎はまだ『誰かと付き合う』という経験が無かった。
「でもね、時間が経つにつれてね、ちゃんとお返事をしなきゃなって思うようになったの」
そして、小杉は急に真面目な顔になって、周五郎に頭を下げる。
「だから、お願いします。この手紙を誰が書いたか、探して下さい」
周五郎は一度ため息をついたあと、
「仕方がない、その依頼、この周五郎が引き受けた。この俺に任せておけ!」 と宣言をした。
こんな真面目な顔をした人間の依頼を断ることなんか出来ない。彼はそう考えていた。
「ありがとう、周くん。 そう言えば他の二人はまだ来てないね?」と小杉なにか小動物のように首をかしげる。
「まあ、あいつらは遅刻ギリギリで来るからな」
小杉が言う二人とは、周五郎たち三人トリオの残り二人のことだ。三人は面識はなかったのだが、入学式の時からすぐに仲がよくなった。
入学式から一月ほどたった頃に、カギを無くしたという人間がいた。
この時、周五郎たちがカギ探しを手伝い、何とかカギは見つかったのだが……その事を言いふらしたのだ。
しかも言いふらした内容がひどかった。
「いやー、あの三人はすごいね。 私がカギを探してる姿を見ただけで、手伝ってくれたんだもん。しかも、『お礼はいらない』だってさ。
みんなも、なんか困ったことがあったら、あの三人に頼めばいいよ。 無料で、しかもー、か、な、ら、ず、解決してくれるよ」
それ以来、なにか困ったことがあると、この学校の生徒は、みんな周五郎たちに頼むようになった。
いい迷惑だぜ、と彼はため息をつく。
とは言ったものの、周五郎たちは三人とも頼まれると嫌とは言えない性格なので、それからも依頼を解決しているというわけだ。
周五郎が時計を見ると今は午前8時だった。
(朝礼が始まるのが8時30半だから、まだあいつらが来るまで、時間があるな。
すこしこれからの行動を考えておくか。でも、その前に……)
「小杉、そのラブレター、ケータイで写真撮ってもいいか?」
「いいけど、あんまり広めちゃだめだよ」 と小杉が恥ずかしそうにラブレターを渡す。
「わかってるって。見せるのはあの二人だけだよ。」
(まずはこの手紙から、書いた人間の情報を読み取るか! )
こういうのは、闇雲に探すわけにもいかない。
字のきれいさ、文章の雰囲気、手紙の紙の材質などから、書いた人の性格を予想することができるのだ。
……といっても、もちろん百発百中というわけにはいかないのだが、ある程度的を絞ることができることもある。やれることはやっておくのが、周五郎のモットーなのだ。
「おっす、周。 元気か?」
「あんた、なーに辛気くさい顔してんのよ?」
周五郎が考え事をしていると、後ろから元気な声が聞こえてきた。
周五郎が振り向くと、坊主頭の長身で爽やかな男と、ショートカットで、目がぱっちりとしている女がにやにやしながら、こっちを見ている。
「おはよう、ミッツー。お前は今日も元気だな。そして、詩織(しおり)、お前は黙っとけ」 と周五郎は嬉しそうに二人に喋りかける。
この二人が周五郎たちお人好しトリオのメンバーである。
坊主頭の男は、ミッツーこと、三川(みつかわ)たけしである。
ミッツーは野球部に所属していて、いつもニコニコしている。人当たりもよく、誰にでも喋りかけるところから、クラスでも人気者だった。
ただ、彼は下ネタを平気で言うのがたまに傷なのだ。しかも女子の前でも言うのだから、手がつけられない。
しかしそれでもかなりモテるのが羨ましい、と周五郎は思う。
(俺なんか下ネタなんか一言も言わないのに全くモテない。なぜだ……)
ミッツーはまだ誰とも付き合っていないらしい。「まだ」である。もう一度言うが「まだ」である。
ショートカットの女はしおりこと、山中詩織(やまなかしおり)だ。
彼女は見た目は美少女なのだか、かなり男っぽい。それこそ、その辺を歩いている男よりもだ。
膝上20㎝まで短くした制服のスカートから覗く、日焼けした健康的な脚。適度に筋肉がついていて、彼女の活発さを表している。
陸上部に所属していて、かなり足が速い。
「周、お前が難しい顔をしているってことは、また依頼か?」
「黙れってどういうことよ? せっかくうちが心配してやってるってのに。 で、どんな依頼なわけ?」 ミッツーと詩織が、楽しそうに喋りかける。
「ああ、実はな……」
さて、この三人は無事、手紙の書き手を見つけることができるのだろうか?